@まずは相手の言っている事柄を受け止める この場合,受け入れるということは,それを認めるということではない。うなずくというのは,相手に賛成したのではなく,「相手の言っていることが届いている」という合図,というのと同じである。部下の言っていることを,その賛否,当否は別にして,「そう言っている」「そういう状況に合った」「そういう理由があった」と,ひとまず受け入れることだ。なぜなら, ・批判したり,否定すれば,そこで,後を言うことをためらうだろう。誰だって,自分がかわいい ・咎められることを喜ぶ人間はいない。批判されるとわかれば,自己弁護のために,事実を都合よく歪曲するか,そうしないまでも合理化したくなる。事実をそれ以上語るのをやめるかもしれない。 ・咎めるのは,自分の価値観や意志を押しつける部分がある からだ。まずは「〜について」話すための会話の土俵をきちんと作る必要がある。それには,「うん」とか「なるほど」とかといった言葉で返すのが,相手に受けとめていることを伝える手段となる。 A相手を支持すること 仕事ができるとは,「自分が努力すれば,周囲や自分に好ましい変化を生じさせられるという自信と見通し」をもっていることである。この能力と自信を「有能感」「有効感」という。この“有能感”“有効感”の手ごたえは,そこで自分が仕事をしている意味を周囲に認めてもらえている,自分は必要とされている,役に立っているという“貢献感”“存在感”と表裏一体である。それを,認めること,あるいはきちんと言葉として,「よくやっている」「評価している」「努力は認めている」「頑張っている」「大変だったな」「苦労したな」等々と,表現することが必要である。それは,部下をメンバーの一員として,きちんと承認していることである。とすれば,頭ごなしの叱責や批判はありえない。 B自分が受け止めていることを相手に返す 聴いているというのは,黙ってうなずいたり,相槌を打ったりすることだけではなく,相手の言っていることを,きちんと受けとめていることを,相手に返すことが必要だ。それは,@きちんと聴いてもらえているということの反映であり,A中身の確認であり,B言いたいこととの齟齬があれば,それが更に相手に話を進めさせる素材となる,効果がある。 C自分の受け止めたことのフィードバック そのとき,自分が受け止めたことを,自分の感想や意見として,伝える。「〜というように受けとめたが,どうか」「それはこういう意味と感じるが」等々とフィードバックする。フィードバックには, ・相手が自分のことを相手の目を通してみること ・相手が自分のことをどう受け止めたかを聞くこと の2つの効果がある。それを通して,@言っていることの確認,A曖昧な点の明確化,B両者の受け止めた事実と意味の共有化,C今後の方向性の確認,等々の作業となる。この作業は「訊く」(質問)につながる。
@何のために質問するのか 質問で必要なのは,相手をしかるのでも,叱責するのでもいいが,それがメンバーとしての戦力アップや本人の成長につながらなければ意味がない。そのためには,部下本人が,自分の行為や行動,能力レベル,結果を避けたり,逃げたり,合理化したりせずに,向き合わせなくてはならない。それは,本人に, ・自分自身の行動と ・自分の置かれたシチュエーションと ・自分の立場と 等々と向き合い,「どうすればよかったのか」「何がまずかったのか」「どんな選択肢が考えられたのか」「もっと他にどんなことができたか」「何が欠けていたのか」等々と,自分自身と対話させるものでなくてはならない。そうしなくては,自分自身の中から,自分としての動機も意欲も生まれてくることはない。内からの「このままではだめだ」「何とかしなくては」「どうすればいいのか」という自律的な自己決定の意欲を持たせるために部下とコミュニケーションするのである。 A開かれた質問 しゃべりたくない相手に,「はい」「いいえ」で答えられる質問をしても意味がない。それでは相手に語らせることにならないからだ。相手に言葉で表現するようにさせることで,自分自身の感情や思い,その時の状況も含めて,ある程度客観的に眺めざるをえない。相手も自分の状態や感情との間が取れる。 ・具体例で質問する 「具体例を挙げてみて」「たとえば,それはどういうこと?」 ・質問を細かく細分化する 5W1H(誰が,いつ,どこで,何を)で噛み砕く ・仮定を立てる 「それがダメだったとしたらどうしたらいいと思う?」「それが達成できたとしたら?」 ・意見を聞く 「君はどうしたらいいと思う?」「君はどう思う?」 ・問題を確かめる 「何に気になる?」「何かまずいことは?」「どこに矛盾があると思う?」「未解決は?」 ・曖昧さを確かめる 「それはどういうこと?」「もう少しはっきりさせるとすると?」 ・意味を確かめる 「どんな意味があると思うか?」「どれくらいの重要度だと思う?」「何が大事?」 ・根拠を確かめる 「どうしてそう思う?」「その根拠は?」 ・事実を確かめる いつ,どこで,だれが,何を,どうしたかをピンポイント化 ・思いを確かめる 「どうしたかったのか」「どうなればいいのか」「どんな感じ?」 ・本音を確かめる 「君の本心を聞かせてくれないか」「ど うしたいと思う?」 ・影響を確かめる 「どうなると思う?」「このままでいくと何が起きると思う?」 ・ニーズを確かめる 「どうしたい?」「何がしたい?」「どういう状態がいい?」 ・課題を確かめる 「どうすべきだと思う」「何をしたらいいと思う?」
(1)は,意外と緊張する。こういう場合には,間が必要なので,(2)以降を使い分けたい。 (2)は対面法。きちんというべきことをいうことが必要な場合。ただ,対決をする形になり,緊張を強いるので,それをさけるには,(3)のように少しずらした,斜めの対面だと緊張を緩和する効果がある。 (4)は,直角法。視線を交わせなくて済むので,話しやすい位置関係。(5)は,平行法。車の運転席と助手席に隣り合わせた感じで,一番自然な位置関係。書類等々を一緒に見ながらすすめるには適していて,最も親しみを示す位置。
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