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Critique Back Number 65


高沢公信"Critique"/2011.3.20

 

どうすれば部下はやる気になるのか【1】

 

それって本当にやる気の問題なの?
どんなときにやるきをなくすのか
そもそもやる気とは何か
やる気を育むチームの条件
コミュニケーションの土俵をつくる
どうやる気をおこさせるか


一見やる気がないように見えるときも,事実なのか,こちらの先入観なのかを確かめる必要がある。

まずは,いま当該の部下に起きていることは何なのかを,正確につかまなくてはならない。やる気がないを前提に,なぜやる気がないのか(原因探求),どうしたらいいのか(手段検討),と対応するのは,やる気の問題でなければ,的外れになる。やる気がないとみえたときでも,背後を推測してみると,さまざまことが想定でき,一筋縄ではゆかないのである。

第一に,本当に本人のやる気の問題なのかどうかである。上司が,やる気がないと判断しているのは,自分の期待している仕事の仕方,仕事への取り組み姿勢,仕事の遂行能力ができていないからだが,部下には一杯一杯だけなのかもしれないし,これで十分やっているつもりなのかもしれない。それは,上司の期待が相手との間ですりあわされていないことを意味する。

 第二は,仮にやる気がないとしても,それが本人だけの問題なのかどうかである。本人にはやる気があっても,それを果たす知識やスキルが欠けていたのかもしれない,聞きたくても,周囲は自分の仕事で精一杯で声をかけられない状況かもしれない,上司や同僚との関係に悩んでいるのかもしれない等々,そうなった別の理由があるかもしれないのである。とすると,それは上司が部下の見積もりを誤ったことからきているのである。


 有名な心理学実験に,繰り返し逃れられない電気ショックを経験した犬は,避けられる場面でもそのショックを回避しようとせず無抵抗になるという。これを学習性無気力というが,自分でコントロールできない経験を重ねることで無気力になるのだというのである。それには,ふたつの要因がある。

 @自分自身にコントロールできない原因があると感ずる場合(内的要因)

 A外的状況がコントロールできない原因があると感ずる場合(外的要因)

 要は,自分のリソース(知識・経験・スキル)のせいと思うか,相手のせいと思うかだが,どちらにしても,結局自分に帰ってくる。自分にはとうてい無理だと思うか,たまたまむずかしすぎたが,次は努力すればできると思うか。それは,過去に成功体験をもっているかどうかによって,自分は何とかできる人間と思っているか,いつも失敗している人間だと思うかによる,といってもいい。逆に言えば,努力すればコントロールできるという自信がもてていれば,無気力に陥るのを避けられるのである。そういう自信をどうつけさせるかの問題と考えてみることが大事なのである。

 「やる気」の「遣る」とは,「ものごとをはかどらせる」こと,やる気とは,「物事を積極的に進めようとする目的意識」(広辞苑)とある。やる気があるとは,それをするための「何か」(目的)が自分の中にあることなのである。それをするためならその気になれる,たとえば,それをする意味や価値や魅力(大切さや値打ち,面白さや楽しさ),興味や関心,自己表現(目立つ,存在感,賞賛)等々が必要なのである。しかしそのことにどんなに価値や魅力があっても,自分にやれる(できる)と思えなければ,願望や夢,憧れで終わるだろう。その距離が遠すぎれば,努力する気にすらならないだろう。

 そう考えると,やる気がある状態には,

@その気になれる意味や価値がある(やりたいことかやりたいもの)こと,

Aそれが自分にも,(努力すれば)やれると思えること,

が必要である。ただ,厳密に言うと,「やれる」と思うには,「やれる」という予感(自信)だけの場合と実際に「やれた」経験(実績)があってそう感じる場合とがある。予感だけなら,うぬぼれや過信も入る。現実にぶつかったとき通用する根拠もないのに,のうてんきに自信だけをもたれても困るのである。

