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Critique Back Number 32


高沢公信"Critique"/2004.6.20

 

リーダーシップのチェックポイント

 

  • リーダーシップの2要件

 リーダーシップとは,字義通りに言えば,リードするスキル,リードとは,周囲を引っ張っていくことであり,そのために周囲を巻き込んでいくことである。つまり,組織やチームの目標を達成しようとするときにどれだけ人を巻き込む力があるか,である。そのとき必要なのは,「どこへ」「何のために」「何を目指して」というビジョンや方向(これを“旗”と呼ぶ)が明示ざれていることであり,その旗を実現するために,どれだけ周囲を巻き込む影響力があるかなのだ。
 つまり,リーダーシップの要件は,次の2つである。
@旗を立てる機能(指示機能)〜向かうべき方向と目標を提示する
 目的(何のために),目標(何をするか),方向(どこへ行く)等々,何をしなくてはいけないか,何を目指すべきか,自分たちの目的や目標をきちんと掲げ,明示することである。
A巻き込む機能(盛り上げ機能)〜目標に向けてチームを奮い立たせる
 立てた目的・目標を達成するために何をすべきか,どうメンバーをまとめ,集団としての力を盛り上げていくかを工夫し,実践すること。コミュニケーションの円滑化,協働体制づくり,メンバーの指導・育成等々,立てた“旗”をどう実現(達成)するかの手段として,目的達成のために,チームとしての活力を維持・向上させるために,必要なことはすべてが対象となる。

 もちろんリーダーシップは目的ではない。リーダーシップの目的はあくまで組織の目的と目標を達成することである。それにはたえず「組織の目的は何か」を明確にさせなくてはならないだろう。一方では,自分は「何のために(何を達成するために),リーダーという役を引き受けているのか」「(目的を達成するために)リーダーとして,何をしなくてはならないのか」「(目標を達成するために)リーダーとして,どういうやり方をすべきなのか」等々と絶えず自問しつづけなくてはならない。
 誰がその立場に立っても同じような役割しか果たさないなら,誰がやっても同じリーダーシップになる。自分に与えられた役割と格闘し,何をすべきか,何にウエイトを置くべきか,そしてそこで自分自身は何をしたいと思うのか,を主体的に考えて,掲げた旗こそが自分自身のリーダーシップとなるはずである。一般に、そうした決断に必要な要素として、@意思要因(何をしたいか),A外的要因(すべきことは何か),B内的要因(できることは何か)がある。@は、意思である。もちろんリーダーの意思である。Aは、環境や状況から求められていることである。Bは、自分の戦力である。どれほど、やらなければならないことやできることを真剣に考えても,そこには自分のリーダーシップはない。必要なのは,自分が何をしたいかであり,それを組織の目的と戦力を勘案しながら,組織の意思として旗にすることにこそ,自分自身のリーダーシップの意味がある。

  • リーダーシップの旗を実現していくのに必要な

 そのリーダーシップの旗を実現していくのに必要なのは,〈要望性〉〈共感性〉〈伝達性〉〈信頼性〉の4つである 要望性とは,上に立つものが,そのチームの目的(旗幟)を達成するために何をするかという観点から,メンバーにその役割に応じた行動を求めることである。もしリーダーに要望がないとすれば,それはチームとしての目的意識(何を目指すのか)を自覚していないということである。
 共感性とは,リーダーがメンバーに「こうしてほしい」というさまざまな要望をもつなら,メンバーもまた自分に対して同じようにさまざまな要望をもっているに違いないと,相手と同じ立場に立って感じ,考えることである。このために必要なのは,聞く能力である。聞くとは受け身ではない。一般に,聞くには,「聴く」と「訊く」がある。訊くとは,質問力である。その人の問いの力,とはその人がどれだけ幅広い問題意識を持っているかの指標である。部下についても同じである。どれだけの関心と問題意識をもって,部下を見ているかが,その訊き方でわかる。
 伝達性とは,「知らせる」機能である。会社方針,自部署の方針,自分の考え,方針をきちんと明示することである。それによって,部下は,自分の仕事の位置づけ,意義をひとつひとつ確認し,意味づけることが可能になる。
 信頼性とは,集団を固め,必要なときは,直ちに措置がとれるリーダーシップの要である。
 リーダーの有能性とは,メンバーの立場から見たら,このリーダーならついていって大丈夫という「頼りがい」,上位者の立場から見たら,この人物になら託しても大丈夫と思わせる「頼もしさ」,同僚の立場から見たら,この人となら手を組めると思わせる「確実性」である。信頼性を支えるのが有能性と誠実性である。有能性とは,意思決定者(あるいは決断者)としての有能さである。たとえば,メンバーに,(細部に異論があっても)「自分の意見は十分に伝えた。いつも意見は聴いてくれている(共感性)人だから,自分の意見を踏まえた上で,そう決定したのだろう,いままで意見の不一致もあったが,この人の決定は,信をおくに足りた,おそらく今回も結果的に正しいだろう」と思わせるものがあるかどうか,である。誠実性のバックボーンとなるのは,言葉である。言葉の力は,2つある。指示の明確さと,自己表現力である。リーダーが言葉を発するのは,みずからの意思をキチンと伝えるためである。いくら指示が明確でも,意思のない言葉に力はない。


