情報を異質化する-2-
情報を異質化する-1-
情報を異質化する-3-
視点には,視点と観点の2つがある。視点を動かす場合,この2つは別々にみておかなくてはならない。
1,視点を動かす
(1)位置の移動
当然,これには,主体の側の物理的移動と対象の物理的移動の2つがある。見え方を変える効果はどっちも変わらない。
前者は,逆立ちすれば,視野が転倒するし,遠ざかったり近づいたり,分離したり統合したり,逆に見たり反対側から見たり,上下前後左右から見たり,横から見たり縦から見たり,といったものを見る位置の移動によって,見え方が変わる。視点の接近は拡大であり,視点の後退は縮小である。視点の分散は分離であり,視点の集約とは統合とになる。
後者は,拡大することが視点の接近と同じであり,縮小することが視点の後退と同じであり,分離することが視点の分散と同じであり,統合することが視点の集約と同じである,というように,前者で主体の側でやった転倒を,対象(つまり情報)の側でやっても同様の効果がある,ということなのである。これを,われわれは日常自覚せずにやっている。顕微鏡を使えば視点を近づけたことになり,かざしたりすかしたりすれば俯瞰する位置に視点を遠ざけたのと同じなのである。
(2)焦点の移動
これは,照明を当てるところを動かす。図ではなく地に焦点を当てると,信号がノイズになり,ノイズが信号になる。例えば,怒っている相手が言っていること(こわもてだとか,強圧的)ではなく,声やしゃべり方(女性的な声とかズーズー弁とか)に着眼したり,あるいはその人の風貌とか服装とか背丈とかに目を向けたり,というのもその例だ。それだけで見え方が変わる。それだけでなく,価値も変える。カメラで焦点距離をアップにするか,無限大にするか,ワイドにするか,といったことで,見え方が変わるのも同じである。
(3)立場の転換
視点を相手に置くことで,相手の立場に“なる”,相手の視野が自分のものに“なる”,相手の気持が自分のものに“なる”といった“なる”視点への転換。位置を変えて立てば,見え方が逆になるはずである。車を運転している側で通行人を見ている気持と,通行人の側で車を見るときの気持との違い等もその一例だろう。しかしわざわざそうしなくても,立場の違う人が集まれば,当然見え方は違ってくる。一人でするのは難しいが,そういう違いを異質な人で具体化すればかえって容易となる。
2,観点を動かす
(1)意味・価値の転換
習慣的なものから思想的なものまで,あるいは情緒的なものから趣味的なものまで,とかく良い悪い,有意義無意味,有益無益,といった観念のスクリーンがモノに別の面を見るのを妨げる。自分の拠って立つところを中心とするからそういうことになる。時代という文脈を変えて,未来や過去という別の時代からみれば別の価値と意味をもっているはずだ,あるいは社会的・文化的な文脈を変えて,別の国から別の会社から,あるいは地球規模で,自然や環境といった側から見れば全く別の意味が出てくる。あるいはいままで一顧もしていなかった位置に移してみることだ。例えば,子供の観点,老人の観点,外国人の観点。
(2)機能・働きの転換
モノの機能,働きは固定しているから,それに慣れるし,役にも立つ。それが社会生活を円滑にさせる仕組みなのだろう。しかしそのために,前述の2本の紐をつなげる実験において,ハンマーの応用・転用が見つけ出せなくなる。使い慣れたモノとの関係の中で見ている限り,役立つ道具としか見えはしない。それとは別の見え方にするには,別の機能とか別の使い方といっていては駄目なのだろう。つまり,そもそも機能とか働きは社会的につくられた役割(共有された見え方)なのだから,それをその道具から剥ぎ取らない限り,別の見え方にはならない。それは,またハンマーとその使い手という関係も崩すことになる。そういう視界の中でのみ,その場で新しい役割をつくり出せるのであり,ただの重さという物理的特性に分解してしまうことができる。そのてっとり早い方法は,その機能を担う部分(ハンマーなら柄と頭)を解体してみることだ。そうすると別の見え方になる。それを意識的にする以外にはない。
(3)感覚・気持の変換
感情・感覚といった主観的な立脚点(好き嫌い,優しい厳しい)によって対象の像が固定されてしまう。その立脚点を,好きだったらどうなるか,優しいとしたらどうなるか,と変えるのは難しい。一つは,対象全体をバラバラにして,好き嫌いの実体を分解してしまうことだ。鼻が嫌いとか,顔は嫌いだが出身は嫌いではないとか。それでももなかなか感情は言うことを聞かない。このためにもう一つは,利害や危機といった,そう思わざるをえない状況設定をしてみることだ。例えば,そうすることが自分の夢をかなえることになるとか,それが利益をもたらすこととか,嫌いでも顧客ならどうするのか,によって見方を転換せざるをえなくする。敢えてそうしてみることで,見え方を変えてみる。
モノやコトのカタチを変えるには,そのモノの形や外観を変えることと,もうひとつは,その条件を変えることの2つがある。
1,対象を変えてみる
対象を変えるには,対象を物理的に変えてしまう方法と,それと似たもの,関係あるものにずらしていく方法の2つがある。
