アイデアにまとめるとはどういうことか
どんなスキルを使うにしろ,アイデアにまとめていくというのは,どういうことなのか。改めて,その意味と効果について考えてみたい。
第1は,新しいアイデアは,1つではないということだ。ありとあらゆる形でネットワークが絡み合っていると見なさなくてはならない。単一の関係づけをしたら,まるで正解を見つけたように満足してはならない。正解は1つではないのだ。1つのつながり,構成で終わらず,少しでも可能性のあるつなげ方は,できるだけ拾い上げなくてはならない。
そして,最も重要なのは,一見した矛盾や対立,齟齬があったとき,軽々に都合の悪いものを捨てたり,自分の合理化できるものやつじつまの合うものだけを拾い上げてはならない。『パラドックス』は隠れた真理に至る道なのだ。その比喩として,下図を見てほしい。
出典;F.D.ピート『超ひも理論入門』(講談社)
左図は,ペンローズの「考えられない三角形」である。ところが,である。この図を,右図のように,全体を構成する三つの部分を一部分ずつ観察したとすると,各部分(a)(b)(c)は完璧に合理的にみえる。3つの図形はそれぞれに部分的に重なっているので,例えば(a)(b)では点X,(b)(c)では点Y,(a)(c)では点Zを確認できる。各要素部分では問題ないのに,接点を重ねて全体をまとめると,なめらかにつながる実際的な図形を形成できない。
局所的には矛盾しないし意味も通るのに,全体的には論理が合わない。だからといって,これを捨てたら,わざわざ情報を異質化して,組み替えしようとする意味がない。この矛盾をそのまま活かすにはどうしたらいいか,その条件は何か,どうすれば可能か,どういう条件なら可能か,ということを諦めず考えなくてはならない(現に,この図でいえば,あくまで3次元空間では実現不可能というにすぎない。2次元平面では存在可能ではないか!)。
第2は,構成し直された新しいシステムは,その命名がなされて始めて完成するということである。既に,共通性の発見を,クラス段階毎に(カードレベルからグループ,中グループ,大グループへと)同定作業を通して,標題をつけてきた。標題をつけるのは,既に触れたように,その“同定”の中身の表現であるが,そのグループの成員を種とする集団=類の定義が標題にほかならない。そのタイトルが新しい関係づけの表現となっているのである。
こうした標題づけ作業を,“名づけ”というが,各グループから最終的に全体を名づけることによって,全体の構成が1つのシステムとして固まる。なぜなら,名づけとは,いわば,グループとしての全体を,1つの類として,集団として,確定することだからだ。当然,グループ成員の構成や組成が変われば,グループとしての性格が変わり,別のタイトルを必要とする。ともかく,名づけによって,初めて新しいパースペクティブが秩序づけられ,組織化が完成する。そのとき,それは存在することになる。われわれは,情報をバラバラにすることを通して,いま全く別のパースペクティブを与える“もの”を創り出したことを意味するのである。ただし,名づけによって一旦固定された関係づけは,それがまたひとつの先入観となり,思考の慣性となってしまう危険を秘めていることは忘れてはならない。
最後に,とりまとめられた組み合わせを最終的に選択するかどうかは,
・目的に照らし,
・目的の狙い(期待水準・絶対水準)に照らし,
・条件(制約条件・前提条件)に照らし,
・障害・マイナス要因に照らし
絞っていくことになるが,これは冒頭で触れたように,もはや発想の段階ではなく,その次の段階である「目標実現プロセス」に関わる問題なので,これ以上ここでは触れない。
最後に,まとめとして,発想の上で欠かせない,マインドの問題に触れておきたい。本来発想するかどうかは,主体的なものだ。その気がなければ,こんな面倒なことに取り組むはずもないし,気楽な心持ちでなければ長続きしないし,粘り強くなければ,とうてい早々と匙を投げてしまうに違いない。それだけに,マインドが発想力を大きく左右するのである。そこで,自分なりに,心構えを整理してみると,次の3つになる。
第1は,粘り強く,些細なこともおろそかにしない〜焦らず,腐らず,諦めず
1,“まてよ”の姿勢
カッとしたり,しゃかりきになって目の見えなくなった状態から,ハッと我に返るのには大切だ。またつい,慣性にしたがって考えてしまう思考の流れを断ち切るためにも,“まてよ"と,一瞬立ち止まることが大切だ。
2,“シリーズ化”の努力
まず,どんどん羅列し,片っ端から列挙し,徹底的に洗い出すことが何をおいても重要だ。何かに焦点を当てたらそれをきっかけに,とことん洗い出す,関連するものを芋蔓式に引きずり出す。
3,“あともう少し”の気持
もうちょっと,もっと他にありはしないか,まだ残っているのではの気持,もう少し頑張れば何かあるのではないか,という助平根性が意外と大事。人と待ち合わせたとき,あと5分待てば,30分待てば来るかもしれないというのに似ているようだ。
4,“まだまだ”の楽観性
コップ半分の水を見て,「もう半分」と悲観的に考えるのと,「まだ半分」と楽観的に考えるのとでは余裕が全然違う。この僅かな余裕が発想にゆとりを与える。
