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Critique Back Number 49


高沢公信"Critique"/2007.3.20

 

チームあるいはチームトップがアイデアを生み出すために何をしたらいいか

 

アイデア力はキャッチボール力
場を共有する
場の共有から、意識の共有へ

スキルの共有
成功体験の共有


よくこんな質問を受けます。うちの社員に、何かいいアイデアはないか、あったらどんどん出してくれ、というのだが、なかなか出てこない、出てきてもありきたりでつまらないものばかりだ、社員の発想力をアップするいい方法はないか、と。それはさしずめ、図のようなやり取りなのではないでしょうか。

 二つの疑問が浮かびます。まず、アイデアは完成型でなくてはいけないという誤解があるのではないか。「ありきたり」と思っているのはトップだけかもしれない、という疑問はさておくとして、アイデアづくりとは、端緒の思いつきをキャッチボールで深めていくものです。その共同作業のおもしろさをトップは気づいてもいないし、逆に部下はトップを恐れているのかもしれない。次に、トップのアイデアへの思いや期待がきちんと伝わっていないのではないか。なぜ必要なのか、何を期待しているのか、というトップの思いです。

 キャッチボールという言葉は、少し説明する必要があるかもしれません。周知の3Mのポストイット開発をめぐる逸話で、シルバーという人が、接着剤を開発していて、貼ってもすぐ剥がれてしまうものをつくり出してしまいました。彼はそれを「失敗」とはみなさず、社内の技術者同士のミーティングで、自分にはこの使い道が思いつかないが、誰かいい使い道があったら教えてくれないかと、提案したのです。その中に、いつも聖歌隊で、本に挟む付箋に不便を感じていたフライという人が、その使用方法として、ポストイットを発案したのです。こうした自分の問題意識をぶつけることで、新しい何かの発見につながるやりとりを、キャッチボールと呼びたいのです。

 カーネギーは、「2人の人間がいて、いつも意見が一致するなら、そのうち1人はいなくてもいい人間だ」(『人を動かす』)と、言っていました。ひとりひとりの発想努力は重要です。が、それ以上に、ひとりひとりの違いを生かしてアイデアをぶつけ合えれば、もっと発想量はふえるはずです。アイデアは、キャッチボール力なのです。

たとえば、そうすると、冒頭の会話は、部下のもってきた「ありきたり」のアイデアをテーブルに置いて、それを一緒に眺めながら考えている、という構図になります。そうすれば、他のメンバーも、そこに加わりやすくなるはずです。

 まだるっこしいと感じる向きがあるかもしれませんが、アイデアとはこうして深まるものです。これを場の共有といいます。このメリットは、五つあります。

 第一は、それぞれ異質な発想をぶつけ合うことが、異質な関係を見つけやすくすることになります。自分の発想の枠を違う視点からの異見で、見方が変わったり、新たな発見をしたりすることを促す効果があります。多くの先進的な企業で、部門や専門を越えて雑談できるたまり場つくりをしているところがあるのは、こうした効果を狙っているのです。

第二は、アイデアを考えることは、目的ではないはずです。現状をいまよりよくしたいということからかもしれません、売れる何かを作りたいという熱意からかもしれません、あるいはこうあるべきだという理想を実現したいという思いからかもしれません。これが問題意識です。これが共有化できていなければ、誰もその土俵で、同じ方向を向いて考えてはくれません。これは、次のように図解できます。

少なくとも、どうしたいのか、どうあるべきなのか、といった期待値が共有化されていなければ、そうなっていないことに何の問題も感じないし、それを何とかしなくてはとは思わないでしょう。組織として、何を目指しているのか、何を実現しなくてはいけないのかという期待値を明確化させ、組織構成員に伝えるのはトップです。目指すものを共有していなければ、同じ問題をみていないし、同じように何とかしなくてはとは思わないのです。実は、こうしたアイデアのすり合わせの場をもつということは、トップからみると、何が部下に伝わっていないか、どこを向いているのかを確かめる場であるのです。

第三は、こうしたアイデア形成プロセスに参画することで、そのアイデアに対する親和が増し、自分たちのものという意識が生まれやすくなります。これが自分たちのアイデアの価値基準になっていくのです。更には外から来たアイデアへの目利きができるようになるはずです。単純に外から結論だけもってきたときに起きうる防衛的な反発を防ぐには、こうした熟成のプロセスをとれれば、同じ効果が期待できるはずです。

 第四に、人と話すメリットは、話すことで、自分のアイデアが、更に研ぎ澄まされることがあるのです。たとえば、アイデアマンのトップなら、自分のアイデアを、人と話すことを通してアイデアを深めていくはずです。アイデアマンといわれる人は、いろんな人とのネットワークの中で、キャッチボールを重ねてアイデアを進化させているはずです。

 第五は、アイデアは、話しているこの場だけでなく、参加したそれぞれの頭の中で、継続し、発展し、深化され、進化していっているのです。頭の中は、活動し続けるのです。アイデアを考えるおもしろさは、こういう体験をしなくてはわかってもらえないのです。


 この場を共有できるものにするかどうかは、トップの責任です。それを、コミュニケーションの土俵と呼びます。

ジョハリの窓というのがあります。自己理解の仕方として、自分にわかっている自分/自分にわかっていない自分、他人にわかっている部分/他人にわかっていない部分の4つの窓に分けてみようとするものです。

 大事なのは、パブリックの部分です。トップと部下の関係に置き換えると、自分の考えが伝わっている程度に応じてしか、相手と土俵を共有できない。必要なのは、自分の考えをきちんと話すこと、そして部下の状況をきちんと聞きとること。ここを確立する責任は、トップにあるはずです。トップは話しているつもりでも、口頭のメッセージは25%しか相手に届かない。とすると、相手に伝わった25%だけがトップの語ったことなのです。

