●できる実感をもたせる第一歩でなくてはならない
不足しているものが明確になったら,いつ,どういう機会に,どんなかたちで身につけていくかを具体化していく。それには,できなかったことが,できたと実感できるような,小さなステップからはじる。ここが一番大事なポイントになる。はっきりわからないときは,ためしにやってみて,そのステップを一緒に決める。後戻りしてもいいので,無理せず,一歩でも半歩でも四分の一歩でも,確実に自分ができるようになっていることを,自分でも確かめられ,周囲からも認知される成功が得られなくては意味がない。
大事なことは,できたという事実を,「できたね」とタイミングよく言葉に出して認めることである。ほめられることに,性格的に抵抗を示すものも,事実には素直に反応できる。わずかなことでも,できるレベルに上がったことを,ひとつひとつをきちんと認める姿勢が,やる気のバックアップになる。
それを段階的に一歩一歩踏んで,できた体験を積み重ね,自分がやった結果できた満足感を味わせる。できたことはやりたいと思い,やれたことは,もっとうまくやりたくなるはずである。ただ,しばらくは本人のペースを意識する必要がある。当然他のチームメンバーの協力も欠かせないだろう。
●サポートすることを明言すること
このプロセスでは,「できる(かも)」が感じられるように,
・現有のスキルや知識を正確にフィードバックし,
・やれる見通しをつかむためのヒントや助言を与えて
・後押しとなる励ましをして,
まずは,第一歩を踏み出させ,ついで,
・きめ細かなフォローの姿勢,
・どんなときにも相談に乗ったり,支援するという態度,
・具体的で,肯定的な承認とプラスのフィードバック
によって,確実に「できた!」につなげていく。大事なのは,言葉である。言わなくてもわかるではなく,言わなくては伝わらない。ひとりで抱え込まなくても,メンバーや上司がサポートするし,そのための機会や場はいつも開いていることをきちんと言うことが,不安を支えるつっかい棒になる。同時に,きちんと伝えておきたいのは,人の力を借りることの重要性である。今後より大きな仕事をする際には,どれだけ人の力を借りられるか,人の力を引き出せるかが問われる,いまそれを学ぶ機会でもあるのである。
その2:その気にさせるものを確認する
●やってみたいと思う意味や価値を確認する
その気になれるものを見つけ出すのは,簡単ではないが,キーワード風に言うと,「なりたいこと」「やりたいこと」「こだわっていること」「大事にしていること」「魅力を感じるもの」「時間を忘れて打ち込めるもの」等々を言葉に出させてみる。仕事と私生活は別,自分の好きなことと仕事とは関係ないと思い込んでいることも多いので,私的なことに踏み込んでみることも突破口になる。仕事の経験だけでなく,「いままでわくわくしたことはなかったか」「自分でやった!と思った経験はないか」といった質問も投げかけてみる。上司が趣味で熱中したことが仕事に役立った例なども,相手に自分の中から,価値や意味を見つけ出すヒントにはなる。
何が本当にやりたいことかが見つかるとは限らない。たとえば,漠然と「企画的な仕事」と,憧れをいうかもしれない。それを一笑しないことだ。何がしたいことを見つけるための,ひとつの取っ掛かりと考えて,その理由やその何をやりたいと思ったかを掘り下げてみる。ぼんやりした憧れは,意外と本人のやりたい的の周辺であることが多い。企画と言いながら,自分のアイデアで仕事をしていくことや,人のやらないことを提案することや,ひとを巻き込むといったことなのかもしれない。それをピンポイントに絞ってみることで,業務との接点が見つけやすくなる。
●上司としての期待をきちんと伝える
同時に,上司側として,チームメンバーの一員として,「どうなってほしいか」を,チームの全体像からブレークダウンして,具体的に提示する。どういう役割を担ってほしいのか,その役割はチーム内でどんな意味があるのか,そのために何ができるようになってほしいのか,それは本人にどんな意味があるのか等々。そのとき,いま何が,どれだけできているかを具体的に示すことが必要である。
その際,現有リソースについて,十分できていること,あと少し努力すればできること,今後の課題になっていることをきちんと示す。あるいは,本人も気づいていない特徴に目を向けてやるのも大事である。
●具体的な仕事の中にいかせると感じさせること
やりたいことのすべてが仕事の中で実現できるわけはないが,「やりたいこと(興味・関心)」と「やらなくてはならないこと(期待)」の接点を,具体的な業務にみつけられるよう,自分が生かせる,意味があると思わせるものを,一緒に考えていく。個人の(こうしたいという)目標とチームの(こうなってほしい)目標をつなげることで,日々の仕事ひとつひとつに,自分にとっての意味が見えてくるようにするのである。それには,本人のやりたいことがピンポイントで具体化されているほど,接点となる具体的な場面や仕事が見つけやすいはずである。
【チームメンバーとしての目標(しなくてはならない)と個人目標(したいこと)の接点】
このとき大事なのは,それをきちんと着地させるために,
@「やりたいこと」が,いまの仕事の中に,具体的に示せること,
Aさらに次の仕事や将来の仕事に,具体的に展望できるようにすること,
B「やれる」という感じをもてるように助言とサポートをすること,
C「やれた!」となるために,具体的な一歩を経験できること
である。その先にどんなステージが描けるのかを考えることは,ただ直近の仕事をこなすだけの対処療法で終わらせないために不可欠である。AをやったらB,BをやったらC,CをやったらD,というステップアップの全体像を具体化することで,ステージ毎に意味がでて,いま何が必要かが全体の中で見渡すことができる。そのとき具体的なモデルになる人物があるとなおいい。(了)
やる気については,
“やる気”をどうカタチにするかを参照ください。