そこで,「やれる」と思えるには,@自分ならできるのではないかという自分への自信(あるいは自分へのプラスイメージ)だけでなく,その裏づけとして,A具体的にどうやればいいかがある程度見通せ(こうすればいいのではないかという予想が立ち),それなら自分にできると思えることが必要になる。そういう予想ができるには,ある程度経験が必要である。自信を空手形にしないためには,担保となる経験が必要なのである。

つまり,第1に,「やりたいこと」が「やれる(かも)」と思えること,第2に,「やれる(かも)」が「やれた!」経験の裏打ちをさせること,2つをセットにして,やる気を現実に着地させることが必要なのである。

経験の裏打ちをさせるにも,まず実際にやらせなくてはならない。自分にもできると思えるには,

・やることのおおよその見通しができる,

・こうすればいいという,やり方の予想ができる,

・それをするのに必要な知識やスキルが自分にあると思える,

ことが必要である。それには,

・十分やれる可能性のあるものにチャレンジし,

・まず,確実に達成した成果をえて,

「やれた!」という成功感を感じることが必要である。「やれる(かも)」が,実際に「やれた!」を味うことで,次への自信(「次もできる(かも)」)ともっとうまくやりたいという意欲につながる。それには,楽々できるのでは自信にはならない。少し努力してクリアできるようなハードルを,励ましながら,チャレンジさせる必要がある。できないかもしれないとしり込みする不安を,

・できるだけ協力と支援を惜しまない,

・困ったときには,いつでも相談に乗る,

という後ろ盾で支えて,一歩踏み出させ,何とか「できた!」という,成功感を味わせるのである。そうした経験の積み重ねによって,どんなときもある程度「こうすればできる」という見通しをたてられる自分への自信をつけさせることである。


このためには,それが本人だけの孤独な戦いではなく,その努力自体が,メンバーから支えられ認められ,支援がえられ,メンバーとして受け入れられていると感じさせるものでなければならない。なぜなら,「こうすれば」できるという見通しには,ここまでは自分でできるが,ここからは助力があればできるという判断が必要なときがある。成功感で,もうひとつ必要なのは,なんでも自分でやりとげることだけではなく,周りの力を借りて,一人ではできない高いハードルをクリアする経験なのだ。でなければ,自分の力以上の仕事をすることはできない。本人のやる気だけに問題を完結させるのではなく,周囲も巻き込んで仕事をやりとげていく力を育てていくプロセスこそが,チームのパフォーマンスにとっても欠かせぬことなのである。

以上を整理すると,やる気を引き出し,持続させるのは5つである。

@その気になれる意味や価値(やりたいことかやりたいもの)がある

Aやってみて,「やれた!」という成功感を味わう(実績をつむ)

B自分にもできる(こうすればできそうだ)と思える(自信をつける)

Cそうやっている自分の努力をメンバーが認めている(承認される)

Dメンバーとして受け入れられていると感じられる(有効感がある)

やりたいと思うものがあっても,自分ができると思えなければ,やる気にはつながらず,やりたいと思っても,どうやればいいかが見えなければ,やってみようとは思わない。またやりだしても,達成の目途が立たなければ,意欲は萎えるし,まして誰も自分のやっていることを認めてくれなければ,やる気は続かないのである。

そう考えると,メンバーのやる気を育てるのは,チームリーダーやチームメンバーが,部下を育てることに関心をもち,その気にさせる仕掛けをつくることが不可欠だとわかるのである。つまり,

@本人にやりたいことを見つける機会があり,

Aそれをやりとげるための助言やヒントをもらうことができ,

B自分にできると感じられる体験をつむチャンスが与えられ,

Cそれを後押しし,励まし支える雰囲気があって,

D一歩一歩やれたという成功感を積み重ね,

Dチームに必要な人間だと認められる

 ことが必要なのである。それはマネジメントとしての課題なのである。(以下つづく)

やる気については,“やる気”をどうカタチにするかを参照ください。


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