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情報の向きをつくる

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 情報の“向き”とは,情報の私的なパースペクティブ(方向性)を確認すること,あるいは復元することである。しかし,それは,情報分析をしたり,問題解決を図ったり,アイデアを考えたり,企画をつくったりする作業において果たしてどんな意味があるのか,情報をどう扱うかの視点から,考えてみたい。

 結局,アイデアづくりを考えるとは,情報の編集作業であり,どう編集すればアイデア形成につながるのか,を考えることである。それは,言葉を替えると,情報に新しい“向き”を発見することなのである。そのためには,自分自身の“向き”を崩す,多角的な“向き”をどう巻き込むかが重要となる。

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情報の向きを確かめる

 情報というものの一般的特性として,

浮遊性

外在性

脱個別性

独立性

具体性の喪失

媒介性

累積保存性

 といったことが挙げられるが,デジタル化することでそれはいっそう顕著に見られる。つまり,情報は,抽象化し,実体化(物質化)することで,情報たりえる。正確には,そうすることで,情報はデジタル化,つまり数値化しえ,それによって情報処理の効率化がはかれる。しかし,だからといって,情報のそうした特性が,本来的なものだと考えてはならない。情報の“向き”(パースペクティブ)を括弧に入れることで,処理の効率化を図ったに過ぎない。情報を読むとは,情報の“向き”を復元することにほかならない。誰が,いつ,どこで,どうやって,表現されたのか,データでしかない数値でも,報告書でも,作文でも,企画書でも,同じである。それは,単に圧縮した情報を解凍するのとは違うのである。言ってみれば,歯の化石の破片から,四百万年前のアフリカ猿人の全体像を復元していくのに近いかもしれない。

 しかし振り返って考えれば,われわれは情報を集めることを目的化して情報に向き合うわけではない。何らかの目的達成のために,何かを集めることが必要になる。とすれば,実は情報探索のとき,一定の情報への向き合い方ができてしまっている。もっとはっきり言えば,情報をスクリーニングにかける網の目ができてしまっているのである。それは,よく言えば仮設,悪く言えば先入観である。しかし,網の目なしに情報を掬うことはできない,ということは,“ベイトソンの問い”を例にして申し上げたはずである。問題は,客観的に情報に向き合うことでも,先入観なしに情報と向き合うことでもない。もともと情報に客観性はない。まずそういう当たり前のことを前提に,だからこそ,情報の“向き”が必要なのだということなのだ。

 しかし,矛盾することを言うようだが,情報の向きを確認することが,市場調査や世論調査等々の場合はともかく,企画づくりやアイデアづくりにおいて重要なことだろうか?“向き”とは,いわば「原情報」の復元だ。どういう背景と文脈での情報なのかを確認することだ。しかし,それは,誰かが発想済みのアイデアを確認する,あるいはその情報の意味は何々だといった意味の確認等々という意味なら,まさにナンセンスそのものではあるまいか。企画づくりやアイデア発想において,情報の“向き”とはどういうことなのか,改めて再確認しなくてはならない理由がここにある。

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情報の“向き”を発見する

 研修の手法に,インシデントプロセスというものがある。それは,与えられたインシデント(出来事)から,その出来事の幅と奥行を想定しながら,必要な情報を収集・分析して,そこに起こっている問題の解決をはかっていく,というものである。その情報の収集の仕方には,当事者に質問をしていくもの,シート化された情報を収集するもの等々があるが,要は,どう事態の全体像をつかみ,その解決のためにどういう情報が必要かを考えて,情報を収集し,そこから解決のプランを立てていくことができるかどうかだ。

 そのとき,「情報の“向き”を確認する」ことの意味が問題になる。たとえば,関連する情報を聞き出したとする。そして,その情報をつなぎ合わせることで,おそらく一定の文脈が見えてくるはずである。で,「よし,わかった!」と,結論を出せば,金田一探偵に笑われる磯川警部の安直推理となるはずである。なぜなら,そこにあるのは,情報提供者のもたらした「情報の“向き”」に沿って,その通りに推論した,いわばお膳立て通りの結論にすぎないからだ。未熟な指揮官にとって恐ろしいのは,「彼此の情報が互いに支持を保証し,あるいはその信頼度を増大しあ」って「心に描かれた情報図が鮮やかに彩色される」ことだと指摘していたのは,クラウゼヴィッツであった。情報の“向き”が揃ったときは,それを疑うにはよほどの判断力がいる。

