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コーチングの構造と流れ


  • コーチングの構造

    コーチングは,コーチとクライアントとのコミュニケーションによって成り立つが,それは単なる雑談でも,四方山話でもなく,コーチングは,クライアントの目標を達成するのをサポートするために,意図的,目的的に設定されたコミュニケーションである。それを効果的にするには,それなりにも意識的なコミュニケーションの流れが必要となる。

    コーチングの進め方には,大きく二つの考え方があるが,いずれも,構造化すると,上図のように整理できる。つまり,ゴールを設定し,現状とのギャップを明確にすると,どのルートを取るか,選択肢を検討し,自分のもつリソースを頼りに,それを達成する具体的行動プランを立てて,実行していくことになる。

  • コーチング・フロー
  • GROWモデル
    • @GOALS  目標の明確化
    • AREALITY   現状の把握
    • BRESOURCE   資源の発見
    • COPTIONS  選択肢の創造
    • DWILL 意思の確認・計画の策定
  • RESOLVEモデル
    • @Resourceful state リソースに満ちた状態 自分の最適な状態(自身に満ちあふれた,明確で,柔軟性があり,思いやりに満ちた,愛情あふれた状態)に入り込む
    • AEstablish Rapport ラポールを築く 両者の間に信頼感,安心感を築く
    • BSpecify outcome 目標を明確にする 具体的で達成可能な目標を設定し,問題を望ましい状態へ至る機会とリフレーミングする
    • COpen up the client's model クライアントの世界モデルを拡大する クライアントの信念,価値観などの内的地図を明らかにし,現状(問題をつくっているものは何か,それを解決するために必要なものは何か)をつまびらかにする
    • DLead to change 望ましい状態に導く:変化を促すモデル 「地図は現地ではない」。クライアントのパターンを通して,クライアントの思考,感情,行動などから変化を引き起こす
    • EVerify change 変化を確認する 変化を前提にした質問をすることで,確かに変わったと確認できるようにする
    • FEcological check エコロジーをチェックする 新たな変化が周囲にどんな影響を及ぼすかをチェックし,変化を定着させる
  • 3つの指針
    • フルフィルメント
      • 生きている実感。自らの価値を尊重することで,それを手に入れることができる。
    • バランス
      • 人生のバランス。人生を様々な視点からみることで自分に最もエネルギーをもたらす選択肢を選び取るようサポートする。
    • プロセス
      • 人生というプロセスを乗り切るとき,自分自身を見つめ,向き合っている分,それをのりきる力を自分の中から見つけ出すことができる。

    ここでは,コーチングフローに基づいて,コーチングプロセスを説明しておくことにする。


  • コーチング・フローによるコーチングプロセス

    • コーチングフロー

コーチングの流れ,つまり,コーチが意識的に描くコーチング・カンバセーションプロセスを,コーチング・フローと呼ぶ。コーチング・フローは,コーチングにおいてナビゲーターの役割を果たす。 コーチング・フローがあることで,コーチはクライアントと会話を交わしながら,「今どこにいて,これからどこに向かえばいいのか」を知ることができる。また,コーチにとってコーチング・フローはクライアントが目標に向けて行動を起こしていくための戦略的なコミュニケーションをつくり出すベースとなる。

  • コーチング・フローの6つのステップ

コーチング・フローは基本的に次の6つのステップから成る。
【 ステップ1 】セットアップ
【 ステップ2 】ゴールの設定
【 ステップ3 】現状の明確化
【 ステップ4 】ゴールと現状の間にあるギャップの分析
【 ステップ5 】行動の決定
【 ステップ6 】フォローと振り返り

各ステップでの質問リストは,ここをご覧ください。


【 ステップ1 】セットアップ

セットアップの段階を,コーチングでは「プレ・コーチング」と呼ぶ。この部分は,コーチングの中でも重要で,セットアップがうまくいかないと,その後のコーチングが機能しなくなってしまう。

