グルーピング効果-1-
〜まずは目に見えるようにすること〜
グルーピング効果-2-
グルーピング効果-3-
情報を分類整理するとき,ともするとよく知っている項目に合わせて括ってしまいがちだ。しかしそれは既にある分類項目を正解としてそれに当てはめて括っているにすぎない。それでは,せっかくバラバラにした情報を,既知の枠組の中のものという見え方しかできなくする。ちょうど「その他」と括ってしまうと本題とは関係のない周辺情報としか見えなくなるように。それでは既知の枠組を補強することになる。新しく括り直すには,それなりの工夫がいるのである。
集めた情報から新しい組み合わせを見つけ出すには,それを目の前で見られるように“情報のビジュアル化”をしなくてはならない。しかもそれは,逆さにしたり,くっつけたり,動かしたり,更にバラバラにしたりしやすくする“モノ化”できていなくてはならない。この効果は2つの面から考えることができる。
第1に,まず情報を目に見えるようにする。
情報をビジュアル化するとは,《形》《形態》《文字》《文章》《図》《絵》《イラスト》《写真》《身振り》《動作》等々,視覚的なものに置き換えることを意味するから,バラバラ化の効果と同様に,
@既知の文脈から切れた情報が,
A直接に目に見えるイメージとして,
B感覚刺激となって,
C既存の意味回路から切り離されて,無意識の回路にランダムにつながり,
Dその根茎を芋蔓式にたどりやすい,
という意味で,集めた情報そのものが更に刺激となって,
・視覚化による一層の異質化
・連想による一層の異質化
を可能とする。しかも目に見える形のものが更に“モノ化”していることで,
第2は,操作しやすくすること。
即ち,“情報操作性"の向上が図れるのである。つまり,そのようにバラバラの情報が,
@目に見え,
A直接動かせて,
B相互のつながりをあれこれいじれることによって,
並べたり,くっつけたり,つなげたり,離したり,変形させたり等々と,情報相互の関係づけをモノのように視覚的に対比できるのである。
以上の情報操作を通して,バラバラの情報の中から,共通性を発見し,グループ化していく。このプロセスでは,情報を単位情報同士の組み合わせから,順次より上位のグループへと括り直していくことを通して,全体の新しい構造を発見していく。
これは,集めたデータの相互関係を整理して,正確に現実を再現(再生)し,何が起こっているのか,何が問題かを解明することではない。それは事実の観察や再現にすぎない。またただ図書分類のような既存の項目,区分に割り振ればいいのでもない。それでは結局元のさやに収めただけだ。重要なのは,バラバラにした情報から共通性を発見して,新たにグループを括り直していくことなのだ。そこには次のような意味がある。つまり,
@小グループ→中グループ→と,グループごとに括り直すのは,まったく別のまだない「全体」(これから見付けようとしている輪郭)に再編成し直すことなのである。
Aバラバラ化作業によって,要素はただ分解したのではなく,ひとつのものを,いろいろな視点から見たり,別に言い直したり,それを更に別の視点からみたりと,わざわざ矛盾する,バラバラの状態にしたのだから,矛盾するからとか,うまくまとまらないからと,整合性のとれないものを捨ててはならない。むしろ,どうすれば,その括りきれないものを一緒にできるかを考えなくてはならない。矛盾する,違う2つを括る,つまり,共通性を見つけるとは,われわれの既知の分類基準や機能区分とは別の新しい基準で括り直すことなのである。
B各要素間の矛盾をそのまま生かそうとすると,要素をただ足したものとは違った質的変化をとげたものにまとめなくてはならない。それによって,新しいパースペクティブ(枠組)を発見するのである。従って,この“共通性の発見"のプロセスは,バラバラ化が“既知のパースペクティブを崩す”プロセスであったとするなら,“未知のパースペクティブを発見する”のプロセスなのである。
以下,この情報のグルーピングにおける,
@情報ビジュアル化
A情報グループ化
の作業を,それぞれを別々に検討していく。
◆9つのビジュアル手法
目に見える,客観的に観察できるといった,情報ビジュアル化のためには,一般に,次のような9つの方法がある。
@文字による表現 これには,言葉の文字化,文章化,カード化,シナリオ化等の表現スタイルの違い,絵文字やイラスト文字,あるいはシンボル,記号,数字といった表現手段の違い,そしてその大きさやゴチックか明朝か等の表現形態の違いなどがあるが,要するに言葉を自分の外に見えるように表現することである。前に触れたように,メモも,文字化することによる立派な情報ビジュアル化なのである。
A図による表現 これには,何を表現するかという表現内容による区別と,図・表・チャート・地図といった表現スタイルによる区別がある。
・表現内容
数値の表現……表やグラフ
モノの表現……2次元表現(形,形状,形態)と3次元表現(厚みや奥行,状態)と4次元表現(変化,移動,変容)
コトの表現……関係の表現(位置関係,時間関係,因果関係,包含関係,入子関係,階層関係,序列・順序関係,相関関係,対比関係,類比関係等)/流れの表現(歴史,時間変化,音符・スコア)/動的変化の表現(求心・遠心,統合・分離・グルーピング・分割,拡大・縮小,入れ換え,代置)