 そのために,情報探索は“問い”だ,なのだ。バラバラ化をはかるというのは,事態の安易な“向き”に流されず,というよりすぐに見えてくるそうした情報の“向き”一色に流されないために,ありえる他の“向き”をどれだけ探し出せるか,ということなのである。そのとき,“問い”の多角性とは,そのまま“仮説”の多角性なのである。こうなったらどうなのか,こうしたらどうなのか,もしこうならなかったらどうなのか,こことここが矛盾していなかったらどうなのか……。既にお気づきかもしれないが,これは問題意識そのものである。問題意識をああでもない,こうでもないと立てながら,問いをいろいろと立ててみる。これが,情報のもっている“向き”,情報の提供者のつくりだした“向き”,情報の発信者が偏らせた“向き”,情報の仲介者・報告者がいじくり直した情報の“向き”に流されないための,自分で情報の“向き”を発見するための唯一の方法なのである。

 アイデアづくりの4つのスキル,「わける」「グルーピングする」「組み合わせる」「アナロジー」は,ここでも生きる。情報のもっている“向き”を分けることで崩す,グルーピングすることで変える,組み合わせることで変質させる,アナロジーで別の向きと対比する等々。要は,情報に新しいパースペクティブ(布置と序列)を見つけることなのだ。情報の“向き”を変えるとは,ある意味で情報に新しい意味を発見することなのである。発想とは,そういうことなのだ。

 だが,情報の“向き”を崩すのに一番有効なのは孤独な作業ではなく,キャッチボールだということは,既に触れた。

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ネットワーク時代のブレインストーミング

 キャッチボールには,ブレインストーミングが有効であることは既に触れたが,今ほど,ブレインストーミングが想定した“いま”“ここ”で一斉にという制約から自由になれる機会とツールに恵まれたことはない。インターネットを介して,チャットや掲示板等を使えば,直接一斉に一定の場所に集まらなくても,ハイパー上でのブレインストーミングが可能なのである。いわば,Net meeting,あるいはNet Brain storming Net BS)とでもいうべきものが可能になっている。その意味では,情報収集としての側面だけでなく,情報の編集の側面でも,インターネットは有効なのである。そのとき,「ネットワークの価値は,そのネットワークにつながれている端末数(ユーザー数)の二乗に比例して拡大する」という“メットカーフの法則”は生きているのではないか。つまりそのNet BSに参加する人が多ければ多いほど,そのNet BSは価値が高くなる。通常のブレインストーミングとは異なる価値法則が生まれうるのだ。

 「一言でいえば,電子掲示板をもった電子会議室(バーチャル・ミーティングルーム)を作り,そこで議論を重ねてよい教材を作成すればよい……。同時的な共同作業としてこれを考えられなくはないが,メールは瞬時に届くようでも少しは時間がかかるから,本当に同時的にやることはこの形では無理であろう。

 事情が許せば,……全員の画面に共通に映し出される討議用電子掲示板と同時に,画面に各人の表情と動きがわかる上半身の映像ぐらいが現れ,各人の発言がリアルタイムに他の人に伝わるようにする。一室に会して討議しているのと同等のことをバーチャルでやろうというわけである」(村上温男『ITでめざせ,教育革命』)

 余談ながら,これは,学校教育の教材開発をこうしたらどうかという提案である。これくらいのことは,技術的には可能なのだという一例である。既にテレビ会議等々,これに類することはいろいろ試みられている。ITはツールである。目的ではない。だから,その目的に合わせてどう使いこなすかが,いま問われているにすぎない。

 ただ,これを万能視するのは危険だと思う。マイケル・クライトンではないが,最後は直接の会話だ,ということを強調しておきたい。企画を詰めていくプロセスで必要なのは,具体的な,発想の“辞”の部分である。つまり,それぞれの私的なパースペクティブのぶつかりあいである。ブレストがものの多角化に有効なのは,実は“辞”の違いがあるからこそだ。“辞”とは,それぞれの情報の“向き”の違いである。このぶつかりあいが,ブレスト効果を生む。古いと言われるかもしれないが,所詮デジタル化した映像は,“向き”を揃えられた情報でしかない。つまり一定の抽象化を免れない。そこでは,私的な思いや感覚は捨象されるほかない。企画の最後の詰めでは,情報化では捨てられる,その“辞”の違いの微妙なニュアンスのぶつかり合いがすごく重要なのだ。

