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言葉の構造と情報の構造

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 新聞記事は,発信者による偏り,報告者の偏り,受信者の偏りと,情報が三重の偏りがあるが,そこに少し触れておきたい。これは,いわば,今日の情報氾濫にどう向き合うかの根本的なわれわれのスタンスに関わってくるかと思う。

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日本語の構造から考える

 周知のとおり,時枝誠記氏は,日本語の表現構造を,「風呂敷型統一形式」と名づけそれを次のように図解された

    

この日本語の表現形式を,氏は,話し手が対象の客観(客体)的な表現を主観(主体)的な表現が包む,「入子型構造」と呼んだ。たとえば,「桜の花が咲いた」という構文を図解するなら,

 

 ここでの「た」(あるいは,否定の「桜の花が咲かない」の「ない」)が,「表現される事柄に対する話手の立場の表現」,つまり話者の主体的立場を表現することである“辞”であり,「桜の花が咲い」の部分が,「表現される事物,事柄の客体的概念的表現」である“詞”なのである。このとき,「桜の花が咲いている」状態が,あくまで,「た」と表現した話し手の主観でしかないことを,この文章(あるいは会話の言葉)が示していることになる。

しかし,では,次のような場合は,どうなるのか?

 

 これを,時枝誠記氏は,「認識としては存在するが表現において省略されている」灰色部分を,「零記号」と呼んだ。“辞”で,“詞”は,あくまで話者が向き合ったもの(話者の私的額縁でとらえたもの)でしかないことを示しているが,零記号化で,“詞”だけが,額縁抜きで剥き出されることになる。

 つまり,この「入子型」表現構造によって,話し手と話し手の語っていることとの関係が明らかにされることになる。

 @“辞”によって,話し手の主体的表現が明示されることになる。語られていることと話し手の関係,それへの思い,どんな感情,どんな賛否の気持ちなのか等々。

 A“辞”によって,語っている場所が示される。目の前にしてなのか,心象風景なのか,語っているのがどこなのかが示される。それによって, “どこで”だけでなく,実は“いつ”語っているかも示される。話し手の語っている“とき”と話し手によって語られていることがいつなのか,という“とき”も示される。

 B“辞”のときにある話し手は,詞を語るとき,詞の“とき”“ところ”に移動して,それを“いま”のように語る。話し手にとって,語っている“いま”からみた過去のことも,語っている瞬間には,そのときを“いま”として語り,その後,“辞”に立ち戻ることで,語られることとの時制が明らかになる。

 少し長いが,次の指摘が,われわれの表現の現実をよく示していよう。

 「われわれは,生活の必要から,直接与えられている対象を問題にするだけでなく,直接与えられていない視野のかなたの世界をとりあげたり,過去の世界や未来の世界について考えたりしています。直接与えられている対象に対するわれわれの位置や置かれている立場と同じような状態が,やはりそれらの想像の世界にあっても存在するわけです。(中略)昨日私が『雨がふる』という予測を立てたのに,今朝はふらなかったとすれば,現在の私は,

 雨がふら−なくあっ

       予測の否定 過去

 というかたちで,予想が否定されたという過去の事実を回想します。言語に表現すれば,簡単な,いくつかの語のつながりのうしろに,実は……三重の世界(昨日予想した雨のふっている“とき”,今朝それを否定する天候を確認した“とき”,それを語っている“とき”=引用者)と,その世界の中へ観念的に行ったり帰ったりする分裂した自分の主体的な動きとがかくれています」(三浦つとむ『日本語とはどういう言語か』)

 話し手にとって,語っている“とき”からみた過去の“とき”も,それを語っている瞬間には,その“とき”を,あたかも目の前にしているかのように語り,やがて語っている“とき”へと戻ってくる。入子になっているのは,語られている事態であると同時に語っている“とき”の中に何重にも入子になっている“とき”でもある。

 たとえば,次の場合,

 「桜の花が咲いてい」る状態が,過去のことであり(いまは咲いていない)ことを示している。それが「咲いてい」(る)のは「た」(過去)であったことが示されている。大事なことは,“辞”においてしか,話し手が語っている“とき”と語られていることの“とき”との時間的(場所的)な隔たりは示されない,ということなのだ。

つまり,“辞”においてはじめて,言葉に向きが生ずる。少し敷衍すると,情報にはじめて“向き”が見えるということだ。そこには,語られている情報の“向き”と語っている話し手の“向き”の,二つの意味がある。ところが,それが,先に述べたように,

 と,もし零記号化されていたらどうなるか

 このとき,情報は“向き”を失っている。正確には,隠されている。“辞”が隠れることによって,“辞”の覆いがなくなり,入子の部分が剥き出しになった格好になる。その結果,いつ語られているかか曖昧化されている。そのために,

  1. 語られていた“とき”からの時間的隔たりが曖昧となる。つまりいつのことなのかがはっきりしなくなる。

  2. そのことによって,表現を囲んでいた主観的な額縁(パースペクティブ)が消え,あたかも客観的(事実)の表現であるかのように変わってしまう。

 つまり,語られたことと話し手との関係が消え,誰がそう語ったのか,いつ語ったのかは隠れ,あたかも「桜の花が咲く」事実を客観的に表現しているようにも,あるいは「桜の花(というのは)咲く(ものだ)」といった概念的意味を表現しているようにも,表現,つまり情報が変わってしまったのである。

 このとき,今日流通する情報の多くに向き合うときの,われわれの問題点と出会っていることになる。つまり,情報と向き合うとき,何に留意すべきかが,ここに示されているのである。

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