当社では自社研究センターの開発した金属特殊加工技術を製品化するためプロジェクトチームが,各部署からメンバーが選ばれて編成され,開発課の末吉主任がチームリーダー,企画課の富永がサブリーダーで,8人でスタートした。
チームはまず機械試作の段階で,試練に見舞われ,1ヵ月たっても,目途がたたなかった。それは,機械化では,この技術使用のためのサブノウハウの開発が必要なのに,その技術が当社には不足していることがはっきりしてきたからであった。今後の進め方をめぐっては,チーム内は意見が分かれ,決着がつかないまま日時だけがすぎていった。
企画課の機械設計担当の富永は,外部委託を強く主張し,
「外部の試作会社を選定して,まずは機械試作を急ぐべきだ。そのことで,使用技術が確立していくはずだ。それで,時間を稼ごう。」
と提案していた。それには,研究センターから派遣されている牛島も,
「試作会社は,いいじゃないですか。まず機械をつくることでしょ。そうしなくては何もはじまりませんよ。」
と,それに強く同調した。しかし,製造部出身の竹中は,日常的に試作にかかわってきただけに,
「ここで外部に出すのはどうでしょう。もう目鼻がたっているんですよ。技術使用というのは,受注先で微妙に変わるはずです。それにこそ技術的な意味があるのではないだろうか。それをいまの時点で,外部へ委託してしまったら,われわれにノウハウをつかめなくなりますよ。」
と頑強に反対した。対立は平行線のまま,是非の判断は一長一短,決着はつきかねた。あとは,みな末吉の決断を注視している気配であった。そんな中,末吉は,開発部トップの長島部長から,呼び出された。長島部長は,「木村部長からいわれたんだがね,」と前置きし,
「機械製造を外部に委託する話がすすんでいるようだが,コスト的にも,商品の将来性からも,また機密保持の面からも,製造部としては,外部委託には反対だと強硬でね,再考の余地はないのかね。」
と打診された。末吉は,首を傾けながら,言訳めいた口調になっていた。
「いえ,まだ検討中で,どこからお聞きになられたかわかりませんが,きまったことではないのです。」
「それなら,なおのこと。考えてくれ。僕も外部委託は賛成ではないんだ。」
長島部長自身は製造部からせっつかれたためだとは言うが,開発部門の上司であることを考えると,むげにもできず,といってチームの総意となった場合は,それにそえないこともありえる。末吉は悩ましかった。
@何が起きているのか
外部委託か内製化かを,まだ内部で詰めている段階で,自説を通すために,その出身部門の責任者を通して,チームリーダーにプレッシャーをかけてくるということは,プロジェクトのメンバーとしての意識ではなく,自分の出身部門の利益代表になっているということを意味する。各メンバーが,それを言い出したら,チームは外圧の中で,チームとしての独立した意思決定が不可能になる。
しかし別の見方をすれば,チーム内の意見対立で,突破口が見えない打開策を,チーム外の出身部門の上位者に泣きつくことで見出そうとしているとも言えるのである。それは,チーム内で葛藤を解決するめどがつかないと見限ったことを意味している。それは,リーダーである末吉への不信と言ってもいい。いま,末吉リーダーは,このプロジェクトチームのリーダー足りうるかどうかが問われている。
Aチームの独立性は担保されているのか
プロジェクトチームが,出身母体の利害対立に巻き込まれるのはよくあることである。チームメンバーは,チームへの所属意識よりは出身母体への所属意識を優先させるということは,プロジェクトが終わった後,自分が戻ることを考えれば,当たり前のことだ。それを防ぐには,プロジェクトチームの最終責任者を各事業部を超えたトップクラスにゆだねるのが,ひとつの方策である。
どうも,部長クラスが直接末吉リーダーにプレッシャーをかけていない様子から見ると,一応組織体制としては,トップクラスが最終意思決定権者になっているようにうかがえる。少なくとも,ここには明確になっていない最終意思決定者との関係強化が絶対不可欠である。ある程度任されているとしても,その人の意思次第では,動きが変わる。きちんと日常的な報連相がどの程度行われていたのか。末吉リーダーの反応を見る限り,自分の出身母体の上位者との関係に悩んでおり,いま起きている事態の真の意味がわかっていないように見える。