 「ありきたり」のアイデアしか出ないとすると、トップが思うほど、相手に自分の思いや考えが伝わっていないのだ、と考えることからはじめるべきでしょう。部下は自分のリソース(資源)です。それをどう使いこなせるかはトップの器量です。それはトップの旗の提示の仕方に示されます。大阪万博のときの、「千里から天理へ」(千里の万博出展ではなく天理の開発センターへの投資)というトップ方針が、今日のシャープの礎になっています。トップは何をしようとしているか、明確な旗を示す必要があるのです。それが、前述の期待値の明確化です。これが共有すべき場そのものです。これがあることで、メンバーには、いま何が必要かがわかりやすくなるのです。

アイデアは、要素の組み合わせであり、いいアイデアを手に入れる方法はアイデアをたくさん考え出すことです。共有する場ができたとすると、そこで効果的にアイデアを出すには、スキルを共有することも必要です。アイデアづくりには、分ける、グルーピング、組み合わせる、アナロジー、の4つの原則があるのです。

 「分ける」は、一体のものとして見ているカタチ、意味、条件、構造、関係等々を分解することで新しい関係づけを見つけようとするものです。たとえば、一体だったものを分けることで、それ自体が商品になったりします。有名店のラーメンが、その出し汁自体を商品としたり、手打ち蕎麦店の、手打ち作業自体を客に経験させることを商品としたりするのもそれに当ります。また温暖化ガスの排出権を取引するのもそれでしょう。

 「グルーピング」は、バラバラの要素をくくりなおすことで、意味のある「つながり」を見つけだそうとします。業種のくくり方とか商品アイテムのくくり方を変えることで、従来と異なる市場を発見することがあります。たとえば、かつてプラスが出した小型の文具セットは、確かに小型文具品をセットにしただけのようですが、事務用品という実用性からファッションやおもちゃの領域を開拓したことになります。あるいは、ドレッシングを調味料の棚に並べるのではなく、生野菜の販売棚にくくることで、店としての食べ方の提案になっていきます。店舗の中にそうした試みがいくつもみつけられるはずです。

 「組み合わせる」は、異質の分野のもの、異なるレベルのものを組み合わせることで、新しい全体像を見つけようとします。代表的組み合わせはラジオとカセットを組み合わせたラジカセですが、電子レンジ用の、米飯と具材を組み合わせた、マツタケ釜飯、ホタテ釜飯、五目釜飯等々のセット米飯もそれに当たるでしょう。アイデアの基本形ですから、さまざまの組み合わせ例があります。MPU(マイクロプロセッシング・ユニット)は、コンピュータの中央処理装置(CPU)を1チップに集積したものですし、LSIはIC1000個以上を集積したものですが、これも組み合わせ例でしょう。最近のカメラつき携帯電話、音楽プレーヤーつき携帯電話も、もちろんこの例です。

「アナロジー(類比・類推する)」は、似たもの、異分野の例になぞらえる、たとえる、見たてることで、テーマとなっているものに似た何かを通して考えることで、ヒントを見つけようとするものです。

 たとえば、スタッドレスタイヤの目的は、アイスバーンを滑らないことです。ではその同じ目的で、それに役立つものはないか、と考えたとき、たとえば、北極の白熊を思い浮かべたとします。これがアナロジーです。白熊はなぜ滑らないのか、その手の構造を通して見て考えるのです。白熊の手は爪がある、それを役立てられないか、白熊の手の皮膚は筋肉との間がルーズで接地面が広がる、その構造を利用できないか、白熊の手は毛が接地面の水を弾き出す、その仕掛けを利用できないか等々、「白熊の手の機能を通して」見ることで、その機能からタイヤに使えるアイデアを見つけ出そうとすることです。

たとえば、コピー機の販売会社のある営業マンは、コピーが売れつづければいつかその書類を捨てるのにもお金をかける時代がくると確信し、破ったり焼いたりする以外に、いい方法はないかと、あれこれアイデアを考えつづけました。そんな中、立ち寄った立ち食いうどん屋で、ふいに若いころうどんの製麺工場で生地を回転するローラーの刃で切ってうどんを作っていたことを思い出し、書類もうどんのようにこまかく切れば読めなくなる、と気づいたのです。これが、シュレッダーの開発です。

また、安全かみそりの刃がすぐに劣化してしまうことに着目し、「もっと刃を有効にできないか」と考えていたある技術者は、ある日板チョコを切れ目に沿って折ったとき、刃に板チョコのように、等間隔に切れ目を入れたら新しい鋭利な部分に差し替えられるのではないか、とはっと気づいた。そこで、試作に次ぐ試作を試みつづけ、ついに、切れ目の設定角度は60度が最適であることを発見し、カッターナイフの開発に至るのです。

 しかし、いくら口で言っても仕方ありません。成功体験を積み重ね、それを共有化することから始めなくてはなりません。誰も何も提案してこないなら、ひとつでもふたつでも提案につなげ、提案されたら、些細なものでも、何が何でも成果につなげ、本人にも、周りにも、提案するとおもしろくなる、と思わせる体験を共有化することです。小さくてもいい、自分たちのアイデアを成功させたという体験を積むことが、最大の場の共有なのです。まずは、どんな些細な提案も、一緒にまがりなりにもアイデアへと完成させきることです。その体験の蓄積が、組織としての開発プロセスのノウハウになるはずです。

発想力トレーニング』については,ここを御覧下さい。


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