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チームを育てるマネジメント(7)

プレイングマネジャーの旗を立てる
 


  • 【ケース7】マネジメントしないプレイングマネジャー

いっとき席を外していた大沢チーフは,あわただしく部屋に戻ってきた。それを待ちかねて,小森主任が声をかけてきた。

「高木支社長から,先日の件どうなったと,催促がありましたが,」

大沢チーフは,何のことかわからず,一瞬頭が白くなった。

「僕が,先週,不在のときにことづかった件ですが,」

「先週,」と言ったものの,大沢チーフは思い出せなかった。「出張から戻られた朝,」と,小森主任に助け舟を出されて,大沢チーフはやっと思い出したが,すっかり忘れていた。小森主任も察知したらしく,念を押すように,再度用件を繰り返した。

「時間がないそうで,あすまでに添付ファイルで送ってくれるように言われました。僕の方でやりますか」

 「悪いんだが,磯崎課長に呼ばれててね。これから一緒に出掛けなくちゃならない,高木さんには,僕が後で連絡しとくから」

と,そのまま鞄を抱えて,再びあたふたと出て行ってしまった。

 午後,席に戻った大沢チーフを,山崎が待ちうけていた。懸案になっている値下げについて,資材課との交渉に助言を求められると,

「君がいっても,埒があかんだろう,よし,ぼくがいま行ってくる。」

そう言いしな,大沢チーフは,駈けるようにでていった。小一時間して戻った大沢チーフは,立ったまま,「吉田君」と大声をあげた。

 「君,なんで無断でこんな処置をしたのか,いまそこで磯崎課長に確認されたが,僕は聞いてないぞ。前にもいったと思うが,君の担当に違いないが,必ず僕に報告してくれないと。」

 「基本線はOKといわれましたので,そのまますすめたんですが,」

 不服そうな吉田君には,そのまま背を向け,大沢チーフ「森君」と呼んだ。

「この間,君の言っていたB社に同行する件だが,いまからどうだろう」

「あっ,あの件ですか,小森さんと一緒に行って,話を詰めました。」

「僕が一緒にいくといったろ,何で言わないの」

「先日来,ご返事がなかったのものですから。たまたま小森さんが近くに行かれるので,一緒に行っていただきました。後でご報告するつもりでした。」

 「午後時間をあけたのに」と不満そうに言うと,大沢チーフは,こう付け加えた。

 「では,詰めの時は,僕が一緒に行こう。これは,僕が専門なんだから。」

 背後で,小森君が大声を上げた。

「高木支店長から,また催促の電話です。」


  • 何が問題なのか

@いま何が起きているのか

 どんな職場でも,業務は次々と発生し,その処理に追われる。しかしこの職場では,どの仕事が優先されるべきかを誰も気にしていない。たとえば,チーム全体にとって優先されるべきは何か,あるいは大沢チーフにとって優先すべきは何か。小森がせっつかれている件の処理と,山崎の懸案事項と,吉田の同行とが,大沢チーフの中でも,チームメンバーにも,同列になっている。というより,ただ眼前に起きた順に処理を迫られているにすぎない。仕事は次々と流れる。それに振り回されて,駆けずり回っているが,一体,その仕事のひとつひとつがどれだけ意味づけられているのだろうか。意味づけるとは,チーム全体の中での位置づけと同時に,大沢チーフにとっての位置づけのふたつの意味がある。たとえば,それは,いま自分のすべきことなのか,あるいはそれをいま自分がすることが,チームにとってどんな意味があるのかが,わかっているかということだ。

Aそれぞれの役割と責務は明確なのか

大沢チーフは,自分がチームにとってどういう存在なのかが自覚できていない。すべてに責任を負うということは,すべてに直接関わるということではない。何をするために自分はチーフなのか,大沢チーフはまずは,自分のポジショニングを再確認するところからはじめなくてはならない。

それにしても,そもそもチーム自体が,何をするために存在しているのか,つまりチーム自体の目的が,チーム内で共有化されているのだろうか。メンバーそれぞれも,自分をどう位置づけて仕事をしているのだろうか。目の前に起きている仕事が,自分にとってどんな意味があるのか,あるいはそれを自分が処理することが,チームにとってどんな意味があるのか等々を,誰も考えているようには見えないのである。

