情報を異質化する-3-
情報を異質化する-1-
情報を異質化する-2-
意味を崩すしていくには,大きくわけて,
・情報の指示する対象そのものをずらしていく
・情報(表現)そのものをずらしていく
の2つのアプローチがある。前者は,牛と言ったとき,それを具体化(特殊化)して,ホルスタイン,和牛等と,対象をずらしていくことや,逆にサラブレッド,道産子から馬一般へ抽象化で,情報の意味をずらしたり(縮めたり,拡大したり),あるいは,馬からロバ,らば,と類似したものにずらしていく。後者は,牛という言葉から,丑とか憂しとかと語呂や音による駄洒落で,あるいは漢字の同字異義による当て字で,言葉の意味をずらしていってしまう。
後者は,表現そのものを変えるのだから,意味が変わるのは当然のことだ。ここでは,前者を中心に考えていくが,これには,2つのアプローチがある。
・語句や単語といった単独の情報の指示するモノやコトとの関係をずらす
・文脈を変えることで,情報の指示内容をずらしていく
同じ情報でも,例えば「ばか」と言ったという情報でも,それ自体の指示する具体像(蔑視)とは別に,文脈を変えると,全く別の意味(親愛)が出てくることは,日常に経験しているところである。文脈による変化は,条件のところで触れるので,前者の“ずらし方”を整理しておく。これには3つの方法がある。
1,含意による具体化と集約による一般化
これには,@含意によって,それが意味する内容を具体化していくものと,A集約によって,それが意味するものを括る一般化の,2つがある。前者がグループの一員へと分解していくことだとすれば,後者はメンバーを括れるグループへと抽象化することだといえる。
@は,先に牛の例を示したように,具体例で特殊化していくやり方(これは偶蹄目うし科という分類のメンバーを列挙)と,もう一つは,分解していくやり方とがある。例えば角が2つあり,蹄が2つにわかれていて,反芻する,等々とその構成要素や特徴に分解していく(牛のもつ性質,特質の洗い出し)。
Aは,牛を馬と区別し,その差異を改めて括り直し(偶蹄目うし科という分類の括り直し),抽象化していくやり方(例えば,牛とは引っ張るもの,馬とは乗せるもの,といったように)と,もう一つは両者を統一していくやり方(牛馬=労役用家畜)がある。前者は,特質や要素の括り直しといっていい。ただし,ここでは共通項を括るというよりは,違うものを捨てていくというべきだろう。
ある意味で,この2つのずらしは,全体から部分へ,部分から全体へのずらし,あるいは類から種へ,種から類へのずらし,というべきものである。
2,自由連想による芋蔓式ずらし
この場合,ただ思い浮かぶものを,連想ゲームのように,次々につなげていく。ここでは,その連続を支えるのは,個々人の知識に基づく意味のネットワークと個人体験に基づくエピソードの無意識的な連続となる。無意識的な回路を開かせてしまうためには,連想の仕方が,
キイワード→連想→連想→連想→連想→………
といった一方向,同一水準の水平展開では,どうしても既知の論理や意味のつながりに依存したものにとどまるので,次のように,
連想→連想→連想→連想→連想→連想←
↑ ↓ ↑ ↑
キイワード→連想→連想→連想→連想→連想
↑
連想←連想←連想→連想→連想→連想→連想
↑
連想→連想→
↑
連想→連想→連想→連想→連想→連想
と,各レベルで,ともかく縦横斜めに,連想をどんどんずらし,幅広く多重化,多層化していくことが必要である。それによって,単なる連鎖とは別の結びつきを発見できる。これは,ある一瞬の薫りや,メロディの一節等をきっかけに想い出やエピソードが目の前に浮かんでくるのと似ている。無意識のネットワークが,外からの刺激によって,不意にタイムトンネルをくぐり抜けたように,意識のネットワークと接続するのである。このつなぎ方には,次のようなパターンがある。
(1)辞書的(定義的)なつながりで広げていく
辞書的なものは,社会的通念,規範が仲立ちとなっていくもので,それ自体は広がりも奥行も欠けたものになりがちである。例えば,牛→乳牛→牛乳→カフェオレ……。またこれには,名詞→動詞→形容詞といった形で,同義を,動きや形状へ変化させたりすることで,微妙なニュアンスを広げていくことができる。例えば,静止→止まる→穏やかといった具合である。
(2)感覚的なつながりで広げていく
感覚的なものは,音,香り,形態,手触り,といった五感や知覚,感性が仲立ちとなるが,ものの大小,軽重,長短,拡大・縮小,膨張・収縮,遠近,といったイメージも仲立ちとなる。