空間の表現……モノとモノの配置(街路,ミサイル配置),コトとコトの配置(戦闘,交易,流
通),観念(思想)の位置,地形・地理の位置(海図・天気図・交通網)等
・表現の方向性
俯瞰か細密か,断面か,前後,奥行,自分の視点からか相手の視点からか,全体からか部分からか→平面図,断面図,鳥瞰図,見取図,トポロジー
・表現スタイル
表,図表(グラフ),チャート(系統図,組織図,工程図),マーク
・表現手法
平面(直線,囲み(○△□),矢印),濃淡(黒白,斜線,色合い,彩り),立体(奥行,遠近法),移動,類似(かたどる,なぞる)
B文章の図表化 これは,言葉のビジュアル化(文字化)ではなく,表現内容のビジュアル化であり,論理関係の表現,事態の説明の具象化,特徴描写の具象化,モノ・コト描写の具象化等を意味している。特徴をクローズアップして取り出して図示しようということでは,イラスト表現と関係がある。また,数値の説明を一覧化するということでは,数値の図表化につながる。一番問題は,論理関係,論理の文脈の図解である。例えば,いわゆる範疇を円で表現する(2つの範疇間を同一,包含,部分重複,分離の4形態で関係を図式化する)ベン図式に倣って,@「すべてのAはBである」あるいはA「いくらかのAはBである」を,閉じた領域で表現してみることができる。
Cモデルによる表現 模型やプラモデル等のようにモノやコトをかたどって,現物・現実を実体的につかもうとする。この場合,図による表現の中のモノやコトの表現を3次元化したものと考えればよい。3次元のモノの形態や,部分と全体,部分間の関係を確認できる。これに変化という時間を加味することで,コンピュータグラフィックスやホログラフィーへとつながる。
Dイラスト,漫画,写真による表現 動作や形態,状態,感情や感覚を表現するには,そのままを写しとる(写真)か,ある部分を強調(漫画)するか,さらに誇張(イラストやデザイン化)するかが,有効となる。
E映像による表現 VTR,フィルムによって,映像やアニメーションによって,現実のコトの動きと推移をシークエンシャルにたどる(4次元を表現している)。といって,現実の時間の推移と同型的に描かれているわけではなく,スローモーション・ストップモーション,逆に高速度映画や早回し等々,自在に変化できる。また,焦点の当て方によって,アップ,ロング等,部分的に強調・誇張も可能である。当然静止画像は,写真表現と同じになる。
F身振りによる表現 躯をつかった表現は,言葉や図では固定されてしまう動きのある表現,変化しつつある一瞬の表現,言葉や図にはならない感情や感覚の表現(「ものすごくすばらしい」ということを言葉や図だけでは表現しつくせない)。その部分を強調したり,誇張したりすることで,逆にその特徴をつかみやすくなることは,いわゆる声帯模写や形態模写,似顔絵,からもよくわかる。この方向が,イラストや漫画の表現につながる。
Gシミュレーション 行動,変化,時間経過などの連続的推移を疑似的に体験する。具体的な場面,状況が目に見えるようにすることで,いろいろ試せるような状態を具体的に設定できる。これには,敢えて区別すれば,モノやコトの時間的推移をなぞるものと,コンピュータ・グラフィックスのように,モノやコトを多次元化したり,透視したり,拡大・縮小,伸縮,といった物理的な変化をさせたり,架空の連続運動をさせてたりと,いながらにして多角的な視点からのパースペクティブを描けるものとがある。
Hロールプレイング 一種の身振り表現だが,ここでの擬態表現は,相手になる,相手の視点への入れ換えを含んでおり,“成った”相手の視野でモノを見,コトをつかもうとすることになる。擬人化,擬物化も,ここに含めることができる。
ビジュアル化し操作しやすくする技法の代表は,いうまでもなくKJ法である(詳細は,『発想法』『KJ法』に譲る)が,表現するのが《文字》《文章》だけでなく,《形》《形態》《図》《絵》《イラスト》《写真》《身振り》等々何にせよ,共通しているのは,具体性・特殊性をどうやって表現するかということである。どうしてもわれわれは,知識や言葉でまとめてしまいがちなのである。しかし本来,バラバラにしたとき,細分化によって,具体化をしたはずなのだ。それを,わざわざまとめたり,括ったりしては,何のためにバラバラのステップを経たのかがわからなくなる。そこで,もっともっとビジュアルにするために必要な要点を次の7つのチェックポイントにまとめておいた。
@具体的であるとは,特殊であること 具体的とは,〜一般ではなく,この〜,あの〜という個別なモノやコトやヒトである。それは,そのとき,そこ,という特殊な場所と時間という限定性をもっているということである。ともすると,言葉でまとめるとき,知識や経験で無意識のうちに意味づけてしまっている。改めて意識的に特殊性を強調しなくてはならない。それは,状況を変えれば,例えば〜,と次々と例示できる,ということでもある。