 アイデアは,情報を整理した結果だけが問題なのではない。それなら,パソコンのソート機能で分類整理すればすむ。それではすまない部分,結論という“詞”を包む“辞”の「かもしれない」「だな」「…かな」等々のつぶやきこそが,アイデアの核心である。たとえば,こういうモノを創ろうと決まったとする。しかし,そのモノの手触り,見栄え,形の感触,色栄え,置いたときの風景等々で,本当の成否は決まる。それは,統計数値や平均値,議論の合意形成だけでは決まらない,きわめて私的な思いそのものなのだ。多数が反対しても,たった一人の感触やとまどいが重視されるかどうかは,デジタルなハイパー上では決められないし,決めてはまずいのである。

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アイデアづくりのプロセス効果

 ところで,人間の能力は,

 能力=知識(知っている)×技能(できる)×意欲(その気になる)×発想(何とかする)

 と分解することができる。企画の鍵は,「どう,(何ともなりそうもないことを)何とかするか」なのだ。企画についての知識や専門領域の知識・スキルをもっていて,「知っていること」「できること」をいくらまとめても,それは企画にはならない。既に誰かが考えたか,試みたことは企画ではないからだ。そこで,「知らない」し「やったこともない」が,“こうなればおもしろい”“こうすれば何とかなる”“ここはこうすればもっとよくなる”等々といったことを,どう実現するか,だ。そこで,「それは無理だ」「そんなことは無茶だ」とあきらめるか,「どうすれば可能となるか」の視点から“何とかならないか”と考え,“何とかする”かどうかが別れ道なのである。一見“何ともなりそうもない”ことを,「そのために何が,どこまで,できるのか」「どこからなら,何とかできるのか」「どこまでなら端緒がつかめるのか」と,何とかする糸口を見つけようとするかどうか,それが,まずは出発点である。冒頭で,「24時間風呂」を例に,申し上げたことは,このことである。そうしたチャレンジの積み重ねが,実は,その人の能力のキャパシティを広げることになるのである。

 個人の能力という点からみれば,「知っていること」「できること」を意欲的にやるだけでは“伸びしろ”(伸びる余力)は大きくならない。やり方に習熟し処理スピードがあがるだけだ。できそうもないこと,やってみたことのないことを,どれだけ“何とかした”ことがあるかどうか,少し無理なことをどれだけ“何とかしたか”どうかでその人の能力の余力は決まるのである。

 そう考えてみれば,それを企画と呼ぶかどうかは別にして,日々問題意識をもち,この仕事の処理の仕方を工夫したい,顧客への返事のスピードアップには処理の仕方をこう変えればいのではないか,あそことの連携を変えればもっとサービスアップになるのではないか等々と,それを現実化し,実現していくことも,企画にしないだけで立派に企画といってもいかもしれない。ただし,企画である以上,ひとつの条件がある。

 つまり,自分の能力レベル,職場内レベル,組織内レベルだけで考えるのではなく,常に世の中の水準,流れと対比しながら,たえずこれでいいのかと振り返る視点をもっているかどうか,である。その大所高所からの視点の有無が単なる改善(カイゼンのことではない)と企画の違いである。そのためには,次のような点をチェックしてみる必要がある。

それは誰の利益になるのか(誰のためなのか)

それは何のためなのか(述べるに足る目的があるか)

それは誰と争っているのか(競争相手は誰か)

それはどこの何と比べてどこが違うのか(何が新しいのか,何が特徴なのか)

誰がそのことを証明してくれるのか?

それは業界の,社会の,世界のどのくらいの水準にあるのか?

そのことによってどんな新しい世界,便利,便益を生み出すのか?

 等々。そして,実は自分一人の情報の“向き”に揃いかける(言ってみれば,うぬぼれ)のを崩し,上司や同僚だけではない,多くの目で,広い視野からチェックし,配置し直すためにも,キャッチボール,つまりブレインストーミングにかけることは不可避なのだ。

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