@言葉のやり取りの底にあるもの A関わり能力の根拠
◇ふれあう能力に必要なのはアサーティブな自己表現である。それは,「自分も相手も大切にした自己表現」である。自分の意見,考え,気持ちを率直に,しかしその状況に合わせて適切に表現できることを,アサー
ティブと言う。
「自分も相手も大切にした自己表現」とは,自分が自己を率直に表現する権利があると同時に,相手にも,同じ権利があることを認めること。したがって,「相手の権利を侵害せず,率直に,対等に,自分の気持ちや要求を表現することである。 @攻撃的(アグレッシブ)な自己表現 自分の意見,主張は大切にするが,相手のことはあまり眼中にない。結果として相手に自分を押し付けることになる。たとえば,並んでいるときに割り込まれると,「おまえ,ここはみんな並んでいるんだ,後ろに並べ」と大声で怒鳴る人。「私はOKあなたはOKでない」という姿勢。 A非主張的(パッシブ)な自己主張 相手に配慮やおもんぱかりはするが,結果として自分の思いや主張を表現しなかったり,し損ない,自分を大切にしないことになる。たとえば,列に割り込まれると,一人でぶつぶつ言うが,我慢してしまう人。結局ストレスがたまり,被害者意識を募らせることになる。「私はOKでないが,あなたはOK」という姿勢。 この場合,口に出せず,引っ込めたため,あてつけがましい行動や態度で,口に出す代替行為をとることも含まれる。 Bアサーティブな自己表現 自分も相手も大切にする自己表現。しかし自分の意見がとおるというのではないが,安易に妥協せず,お互いの意見を出し合い,譲ったり譲られたりしながら,相互に納得のいく結論を出そうとする。そのプロセスを大事にするから,葛藤が起こることを覚悟し,葛藤を引きうけていこうとする気持ちが強く出る。したがって,強く主張するだけでなく,相手の表現にも耳を傾ける。たとえば,列に割り込まれたときは,「ここは皆さん並んでいますから,後ろに並んでいただけますか」と冷静に,きちんと伝える。「私はOKあなたもOK」という姿勢。大切なことは,共有できる事実で語ることだ。 【管理者のアサーティブ度チェック】
アサーティブであるとは,自己主張的であればいいということではない。少なくとも,自分の要求や主張が,相手に受け入れやすいものでなくてはならない。そのためには,事実に基づいて,相手の受け入れやすい,相手がそれに乗っても損をしないと思わせるだけの土俵が必要になる。そのひとつのスキルが,次のDESC法である。 D=Describe 自分のぶつかっている状況や相手の行動について,相手と共有できる客観的事実を描写する。自分の気持ちや感情を交えずに表現する。
◇アサーティブであることのスキル @自分を知ること 自分の気持ち,考えに正直であることが前提となる A共感的理解 相手が何を感じ,何を考えているか,相手の立場で理解しようとすること B受容 相手を受け入れられるには,自分自身を受け入れられなくてはならない C対等で相互尊重 権威や立場で相手を操作するのではなく,相手を知りたいという思い D自己信頼・自己尊重 自分を信頼することで,自分の内部の声に耳を傾けることができる E自責 相手を尊重する,相手に耳を傾けるのは,自分の責任でするということ。そうするのもしないのも自己責任 F多様性を受容 自分と異なる多様性こそがチーム力に繋がる G感情を言葉にする 怒ってしまえば,感情そのものをぶつけたことになる。「私は怒っている」と表現することで,相手との理解の土俵ができる H非言語コミュニケーション 言葉以外のしぐさ,表情もまたコミュニケーションになっている。コミュニケーションのうち,言語は7%しか占めていない。残り93%のうち,55%が表情,38%が口調。
◇言葉の力は,2つある。 ◇管理者の信頼のバックボーンは,言葉である。といって聖人君主である必要はない。怒りも腹立ちもなくすことはできない。それならなまじ「バカヤロー」と言いたい気持ちを隠すよりも,「おれは,バカヤローといいたい気分だ」と,アサーティブに言葉にすることだ。それが,感情を直接ぶつけるのとは違う,言葉によるやり取りを可能にするはずだ。感情を感情としてではなく,言葉として表現しようとしたことで, @自分の感情との間合いが取れる, A相手の感情とも距離を取れる。感情のやり取りを感情のぶつかりあいでなく,感情を言葉にするコミュニケーションの土俵ができる。
・Lは,Look at の意味。自分の気持ち,欲求を振り返ること。たとえば,「困っている」「緊張している」「腹がたっている」「反対である」といった,相手に伝えたい自分の気持ち,感情を明確にしておくことである。 ・Aは,Arrangeの意味。相手に切り出すTPOを決める。 ・Dは,Define problem situation つまり,自分のかかえている問題状況を明確にすること。そのときの鍵は事実に即して,ということ。 ・Dは,Describe your feelingsつまり,「私は……と思う」(これを“Iメッセージ”と呼ぶ)と,自分の気持ちを表現し,伝える。「おまえは」と怒りをぶつけるのではなく,「私は,君のその態度に腹がたっている」と表現することで,コミュニケーションの土俵に乗せることになる。 ・Eは,Expressつまり,以上の自分の気持ちを表現していく。 ・Rは,Reinforceつまり,自分の提案に相手が乗りやすいように,スパイスを加える。たとえば,「そうしたほうがあなたにかくかくのメリットがあるはずです」あるいは「そうしないとこういうマイナスがあります」といったようなメッセージを加える。
@共有できる事実をさがす いきなり自分の要求や感情を伝えるのではなく,相手にもわかる事実を伝えようとすることで,自分の感情を押さえることにもつながる。たとえば,列に割り込まれたとき,「ここは並んでいるんですよ」「列の後ろはあそこです」という。 A感情にとらわれない状況把握 非難したくなっても,その気持ちを脇において,状況を観察する。そうすることで,相手の行為の理由や状況が見えてくる。観察するということは,状況や相手について見える事実を客観的に把握することであり,それを感情的でなく,言葉にできれば,会話の土俵ができる。「何でそんな態度をとるんだ」と怒鳴っても,問題は解決しない。売り言葉に買い言葉になるのなら,「そういう態度をとられると,僕としては君を助けてやる気持ちがなえてしまう」と言ったほうが,次へつなげられる。
@具体的な提案をする 観察された事実と自分の感情を区別できていれば,どうしてほしいかをきちんと伝えても,そのメッセージは伝わるはずである。具体的であるとは,5W1Hである。いつ(からいつまでに),何を,どうしてほしいのか。 A選択肢を提案する
やるかやらないかというのは,提案ではない。相手の意志で選択できる可能性を,相手と一緒に考えても言いが,複数(できれば3以上)考えること
参考文献:平木典子『自己カウンセリングとアサーションのすすめ』(金子書房)
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