・相手の中に答があると信じ「それで君はどう思う」「きみはどうしたい」と,それを引き出すようにしている
・相手の中にある可能性を信じ,「君なら出来る」ときちんと伝え,それを引き出すようにこころがけている
がなくては,決して機能しない。そうでなければ,コーチングの中心スキルである,質問も,単に尋問であり,承認も,自分のためにするみせかけのものでしかない,提案・リクエストも,指示命令のソフトバージョンでしかない。フィードバックも,勝手読みにとしか受け取れない。つまり,自分の言うことを聞かせるための手段になってしまう。
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職場のコーチングが機能させるにはどうしたらいいか
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上位者と部下の指示命令的対応
たとえば,部下に指示したり,質問したりするとき,
こういうやりとりは,実は,コミュニケーションの主体が上司側にある。それは,上司が自分の土俵から,質問し,判断し,咎めている。
つまり,上位者側が,自分の土俵で,価値観,判断基準を手放さず,相手に追及している格好になる。
たとえば,「何やってんだ」という発言は,
「(お前は)何やってんだ!
」(と上司であるオレが判断している)
と,分解できる。それは,自分の側の判断基準で,ものをいっているに過ぎない。そ
こで,どれだけ,質問や承認や,といったコーチングのスキルを駆使しても,所詮上司の思いつきや気まぐれに過ぎない。
では,これが,コーチング的になったらどうなるか,そのとき,土俵は相手に移さなくてはならない。つまり,判断基準も,答えも,相手にゆだねることを意味する。
たとえば,上記の「何やってんだ」という同じことを,上司が言ったとしても,それは,上司の判断基準でないとすると,部下自身の判断基準で,どう思うかを聞くことになる。
(部下である君自身は)「何やってんだ」(と思うところはないか)
それは,相手に,相手自身と自問自答しつつ,自分の中のリソース,経験,知識と対話しつつ,どうしたらいいのか,何が考えられるのか,を導き出す。それを,こちらはただ見守る。あるいは,相手の許可を得て,アドバイスをしてみるということはあるかもしれない。しかし,主導権は部下側にあるのである。
よくコーチングの本にある,
「なぜできないのか」ではなく,「どうしたいのか」,
「なんでうまくいかないんだ」ではなく,「どうしたらうまくいく?という」
という問いの変換も,小手先の問題ではなく,上司側がどう,自分のコミュニケーションをコントロールしているかの問題としてみたとき,現実的になる。
上司は,部下の可能性を信じ,答えがあると信じるから,部下自身の土俵で,
自分なりに答えを出すように促す。その答えは,部下自身のものだし,部下自身の仕事の進め方,部下自身のノウハウを反映しているはずである。無論,それにアドバイスすることがあるとしても,それを部下は,自分の土俵の上で,自分の主体的な判断で,受け止め,考えるはずだ,という姿勢をとる。一見主導権を譲っているが,土俵をそうやってコントロールしていくことが意味がある。
この理想は,上司と部下が,2人して,共有化した土俵を眺めている関係が,取れれば,ベストになる。一緒に並んで眺めていることになる。その土俵なら,他のメンバーも,そこに加わりやすくなる。
これを部下側から見たとき,どうなるだろうか。実は,同じことだ。コミュニケーションの主導権を握ればいい。つまり,コミュニケーションの土俵を自分側におく場合と,相手側におく場合を,自分で,そのシチュエーションにあわせて,ハンドリングできればいいということになる。
たとえば,自分のアイデアや提案をするときは,自分の主導権でいいが,それについて,相手自身に答えを出してほしいときは,どうお考えでしょうか,お聞かせくださいと,相手に土俵を譲ればいい。
要は,コミュニケーションは,目的があってする。その目的達成のために,相手の主体性を引き出したければ,相手が自分が主役になって考え,自己対話できる土俵を与えることが必要になる。
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コーチング以外の手法
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アサーティブな表現による対応
