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チームを育てるマネジメント(9)

上司にひと肌脱がせる
 


  • 【ケース9】チームの勢いに水を差される

 野田が息せき切って帰ってくると,木原チーフに満面の笑みで声をかけた。

 「チーフ,A社がOKです。」

 木原が立ち上がると,チームメンバーから一斉に喚声と拍手が起こった。一番若い野田が,難関のA社を落としたのだ。他チームに較べて高い今期の目標も,これでクリアできる目途が立った。そんな全員の気持ちの現れであった。

 「よし,よくやった。落合君,つめが肝心だ,野田をサポートしてやってくれ,」

 すぐ後ろで,顔をほころばせていた落合主任に,声をかけた。

 「喜んで,これが契約できるとできないでは,大違いですからね」

 「よろしくおねがいします。明日までに書類を届けなくてはなりませんので,」

 木原がぺこりと頭を下げた。

その様子を見ながら,ようやく目標へ向けてチームがまとまってきたという実感を感じることができたな,木原は満足であった。今期から,中堅二人が抜け,代わりに二年目の原君,三年目の大石君という若手を配属され,しかも目標は例年並みのアップ率で,他チームのしわ寄せで過大な目標を課せられた,チーフが課長にきちんと実情を訴えないせいだ等々,不満たらたらだった落合も,あの様子だ。ここまでチームをまとめて一丸にするのに,苦労したと,木原は感慨深かった。

 翌朝,上司の竹之内課長のもとに,その報告を兼ねて出向いた木原は,ねぎらいの代わりに,クレームをつけられた。

「昨夜も,君のところは,遅くまで二人が残業していたようだが,」

というと,こう指示したのだった。

「前から総務から言われていたことだが,君のチームは残業が多すぎる。うちの他のチームに較べても圧倒的に多い。少し削減する努力をしてほしい。猶予は与えるが,今月末には結果をだすように。」

木原は,心の中で,それはうちが一番業績をあげているせいだと思ったが,口には出せず,ただ黙って頭を下げるしかなかった。しかし,そのことを聞かされた落合は,

「いつも,そうやってこっちのやる気に水をさすんですね」というと,真顔で,こういった。

「チーフ,前から思っていたんですが,うちが残業が多いというよりは,他が少なすぎるのではありませんか。課内の仕事量の配分がバランスを欠いているように思います。人の配分にも問題があるような気がします。」

何とかしませんか,と落合は木原に対処を迫っているようであった。


  • 何が問題なのか

@何が起きているのか

 せっかくチームを一体化し,盛り上がってきたところで,残業を減らせと竹之内課長に指示され,チームの雰囲気に水を差されたと,木原チーフは受けとめている。しかし本当にそうか。チームをあずかるものとして,チームのパフォーマンスだけでなく,チーム全体の人の管理もその責にある。その点を,上司から咎められていると見ることができる。木原チーフには,チームの成績のことしか目にはいっていないように見える。

A何が問題か

 他のチームに比して,圧倒的に残業が多いと指摘されている。おそらくこの指摘は今回だけではないはずである。それを,チームの好成績をいいことに,何ひとつ解決の手を打ってこなかった。竹之内課長の視点からは,そう見える。それは,木原チーフのチームマネジメントの欠点と見えているはずである。いまのチームの状況を放置することは,竹之内課長自身が自分のマネジメントを問われかねないのである。木原チーフには,自分が何をするためにチーフとしているのか,その役割を遂行することが,上司にとってどんな意味があるのかという広い視野がなく,上司が自分に何を期待しているのかも見えていない。

B何かが隠れていないか

チームの残業量が,他に較べて圧倒的に多いということは,チームメンバーに,チーム全体の雰囲気が負荷を与えている可能性がある。自分だけが,早く帰れないとか,自分がいくら効率的に仕事をしても,チーム全体はそれを評価する雰囲気にない等々。その背景にあるのは,リーダーが口に出しているかどうかは別にして,暗黙のうちに,がんばることを強いる姿勢があり,チームメンバーは無理を強いられているのかもしれない。誰かの犠牲の上に立つパフォーマンスは,長続きしないし,偽りのパフォーマンスである。いつまでもそうそうハイテンションのままいけるはずはない。ただいたずらにがんばるのではなく,工夫と才覚で,少ない時間でも同じ達成ができる仕組みをつくりだすチャンスと受けとめるべきである。

