1.相手自身を主題にしない 話し相手が部下や後輩だとして,どうしても部下のしたこと,部下の発言,部下の失敗,部下の報連相,部下の成果等々となると,「どうして君はそうしたの」と,上位者や先輩として,部下に話を聞く姿勢となる。それでは,どうしても部下側は,聞いてもらう立場であり,言い訳する立場になる。そういう会話のスタイルをしている限り,話をしにくいし,聞きにくい。そこで,部下の「したこと」,「発言」「報連相」「成果」そのものを,ちょうど提出された企画書を前にして,一緒に企画そのものを検討するように,部下と一緒に「したこと」,「発言」「報連相」「成果」をテーマ,上位者と下位者が一緒になって眺めている関係がほしい。二者関係から,そういう三角形の関係にすること。そうすることで,聞く側も,部下という属人性を 離して検討しやすくなる。また聞く側が,相手に巻き込まれて,同情したり,一体化したりするのを妨げるのにも有効。 2.まず話をやめる 他者に対しても(他者対話),自分に対しても(自己対話),話している限り,人の話は耳に入らない。この場合,口に出しているだけとは限らない。心の中で,相手を瀬踏みしたり,相手に反論したり,あるいは自分自身のいいわけのために,ああでもない・こうでもないと自身と反芻したり,も含まれる。 3.相手と同じ目線になる 保育士が幼児の前で屈むのは,相手と同じ姿勢になることだ。相手が立っていて,自分が座って報告を聞くという関係は,すでに相手の話を聞く関係づくりになっていない。相手の体験する視線と同じ位置に,自分の目の位置をおくことで,相手の話を聞こうとする姿勢が相手に伝わる。同じ位置で,相手の主観上の,感情上の世界を味わって見ようとする姿勢である。 4.相手の感情や気持ちに焦点を当てる 話には,事柄や出来事とその人の感情がある。相手が話す出来事や事柄は,意味なく出されるのではなく,その場でのその人感情があるから,それを伝えようとするはずである。そのときの,その事柄や人物や出来事にまとわりついている相手の感情,悲しさ,うれしさ,怒り,恐れ等々を感じ取ろうとする。「どう感じました?どう」「どういう気持ちでした?」と,質問してもいい。そういう姿勢が相手に聞かれている,聞いてもらっていると受け止めてもらえる。聞いているかどうかを決めるのは,相手であるのだから 。 5.相手のそのとき,その場,その思い,その感情をイメージする 相手にはなれない。相手の立場にもなれない。相手の気持ちももてない。しかし相手の話を,シチュエーションとしてきちんと思い描き,その場に,目の前にいる相手をはめ込んで,そこにいる相手をはめ込んで,そのとき相手が体験した,そのとき,その場の思い,感情を出来る限り具体的にイメージしようとすることは出来る。そのとき,そこで相手がどう感じ,どんな思いをしたのか,そのフィーリングを一緒になって感じようとすることはできる。それは相手の目線で,相手はそれが相手の話を聞くことだ。そのために,5W1Hで,いつ,どこで,何が,どうしたかを聞いていくことが,助けになるが,一緒に感じながら「それで」「それから」と聞いていけば,尋問とはならない。 6.相手と呼吸をあわせる 相手がどんな息遣いをしているのか,その呼吸のペースにあわせようとすることはできる。荒い息遣いなのか,のんびりした息遣いなのか。それが,相手にあわせようとする,こちらの態度となる。あわせられたかどうかも大事だが,あわせようとする姿勢,態度は相手に伝わるはずだ。息遣いをあわせることは,しゃべり方やスピード,テンポをあわせることになる。並んで歩くときのスピードが合い,歩調が合うのと似ている。 7.相手の言葉遣いやしゃべり方にあわせる 相手がぞんざいな口調をするのか,丁寧な口調なのか,早口なのかスローなのか,あるいは方言があるのか,標準語なのか。独特の言葉遣いがあれば,それをなぞって返してもいい。それは両者の間に共有化される,独特の雰囲気を作り出すことになる。 8.巨大な耳になる 自分の全身が巨大な耳になったとイメージしてみる。したがって口はない。相手の言葉がただ耳に流れ込んでくる。それを必死で聞きとり,理解しなくてはならない。したがって,聞きながら,他の作業をするとか,落書きしたりする等々ということはできない。