Bチームリーダーの意思決定
いま,チームメンバーは,意見対立の中で,リーダーの決断をまっているようにみえる。それを躊躇すればするほど,噂はひろまり,出身部門からの圧力は強くなり,メンバーは支えきれなくなる。その端緒が,製造部門からの要請になって現れている。二者択一が迫られているが,本当にこの二案しかないのか,そういう問題提起を通して,自説で視野狭窄に陥っているメンバーに改めて,発想を変えることを求めることはできる。発想の着眼は,対立点にある。「この技術使用のためのサブノウハウの開発が必要なのに,その技術が当社には不足していることがはっきりしてきた」というのは,どれくらい確かめられているのか。プロジェクト内部で自己完結するのではなく,十分な情報収集がなされているのか。これが本当の争点でなければ事態は変わってくる。
D関係各部門との関係づくり
自分たちの知らないところで重要な案件が決定されるという疑心暗鬼に陥らせることは,結果として反対派を作っていくことになる。噂や伝聞という不確かな情報で横槍が入るのを防ぐために,メンバーの出身部門長に,途中経過を説明しつつ,プロジェクトの推移を見守ってもらうよう要請し,定期的な報告が必をする約束をすることである。それがチームメンバーを出身部門からのプレッシャーから守ることになり,チームの独立性を保つことになるはずである。その第一歩は,末吉リーダー自身が上司である長島部長と,きちんと話を詰め,納得してもらわなくてはならない。できるなら,プロジェクトの応援団になってもらえるようにしなくてはならない。
E再度チームづくりをしなおす
いま問われているのは,プロジェクトチームの存在意味だ。このチームは何をするために存在しているのか,またこのチームで何をしようとしているのか,そのために,メンバーは何をしなくてはならないのか。改めて,それが再確認されなくてはならない。そこで問われているのは,末吉リーダーのリーダーシップであり,チームの目的なのだ。
◇プロジェクトチームの進捗停滞に端を発した,意見対立とそれが出身母体に伝聞し,そこからの反対意見が生じることによって,チームメンバーがばらばらになり,チーム自体の存在に危機が生じている。ここでのねらいは,それをどうチームを結束させていくか,リーダーシップが問われている。まずは,プロジェクトそのものを問い直し,チームとしてのまとまりを再構築していくリーダーシップとは何かが問われているのである。
@プロジェクト・チームの要件は何か
プロジェクトチームの要件としては,
●何のためのチームなのかが明確で,何をするためのチームなのか,チームの存在理由と意味が明確であること
●チームとして到達すべき目標が明確で,共有化されていること
●目標達成のために,役割分担がはかられ,相互の役割が機能的に統合されていること
等々があげられる。つまり,チームの存在意義となすべきタスクが明確であり,それをするための役割分担がきちんととれている。だからこそ,お互いをつなぐつながり方ができあがっていく,といえるのである。
では,チームメンバーからみると,どういうときにまとまり,どういうときにまとまりが損なわれるのか。
@チームが組織内での位置づけが高いと認識されているとまとまる。
Aチームの目指す目標が魅力的なとき,チームに魅力を感じる。逆に目標達成が不可能になったり,大きな障害を突破できないと感ずると結束力が弱まる。
Bチームの意思決定にメンバーの参画度が高いとき,まとまりは高くなる。
Cチーム内で重視されていると感ずるメンバーはチームに魅力を感じる。
Dメンバー相互の協働関係が強ければ,チームに魅力を感じ,対立関係が強まると結束力が弱まる。
Eチームの価値(そのチームに所属していれば有益,誇り等々)があると感じられると魅力を感じる。
等々といわれる。これを左右できるのはリーダーのリーダーシップしかない。
Aチームの活力を高めるためにリーダーはどうあるべきか