C何が迫られているのか

 まずは,組織として要請されている残業減をどう取り組むかだ。それは,ほとんど放置されてきたメンバーの仕事の仕方を見直し,より効率化するために,チームを上げて,何を優先させ,何を削減するか,チーム内の業務分担の再調整をどうするかを考えていくことになる。それは本来,上司から言われたからではなく,チームマネジメントの上で,やらなくてはならないことだ。まずは,チームで,自分たちでこれだけやったといえるものを考え尽くし,その上で,上司に力を貸してほしい,こうしてほしい,そんな依頼をするのがいい。そうすることを通して,チーム内の活力を維持していくことができるはずである。


  • 問題の背景に何があるのか

◇ここで問われているのは,チームリーダーのリーダーシップとは何かということである。チームは自己完結しているのではなく,組織全体の中で,その役割がある。上位者にとって,そのチームの成否が自分の預かる部署全体の成否につながる。チームをあずかるものは,上位者との関係の中で,自分に何が求められているかを常時考えながら,チーム運営をはからなくてはならない。木原チーフには業績しか見えていないが,チームをあずかるとき,人の管理と仕事の管理の両方がある。更に言えば,もうひとつ自己の管理もまた,チームマネジメントの要になる。木原チーフは,偏ったチーム運営をしているのである。その咎が自分にとどまらす,上位者にも及ぶことがわかっていなくてはならない。

@チームリーダーの役割とは

チーム・リーダーに求められるのは3つの役割となる。

●旗を立てる機能(指示機能)

何のために(目的),何をするか(目標),どこへ向うのか等々,チームの仕事の意味づけと組織全体とのリンケージ(関連づけ)をとり,クリアな旗印を明示することである。

●巻き込む機能(盛り上げ機能)

立てた“旗”をどう実現(達成)するかの手段として,目的達成のために,チームとしての活力を維持・向上させるために,必要なことはすべてが対象となる。どうメンバーをまとめ,集団としての力を盛り上げていくかを工夫し,実践する。場合によっては上位者だけでなく,チーム外のキーマンも巻き込む。一番肝要なのは,コミュニケーションであり,そのためのチャンネルが確立していること,日々円滑化の為の工夫をすること,協働体制づくり,メンバーの指導・育成,職場風土づくりその他日常の細々としたチーム運営等々。

●やりきる仕組みづくり機能(仕掛けづくり機能)

 目指す旗を確実に達成するために必要なさまざまな仕組みや仕掛けをつくり,環境や条件整備をして,旗の実現をお膳立てをする。一人一人に自主的に取り組ませるための仕組み,業務分担の見直しや調整,チーム全体が足並みが揃う仕掛け,障害物を取り除く工夫,途中経過や進捗状況を共有化する仕組みづくり等々。

リーダーが確信をもってチームの目指すものを指し示せなければ,チームメンバーが毎日の仕事の意義(何のためにそれをするのか)に確信をもてるはずがない。それこそが“旗印”が必要な理由である。それによって,何のためにそれをするのかという目的意識が明確となり,そのために何をしたらいいか(目標意識),どういう役割を果たせばいいのか(役割意識),チームメンバーがひとつの目的実現のために一体となって取り組むことができる。しかしそれが,組織全体とのリンクを欠いた,チーム内に自己完結したものでは,そのパフォーマンスは,組織の何にも寄与しないことになる。何にもリンクしない孤立した旗は,チームの旗としての意味をなさない。

Aチーム目標の意味

目標は,基本的に,単独では存在しない。目的(何のために)−目標(何をする)の連鎖の中に位置づけられる。たとえば,ある目標(何をする)は,その目的(上位目標)から見れば「手段」である。しかし,その目標の手段(下位目標)からみれば,その手段を取る目的となる。組織の各目標は,そうした組織の目的達成の手段としてある。連鎖の中にある目標が1つ崩れただけで,この目的に向けての体系全体が崩れ,目的達成は難しくなる。とすれば,その手段は,目的達成に適合しているかどうかが,たえず問われなくてはならない。もし,目的不適合(あるいは目的不全)の活動であれば,目的への寄与のない活動と見なされなくてはならない。

時間管理もまた,組織全体の目的連鎖の中に位置づけられているはずであり,木原チーフが,残業削減を無視し続けた行為は,目的不適合という意味をもっているのである。木原チーフに,残業が増えても業績をあげることが組織の目的にとって重要であるという覚悟があってしていたとは思えないところが問題なのである。

《目的手段の階層構造》

 

下位目標(目的からみると手段)の妥当性は,上位目標(下位目標からみると目的)の妥当性による。ある作業行動(は,何かをするという目標の手段に当たる)が目標に適合しているかどうかは,その目標(は,何のためにするかという目的の手段に当たる)が目的(何のためにそれをするか)の手段として適切かどうかによってのみ,チェック可能である。