セットアップの中には次のような要素が含まれる。

@話しやすい環境をつくる 人と人が向かい合うと,そこには必ず防衛が働く。クライアントとの初めて言葉を交わすときには,表情,姿勢,声のトーン,話し方などに気を配る必要がある。また,相手が話をしやすいよう,適切なタイミングで相槌を打つことなども大切になる。

Aクライアントとの間に信頼関係を築く コーチとクライアントの間に信頼関係が築かれていないとクライアントがコーチングから得る成果は損なわれる。時間を守るといった基本的な約束ごとを守ることは信頼関係を築くための第一歩。

Bクライアントが,コーチングの構造や機能,コーチングから成果を得る方法などを承知している クライアントがコーチングに対しての理解が浅いままコーチングがスタートすると,クライアントが依存的になったり,ティーチングやコンサルティングを求めたりするようになる。セットアップの段階で,クライアントにコーチの役割やコーチングの構造などについて,伝えておく必要がある。

Cコーチとクライアントとの間で,コーチングの頻度,方法,料金などについて確認しあう  基本的な条件について,お互いに理解し共有していないとコーチとクライアントとの信頼関係に影響する。条件を明らかにし,それを最初に確認することが必要である。

Dアセスメントしてもらう  コーチは,セッションを始めるにあたってクライアントについて,タイプやももの考え方,とらえ方など,なるべく多くの情報を得ておく必要がある。これは,クライアントとの信頼関係を築くためにも役立ち,またセッションをより効果的にするためにも役立つ。またクライアントにとっても,アセスメントをやることで自分自身に対する理解が深まり,コーチングからより成果を得ていくことが可能になる。

セットアップでの質問については,ここをご覧ください。

【 ステップ2 】ゴールの設定

ゴールセッティングについて,こんな調査結果がある。1953年の米国エール大学の卒業生に対して,次のような質問をした。

「あなたはゴールを設定していますか?」
「そのゴールを書き溜めていますか?」
「そのゴールを達成するために計画がありますか?」

この3つの質問すべてにイエスと答えたのは,全学生のたったの3%にすぎません。そして,20年後に追跡調査をしたところこの3%の学生は,残りの学生に比べると,結婚,職業,健康状態において,満足度が高く,生活全般で成功を収めていた。その上,驚くべきことに,1953年の卒業生の総資産額の9割以上は,この3%の手に集中していたという。

コーチングスキルを持つ経営者,上司は,部下に徹底的にゴールセッティングを促す。コーチングの聞くスキル,承認のスキル等を使うことで,より効果的に部下のゴールを引き出すことができる。

ゴールセッティングのための質問は,ここをご覧ください。代表的には,次のようなものがあります。

「1年後,何を達成していたいですか」
「その時,手に入れているものはなんですか」
「そのゴールの先は何ですか」

「ゴールはコーチングの基盤をなすものです。コーチングは,クライアントに自分が望むことを明瞭に表現し,良い夢を見て,これらの夢に脚をつけて,夢が走り出すのを助けることなのです。」

ジョセフ・オコナー&アンドレア・ラゲス『NLPでコーチング』)

なお,ゴールセッティング,「目標 の明確化の構造については,「目標の明確化に必要なこと」をご覧ください。

【 ステップ3 】現状の明確化

現状に対する正確な認識があってはじめて,その間にあるギャップが明確になる。ゴールに対して,現状では足りないもの,ゴールを達成するために必要なスキルやリソース,ゴールを達成するまでの プロセスで生じる障害,その障害を乗り越える方法,これらが明確になるほど,相手の中におのずと行動がみえてくる。

現状明確化の質問には,次のようなものがある。

「実際にやってみてどうでしたか」
「理想を100点とすれば,今は何点をつけられますか」
「いっしょに仕事をしている人は,なんと言っていますか」」

【 ステップ4 】ゴールと現状の間にあるギャップの分析

コーチングの目的はクライアントに行動を起こさせること。ところが,頭で理解したことと,行動の間には深い溝がある。理解したからといって行動に移せるわけではない。では,どうすれば行動を起こせるのか? コーチング・フローでは,【ステップ3 】で「現状の把握」をしたあと,「ゴールと現状の間にあるギャップの分析」の【 ステップ4 】に移行する。