チームの活力を高めるには,どれだけメンバーが共有できる目的をもてるかである。そのために,リーダー自身も,確信をもってチームの目指すもの(目的)を指し示すことができなければならない。
何のためにそれをするのか(目的意識)に魅力があり,そのために何をしたらいいか(目標意識)が共有化され,どういう役割を果たせばいいのか(役割意識)が分担され,何をチェックしたらいいのか(評価基準)が一致できていれば,チームメンバーがひとつの目的実現のために一体となって取り組むことができるはずであり,それは,チーム全体のやる気の根源となるはずである。
しかしそれは,組織やチームの視点に過ぎない。チームの活力が何のために必要なのかによって変わるはずである。たとえば,大まかに3つの面から考えてみることができる。
第一は,チーム自体のパフォーマンスにとって。チーム自体の維持と向上から,活力がなくてどうして,結果を挙げられるだろう。それがなくて,チームの存在意義はない。
第二は,リーダー自身のパフォーマンスにとって。チームに活力がないとは,リーダーが何かを求めても,メンバーからは何の反応も,前向きの行動も生まれず,ただ言われたことを仕方なくやっている,ということになる。それではリーダー自身にとっても,その一つ一つの仕事にも,自分自身の存在にも,意味も達成感も見出すことはできない。
第三は,メンバー自身のパフォーマンスにとって。メンバーが,自分がそこにいて,働くことに意義を感じられること,特に自分がそこで有用とされ,そこでの成果に寄与できているという有効感や,そこで働くことで自分自身のやりたいことを実現できるという効力感がもてなければ,そこですごす時間は単なる義務感でしかない。
リーダーは,どうしてもチームへの貢献を求めがちだ。ともすると,リーダーはチーム目的と一体化してしまっているからだ。チームとしての「しなくてはならないこと(環境要因)」「できること(内部要因)」「したいこと(意思)」と,リーダー自身の「しなくてはならないこと(環境要因)」「できること(内部要因)」「したいこと(意思)」とがイコールとしてしまっている。もちろん,それを否定する気はないが,その範囲にとどまる限り,個人商店主的リーダーシップであって,そのチームの存在意味も限定されたものであるし,そうしたリーダーシップは,メンバーにとってメンバー自身の活力を減らすストレス要因そのものにもなる。
本当は,まずリーダー自身が本当に,そこで自分自身を活性化できているのか,と自問しなくてはならない。心から充実し日々生き生きとしているのかどうか。気づかずにやらねばならないこと(それも自分のそれではなく組織のそれ)とリーダーとして役割から来るやりたいことが重なって,本人はそれが自分のやりたいことと勘違いし,迷惑にもそれをメンバーに強要していることはないのか。問題なのは組織と一体化していることではなく,リーダー自身がそれに気づかず,あたかも自分の意思であるかのごとく思い込んでいることだ。そこでは,ただ「なすべきこと」を要求するだけのリーダーシップしかない。それはリーダーシップではなく,ボスという肩書きに頼っているに過ぎない。
たとえば,活力というのをイメージとして言うなら,チームメンバーひとりひとりが,自分自身の責任でなすべきことをわきまえ,その達成のためにチームメンバーと助け合いながら,組織としてのパフォーマンスをあげるように努力するプロセスということができる。そのときメンバー自身もまた自分自身の本音と意思に向き合い,何をしたいのか,それは今ここでできているのかを考え,チームにもオープンに話せる雰囲気がなくてはならない。それがなければ,表面上は活発な意見交換がなされても,それは組織として「なすべきこと」についてのみであって,ひとりひとりの「やりたいこと」を諦めるか,はじめから考慮に入れていないか,そもそも意識していないか,のいずれかでしかない。それを方向づけていくのがリーダーシップそのものなら,リーダー自身が自分の本心と本音と意思に,きちんと向き合っていなくてはならない。でなくては,結局その活力は,メンバーのためのものではなく,組織とリーダーのためのものでしかない。それは真の活力とは言えない。