つまり,一方通行ではなく,手段(下位目標)から上位目標(目的)に,また上位目標(目的)から下位目標にと,双方向でキャッチボールされることで,自分の行動が意識的に軌道修正される。木原チーフは,その作業を竹之内課長との間できちんとしていなくてはならなかったのである。たとえば,いま組織全体が何に重点をおいていて,課長自身が何を重視しているのか,その中で,時間管理にどのくらいの優先順位をつけているのか等々。

B組織全体の中でのチームの位置づけを再確認する

チームは,組織目的の機能分担の一翼を担っている。チームの目的は,より上位の組織の目標であり,チームの目標は,チームメンバーにとっては,目的である。

チームメンバーは,チームの目標達成のためにどうするかを考える。落合主任がそれをサポートするのは目的意識が働いている。しかしチーフ自身が,自分のチーム所属する竹之内課長の部署目的に寄与していなければ,木原チーフはその役割を果たしたことにならない。

木原チーフは,竹之内課長が何を期待しているのか,何を目指しているのかを,どこまで意識していたのか。竹之内課長の考えは,その上位者の考えを反映しており,上位者は,組織全体の方向性を反映しているはずである。そのことが木原チーフには見えていなかったのである。


  • どうすればいいのか

@チーム目標も組織全体の動きと連動している

木原チーフが,上司の方針や考えを意識していないということは,会社全体がどういう方向に向かっているのかが,ほとんど意識されていないことを意味する。それは,チームの目標は見えているが,その意味が見えていないことを意味する。意味が見えていないことは,それを達成することの意味が共有化されていないことであり,目標達成そのものが目的化されている恐れがある。役割意識なきところに問題意識(何とかならないか)はないが,役割意識は,何のためにそこにいるかという目的意識なしにはありえない。目的意識あってこそ,その役割として実現しようとする自分の目標の意味が見える。目的達成のために自分にどういう役割があり,それにふさわしくどんな目標を立て,それをどうやって達成していくかが自己点検できるためには,自分のポジションは「何をするためにあるのか」という目的の明確化こそが大前提となる。

この問題で,仮に竹之内課長を巻き込んで自チームをサポートしてもらうには,それが,上司にとって動ける意味のあるものになっていなくてはならない。それは,組織全体の方向性とリンクしていることだ。自分(あるいは自分のチーム)は,組織全体の中で,何をすることを求められているのか,自分(自分の預かるチーム)の存在意味(チームの目的)を,明確にしなくてはならない。自分(自分のチーム)の使命と自分自身の意思を織り込んで,自分(あるいはそのチームのチーム)として何をするのかを明確にしてはじめて,チームリーダーのリーダーシップは機能する。

その意味で,これだけパフォーマンスをあげているのに,残業規制とはけしからんというのは,チーム内に自己完結したものの見方にすぎない。組織全体の方向性にかなうように,どうチームを運営していくかを考えなければ,リーダーシップを発揮しているとは言えないのである。

Aチーム内での方針を固める

 まずは,全体の方向性を見定めなくてはならない。たとえば,大きな経営の方針のもとに,たとえば,業務の効率化という方針のもとに,残業削減が位置づけられているのか,あるいはコスト削減の一環として,シーリングが定められているのか,それによって,取り組み方が変わってくる。つまり,組織全体の方向性にどう関わるかということは,何のために残業削減するかの位置づけが変わるのである。たとえば,いきなり総枠規制をかけるのか,業務や仕事の効率化の積み上げとして削減をはかっていくのか,によって枠組みに添うように,仕事を変えるのか,仕事の変え方に応じて減らしていくのかが変わってくる。一番大きいのは,メンバーのそれへの関わり方である。

いずれにしても,チームにとって,営業成績のクリアしつつ残業を見直すことは,同じ人員で,いかに少ないインプットで効率的なアウトプットを引き出すか,ということを共有化することである。組織全体がそのことで目指している方向にリンクさせながら,自分たちの意味づけを共有化していかなくてはならない。自分たちなりにそれをすることの意味を見つけ出さなくては,単なるやらされ感で仕事をしているのと同じである。それをしないためには,本格的に全員の役割分担,仕事の仕方を,あわせてい見直さなくては,意味がない。それは,チーフをおいて,口火をきることはできないはずである。

仮に,総枠規制が全社の方針でも,それをチーム内で徹底するとき,いきなり結論を下すのではなく,その結論を出すプロセスに,メンバーも参画し,その意味を共有化することである。場合によっては,総枠に添うように,仕事を見直すアプローチをとっても構わないのだ。そのとき,