B大沢チーフは何から始めるべきか

 たぶん,チームの目標も各自の目標も,仕事をこなすように,設定されてはいるに違いない。しかし何をするかが明確になることよりも,それをするのは何のためかが明確になっていなければ,ただ,しなければならない何かに追い掛けられているだけだ。それでは自分がそれをしている意味は見えないし,ましてやその仕事に何のやりがいも見出せるはずはない。まず@チームは何をするためにあるのかを明確にするべきだ。何をするかではない,チームがそれをすることの意味を共有化しなくてはならない。次に,Aチーフ自身は何をするためにいるのかを問わねばならない。そして,Bメンバーそれぞれは何をするためにいるのか,そこで仕事をすることで,どんな意味につながるのかが確認されなくてはならない。それなしの目標は,ノルマにすぎない。その上で,Cチームの現状はどうなっているのか,D何がチームの目的から優先さるべきなのか,E誰にどんなサポートがいるのか等々と,チームのパフォーマンスを具体的にあげる工夫へと踏み込んでいいくことになる。

C誰かを補佐役としてサポートをえる

チームの目的と役割分担を見直すことは,同時に,チーフのしなくてはならないことは何か,逆に言うと,チーフでなくてはならないことは何かを明確にすることだ。そのことを通して,自分の補佐を誰かに頼むことを考えることになる。その点で,小森が周囲から頼られており,目配りもきく。かれを補佐として,チーム内の分担を見直さなくてはならない。彼を自分の補佐として,まずチームの編成をしなおさなくてはならない。幸い,小森自身には,その自覚があるように見える。いまの状態は,小森を単なるプレーヤーのままに放置することである。小森を大きく育てる視点がないのである。


  • 問題の背景に何があるのか

◇ここでのねらいは,プレイングマネジャーとは何か,である。プレーヤーの部分に視点を置くと,単なる先輩になる。マネジャーの部分に視点を置くと,チーム全体のマネジメントになる。しかしそもそもなぜ自分がそこにいるのか,何をするためにそこにいるのかが,わかっていないと,そのつど主義に陥る。プレイングマネジャーとしてその役割を達成するとは何をすることなのかを明確にすることである。

@大沢チームは何のために存在しているのか

自分自身が担っている仕事の意味を自覚し,それを実現するために,チームは何をすべきかを明確にすることがまず前提となる。そのためには,所属している上位部門をあずかる上位者が,何を目指し,何をしようとしているかが,つかめていなくてはならない。その上で,その達成に貢献するために,チームとして,何に重点を置くのか,何をすべきなのかを明確にする。これが,チームの旗である。それは,チーム構成員を巻き込む目印であり,場合によっては,この旗の故にこそ上位者に動いてもらわなければならない,大義名分ともなる。大沢チーフには,チーム全体に関わる方向性や上位チームとのかかわりに目が向いていないようにみえる。管理者としての視野が,個人の業務遂行ベース,個別の部下にしか向いていない。まずは,チームの目的,チームの役割をきちんと共有するところからはじめなくてはならない。いま,大沢チームは,チーフも含めて,メンバーが同列に集って仕事をしているにすぎない。

Aチーフは何をするためにいるのか〜主体的に役割を作り上げる

 いまある役割を当たり前のように前提にするのではなく,組織の中で何を達成するために,自分がそこにいるのか。そのために何をすべきなのかの確認が必要である。また,公式の管理機能だけが役割ではない。それを果すだけなら,自分でなくても誰でもいい。自分は,目的達成のために何をすべきかを,主体的に考える中で,役割をつくりあげていく。これを旗と呼ぶ。

多忙さとは関係なく,どれだけ「目的意識」を失わないかにかかっている。それ(その仕事)は「何のために(目的)するのか」,その目的からみて,目標・手段は適切か,あるいは「その目的は今も重要か,もっと別の目的(何のために)を創れないか」等々の,問いを続ける姿勢である。その役割は固定ではない。それなら,誰が担当者になっても同じになる。自分の役割に主体的に格闘し,何をウエイトを置くか,を決めていく。

Bそれぞれが自分の仕事の役割を明確にする

 チームの旗が明確になることによって, 部下ひとりひとりが,自分が何をすべきかという旗が立てやすくなる。担当としてどういう旗を立てれば,チームの旗に貢献できるのかと,メンバーひとりひとりが,自分の役割を主体的に受けとめなおすことができるのである。

 

それは,メンバーひとりひとりが,チームの中での自分の意味づけ,自分の仕事の意味づけを考えることによって,自分とチームとの関わり,自分と上司との関わり,自分の仕事と他のチームメンバーとの関わり,自分たちのチームの仕事と上位チームの仕事とのかかわり,更には組織全体とのかかわりを考えていくことなのである。それが,自分の立場,役割として,自分のチームの目標を達成することが,自分や自分のチームの所属する上位チームの目標(チームの目標からみると目的)にどうリンクしていくかを意識することである。つまり,旗をたてるとは,自分および自分のチームが何をすべきかを自分なりに明確にする作業なのである。それは,自分のチームでのポジショニングをはかり,ひいては組織でのポジショニングを意識することにつながるのである。