Bリーダーシップに何が必要なのか
一般的に,
@リーダーシップはトップのものである,
Aリーダーシップはパーソナリティである,
Bリーダーシップは対人影響力である,
といった常識がある。しかし,リーダーシップは,トップに限らず組織構成員すべてが,いま自分が何かをしなければならないと思ったとき,みずからの旗を掲げ,周囲に働きかけていくことではないか。その旗が上位者を含めたメンバーに共有化され,チーム全体を動かしたとき,その旗はチームの旗になる。そのリーダーシップにふさわしいパーソナリティがあるわけではない。何とかしなくてはならないという思いがひとり自分だけのものではないと確信し,それがチームメンバーのものとできれば,リーダーシップなのである。そこに必要なのは,自分自身への確信である。それは自分を動かすものだ。それが人を動かす。リーダーシップは他人への影響力である前に,自分への影響力である。「お前がやらなくて誰がやるのか」「自分がやるしかない」「自分はこれを何として実現したいのだ」と,みずからを動かせるものが,自分の中になければ,人は動かない。それが旗の意味であり,旗の実現効果であり,そこに共に夢を見られることだ。
だから,リーダーシップに必要なのは,@周囲を巻き込める夢の旗を掲げられること,A夢の実現プランニングを設計できること,B現実と夢とを秤にかけるクリティカルさがあること,である。「こうすべきだ」だけでは人は乗らない。それが単なる夢物語でも人は乗らない。夢と現実味をかね合わせて,たえず点検していける精神こそが,求められるリーダーシップである。
Cなぜチームにビジョンが必要なのか
自薦他薦で「リーダーになる」ことは可能だが,メンバーにリーダーと認知されない限りリーダーではありえない。リーダーと認められなければ,仮に旗を掲げても,誰もついていかない。いまリーダーであるからといって,いつまでもリーダーでありつづけられない。常にメンバーから問われているのは,(あなたは)「何のために(何を実現するために)リーダーとして存在しているのか」である。その答は,リーダーである限り,自分で出さなくてはならない。その答が出せなくなったとき,リーダー失格である。
もちろん「リーダーである」ことは目的ではない。あくまでチームの目的を達成することが目的である。それにはたえず「チームの目的は何か」を明確にさせなくてはならないだろう。リーダーは,一方では,自分は「何のために(何を達成するために),リーダーとしているのか」「(目的を達成するために)リーダーとして,何をしなくてはならないのか」「(目標を達成するために)リーダーとして,どういうやり方をすべきなのか」等々と絶えず自問しつづけなくてはならない。しかしそれだけに自己完結させればチーム維持そのものが目的化してしまうだろう。だから他方では,果してこのチームはまだ存在する理由を,持ちつづけているのかどうか,チームの使命そのものへの問い直しもまたリーダーにしかできないことである。
チームにビジョンが必要なのは,チームは何をするために存在しているのかというリーダーの問いへの答えが,ビジョンであり,旗印であるからである。旗を鮮明に掲げ続けられるかどうかは,リーダーがチームの目的とどれだけ格闘したかの結果であり,そこにこそリーダーシップが必要なのである。そのビジョンが,それを実現するために何をすべきかを,メンバーに考えさせる値打ちがあるかどうかをリーダーは問われているのである。
@プロジェクトチームの成功要因
●プロジェクトのコンセプトが明確である
・顧客が明確であるか。つまりユーザーは特定されているのか。
・製品・サービスが明確か。つまり何が解決さるのか,あるいは何が実現されるのか。
・差別性が明確か。つまり何が違うのかがはっきりしているのか,他にない何があるのか,等々。
●支援するトップと支援するミドルマネジメントが不可欠である