ただひたすら聞く姿勢をとる。 9.話の構造をつかむ 話の細部や中身をつかもうとする前に,全体の構造をつかむ。構造がつかめれば,細部は後でも確かめられる。そうした構造は,「○○と思う」の「○○」が中身,構造は,「思う」に現れる。「○○と思う」と「○○とも思う」では,話の構造が違う。「○○」は話し全体の部分であるということになる。「○○になればいいと思っていた」というとき,いまから見て,「○○になればいい」という思いは,過去のものになっているという話の構造になる。 10.相手の考えの視点を変えるヒントを出す 相手の話を聞きながら,いきなり,「それはおかしい」「そうじゃない」といきなり批判されれば,結局何も聞いてくれていないと思わせるだけだ。その場合,「その立場を変えて考えたら」とか「考え方をちょっと変えて見たら」とか「確かにそうだが,視点を変えて見たら」と前置きして見ることで,傾聴を崩さないで,つながる会話になる。たとえば,「その考え方は一理ある。その枠組みで考える限り,そう考えられる」と,その考え方を返し,しかし「こういう枠組みでみると」と一言付け加えれば,相手は自分の意見を一緒に考えてくれていると受け止められる。 11.相手の言葉を繰り返して,一言加える 相手が「今の状況は,とても楽観できないです」と言ったら,「とても楽観できない状況なんだね。その中でもこれだけ苦労したんだから,少しはうまくいきそうなところもあるんじゃないか? 」と,自分の意見や考えをちらりと付け加える。その場合,一緒に同じものを見ている,考えているという視点でなければ,この人は聞いていないとすぐわかってしまう。自分の言っていることばを繰り返されると,しゃべっている本人には一緒にその場にいてくれると受け止められる。確かに,並んで話しているという雰囲気にはなるが,ただ繰り返されると馬鹿にされた感じがする。そこに,一緒に考えている姿勢を崩さずに,同じ目線で,違う見方を加えてみる。「このやり方では絶対うまくいかないと思う」「絶対うまくいかないと思うわけだね。そうしたら,別にどういうやりかたをしてみたらいい?」 12.ひたすら待つ姿勢を示す よく部下が黙るとこらえきれずに次々としゃべってしまう上司がいる。黙っているということは,何も考えていないのではなく,頭の中でいろいろなことが駆け回っているはずなのです。人間は言葉の20倍のスピードで頭の中を言葉にならないイメージや重いが疾駆している,といわれています。相手の沈黙をじっと待てること。できれば,なにかはなすのなら,「じっくり考えて,待っているから」と待っていることを相手に伝えてもいい。当然,相手がしゃべり終わるまで,待つ。話の腰を折らない,遮断しないということは当然。 13.自分の発言への相手の反応をモニターする ペンフィールドとラスマッセンの大脳皮質の運動の局在を示す図に,顔や口,手の指が非常に大きく描かれている。相手の心の動きは,多く,顔面,それも口唇周辺によく出る。相手の口の周りの力の入れ方を真似るだけで,相手の気持ちがわかる,とさえいわれる。また両手の指の動きにも反応が出る。コーチングでは,話し方や声の抑揚,大きさを合わせるペーシングとか,からだの動きや表情を映すミラーリングといった技法を使うが,相手の反応の見方として意味がある。コミュニケーションとは相手にきちんと伝わってはじめて成立する。その意味では,相手の反応をきちんとモニタリングできてではじめてコミュニケーション力があるといえるので,それを見極める力は聞く力そのものといってもいい。 14.自分のネガティブな気持ちに気づく 反発や怒り,嫌悪の感情を,それはおかしい,そういう甘えたことをいっているからだめなんだ,と批判してしまえば,相手は自分を聞いてくれていないとしか受け止めない。またそう頭ごなしにいうとき,自分自身の弱さを相手への批判でカバーしているところもある。そう感じたら,ストレートに返さず,自分の感情を突き放して見る間がほしい。いま,何を感じているのか,何を考えているのか,自分としてはどうしたいのか等々,自分に問いかける間を持つことで,その感情を抑えるにしても,抑えずに出すにしても,たとえば,「今の君の発言を聞いていると,正直言って,あまりいい気持ちではなかった」という冷静な返し方になり,少なくとも会話の土俵は保てる。 