情報異質化の効果-1-
情報異質化の効果-2-
情報を異質化するには,大きくわけて2つの技法ある。1つは,チェックリスト等々によって,自分の発想にある種のスクリーンを強制的にかけることで,慣性化した思考をずらしていくチェックリスト法があるが,いま1つは,他人の異質性を生かす工夫をすることによって一人でやる以上に異質化しやすくするブレインストーミング法がある。
一般には,この両者は創造性技法の1つとして紹介されることが多い(例えば,高橋誠『問題解決手法の知識』では発散技法に分類して紹介されている)。しかしこの両技法によって直接何かが創造されると見なすよりは,あくまで異質な組み合わせのための準備段階として,異質化を生み出すためのステップと位置づけるべきものと考えている。そのように,両技法を発想ステップの中に配置し直してみると,それぞれのもっていた特色に,新たな効用が見えてくるはずである。その位置づけから,2つを簡単に紹介しておきたい。
チェックリスト法の狙いは,通常の自分の発想に無理やりいろいろなスクリーンをかけることで,発想の異質化をもたらそうとすることに狙いがある。チェックリストには多くのものがあるが,どれも,当該発想に不可欠と思われる要因,要素を網羅し,それをチェックすることで,異質化の洩れをなくそうとするところに狙いがある。つまり,“バラバラ化に不可欠のスクリーンを網羅”していることになる。本来チェックリストは,その人の仕事の中身,仕事の進め方のパターン等に合わせて,必要な項目を,必要なレベルで,必要な順序で整理することが大切である。自分に必要なスクリーン(バラバラ化の必要項目)を洗い出し,リスト化する作業自体が,既に,自分の仕事のバラバラ化になっているはずなのである。
代表的なチェックリストとしては,前に名前を出した,オズボーンのチェックリストが挙げられるが,その他,ポリアの“問題解決チェックリスト”,ロバート・イングラハムの“アイデアスコープ”チェックリスト,デビス・ホートマンの“製品改良チェックリスト”,コバーク&バクナールの“操作動詞”,ジョン・アーノルドの“エリア・シンキング”,上野陽一の“チェックリスト”等々がある(アダムス『創造的思考の技術』,上野陽一『独創性ノ開発トソノ技法』,オズボーン『独創力を伸ばせ』,ポリア『いかにして問題を解くか』,E・ロードセップ『発想力を伸ばす』等々参照)。
ブレインストーミングは,チェックリストと同じオズボーンの開発したもの。ブレイン(脳)のストーム(嵐)という精神錯乱を意味する。他人のもっている異質性を生かして,バラバラ化の効果を上げるのが狙いである。カーネギーが有名な『人を動かす』の中で,「2人がいて,ふたりとも同じ意見なら,1人はいなくてもいい人間だ」と喝破したように,人はその来歴から考えて,異質なはずだ。その異質性を活かし,アイデアのスノウボーリングをするためには,相互の異質な発想を活かすやすくし,それが相互の刺激ともなるような条件づくりが重要である(オズボーン『独創力を伸ばせ』『創造力を生かせ』)。それによって,それぞれの発案,切口,アイデアをできるだけ生かし,一人ではできない多様な発想をえられるようにしてある。
有名なブレインストーミングの詳細は,別に譲るが,いわゆる4つの原則は,
1,メンバーの発言への批判禁止
2,自由奔放な発言
3,質より量
4,他人の発言への便乗OK
であるが,ただ,これをお題目のように掲げたとしても必ずしもうまくいくとは限らない。実践していく上での現実的な留意点として,次の2点を挙げておきたい。
1,無意味な拡散を防ぐ
一応,この手法を使う場合,原則として,全員が一定水準の期待レベルにあることを前提にしたい。さもなくば,お互いがもたれ合い馴れ合い,何となく広がっていく無意味な議論では,バラバラ化は望めない。ブレストさえすれば,何か突拍子もないアイデアがでるなどということはありえないのである。
それを避けるためには,何でもいいから自由に議論するのではなく,
@問題領域を絞ること
A時間も限定すること
Bいきなり全員で議論するのではなく,その前に個人として同じ課題について,ある程度意見を洗い出し,まとめる時間を設けておくこと(個人作業→グループ作業)
が重要である。少なくとも,相乗りでなくただ乗りにさせないためにも,ある程度参加者一人ひとりが一度はとことん考え尽くしてから,全体でのブレストを始めたいものだ。
また,あくまでもブレストは,異質の人同士によって,情報を異質化するための手法であって,ブレストをすることが個々人を異質化させるというものではない。
2,発想の同質性を防ぐ
研修などで,ある程度以上のベテラン層に,このブレインストーミングを使ってみると,意外と異質化しないことがある。だいたい似たような発想と言葉になってしまうのである。長年その集団固有の価値と意味に慣れて,同質の思考慣性が身につきすぎてしまったのか,いわゆるその企業の“会社言葉”による発想に型嵌めされてしまって,ある言葉の枠からイメージがはみ出せないのか,それともブレストそのものを展開しきれない心理的機制が強すぎるのか,いずれにしても,そうなったら黙っている時間が増えてしまって展開できない。その場合は,チェックリストという強制スクリーンをかけて,1人ひとりが無理やり異質化をしてみるしかない。その強制が,各人の無意識のネットワークを動かすはずである。
以下続く
「アイデアづくりの基本スキル」「発想技法の活用」も参照ください。
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