そこでのコーチの役割は,クライアントが自分に合った行動を自分で見つけることができるようにすること。そのためには,自分がどこに行こうとしているのか,実際には何をしているのか,何が障害となっているのかについて,はっきりさせることが必要となる。ゴールと現状のギャップに焦点を当てる質問は,ここをご覧ください。代表的なものには次のようなものがある。

「やったほうがいいのに,やれていないことは何ですか?」
「やめたほうがいいのに,やり続けていることは何ですか?」
「ゴールに近づくために必要なリソースは何ですか?」
「曖昧にしていることは何ですか?」

()ゴールのヴィジョン,
(
)現状の把握,
(
)ギャップの認識

以上3つのどれか1つでも曖昧にしたままで。短絡的に行動だけを変えようとしても,決してうまくいかない。

コーチング・フローの中で,この段階までに,「いかにゴールのヴィジョンを鮮明に描くことができているのか」ということと,「どのくらい現状をリアルに把握できているのか」という二つのことが,その間のギャップの認識と実際の行動に大きく影響する。

【 ステップ5 】行動の決定

ゴールと現状とのギャップが明確になると,そのギャップを埋めるために必要な行動が明らかになりやすい。現状を明らかにするプロセスが大切なのは,クライアント自身が,自分がとるべき行動をその中で認識していくことができるからである。

クライアントがゴール達成に向けて行動を起こすとき,行動のアイディアを生み出すだけではなく,そのアイディアを行動に移すことのできる,もう1つのアイディアが必要になる。そこで,この【ステップ5 】では,コーチはクライアントのアイディアを引き出し,実際にクライアントが行動を起こせるようサポートする。どのような行動をとるのか,それを決定していくための質問は,ここをご覧ください。代表的なものには次のようなものがある。

「どのような行動計画を持っていますか?」
「いつ,どこで,誰と,どのようにやりますか?」
「今すぐできることは何ですか?」
「それを知るために何ができるでしょうか?」

ゴールとのギャップを埋めるために必要な行動は何か,まずはそれを知ることが,実際に行動を起こしていくために欠かせない大切な要素なのです。

【 ステップ6 】フォローする

ゴールを立てたものの,そこに向かうプロセスがうまくいかなかったり,ゴールの達成が難しくなることはある。クライアントが,約束どおりに行動を起こすかどうかは,クライアント自身だけではなくコーチにとっても重要になる。

クライアントが行動を起こすには,コーチのフォローが不可欠。コーチングで最も大切なのは,クライアントを実際に行動させること。確実に行動を起こすまでフォローすることが必要となる。

フォローする上において,最も効果的なのは,上記1〜5までのコーチング・フローを繰り返し,

()行動を起こしてみてどうだったか
(
)現状はどうか
(
)現状とのギャップは何か
(
)今どんな行動を取っているか

を聞く。そして,特に課題となっている領域に焦点をあて,そこを明確にすることをメインにコーチングをしていく。行動プランが明確になった後のコーチングセッションは,フォローの繰り返しと言える。

フォローアップを確実にするためには,そのための質問や提案を用意すること。フォローアップのための質問は,ここをご覧ください。代表的なものとしては,こんなものがある。

「今話したことについて,来週また時間をとって話しませんか」
「ことについて成果を確認できるまで,1ヵ月はサポートしたいと思います」
「困ったことがあったら,いつでも相談してください」
「行動を起こしたら,どうだったか教えてください」
「行動を確実にするために,私にできるサポートはありますか」

また,行動にリスクが伴うことや,非常にチャレンジを要する内容のものである場合,行動を行う事前に勇気づけをし,事後にやってみてどうだったかを振り返る「サンドイッチする」というコーチングスキルを活用するのも,効果的。