成功した開発プロジェクトの第一要因は,「トップの理解と励まし」である。このトップが,社長であることもあるし,研究開発部門のトップの場合もある。最初は少数のトップの支援でも,その人の影響力で多数のトップのコンセンサスをとりえるからなのである。幸運にも,社長がそのテーマに強い関心をもっている場合もあるかもしれないが,トップの関心をひきつける努力はプロジェクトチーム,特にリーダーのトップへの関わり方にある。仮に名目上であれ,実質的であれ,最終意思決定権者が,ほっておいてもプロジェクトに関心をもち,強くバックアップしてくれるというのは他人任せにすぎる。みずから,どうすれば,強い関心と支援をもらえるか,チームメンバーとともにアイデアをしぼらなければならない。
そのとき忘れてならないのは,プロジェクトに関心をもってくれる,ミドルをみつけることである。それでなくても,新規のプロジェクトは既存の事業にとって強力なライバルになりうるし,また自部署から有力な人材を割かれていたりもするので,利害に反することが多く,ともすれば足を引っ張られる。そんなとき,ミドルクラスに,理解者と支援者を見つけることは,実質的なプロジェクト運営にとって,協力な援護射撃になる。
●目標が明確であり,責任がはっきりしている
プロジェクト成功要因で多いのは,「目標が明確,テーマが明確」「責任が明確」である。テーマが明瞭で,限定されており,期限が明確で,予算の裏づけがあることで,チームにやる気を起こさせる。それが自社にとって重要な課題であるほど,トップの関心も高く,達成にやりがいが高くなる。
●リーダーが優れ,メンバーが優れた異種混合チームであること
成功要因に多いのは,「チームリーダーが優秀」「メンバーの質と量」「チームワークがいい」である。リーダーにとって,メンバーは所与だが,与えられたリソースをどう有効に機能させて,ひとりひとりの力を引き出し,チームワークを高めていくかは,リーダーのリーダーシップそのものである。
●情報収集力がある
・外部情報,特に基盤技術の情報,特許情報,その他消費動向,市場情報など,ニーズに適応する情報,他社情報
・内部情報,異種の知識や情報の交換
・その他非公式の情報源,人的情報源のネットワーク
意外に,情報の多くは,社内やチーム内にあることがある。それが特定の誰かに秘匿されていることがある。それは待っていても見つからない。チーム側から働きかけていく。人を介して探していくことになる。その協力関係づくりも,バックアップを得るための手段になるはずである。
●関係部門との協力関係をつくっている
結局社内のコンセンサスをどうとるかが,プロジェクトの成果を実践していくときに問われる。しかしそれはプロジェクト推進中から関係部門との調整,協力関係をどうとってきたかにかかっている。
トップの関心や関係部署のバックアップは,実は,チームメンバーのやる気や元気につながるのである。関係部門から,どんな意見であれ,コンタクトがあったということは,そことまだ協力関係ができていないということである。そこでどうきちんと考え方を示し,バックアップしてもらう関係にするかが重要である。重点関係部門をピックアップして,そのことを,チームメンバーときちんと協議し,それぞれの役割を分担しながら,対応策をとっておく必要がある。
●チームメンバーにとっての動機づけと達成感がある
個々のメンバーにとって,このプロジェクトに参加することが社内的にどうとらえられているかということと関係があるが,誇りであったり,それ自体に名誉であったりという動機づけと,これに参加していくこと自体が,自分のキャリアにとって意味があると感じられることである。それは与えられるものではない。周囲に認知されることを通してえられるはずである。チーム内に自己完結させず,周囲への働きかけることを通して承認と認知が得られていくはずである。
●チーム内の円滑なコミュニケーションがとれている
情報の共有化,問題意識のすりあわせ,ざっくばらんな会話が保証されている。チームワークのよさと関連するが,ミーティングのような制度化されたコミュニケーションだけでなく,日常のさりげない会話やすりあわせがふんだんに行われていることが必要である。それはリーダーから働きかけていける。「なにかあった」「僕のサポートできることはない」「何かあったら聞かせてね」等々。
●スケジュール管理が十分行われていること