上位者の指示に対する反応に,厳しく叱責されたときを想定したとき,
@土俵を共有する
セットアップである。「ちょっとよろしいでしょうか」「少しお時間いただけますか」など,いまから話をしたいという土俵を相手と共有する。
A自己開示する
自分の今の気持ちを正直に伝える。「言いずらいんですが……」「どう申し上げていいか迷っているんですが……」「どきどきしているんですが……」という言い方をすることで,相手の身構えを緩める。
B事実を伝える
ここは,相手を持ち上げたり,感情を交えるのではなく,「いつも大声で叱責されるのですが」「いろいろ細かな気配りをいただくのですが」など,事実,起こっていることを表現する。「いやなんです」という感情から伝えては,相手は受け入れにくい。
C感情を言語化する
ここは,その事実に対して,自分がどう感じてきたか,を率直に伝える。「大声を出されるたびにびくびくして
おびえていました」「ちょうど何かしょうとするたびに先回りされた気がしていやでした」等々。
D望む変化をリクエストする
率直に,どうしてほしいか,どうなりたいかを伝える。「〜したい」「〜してほしい」「〜してほしくない」「〜してはどうでしょうか」。ただ,いくつも要求を羅列するのではなく,ひとつ,しかも的を絞る。あわせて,それを放置した自分の責任はきちんと伝える。「もっと早くお伝えしないでいた自分にも責任があります」「迷いに迷って言いそびれてしまった私も悪いと思います」等々。
E相手の反応を求める
自分が言ったことについて,相手がどう受け止めたかをきちんと聞く。自分の主張を理解してほしいなら,相手も理解将とする姿勢がいる。
F繰り返す
自分のしてほしいことをもう一度,きちんと整理して伝える。相手の反論や感情的反発にふりまわされることなく,自分の主張を繰り返す。
G会話を終了させる
相手にうんといわせるまで主張するのが目的ではない。それでは,立場が代わっただけで同じコトをしていることになる。相手に考える時間を与え,選択の余地を残す。「聞いてくれてありがとう」「ぜひ心に留めておいてください」「2,3日後に話す時間をつくってください」
(参考文献;森田汐生『「NO」を上手に伝える技術』,アン・ディクソソン『第四の生き方』)
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意味の地図による反応
すべての発言は,
・情報提供
・情報収集
・攻撃するもの
・放棄するもの
の4つになる。対応は,二つ。
・攻撃されたときは,情報を集めること。「どうしてそんなことを言われるのですか」「そう思われている理由をもう少しお聞かせください。攻撃する上司に,言い訳するのは,情報与えていることになり,逆効果。
・放棄,つまり,相手が投げ出したときは,止めたいのだから,「こういうことを考えていた」「あなたの助力を当てにしていた」と,情報を提供していく。
◇たとえば,クレーマーや攻撃的な人に対する場合,情報収集の応用編で,相手の怒りの内容を,整理していく方法がある。
@相手の主張を要約して返す。
「いまおっしゃったことは,何々と承ったのですが,これでよろしいでしょうか?」という具合に,確認の質問をしていく。そのつど,おっしゃっていることを整理させていただいていいでしょうか,という許可をとりつつ,要約し,「これでいいでしょうか?」と問いかけていく。
A相手の言葉遣いを使う
要約する場合,こちらの専門用語を使ってはならない。相手の主張を,相手の言葉遣いを使って,返す。言葉遣いを変えてしまうと,相手の主張のニュアンスが変わる。はっきりしないときは,「こういう表現でよかったでしょうか?」と確認するのがいい。
A話の筋がかわったら,それをきちんと整理する
当然矛盾がでてくれば,それを対比して,整理していくことになる。「いままで,Aといわれていたのですが,いまNと言われました。どちらがおっしゃりたいことでしょうか?」
B確認を繰り返して,論議の土俵を確認する
ここでやっているのは,相手の求めていることは何かを整理することで,相手とのコミュニケーションの土俵をつくろうとしていることなのである。もちろん,相手に,冷静にならせる効果もあるが,それが主眼ではない。コミュニケーションは言葉でやり取りするが,共通する土俵,つまり目的と目標(期待する成果)が明確でなくては,成果のある議論にはならないのである。
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