フォローアップは,行動を起こさせることを確実にするだけでなく,その行動内容を評価する意味がある。そのためにも,フォローアップはコーチングフローの中でも,大切な領域であるのです。

 


  • 関係を築く
    • アイスブレイク

      アイスブレイクのポイントは,まずは相手に合わせること。「私たちは同じ」だというメッセージは,相手の緊張をほぐすのにとても有効。また,大事な会議やミーティングの前,出会い頭やすれ違いざまに,ひとこと声をかけるだけでも,相手に与える影響は違う。おそらく,会議中に余計な思慮に思考を費やすことは軽減されるはず。文字通りに解釈すれば,アイスブレイクとは,「氷を砕く」こと。翻って,「その場をうちとけさせる」という意味がある。このスキルの目的は,相手の防衛を解くことにある。誰かと向き合うとき,人は一瞬にして緊張を起こす。これは,人間がもっている心の自然な働きです。この場所は,自分にとって安全か? 危険はないか? この人は何者か? 自分に危害を与えないひとか? など,緊張しながら,より防衛意識を強めていく。

    • ラポール(信頼)の技術
      • ペーシング

        もしコミュニケーションをとろうとしている部下が,上司と同じ趣味をもっていると知ったらどうだろうか。安心感が得られ,もう少し話してみようという気になるかもしれない。また,上司が自分と同じようなスピードで話す人だとしたら? 自分の話し方のペースに気をもむこともなくなり,上司の話を聞くことにより集中できる。これがペーシングである。つまり,相手に合わせてコミュニケーションをとるスキルである。お互いの防衛意識を取り払い,受け入れてもらおうとするための意思表示である。相手に合わせることで,親密感を感じさせ,緊張を和らげるのです。

        <ペーシングのポイント>
        *
        視線を軽く合わせる
        *
        同じ速さ,同じトーンで話す
        *
        自分のこと,感じたことなどを話す
        *
        共通の話題について話す
        *
        相手の話を途中でさえぎらない
        *
        相手の言葉を鸚鵡返しに繰り返す
        *
        同じものを注文する。同じものを飲む,食べる
        *
        自分のこと,感じたことなどを話す
        * 声の大きさ,リズムを合わせる
         

      • ミラーリング

        相手と身体の動きをあわせる。鏡に映したように,相手とシンクロした動きをする。相手のしぐさや身振りをよく見ることで,相手と同期することになる。


参考資料:コーチングの文献は,ここにくわしい。中でも,以下のものを参考にさせていただいた。
榎本英剛『部下を伸ばすコーチング』(PHP研究所 1999)
本間正人『入門ビジネスコーチング』(PHP研究所 2001)
伊東明『コーチングマニュアル』(ダイヤモンド社 2002)
伊藤守『コーチングマネジメント』(ディスカヴァー21 2002)
ウィットワース他『コーチング・バイブル』(CTIジャパン訳 東洋経済新報社 2002)
伊藤守『絵で学ぶコーチング』(日本経団連出版 2003)
タレン・ミーダナー『人生改造宣言』(近藤三峰訳 税務経理協会 2004)
S・ソープ&J・クリフォード『コーチングマニュアル』(桜田直美訳 ディスカヴァー21 2005)
平本相武『コーチングマジック』(PHP研究所 2005)
本間正人・松瀬理保『コーチング入門』(日経文庫 2006)
本間正人・松瀬理保『セルフ・コーチング入門』(日経文庫 2006)
ジョセフ・オコナー&アンドレア・ラゲス『NLPでコーチング』(チーム医療 2006)
ローラ・ウィットワース&キャレン・キムジーハウス&ヘンリー・キムジーハウス&フィル・ザンダール『コーチング・バイブル第2版』(東洋経済新報社 2008)
L.マイケル・ホール&ミシェル・デゥヴァル『メタ・コーチング』(VOICE 2010)


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