(1)対象を変形・変質させる
対象を物理的に変化させるには,拡大する,縮める,分割する,といった,後述のオズボーンのチェックリストにあるように,対象の形・性質を変えてしまうことである。例えば,
・形を変える(破る/分ける/丸める/折る/揉む/くしゃくしゃにする/重ねる等)
・大きさを変える(縮める/拡大する/倍にする/膨らます/伸ばす/延ばす等)
・性質を変える(色を変える/材質を変える/重くする/軽くする/厚くする等)
・状態を変える(熱くする/濃くする/溶かす/加える/減らす等)
・位置を変える(高くする/下げる/遠ざける/接近する/裏返す/逆にする等)
・構造を変える(骨組を変える/組み合わせを変える/要素を変える/構成を変える)
・関係(結びつき)を変える(加える/減らす/クラスを変える等)
といったやり方になる。
(2)対象を似たものへとずらしていく
連想ゲームではないが,対象をそこから想起される似たもの,関係あるものへと少しずつずらしていくことで,変えてしまう。例えば,
・似たものに変えられないか(似た形/似た性質/似た用途/似た働き/似た構造等)
・関係あるものに変えられないか(構成要素の関係/順序/階層/因果等)
というように,そのモノやコト全体をそのまま,別のものへとずらしていく。
この方法としては,「意味をずらす」のところで詳述するように,
@自由連想による芋蔓式ずらし
Aアナロジーによる意識的ずらし
の2方法がある。自由な連想というのは,思いつくままに連想していくものであり,アナロジーというのは,一般に,対象を似ている(あるいは関係がある)別の“何か”と見なすことであり,“何か”に見立てる,“何か”として見る,“何か”になぞらえる,あるいは「〜のような」「〜のこどき」「〜そっくり」というのも同じである。例えば,コウモリを鳥と見立てること,あるいは理論を建築物に喩えること,あるいは,原子構造を太陽系をモデルにすること等々である。
対象の意味や構造を,似ている(関係がある)“何か”として,例えば,Aという対象をXというアナロジーとして見るとは,
Aの仕組みに(それと似た,関係のある)Xの仕組みを見る
Aの構造に(それと似た,関係のある)Xの構造を見る
Aの組成に(それと似た,関係のある)Xの組成を見る
Aの機能に(それと似た,関係のある)Xの機能を見る
Aの形状に(それと似た,関係のある)Xの形状を見る
Aに(それと似た,関係のある)Xを喩える
Aに(それと似た,関係のある)Xの意味をもって言う
等々,(両者でピックアップした部分的,あるいは全体的印象等々の)《似たところ》《関係あるところ》でもって,対象としているモノ(コト)を,何か別のモノと疑似的にイコールと見ることである。アナロジーは,実物そのものでないし,実物の全ての構造と機構が1対1で対応している同一・同等のものでもない。例えば,人間の脳をコンピュータをアナロジーとして理解するとき,情報処理としての機構のみをピックアップして,そこでイコールとしているにすぎない。だから,そのアナロジーでは抜けてしまう部分があるのはやむをえない。逆に言えば,両者の関係でピックアップできる“何か”を見つけたときにのみ,両者にアナロジーを見ることができるのである。例えば,
コウモリの翼→鳥の羽根→昆虫の羽根→
といったように,同じ羽根という形状をピックアップすることによって,それと似た“何か”へと連想していくことができる。更に,それに似た“何か”をピックアップすることによって………と,どんどんアナロジーを展開し,コウモリの翼の機能と構造とはまったく別の昆虫の羽根へとずらしていくことができる。
以上のように,アナロジーを見つけるには,似ている(類似性)と関係がある(関係性)の2つの切口があるが,類似性は両者の外見(観),形状,状態,仕組み,構造等が(つながりをピックアップする)手掛かりとなるし,関係性は両者の包含関係,全体部分関係,序列関係,因果関係,主語述語の関係等が(つながりをピックアップする)手掛かりとなる。
アナロジーの見つけ方についてはここをご覧下さい
2,条件を変える
以上のモノやコトの変形やずらし以上に,そもそもそのおかれている条件,状況そのものによって,その見え方は左右されているのだから,それが変わってしまえば,モノ・コトの基本的条件が変わることを意味する。
この条件変換には,条件の項で詳しく触れるが,主体を変える/対象を変える/時間軸を変える/空間軸を変える/理由(目的)を変える/方法(やり方=手段)を変える/水準(レベル・ウエイト)を変える/条件(前提,制約)を変える,といった条件があり,その1部あるいは全部を崩すことで,見え方(形)に変化を生ずることになる。例えば温度条件が変われば,水は水蒸気や氷になるし,同じ長さの線でも,両端の矢印の向きによって長さが変わって見える,等々。
以下続く
「情報分析のスキル」「情報探索のスキル」「言葉の構造と情報の構造」
「アクセス情報の基本スタンス「情報の向きをつくる」
等々を参照ください。
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