スケジュールの計画と進捗管理がきちんとできていること。これは,コミュニケーションの機会や場があることと関連があるが,マイルストーンごとの中間報告やチェックが厳密に行われていることで,やりなおしや後戻り,停滞を最小化する。中間報告は,当然関係部署との関係強化にも機能するはずである。
Aプロジェクトの共通認識の再形成をはかる
●自分たちのやっていることへの確信と意味づけを見失わない
いま問われているのは,プロジェクトチームの存在意味だ。このチームは何をするために存在しているのかが揺らいでいる。再度このチームで何をしようとしているのか,そのために,いまメンバーに何が問われているのかを,再確認しなくてはならない。
チームの凝集度(力)を高めるのには,どれだけメンバーが目的意識を共有化できるかである。そのために,リーダーは,確信をもって,何のために自分たちのチームがあり,チームの仕事があるのかを指し示すことができなければならない。末吉リーダーは,見失いかけているチームの存在意味を問い直さなくてはならない。それは,次の点であろう。
・プロジェクトの目指す製品開発の将来像,つまり,チームメンバー内で,自分たちの新製品が,市場で,どんな位置づけになるか,の共通理解ができているかどうか。当社にとっての重要度,市場での価値,競争相手との競合関係についての共通認識があるかどうか。
・プロジェクトの会社でのポジショニング,会社内でどんな位置づけになっているか。どんな意味があるかによって,このプロジェクトに参加することの,それぞれの参画意識,動機づけにかかわってくる。
この2点が,チーム内では揺らいでいる。自分たちがやっていることの意味づけの再確認が不可欠である。
●ゴールの明示と進捗プロセスの共有
いま,プロジェクトは二者択一の前で立ち往生している。しかし必要なのは,事態を俯瞰する視点である。たとえば,本当にこの二案しかないのか,この技術使用のためのサブノウハウの開発が必要なのに,その技術が当社には不足しているというのは,どれくらい確かめられているのか等々という問題提起を,チーム内で自己完結させず,広く組織内外で情報収集をしてみる。
それは,チームにとっては,チームを挙げて問題解決に取り組むことになり,さらに,関係部署,関係する人々に協力を求めることで,プロジェクトに巻き込み,組織を挙げて,自分たちの問題として,チームをバックアップする雰囲気を醸成していくことができる。そのためには,同時に,関係部署にメンバーだけでなく,チームリーダー自身が積極的に話し合い,たとえば,内製化をするためのリソースやノウハウを組織内外に探る手助けを等々,協力を求めるアプローチが不可欠である。チームとしてのこの作業に取り組むことが,いまの進捗状況を自分のものとして把握し,プラス・マイナスの手ごたえをつかむ機会になっていく。
●チームに何で貢献するかの再確信
いまチームの直面している問題に,どう分担して取り組むか,その中で,いままでの役割分担と貢献の仕方とは別の分担,別の貢献の仕方が見えてくる。それは,プロジェクトのステージが,別の段階に達したことになるはずである。その体験を通して,「自分の有効感・有能感と自己決定感」(自分がやった結果できた・役立ったという満足感)を味わう機会がふえ,自分の成長になることが,チームの一員としての意味につながり,新たな自己評価を下せるようになることは,チームのメンバーにとっても重要なはずなのだ。
●共に戦っているフィールドの共有化
担当したことを,共通の場でフィードバックしあう。それは,特定の部署の抵抗といったマイナス面との戦いではなく,プロジェクトを意味あらしめ,その存在意義を高めるために,一緒に問題や障害と戦っていく,そのことがチームの一体感をつくりあげていくはずである。そういうフィールドは,情報交換と問題のすりあわせの機会を意識的につくりだし,その中で,情報と問題を共有し,チームとして打開し,解決していく中で,強まっていくはずだ。そのフィールドを,維持し続ける努力こそが,リーダーに求められている。
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