●チーム内で努力できること(チーフのコントロールできること)

●チーム間で調整できること(チーフ間でコントロールできること)

●上司の決裁を要すること(上司の裁可のいること)

にわけて,チーム内で徹底して検討する必要がある。まず,自チームの事情だけでは,上司は動かない。チームでできること,チーム間でできることをしておいた上で,

●竹之内課長の部署全体の位置づけ(上位部署との関係)を考え,

●その部署内での自チームの役割,責務を考え,

●それを達成するために,どういうことが必要なのかという提案をする,

という姿勢が必要なのである。それは,その提案こそが,竹之内課長の部署のパフォーマンスにとっても不可欠であるということを,きちんと説明できるものでなくてはならない。

B上司と合意点を見つけるための5つのポイント

いままで,きちんと話す場をつくってとこなかったようだから,まずは,上司との共通の土俵をつくらなくてはならない。そこで必要なのは,相手が何を求めているか,相手は何を大切にしているかをつかむことだ。ポイントは,5つである。

●上司の大切にしていることをつかむ

 上司が何に価値をおいているのか,何を大切だと考えているのかをきちんとつかみ,それをこちらが理解していることを伝えなくてはならない。自分にとって,何が大事かを考えていないと,相手のそれが見えないかもしれないが,たとえば,「自分は,チームにとってこういうことが大事だと考えている」「課長のご方針はここがポイントと理解して,チームではこういう具体的な展開をしている」と伝えることを通して,竹之内課長の価値観とすり合わせていく。

●相手とつながりを築く

 課全体としての残業削減の中で,自チームの残業削減の意味と役割を,一緒に話し合う限り,その点では,相手も自分も,この場で何かを決する役割をになっているという立場は同じである。その立場のまま対立するか,逆にその共通の立場であるからこそ,その土俵から見れば,すべては共通の視界になる,ということもできる。そのとき,少なくともお互いに満足感を残しながら,できるだけ時間や資源を無駄にしないで,解決したいという,共通の目的をもっているはずである。そこで必要なのは,ともに会社の目的を実現するという意識である。

●お互いの自律性を尊重する

 要求は相手を拘束する。それは相手にネガティブな感情を引き起こす。提案は,その選択肢が多く,それを決める自律性を相手に与えている限り,相手の自由を縛らないはずであり,決定したという感覚を相手に残せる。相談なら,相手と一緒に考えている状況をつくり出せる。自律性を高めるには,

・まずは,自分にできることを自分で制約していないか。何ができるのか,何をすれば,少なくとも現状を動かせるのか,を考える

・意思決定する前に,意思決定のための案を作ることはできる。それは,自分の視点からだけではない選択肢をたくさん考えることである。

・一緒にブレーンストーミングをしてみる。両者は共通のテーマのもとに,一緒にさまざまな選択肢を検討し,よりよいものにしていく。

●竹之内課長の課長としての役割の意味を尊重する

 当然,課全体の方向性にどう関わるかが前提である。ひとは,自分の役割意識を疎かにされると,軽視されたと感じ,感情的に反発する。どうすれば相手を尊重したことになるか,がポイントである。それには,まずは,

・礼儀正しいこと。ぞんざいに扱われて喜ぶ人はいない。

・正直であること。ごまかしや偽りなく,真摯に向き合うこと。

・そのとき,その場にふさわしい対応ができること。

●相手に不本意な役割を強いない

 誰もが自分の望む,満足できる役割を演じたい。交渉の中で,不本意な役割を甘受させられれば,屈辱や怒りを感じさせ,交渉が不首尾に終わることになる。満足できる役割には,重要な意味がある。

・何のためにしているかが自分に意味づけられれば,その役割を演ずることのの筋道ができる。

・お互いに,協力関係の中で,役割を担いあうことで,お互いに満足できる役割を再確認する。

リーダーシップについては,「リーダーシップとは何か」「リーダーシップ論」「リーダーシップに必要な5つのこと【1】【2】」を参照してください。
参考文献;
大江建『なぜ新規事業は成功しないのか』(日本経済新聞社 1998)
河野豊弘『新製品開発戦略』(ダイヤモンド社 1987)

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目次



研修プログラム一覧

管理者の役割行動・目次

リーダーシップとは何か

リーダーシップに必要な5つのこと【1】

リーダーシップに必要な5つのこと【2】

中堅社員研修・管理職研修

管理者の役割行動とは何か

管理者の役割行動4つのチェックポイント

管理者の管理行動例

コミュニケーションスキル@

コミュニケーションスキルA


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