5,“とことん”の粘り腰
タテ・ヨコ・ナナメ十文字に,徹底的に,とにかく諦めず,持続する。1つのアイデア,方向に(中断をはさんでは)とことんつきあってみる。粘りは,「この程度で」「まあ,いいか」といった妥協,中途半端を退ける。アインシュタインは,「何ヵ月も何年も考えて考え抜く。99回は失敗しても,100回目に正答を得るかも知れない」と言っている。
6,“ダメモト”の開き直り
だめでもともとではないか。何回でも,何度でも,やってみる,試めす,試みる。駄目とわかることだって,収穫のひとつという位の気持が余裕となる。
7,“引っ返す勇気”
やり直す,出直す,繰り返す,一からやり直す,全部ひっくりかえす,験算する,まぜ返す,精神を捨ててはならない。それは,自分の中の批評力なのだ。途中から間違ったまま,あるいは手順を間違えた,飛ばしたとき,「まあ,いいか」「仕方ないか」と妥協せず,初めからやり直す,確かかどうか再度繰り返すという作業を厭わない,という姿勢は創造性にとって不可欠だ。
8,“無の字”に執着
無理,無茶,無謀,無駄,無縁,無意味,無効,無用,無情。こういったいかにも非効率・非経済な,世の秀才が鼻先でせせら笑うようなものを,めげずに取り組むことが大事だ。むしろ,ある意味で,夢想的,空想的なものを引き寄せて,現実的効率的な発想を排除してみることこそが必要なのだ。
9,“バカバカしい”という評価をしない
馬鹿げている,くだらない,といった評価は,大体常識でしているだけだ。常識の判断で事が済むなら,もともと発想の必要性などない。むしろ,常識の嘲笑する,不真面目,悪ふざけ,遊び,馬鹿ばかしさ,くだらなさの中に,宝石がある,と考えるべきだ。
10,“リラックス”せよ
ある意味で,せっぱ詰まっても,どうにかなると思う開き直りが必要だ。それがゆとりを呼ぶ。宋の詩人,欧陽修が言ったとされる「三上説」,つまり,馬上,枕上,厠上はいずれも,日常から離れて寛いだ状態だ。こういうときにいい発想が生まれるとしたのもうなずける話だ。現代風に言えば,車中,トイレの中(そう言えば,昨今洋風となり,皆考える人になっている),寝室の中,それに風呂の中(アルキメデスの例もある),といったところだろう。だから,3B(Bus
Bath Bed)というのもある。
第2は,キャッチボールをすること〜いわばブレスト精神の徹底
キャッチボールこそが,発想を広げる鍵だ。どんなに発想豊な人も,360度の発想力のある人は稀だ。多くは,天才ではない。しかし,「一人の天才より,百人の平凡な技術者の方」が商品開発に向いているといったのは,ほかならぬ,ポストイットの開発者フライだ。しかし,平凡な人が,いままでどおりでいいという意味ではない。人との違いに耳を傾けながら,それを自分の発想への刺激としつつ,発想を広げようと努力することは,不可欠だ。そこでは,コミュニケーションが,いやコミュニケーションしかツールはない(コミュニケーションタブーを参照のこと)。ブレインストーミングは,そのキャッチボールの効果を最大化しようとするものに他ならない。
第3は,メモの効用〜メモは自分自身とのブレスト
メモは,時系列に沿って,そのとき,その場所毎での,自分の受ける刺激によって,自分の発想が違っていく,その記録なのだ。それは,自分自身とのブレインストーミングなのだ。
思いついたことを継続的に,ときとところを問わずメモしつづけると,場所や時間を変えることで,違う視点から,違う条件で,見直しているのと同じ結果をもたらすのである。電車の中,トイレにしゃがんでいるとき,会議の最中に誰かの発言に刺激されて,飲屋,食事中,デートの最中,旅行中,商談の最中(その場でさりげなく注文書の隅にメモったり,直後にメモをしたり)等々,とメモしつづけると,それを取った機会が多様であればあるほど,メモ→メモ→メモ→メモ→メモといった一直線な流れではなく,各メモで違った彩りやニュアンスに通底する連想の根茎の流れが,幾重にも連なり,重なって,連想の厚みによって,発想を飛躍させるのと同じ働きで,遠いメモの連なりに,不意につながったり,関係ないアイデアの中にぽっかりと浮かんで出たり,異質な組み合わせを見つけることは十分ある。
とすれば,意識的に,ともかく頭に浮かんだアイデアは何でもメモすることで,異質化を効果的にすすめるには,
@メモは,どこででも記入できるように,いつでも持ち歩く手帳に挟め,書いた後用紙がバラバラにできるものであること
A1件,1枚に書くこと
B書いたものは,いま進行中の仕事か,今後の予定程度の区分にして,意味あり気に分類しないで(習慣的な分類はかえって,そのメモを正しく見る目を失わせ,そう分類された枠組でしか見えなくなるので),ともかく大括りに一まとめにしておくこと(ファイルや空き箱に放り込んでおけばよい)。
C一定期間(最低1ヵ月)は継続すること。必要でなければ,3ヵ月位継続した方がよい。
D一度に,ある期間のメモを,取り出し,グループ化するなどの作業(後述の括り直し→まとめ)をしてみる。
ということが大切である。
「アイデアづくりの基本スキル」を参照
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