  • リーダーシップとは目的達成のために何をしなくてはならないかを考えること

 リーダーシップは,そのひとがどんな位置にあろうとも,必要なのは,その仕事を真に完結するのはどういうことか,その目的達成にはなにをしなければならないか,を考えられることだ。
 たとえば,自分の仕事の達成にリーダーシップを発揮できない人に,人を引っ張るリーダーシップがあるはずはない。自分の仕事のリーダーシップとは,その仕事の意味と目的を意識し,その実現のために周囲を巻き込んでいく力をもっているということである。それは,自分の仕事を自己完結させず,たえず幅広い視点から,俯瞰する目を持っているということである。仕事の完成の規模が大きければ大きいほど,あるいは自分の狭い役割に自己限定せず,より大きな広がりの中で解決を図ろうとすればするほど,より上位の者を巻き込んでいくほかはない。それは,たとえ経営トップでも同じだ。自社という枠の中で自己完結させるか,広く業界まで考えるか,業界を超えるか,さらには,国内という制約を超えるかによって,その巻き込まなくてはならないヒトもモノもカネも情報もノウハウも拡大していくはずだ。

 下図のように,トップにはトップの,管理者には管理者の役割があり,それを完結するために求められるリーダーシップが必ずある。どんな立場であれ,自分自身が担っている仕事の意味を自覚し,それを実現するために何をすべきかを明確にする(これが「“旗”を立てる」と呼ぶものだ)ことがまず前提となる。それを実行するためには,いかにして,関係者を巻きこみ,説得し,その旗を共通の旗としてもらい,共に実現するようにしていかなくてはならない。ここにこそリーダーシップが求められる。逆に言えば,自分の立場を意識せず,漫然とその役職にあるものには,何をなすべきかは見えず,そのために何をするかも考えることはない。そういうひとに,リーダーシップは必要ない。

重要なことは,リーダーシップとは,リーダーのみにあるのではなく,それぞれの立場の者が,その責務を果たすために発揮すべきものだ。ひとりひとりの役割遂行に伴って発揮されるメンバーのリーダーシップは,リーダーのリーダーシップに収められるべきものではない。それなら,リーダーの器量以上に組織力は大きくならない。そうではなく,リーダーのそれをはみ出すようなメンバーのリーダーシップを束ねられ,ひとつの方向に向けていけることこそが,リーダーに必要なリーダーシップなのだ。そのためにこそ,仕掛け作りの機能が重要になる。それによってリーダーシップの器量そのものも大きくなる。

 組織のポジションに関わらず,そのポジションの仕事を完結しようとするとき,必ず,自分の裁量を超えて働きかけ,周囲を巻きこんでいかなくてはならないことがある。そのとき直面しているリーダーシップは同じなのである。それをチェックリストにすると,次の20項目となる。(了)

【リーダーシップチェック】

チェック項目

組織やチームの目的・方向性,ビジョンを常に自問している
メンバーに組織の使命,役割,存在意味について積極的に語っている
メンバーとのベクトル合わせ,判断基準の刷り合わせを怠らない
事業環境の変化,顧客情報にアンテナを張り,いつもウォッチングしている
上下左右,内外のコミュニケーションを保ち,情報を共有化するよう努力している
いったん決めた目標・プランは,ぎりぎりまで諦めず貫徹するよう努力する
自分たちの目指すことについて,積極的にメンバーへ説明している
メンバーに,期中での途中経過,進捗状況についてオープンにしている
メンバーの力量,成長目標についての配慮とサポートを心がけている
緊急事態に陥ったとき,何を最優先事項にするかは決まっている
手持ちの資源(ヒト・モノ・カネ・トキ・情報)を十分使いこなしている
メンバーに自らの問題意識をぶつけ,キャッチボールすることをいとわない
優秀なメンバーには折あればリーダーシップを発揮する場を与えるようにする
どんな難局,行き詰まりにも諦めず,メンバーの衆知を集めて乗り切る
どんな場合にも,真摯で,誠実に事に当る努力をしている
自分の問題や不都合についても謙虚に聞く耳を持っている
いったん決めたプランでも撤回したり軌道修正することをためらわない
メンバーからの具申,提案,提言は必ずオープンに議論する
自分の意思決定についてはオープンにし,その理由についても説明する
結果責任については,自分自身が負うことは当然だと考えている

リーダーシップについては,ここをご覧下さい。
管理者のリーダーシップについては,ここをご覧下さい。


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