Cプレイングマネジャーとして,おのれ自身の仕事の旗を立てる

 大沢チーフが,自分の立てたチームの旗に,担当としてどういう旗を立てて,チームの旗に貢献するかを考えるのが,プレイヤーとして大沢としての仕事だ。プレイングマネジャーはチームの旗と同時に,それにどう貢献するか,メンバーひとり一人と同様に,自分の担当の旗も立てる。

D各自の役割・業務・目標がチーム全体とリンクづけられている

現在の自分の役割,組織の業務分担から自分の目標を見るのと同時に,目標の意味づけから自分のポジションを整理して見ると,前頁の図のようなイメージになる。そこでは,日々の仕事が組織全体とどうリンクしているかを再確認できている。この状態こそが,チームがチームとして一体化している状態なのである。

【各自の役割・業務・目標がチーム全体とリンクづけられているとはどういう状態か】


  • どうすればいいのか

@補佐役を育てる

たとえば,小森を補佐役として育てることで,自分のプレーヤーの部分以外の,マネジメント部分のサポートが得られる。逆に言うと,小森にゆだねる役割を明確にすることで,チーフとしての自分のしなくてはならないことも明確になっていく。たとえば,部下を育てるニーズには3つある。

 @部下の担当している仕事のレベルアップ〜担当している部分自体の幅と質のアップ

 A部下が本来求められている役割にふさわしい担当業務領域の拡大〜その役割ならもっとやってほしい期待される力量

 B近い将来求められる役割にふさわしい業務領域への浸透〜これからはもっとこういうことをになえるようになってほしい期待値

 @は,今担当している業務の質量をレベルアップするための必要点である。通常これを部下育成の必要点と考えるが,これは現状の業務遂行を前提にしているにすぎない。本来は,そのキャリアと職位から考えると,もっと幅広い役割が期待されていることを自分で受け止められれば,周囲の求める期待にふさわしい役割を実現するには何をしなくてはいけないかが,おのずと本人に見えてくるし,もしそこに手がついていなければ,それにふさわしいスキルと知識と経験を積まなくてはならない,と自分で気づくし取り組むはずである。それがAである。しかしそれは@の視点に立っている限り決して出てこないのである。更に近い将来,組織の中であるいはキャリア上(たとえば後継者として),求められる役割が高まり,それにふさわしい業務遂行ができるように,いまから少しずつスキルと知識と経験を積まなくてはならないと気づくこと,それがBである。必要なのは,チームの目的を実現するために,自分のポジションでは何をすべきかを,いつも,主体的に考えられる力である。それには,まずAができること,それを未来のキャリア形成へ延長させることでBが見えてくることになる。

A小森に自分の旗をたてさせてみる〜自分への確信の根拠

1.現在の役割を確認する。

 それには,自分のやっている仕事を列挙してみることだ。

2.周囲の期待,上司の期待からみて,自分の役割を考えてみる

 ・自分と上位との関係の中で,自分がどういうかかわり方をするのか

 ・自分が周囲からどういうことを期待されているのか

 という中で,自分に求められている役割は何か。

3.自分がどうしたいのか,どうなりたいのか,どうあるといいのか,を考える

自分がこれからどういう役割行動をになっていきたいのか(自分は何をするためにそこにいる人なのか)を考えることを通して,自分にとってのその役割の意味を見直すことになる。

●上記1.2.3.を受けて,改めて自分の役割を明確化し,その役割に自分の旗(自分のキャッチフレーズ)を考える。その上で,その旗から見て,現状やっていることの中で,抜けていることはないかを考える。自分の仕事に旗をたてるということは,自分をチームの中,あるいは上位組織の中で,どういう位置にいるのか,その中でなにをするためにいるのか,役割を主体的に考えることになるはずである。

 このことを,大沢チーフはチーム全体の視点から,プレーヤーとしてではなく,マネジャーとして支えていかなくてはならない。それは,大沢チーフ自身の旗のありようが,自分が上司との間で,どう期待を主体的に受けとめ,自分自身のなすべきことを定めているかが逆に照射される。大沢チーフの旗が明確になっていなければ,小森の旗は明確にしようがないのである。

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目次



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管理者の役割行動・目次

リーダーシップとは何か

リーダーシップに必要な5つのこと【1】

リーダーシップに必要な5つのこと【2】

中堅社員研修・管理職研修

管理者の役割行動とは何か

管理者の役割行動4つのチェックポイント

管理者の管理行動例

コミュニケーションスキル@

コミュニケーションスキルA


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