(3)情緒的(感情的)なつながりで広げていく
好き嫌い,良し悪し,といった価値観や,悲しみ,嬉しさ,喜び,寂しさ,といった気持や感情的な彩りによってつなげられる。
(4)イメージ的なつながりでひろげていく
イメージ的なものには,空間的な同型性や類似性だけでなく,成長・孵化・脱皮といった時間的な変化・変質をも含むし,漢字の象形文字としての図柄も含まれる。
3,アナロジーや比喩による意識的ずらし
アナロジーについては前述したように,意味の場合も,
・関係性
・類似性
の2面を手掛かりに展開する。関係性は,「馬」に対して「走る」とつなげていったり(主語・述語,統合関係),鍋で蓋(対の関係),一升瓶で日本酒(記号関係),だらりの帯→舞子(象徴関係)とつなげたりする連想,ゲルニカでピカソ,鳥居(象徴的部分)で神社(全体)とつなげていく連想,が該当する。これは,両者に隠された関係を見いだしていくという意味では,本来のアナロジーの意味で“類推"(AとBを比べ,それぞれの構成要素α1→α2の関係とβ1→β2の関係との対応を推測していく)に当たる。
類似性は,意味や概念の関連性で,「牛」に対して「馬」「羊」とつながっていく連想や,白い肌→雪,ライオン→王者を意味させる隠喩(直喩の「のような」の省いた)的な連想が該当する。また,両者の形態的な類似性にもとづくアナロジーとして,桜→梅→菜の花,といった花の類比によってつなげていくものも該当するし,鳥の羽根→腕→鰭とつなげていく,性質や性格,状態,機能・構造の類似性も含まれる。そして,この類似性を文脈全体に拡大すると,人間生活との類似性(類比)をもとにつくられているイソップ話のような寓話や寓意といったアレゴリー(諷喩)になる。なお,類似性というのは,似ていることだけでなく,似ていないこと,あるいは反対(あるいは対)もまた連想されることもあることを忘れてはならない。
アナロジーは,発想にとって重要な役割があり,ここ(アイデアづくりの基本スキル)に詳しい。
条件で重要なのは,文脈ということである。文脈は,難しく言えば,「それとともに一緒に浮かび上がってくる出来事の状況であり,条件であり,因果の流れとして含まれる全てである」とされるが,要するに,われわれが発想するときの,
・誰が(主体)
・どの位置から(視点)
・何を(対象)
・どういう条件で
・どう見ている(とらえている)か(見ている情報=言葉,イメージ,論理)
という条件において,
@この背景となっている社会的・文化的文脈
Aその主体の置かれている場面・状況という文脈
Bこの主体の考え方,感情等の心理的文脈
Cとらえている言語的脈絡としての言語的・意味的文脈
(更に,D我々の学問的達成や知的水準といった知的文脈,を加えてもよいが,あえて区別しなくても,Cに括ってもよい)
の4つがありうるはずであり,そのそれぞれが変更されるだけで,とらえられたモノ,コトは全く変わっていくのである。つまり,意味の脈絡(論理)も,状況の脈絡(状況)も,状況の要件(条件)も,すべては文脈という表現の幅と奥行の中に一括できる。その意味では,この文脈を変えるだけで,視点・形・意味の“ずらし”そのものが変わってしまうのである。
文脈の条件は,「モノ・コトをずらす」で挙げたように,主体,対象,時間,空間,理由,やり方,水準,条件である。
@主体を変える これによって見る視点を変える。自分がやらなかったらどうなるか,自分が別の人格だったらどうなるか,相手から見たらどうなるか,買う側(顧客側)からみたらどう意味が変わるか。細胞レベルでみたらどうなるか,原子のレベルでみたらどうなるか,宇宙規模で俯瞰したらどうなるか。
A対象を変える 対象を不動と見ることで,状況を固定的にしてしまっているかもしれない。対象そのものを別のものにしてしまえば,違った見方をせざるを得ない。別の相手だと気持が変わるかもしれない。あの人でなかったらどうか,あの人だったらどうか。
B時間軸を変える 過去−現在−未来という時間を変えてみること。今日でなく明日とすると意味が変わるかもしれない。昨日ではなく今日とすれば変わるかもしれない。1ヵ月後ならどう変わるか,1年後ならどうなるか,3年後ならどうか,100年後ならどうか。
C空間軸を変える ここ・そこ・あそこ・どこの転換である。場所だけではない。方向も位置(前後左右上下)も,内外も,遠近も,表裏もある。上下を固定してみる姿に慣れており,逆さにすると,異質化する。あそこでなければどうか,どこでもいいのならどうか,別の状況だったらどうか。
