コミュニケーションは何のために必要なのか
チーム内コミュニケーションの3つのレベル
コミュニケーションの中身と求められる能力
コミュニケーションの土俵をつくる
コミュニケーションの手段と機会
どうコミュニケーションをスタートさせるか
コミュニケーションの機会を逃さない
チームとして機能するには,@共通の目的,A役割分担,Bコミュニケーションが不可欠とされる。では,具体的には,それはどうなっていることなのか。
たとえば,目的を共有するという。では,どうなったら共有したことになるのか,ただお題目のように目的を復唱することではない。それぞれの日々の仕事ひとつひとつが,チームの仕事につながっていることを,そのチームの仕事が上位部署の仕事につながっていることを,ひとりひとりが,ひとつひとつの仕事で了解できていることだ。そのためのコミュニケーションを管理者がしたのかどうか。
では,役割分担とは,どうなったら役割分担していることになるのか。単に自分の担当に責任をもつことなのか,それだけではない。自分の担当業務を介して,自分が解決できない事案にぶつかったとき,それを自分でかかえず,上司やチームに投げかけられることだ。チームで仕事をし,そのための自分の役割がわかっているとは,自分の役割を超えた案件で,自分がやるべきことなのか,チームでやるべきことなのか,チームを超えた部署や組織でやるべきことなのかが見極められることでなくてはならない。そのためには,日々上司やチームメンバーとの間で,お互いの仕事について,率直にコミュニケーションをとれる土俵ができていなければ,「それはうちの仕事ではない」「どうせ言ったって仕方ない」「どうせどうにもなるまい」ですましてしまうことになる。
さらに,コミュニケーションがとれているとは,どうなっていたらコミュニケーションがとれていることなのか。コミュニケーションが必要なのは,役割を割り振って,あとは蛸壺にはいってひとりひとりが背負い込んで黙々と仕事をする職場にしないためだ。そういう職場は,チームになっていない。仮にチームの目指すものをどう分担するかがわかっていたとしても,チームではない。チームで仕事をするとは,一人で仕事を抱え込まず,他人にも仕事をかかえこまさない仕事の仕方のことだ。そこではどんな仕事も,自分一人でやっているのではないという了解がとれている,些細な問題もチームに上げ,チームで解決すべきことはチームで解決しようとし,上位部署もまきこんで解決すべきことは上司を介してより上位にあげていく。そのときもし自分のやるべきことをチームにあげたとすれば,「それは君の仕事た」と,本人につき返すことができるチームだ。そういうコミュニケーションがとれていてはじめて,チームの要件としてのコミュニケーションがとれているといえるのである。
他部門や上位部門を含めた組織内のタテ,ヨコのコミュニケーションのレベルや仕組みがあることが前提になるが,チーム内には3つのコミュニケーションのレベルがある。
●チーム全体としてのコミュニケーション
チームは何をするためにあるのか,そのために何をするのかという,目的や方向性を確認し,そのために,ひとりひとりが何をするのかを確認し,すりあわせ,フォローしていくレベルである。
●業務遂行レベルでのコミュニケーション
仕事を現実に遂行していく上で,上司とメンバー,メンバー同士,場合によっては,他チームや上位者とのコミュニケーションを,日々,年度を通してしていくレベルである。たとえば,チームのおかれている状況認識の刷り合わせ,正確な情報の共有,問題意識の共有,ノウハウ,知識・経験の共有化。そのために報連相,ミーティング,打ち合わせ等々。
●個々のメンバー同士の一対一のコミュニケーション
必ずしもインフォーマルだけではなく,仕事の上でも,私的に問題意識を交換したり,雑談したりするコミュニケーションのレベルである。たとえば,日頃からキャッチボールの機会を確保し,問題意識をすりあわせられる。懇親,親睦の他,何気ない会話のできる職場の雰囲気づくり等々。
