問題解決の前に,問題とは何かからはじめましょう。問題とは,困ったこと,障害,トラブル,思うようにならないこと等々がすぐ思い浮かびます。しかし,そこに焦点を当てている限り,問題に振り回されるだけです。なぜ,トラブルや障害を感ずるのでしょうか。そこには,その人が思い描いていたとおりに交渉がすすまない,円滑に仕事が進捗しない等々,現実に期待通りになっていないことからくるのです。これを図解すると,
となりましょう。つまり,問題は結果であって,その前に,期待していることがあるはずです。これを期待値と呼んでおきます。これは,こうしたい(目標),こうあるべき(基準),こうありたい(夢や理想)を含めて,その人のいだいている水準です。それと現実とのギャップが,問題と感じさせるのです。
ということは,人によっては,同じ事態も問題とはならない可能性があります。問題を問題にしている限り,人と共有化しにくいかもしれません。必要なのは,何を問題にしているかではなく,なぜそれを問題と感じているか,それをどうしたいと思っているかという期待値に焦点をあてなくてはならないのです。それが,問題を感じさせている根源だからです。それを共有化することができれば,一緒にその解決に取り組めるはずです。
とすると,問題解決とは,感じている問題,起きている問題ではなく,どうしてそれを問題と感ずるか,どうしてそれが問題なのかという,期待値そのものを明確にし,その期待値をどう実現するかを考えていくことなのです。つまり,問題解決とは,問題を解決することではなく,期待値を実現することなのです。
その意味で,問題解決をステップにするとすると,次のようになるでしょう。
@何を何を問題としているかを明確にする。自分が問題にしているにしろ,相手が問題にしているにしろ,期待値は何で,だから何を問題としているかをはっきりさせることで,期待値が共有できるかどうかは別にして,期待値と現状のギャップをはっきりさせることが必要です。
Aほんとうにその期待値でいいのかを確かめる。その問題がどうなったら解決したことになるかを確かめながら,期待値を明確にする。それは理想状態なのか,完了状態なのか,変化自体なのか,行動レベルなのか,行動形態なのか等々。それによって確定した期待値をどう実現するかが解決策となります。
Bそれを実現するために何をするか,何を動かさなくてはならないかを見定める。問題解決で大事なことは,期待値を実現するために,何をどれだけ動かさなくてはならないか,という現実感覚です。
どんな問題も,その問題状況や,現象ではなく,自分が問題と感じた構造,つまり,どうしたい,どうあるべきと思っていたのに,現状そうなっていない,という期待値と現状とのギャップを具体化して見ることです。次に,本当にその期待値を実現したら,問題を解決したことになるのかを検討し,求める期待値を明確にして生きます。そこで,それを実現するために,何を動かさなくてはならないかが明確になっていくはずなのです。
企画の「企」の字は,「人」と「止」と分解されます。「止」は,踵を意味し,「企」は,「足をつま先立て,遠くを望む」の意味とされます。いわば「くわだて」です。「画」は,はかりごと,あるいは「うまくいくよう前もってたくらむ」の意味です。いってみれば,プランニングです。企画とは,「現状より少し先の完成状態」を実現するためのプランを立てることになります。この「現状より少し先の完成状態」が,いわば企画で実現したい理想やアイデアといわれるものに当たるでしょう。ここから大事なことがふたつ言えます。
@アイデアだけでは企画にはならない,それをどうすれば実現できるかの具体策,つまり「画」を伴ってはじめて企画になる,ということです。
A現にいま起きている,何をすべきかが明確なことは,企画の対象ではなく,いますぐ対応のアクションをとるべき事柄だ,ということです。いま起きていることは,企画の対象ではないとは,こういうことです。たとえば,いま窓ガラスが割れたとします。すると,誰なら,いつまでに,いくらでやるかか,とすぐに動き出します。割れたガラスを見ながら,このガラスを修繕するためにどういう企画をたてるかかなどと考える人はいません。「何をすべきか」がわかっているとはこういうことです。しかし,このときの対応にはわかれるはずです。
第1は,その当該の問題を解決するだけで,「よかった,よかった」と終えてしまうタイプ。次にガラスが割れるまで,何も考えないでしょう。ここからは,発生する問題の処理に追われるだけで,企画は生まれません。
第2は,「何で,こう簡単に割れてしまったのか。確か2ヵ月前にも割れた」と考え,「割れにくいガラスにするにはどうしたらいいか」,「割れる前にその前兆をわかるようにするにはどうしたらいいか」「割れても罅ですむようなものにするにはどうしたらいいか球」等々と考え始めるタイプ。このとき,企画の端緒にたっています。ただ,それが自分の裁量でできることなら,企画をたてるまでもなく,すぐに自分が着手すればいいことです。もし自分の裁量を超えているなら,相手が上司かお客さんかは別として,その人を動かすために,あるいは説得するために,企画が必要になります。時間もコストも,相手に権限があるからです。その人に動いてもいいと思わすためには,説得できるだけの意味と成果が示せなくてはなりません。これが,現実に企画というものを必要とする一瞬です。ここでいうのは企画書ではなく企画です。口頭で説明するだけでも,相手を動かせるからです。
そうすると,相手からみた場合,企画には,次の3点が不可欠となるはずです。
@何のためにそれを解決(実現)しようとしているのか。企画は目的ではない。何のためにそれをたてようとしているか,それを実現することにどんな意味があるのか。意味のないことに手を貸す人はいないのです。
A企画にどんな新しさがあるのか。わざわざ金と手間をかけてやる以上,いままでさんざんやったことではいみがない。何か新しこと,何か新しい切り口が必要だ。それは,やることの意味にも通ずることでしょう。
B企画を実現するプランは具体化されているか。どんなリソースを使って,どういう手順で,いつまでに達成できるのか,実現するためのシナリオは明確か。「画」がなければ企画ではないのです。「画」は,「それは無理だ」への,企画するものの説得材料なのです。「画」がなければ,単なる思いつきにすぎないのです。
企画をする力は,問題処理に終わらせず,「これを何とかすべきだ」「こうならないか」「どうにかならないか」と,現状に問いをたてることです。これがなければ,企画は始まらないのです。これを問題意識と呼びますが,このままでいいのか,何とかならないか,という思いの強さかもしれません。この強さが,明確な目標(こうしたいという期待)と目的(それをするのは何のためか)をはっきりさせるのです。
これは,現状を問う力といってもいいでしょう。日々仕事をしているとき,常にいまのままでいいのか,どうしたらもっとよくなるのか,と考えていく姿勢がまず必要です。しかしそれだけなく,さらにもう一歩,それを実現するにはどうしたらいいかを考えてはじめて,自分の裁量内でできるかどうかが現実的に見えてくるのです。どうすればこの重要性を伝えられるのか,そのためにどう説得すればいいのか,必然的に「画」に踏み込まざるをえないはずです。周囲を巻き込まなくては実現できないことに取り組もうとすることは,別の言葉で言うと,リーダーシップです。その意味で,企画は人を巻き込む仕事の旗なのです。【了】