15.明確化,具体化,焦点(キーワード)化,要約化 「私は,あなたの今の話をこういう風に理解したが,それでよかったか,その状況を私はこう受け止めたんだが,それでいいか」と確かめていく。あるいは長い話をまとめて,要するにこういうことでいいのか,とまとめて返す。それ自体が聞いていることの証になるだけでなく,話の焦点を絞っていくことになる。 16.質問の形で指摘する コーチングなどでは,質問を重視するが,その意味は,「これはまずいだろう」と直接指摘されるよりは,「これはまずくないか?」と言われることで,@ソフトになる,A質問された側が自分の中で返答を考えることでさまざまに自分の中に連想を生み出し,揺さぶられること,B結果として自分自身の中で是非の判断,答えを見つけることになること,がある。それは,聞く側にも,相手に的確に聞くために,聞く力が必要になる。 17.わからない,知らない ことはそのまま伝える すぐれた上司は「わからないという言葉で勝負する」と言われる。「わからない」「それはよく知らない」という言い方をすると,部下(後輩)側は,それについてより説明しなくてはならなくなる。少なくとも,「お前の言うことはちっともわからん」「何を言ってるのかわからん」という言い方だと非難を込めているが,そうではなく,フランクに,「よく知らない」「よくわからない」といわれれば,知っている側が説明しなくてはならない。それは,より聞くきっかけとなる。さらに,「よくわからないが,僕の思いつくのはこんなことだが,それでいいのかな」とか「こう考えてもいいのかな」等々とやりとりをすれば,それ自体が相手にいろいろなことを考えるきっかけとなり,「ああ,こういうことかもしれません」と答えを見つけたりする。これは,三角形の関係になっているのと同じになる。 18.問題を能力と置き換えて聞く 文句ばかり言う,ぐずぐずしている,仕事が遅い,言い訳ばかりしている,上位者は大概部下(後輩)より経験も知識も多い。だからけちならいくらでもつけられる。いくらでも批判的にみる。そのために,相手の話は耳にとどかず,何をくどくど言っているかという顔になる。そこで,相手に見つけた「けち」を,問題としてではなく,能力に置き換えて見る。たとえば,「文句ばかり言う」のは問題意識が旺盛,「仕事が遅い」のは慎重等々。そうすることで,少なくとも,まず相手の話をプラスとして聞こうとすることになる。 19.肯定的な言葉だけを使う 肯定的な言葉を使うように心がける。マイナス表現,非難めいた言い方をしない。たとえば,「いいアイデアが出なくて困っています」と部下が言ったら,通常なら,「君はいつもそうだ」とか「これだけ待ったじゃないか」とか「本当に考えたのか」とか思ったり,言ったりする。しかしそう言ったところで,いい考えがでてくるのでもないし,部下がいまいい考えを思いつくわけでもない。それなら,「それはがんばったな」とか「目いっぱいがんばったんだね」と,できたところを前向きに評価するか,ねぎらって,「では,でたものから,進めてみよう」とした方が,事態は前へ進む。批判は,できなかった過去をとがめているに過ぎない。それで未来は変わらない。どうしたらできるようになるかは,相手の現時点をプラスとして,そこから出発するしかない。 20.言外の言葉を聞き取ろうとする 相手は,すべてを語っているとは限らない。隠したいということもあるが,表現出来ないということもうる。自分でも気づかずにいることもある。言葉が,相手の心の氷山の一角と考えると,言葉尻を捕らえたり,語った事実だけで,評価したり,怒鳴ったりすることの愚に気づく。大事なことは,相手の語ろうとしていることの全体像をつかむことだ。むろん,あら捜しや隠し事を詮索するためではない。 (参考文献;ピーター・ゼンゲ他『学習する組織「5つの能力」』神田橋條治『追補 精神科診断面接のコツ』 『精神療法面接のコツ』 『治療のこころ』 『対話精神療法の初心者への手引き』等 )
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