管理者にとって,チーム全体のコミュニケーションと業務遂行レベルのコミュニケーションがなくては,チームとして機能しない。もちろん,雑談や立ち話,あるいは喫煙ケージでの会話というのは重要ではあるが,チームとしてのコミュニケーションの土俵があってこそ意味がある。
コミュニケーションは言葉のやり取りだけではない。コミュニケーションをかわすということは,相互に心理の階層をもっている。ただ,表面的にかわされている事実関係の情報だけでは,つかめない相互の心の動き,感情の変化も重要になる。
とすると,コミュニケーションには,単に,指示命令したり,業務に関わる情報交換といったレベルの,話しあえる能力(責任・使命からの役割行動)だけでなく,ときに,新しい仕事への不安や自信がないためのおびえについても,理解し,励ましたり,サポートしたりできる,ふれあえる能力(感情交流,自己開示)が欠かせない。そこでは,管理者自身が,それを隠したり強がったりするのではなく,自分はどう克服したのかを語れる率直さが必要になる。管理者自身も,自分の本音や自分の本心に向きあわなくてはならない。自分に向きあえているだけ,メンバーの向き合っているものに向き合うことができる。
その意味で,管理者と部下全体,管理者と部下ひとりひとり,部下同士のコミュニケーションをするための,お互いが何について話しているかを共有できている場,それを土俵と呼ぶとすると,それにはふたつあるはずである。
●上司と部下,先輩と後輩,同僚同士といった,役割に基づくコミュニケーションの状況(機会)づくり。
●そのつど,その場その場の,私的コミュニケーションの場づくり。
上記のコミュニケーションのレベルと関連づけると,前者が,チームレベルや業務遂行レベル,後者が一対一レベルにあたる。チームレベルや業務遂行レベルでのコミュニケーションがなければチームとならない。しかしチームメンバーひとりひとりが何をしているのか,何を考えているのか,何を思っているのかを知らなくては,ひとりひとりの仕事をただ足しただけの集団になる。もちろん,ふたつの土俵が別々に必要というわけではない。一緒に役割を果たすこともあるし,別々に設定しなくてはならないこともある。ただ,チームには,この両輪のコミュニケーションが必要なのである。
Dコミュニケーションの土俵づくりが意味するもの
こうしたコミュニケーションの土俵づくりで何をするのか。それを考えるのに,“ジョハリの窓”が役に立つ。これは,他人との関係の中で,自分にわかっている自分/自分にわかっていない自分,他人にわかっている自分/他人にわかっていない自分の4つの窓で,自己を理解しようとするものだが,ここでは,パブリックという領域に着目してみる。
パブリックとは,行動・感情及び動機について,自分がよく知っていて,他人も知っている部分とされる。これを下図のように書き換えてみる。つまり,自分(管理者)が知っている自分を,自分が果たしている役割,自分のしている仕事の仕方,進め方,何を重視し,何に価値をおいているか,を他人(部下ひとりひとり)が,理解してくれている部分とする。そうすると,このパブリックのできている部分だけで,部下ひとりひとりとのコミュニケーションの土俵ができていることになる。これを相手との間で形成するのが,コミュニケーションの土俵づくりをする意味である。
パブリックを広げる方法はふたつである。
第一に,自分が何を考え,どう思っているかを語ることである。自分が何を目指し,何をしようとしているかを明確にすることによって,プライベイトな部分を小さくできる。
第二は,相手からのフィードバックを聞くことである。自分の行動がメンバーからどう受け止められているかをフィードバックしてもらい,自分の知らない部分,気づいていない部分を受けいれることによって,ブラインドの部分を減らせるのである。
その意味では,業績が伸び悩む中,お互いに協力し合ってタッグを組まなくては,乗り切れないというおのれの思い,これからチームをどうしたいのかという自分の考えを,まずきちんとメンバーに伝えなくてはならない。そしてその思いを,メンバーがどう受けとめるかを聞くところから,パブリックづくりは,とりあえずスタートする。
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