また,「犬」ではなく「コリー」と個別名で表現した方がいいが,なおいいのは,「口が狐のように細く,毛足が長い,大型犬で,羊の番犬として使われてきた。アメリカのテレビ映画の名犬ラッシーはこの種類」といったように,それをなお具体的に表現することだ。ここでは,「犬」「狼」「狐」といった比較を通して,同一(同型),等価(同質),類似(相似),喩え(なぞらえる)といったアナロジーが働いているが,それが個別性をより強調することになる。
A言葉は,より具体化すること 「高い」ではなく,どのくらい高いのか,数値ではなく,東京タワー位といった,具体的に比較できるものを並べること。当然名詞より動詞,動詞も「する」「なす」「やる」ではなく,状態,行為,性質,位置,関係等を具体的に描写すること。「〜した」というとき,「何をどのように,どうした」と,形容詞と具体的行動を示す動詞によって,どんどん細部化していけるはずである。たとえば,「恥をかいた」ではなく,「自分がやったことを自分の子供にみられていたらと思うと,背中からどっと汗がしたたり落ちて……」と,いったように。
B整理するより描写すること どうしても,頭で要約したり,整理して説明しがちだが,モノ・コトともに,事実・状態をそのまま,いつ,どこで,どういうことをして,どういう状態にあるかを,表現しようとすること。例えば,「あいつは優れていた」ではなく,どういうときに,どういうことが,どれくらいできる,というように。あるいは,彩りや形や濃淡や肌触りや感じ等を具体化した方がより個別化,特殊化する。
C個別のパースペクティブであること エピソードや想い出が個別であるのは,それが個人の視点から見られているからにほかならない。同じモノやコトでも,見る人によって,その感情・感覚・意味づけが異なる。それによって,当然目のつけどころも違うし,強調するところも,焦点も違う。それが個別性であり,即ち具体性だ。一般化するというのは,誰がどこから見たことなのかをわからなくすることなのだ。
Dエピソードや出来事は“そのとき”のニュアンスを残すこと 会話を表現するとき,消えてしまうのがアクセントやニュアンスだ。そこに,特殊性があり,具体化の鍵もある。これをできるだけ残すことが必要だ。
E文脈を変えることで意味や関係が特殊化する 同じ言葉,同じ描写も,文脈・条件を変えると,1つずつが別の意味合いを帯びてくる。その1つずつの違いが,個別性にほかならない。本当は,どんな言葉にも一人ひとり別々の意味や彩りをもっているはずだし,ひとつひとつ別のエピソードをもつているはずなのだ。
F関係の連鎖性をはっきりさせること 部分と全体,要素と組成,階層の上下,順位,因果関係といった関係づけによって,1つずつの位置づけ,構造内の関係,組成間の影響等が変わっていく。単独で見るのと,関係づけの中で見るのとでは,後者の方がより具体的なのである。
通常われわれが情報をビジュアル化するときに使うのは,KJラベルにしろ単なるメモ用紙にしろ,文字にすることである。以上の7ポイントを守って,コトバを書き出すとき必要なことは,5W1Hで表現する,ということだ。そういうといかにも簡単のようだが,これが実はむつかしい。なぜなら,われわれは,何かを伝えるとき,「Aがいたずらをした」というような言い方をしてしまう。ついつい用語や慣用句で表現してしまうのである。具体的であるとはどういうことかわかっているようで,とっさにはしにくいものなのである。「いたずら」とはどういうことなのか,具体的に,「どういうときにどういうことをすることなのか」は,意識的でなければなかなか表現できないのである。
あるいは,「〜は優秀である」というのも同じである。具体的とは,「どういうときにどういうことができることなのか」を説明できていなくてはならない。そうしないと,例えばブレインストーミングで,相互に「優秀」と言っているだけでは,互いの違いを具体的な表現で刷り合わせたことにはならない。
以上を考えあわせながら,カードに書き出すときの留意点をまとめると,次のように整理できる。
@1ラベルには1件書き出す。どんなに短くても1枚1事。
A心に想起したこと,イメージしたこと,アイデア,何にしろ,それを整理したり順序立てたりして,コトバに置き換えようとしないこと。未整理でも文脈が不揃いでも,ともかくそのまま書き出すこと。その方がニュアンスを失わないはずである。
B説明調であることを厭わない。誰が読んでも,そこに書かれていることがイメージできるためには,事細かで,具体的であるほどいい。要約したり単語にまとめることは厳禁である。
C同一の意味でも,状況や時期,主体や対象,ニュアンスやフィーリングが違うと思えば別に書き出すこと。その意味では,関連するものはどんどん書き出してしまうこと。逆に言えば,人が違えばどんどん別のイメージになりうるし,それが具体化だと考えていい。後の作業の繁雑さや面倒さを厭うべきではない。
Dタブー,禁句はないし,こうしなくてはいけない,こうすべきだという制約も一切なしに考えなくてはならない。
(以下続く)
グルーピングについては,「アイデアづくりの基本スキル」を参照ください。
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