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聞き方のタブー

  • 人が自分のことを人に伝えようとするには,心理的な安心感と雰囲気が必要です。もし聞き手が一方的にしゃべったり,相手の言うことに口を挟んだり,批判的な反応をしたりすれば,それが確保されていないことになります。相手の内的な視点に関心も敬意も払わないなら,話す気を失うのは当然です。そうした雰囲気と安心感を与えるには,以下のタブーを避けなくてはなりません。注意しなくてはならないことは,それを意識してやっている場合よりは,無意識にしていることが多いことだ。

  • 指図したり,先導したりする

 「そういう暗い話は聞きたくないな」「A課長のことではなく○○課長がどう言っていたかに聞きたいんだ」「そういう経緯についてはいいから,結論を聞かせてほしい」等々,相手が何について話すかをコントロールする。

  • 判断したり,評価する

 「君はそこで,あんなことを言うべきではなかったね」「それは人生最大の失敗だね」「そんなことをしているから,成績が上がらないんだ」等々,自分の立場や価値観から,相手を評価したり,判定したりする。

  • 非難する

 「これは全部君の責任だぞ」「何を言っているんだ,これは君が企画したことではないか」「君のおかげで部長に叱責されたじゃないか」等々,相手を名指しして責任を追及したり,責任転嫁する。

  • 攻撃する

 「君は一度でも僕の言うことに従ったことがないじゃないか」「お前はあほか!」「お前はどうしてそうぐずなんだ」等々,相手をけなしたり,攻撃を加えて,苦痛を与える。

  • 道徳的なことを言ったり,説教する

 「先輩には敬意を払うべきではないか」「言いたいことを言えばいいと言うものではない。立場をわきまえて発言すべきだ」「私語する暇があったら,一件でも多く電話をするべきだ」等々,相手に自分の持っている価値判断から「〜すべきである」「〜してはいけない」等々と物事を説こうとする。

  • 助言や教示をする

 「その仕事は私の経験ではこういうやり方をすべきだ」「彼には,もっと強圧的な言い方をしないと伝わらない」「もっと趣味をもつべきだ」「彼をこのプロジェクトからはずした方がいい」等々,相手のすべきことは自分が一番わかっていると言う態度で教えを垂れようとする。

  • 相手の感情を受け入れない

 「男は泣くべきではない」「そんな弱虫では生きていけないぞ」「何がそんなに楽しいのか理解出来ない」「君の悩みなんてちっぽけなもんだ」等々,相手の感情を貶めたり,理解しなかったりする。

  • 自分の話しにもっていく

 「それは大変だったね,僕もね,こんなことがあったんだ。聞いてくれる?」「僕も君と同じことに出会って,成功した例を話してあげよう」「僕は聞き上手だから,みんながその話を聞かしてくれたよ」等々,相手が自分の話をしているのに,それをさえぎって,自分の話にもっていく。

  • 尋問する

 「そういうやり方をしたのはなぜなのか?」「君は〜のことが好きなのか?彼女のどこがいいのか話せよ」「どうしてそういう甘い考えになれるのか,説明してもらおう」等々,相手が望んでいないのに,詮索したり,追及する質問をする。

  • 安易に元気づけたり,ジョークを言って慰めようとする

 「誰だってそんな時は落ち込むもんだよ,そうくよくよするな」「君なら大丈夫,がんばれ」「それは,〜だな。おかしいだろ?こんな調子でいこうよ」等々,相手のためというより,自分の気持ちや感情を押し付けている。

  • レッテルを貼ったり,診断する

 「君は神経質だな」「A型でしょ,A型の人はそういうときには,そんな反応をするものなのよ」「それは過剰反応だよ」等々,意味のない血液型や根拠のない診断で素人判断をする。

  • 過剰な解釈をする

 「君が熱くなりすぎるので,みんな辟易しているのだと思うよ」「君は一人突っ走りすぎると,浮きはしないかと恐れてるんだね」「子供のころ母親に邪険にされたんで,あんな年上が好きになったんだよ」等々,外から相手の行動を説明し,理屈づけるが,相手自身が考えていることとは隔たりがある。

  • 話を拡散させたり,関係ない話にする

 「そういえば,思い出したんだが……」「この話はまた別の機会と言うことで,ここでは次の件に移ろう」「それは場所を移して,後でゆっくりやろう」等々,話の本筋からずらしたり,話を先延ばししたりする。

  • 注目しているふりをする

 「それは面白いとおもったよ」「それはすごい」「それはたのしい」等々,心にない相槌や同意を,実際以上にオーバーにして,相手をしらけさせる。

  • 時間の圧力をかける

 「ちょっと時間がないので,話は短めに」「ちょっと忙しいのでね」「ずっと出かけっぱなしなので」等々,聞くための物理的時間が少ないことを伝えて,相手の話す条件を制約する。

  • 態度が聞く姿勢にない

 相手の話に身が入っていれば,表情や態度に出るはずだが,腕組みしたり,足を組み替えたり,貧乏ゆすりをされたりすると,言葉で反応があっても,本音は聴きたくないというメッセージを相手に送っているのと同じことになる。

  • 声が小さく反応が薄い

 聞いているということが,相手に伝わらなければ,聞いていることにはならない。声が小さかったり,相手が感情を高ぶらせたり,大きな声になっているのに,それに同期せず,冷ややかだったり,小声だったりすると,相手は次第に引いていく。声の大小はある面で相手の特徴だが,抑揚や口調には反応の感情が出る。

  • 言葉に実がない

 「そうなの,大変ね」「それは心配ね」等々,一応返事はあるし,反応もあるが実を感じられず,おざなりに成っている。また返事のタイミングも,感情もずれている。

  • 安易に触ったりする接近したりする

 身体の距離は相手との新密度によって変わる。せっかくの話なのに,意味なくタッチされたり,肩を触れられたりするタイミングも頻度も話とそぐわないと,態度だけで聞いているふりをしていると感じてしまう。

  • 相手を裏切る

 「ここだけの話なんだが」「ちょっといい?」等々と言いながら,打ち明けられた話や持ちかけられた相談をもらしたり,ほのめかしたりする。それは結局相手の話を相手の立場で聞かなかったことの証明となる。

ネルソン=ジョーンズ『思いやりの人間関係スキル(相川充訳)に加筆


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