D理由を変える 前提としている価値・意味・基準・規範・目的・論理・感覚・感情を変えてみる。目的を下げただけで事態が急変することも少なくない。こだわっている価値そのものを前提としないだけで見え方が変わる。全くフリーハンドだとしたらどうか,何の価値もないのだとしたらどうか,目的が違っていたとしたらどうか,このままほっておいたらどうか。
Eやり方を変える 方法,手段を変える。機能を変えて代用品を使う,スタイルを変えてみる,拡大したり縮小してみる,統合したり分離してみる,手順を変えてみる,人を変えてみる,仲間を変えてみる,担当を変えてみる,不必要な部分を削除する,優先順位を変えてみる。いままで捨てられてきたものを復活させる,問題外としてきたことをやり直してみる,失敗したやり方を見直してみる。
F水準を変える どれだけという評価基準(レベル)を変える。手段−目的を転倒することで,最終目標を先送りしたり,逆に前倒ししたりして,手段=下位目標を達成目標とすることで目標水準を下げる。全体−部分−要素の構成を変えてみる。下のレベルならどうか,別のクラスならどうか,全体ではなく部分にしたらどうか。
G条件を変える 無意識で,あるいは常識として,前提としている条件,制約としている条件も,それを当然とするのではなく,人数が違ったら,予算があったら,と考えてみる。
チェックリストは,確かに完璧にバラバラ化を実行できるにしても,多少使いづらい。そこで,もっと簡便な方法として,“発想のシリーズ化"(あるいは“シリーズ発想”)を取り上げておく。異質化の視点である,
視点の異質化
カタチの異質化
意味の異質化
条件の異質化
を,視点は位置の問題に還元し,モノ・コトは形の細分化に集約し,意味は似たものに拡大し,条件は5W1Hに還元することで,この4つにバラバラ化の焦点を絞ると,次のような簡単な切口に整理し直せる。
@視点シリーズ
上から下から,左から右から,天から地から,前から後ろから,表から裏から,自分から,相手から,遠くから近くから
A細分化シリーズ
分割(機能分割,使い方分割,属性別,特性別)
具体化(いつ,どこで,だれが,何を,どうした)
分解(構造分解,組成分解,構成分解,要素分解)
B似たものシリーズ
意味−連想,類比,文脈,状況,比喩
形−同型,相似,相同,ミニチュア,類似
イメージ−同質,同傾向,同パターン,同構造,同形式,同スタイル,等価
対−大小,多寡,動静,黒白,天地
C条件シリーズ
5W1H(なぜ,いつ,どこで,だれが,何を,どのように)の変更
つまり,これを発想の糸口として,その糸を手繰って,次々とそれに関連するものを展開していくだけで,十分バラバラ化の効果を上げることができる。例えば,視点に関連するものを,上からみたら→下から見たら→前から見たら→裏から見たら……とつなげていく。視点シリーズが終わったら,似たものシリーズ,細分化シリーズ,と続けていけばいいのである。そこで,これを“発想のシリーズ化”と呼んでいるのである。
それを,我流のものとするなら,ひとつは,対で徹底するという手段を,筆者は使っているが,それぞれに,シリーズ化する切り口を考えるのが,アイデア作りの個性というものだろう。画一的に考える必要はない。
シリーズ化と呼んでいるのにはもう1つ理由がある。チェックリストのように,与えられたチェック項目を律義に1つ1つあてはめていくのは,確かに要バラバラ化項目を網羅するものとしては最も完璧だが,必要なのは,思いついたアイデアや着眼の切口を徹底して攻めてみることだ。視点を変えることで何かアイデアが異質化できそうだと気づいたら,そこを徹底して継続してみる。テレビの水戸黄門シリーズや大岡越前シリーズといったシリーズ化がそうであるように,魚のいそうな池を見つけたら最後まで浚い尽くす。そういう意味で,発想のシリーズ化でもあるのだ。そうやって一点集中したほうが,意外と出しやすいし,それをプールとすれば,別の着眼へとつなげていくにも,やりやすいはずなのだ。
その意味では,必ずしも上の4つのシリーズだけではなく,例えば,池の中にいるモノシリーズとか皿の上に乗っているモノシリーズとか,いけそうなアイデアの切口を見つけたら,それをシリーズ化し,集中的に攻めてみることである。
【了】
「情報分析のスキル」「情報探索のスキル」「言葉の構造と情報の構造」
「アクセス情報の基本スタンス「情報の向きをつくる」
等々を参照ください。
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