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交渉の前提をつくる〜共通土俵にのるためにの5つのポイント
◇交渉は,目的ではない。場合によっては,両者の目的は違うかもしれない。しかし,その中で,両者の目標を一致できるところ見つけて,そこを詰めていくことになる。そこまでいってはじめて,ロジカル
なコミュニケーションが両者の共通項を発見するのに有効である。しかし,その前に,両者が,その目標を共有化しない限り,ロジカル・シンキングは通用しない。そこでまずは,相手との共通の土俵をつくらなくてはならない。そこで必要なのは,相手が何を求めているか,相手は何を大切にしているかをつかむことだ。ポイントは,5つである。
@相手の大切にしていることをつかむ〜価値を理解する
相手が何に価値をおいているのか,相手の世界観は何か,何を大切だと考えているのかをきちんとつかみ,理解していることを相手に伝えなくてはならない。自分にとって,何が大事かを考えていないと,相手のそれが見えないかもしれないが,たとえば,「何をしているとき自分が生き生きしているのか」「何をしているとき,わくわくするのか」といったことの中に,その人の価値が見えることが多い。価値の理解を妨げるのは,
・相手が何を考えているのかを
理解しようとしない。自分の視点から説得庄屋とはするが,相手の視点から,相手ならどう受け止めるかを考えてみようともしない。
・相手と意見が一致しないと,相手の発言にある価値をも否定してしまう。交渉は相手を打ち負かすことではない。相手の価値を否定してしまえば,相手は傷つけられ,ひたすら,感情的になるばかりである。カーネギー曰く,「議論に負けても意見を変えない」。それでは交渉は失敗である。
・相手の中に見つけた相手の価値を,相手に伝えない。それでは,相手は自分のメッセージを受け止めてもらっていないと感じるだけだ。心で感じても,口に出さなければ,その思いは決して相手には伝わらない。
●価値の理解の3要素
・相手の考え方を理解する
・相手の考え,思い,行動の中に価値を見出す
・自分の理解を,言葉や行動を通じて相手に伝える
A相手とつながりを築き,仲間にしよう〜何が絆になるか
そのことを共に話し合う限り,その点では,相手も自分も,この場で何かを決する役割をになっているという,立場は同じである。その立場のまま対立するか,逆に,その共通の立場であるからこそ,その土俵から見れば,すべては共通の視界になる,ということもできる。共に,ここにいて交渉結果を出すという,しかも,意見は不一致になる可能性もある。そのとき,少なくともお互いに満足感を残しながら,できるだけ時間や資源を無駄にしないで,解決したいという,共通の目的をもっている。それなら,ふたりは,共同作業をしていることに変わりはない。そこで必要なのは,つながりである。仲間意識である。それを感情的距離が近づく,という。
個人的つながりをつけるのは,
・直接会うこと
・自分が大切と思うことを話してみること
・相手および自分に自由を与えること(選択は自分自身であり,相手自身)
●つながりを見つける切り口
・私的で非公式な話し合いをつづけてみる
・周囲の持つ対立イメージを変えてみる
・特定の問題に対応するための小さなミーティングを設定してみる
Bお互いの自律性を尊重する〜相手を縛っていないか
要求は相手を拘束する。それは相手にネガティブな感情を引き起こす。提案は,その選択肢が多く,それを決める自律性を相手に与えている限り,相手の自由を縛らないはずであり,決定したという感覚を相手に残せる。相談なら,相手と一緒に考えている状況をつくり出せる。
●自律性を高める方法
・自分の自律性をまず拡大しよう。自分にできることを自分で制約していないだろうか。何ができるのか,何をすれば,少なくとも現状を動かせるのか,を考えることはできる
・相手の自律性を尊重しよう。意思決定する前に,意思決定のための案を作ることはできる。それは,自分の視点からだけではない,選択肢をたくさん考えることになるはずである。出なければ選択肢にはならない。それは,提案される。相手には,三つの選択肢をもつことになる。Yes,No,逆提案。
・相手と一緒にブレーンストーミングをしてみることである。両者は共通のテーマのもとに,一緒にさまざまな選択肢を検討し,よりよいものにしていくことができる。その場合,@誰が参加するかを決め,A関心利益を双方で模索する,B合意するかどうかではなく,考えられる選択肢を検討する,C選択肢の中から,それぞれの利益を待たすアイデアを加味していく,Dアイデアの元に何を,誰がするかを検討する。
C相手のステータスにふさわしい遇し方をする〜相手のステータスを尊重する
ステータスで齟齬をきたすと,人は軽視されたと感じ,非協力になったり,感情的に反発する。ステータスで争う変わりに,どうすれば相手を尊重したことになるか,がポイントである。それには,まずは,
・礼儀正しいこと。ぞんざいに扱われて喜ぶ人はいない。
・公平であること。誰に対しても,同じ扱いをすること
・正直であること。ごまかしや偽りなく,真摯に向き合うこと。
・そのとき,その場にふさわしい対応ができること。かたくなであったり,硬直的ではなく,相手と合わせることである。
●相手にふさわしい遇し方のポイント
・社会的ステータスに気づく。人は,接しながら,自分の社会的ステータスとどういう扱いを受けたいかの期待感を示すことがある。そうしたことに注意を払う必要がある。相手が欲している遇し方を尊重したい。
・専門的ステータスにも敬意を払う。専門家,特殊技術,専門知識,経験,キャリア,体力等々,相手のプライド,相手の自尊心のバックボーンとなっているものに目を向ける。
・自分のステータスを確認する。相手のステータスを認知することで,自分のステータスも確認できる。それをどう相手に伝えるかの工夫がいる。
Dお互いに満足できる役割を選択する〜不本意な役割を強いていないか
われわれは誰も,自分の望む,満足できる役割を演じたい。交渉の中で,不本意な役割を甘受させられれば,屈辱や怒りを感じさせ,交渉が不首尾に終わることになる。満足できる役割には,重要な意味がある。
・満足できる役割には目的がある。何のためにしているかが自分に意味づけられれば,その役割を演ずることのの筋道ができる。
・満足できる役割には自分にとっての意義がある。その意義は人によって異なる。意義が感じられれば,自分の持つリソースを投入するし,モチベーションもあがる。
・満足できる役割は,自分を表現できる。本当の自分を表現できる,それに値する役割を見つけることが,満足できる役割を見つけたことである。
●満足できる役割を見つける方法
・従来の役割の中に,自分に価値のある何か(自分の旗)ができないかを考え,それをすることで自分にとっての意味を変えることができる
・どんな役割でも,その活動を変えることで役割の意味を変えてしまうことはできる。たとえば,肩書きを超えることをすることを通して,肩書きが実質的に変わるように。
・いま担っている役割が自分にとってどんな意味を持っているかを再確認する。
・反射的に,あるいは相手との関係の中で,反応するような役割を担ってしまうことを避けよう。それは,一時的,その場しのぎ的な役割で,必ず不本意な感じが出てくる。
・お互いに,協力関係の中で,役割を担うことで,お互いに満足できる役割を再確認することがある。