管理者に必要なのはアサーティブな自己表現である。それは,「自分も相手も大切にした自己表現」である。自分の意見,考え,気持ちを率直に,しかしその状況に合わせて適切に表現できることを,アサーションと言う。 自己表現には, @攻撃的(アグレッシブ)な自己表現 自分の意見,主張は大切にするが,相手のことはあまり眼中にない。結果として相手に自分を押し付けることになる。たとえば,並んでいるときに割り込まれると,「おまえ,ここはみんな並んでいるんだ,後ろに並べ」と大声で怒鳴る人。「私はOKあなたはOKでない」という姿勢。 A非主張的(ノン・アサーティブ)な自己主張 相手に配慮やおもんぱかりはするが,結果として自分の思いや主張を表現しなかったり,し損ない,自分を大切にしないことになる。たとえば,列に割り込まれると,一人でぶつぶつ言うが,我慢してしまう人。結局ストレスがたまり,被害者意識を募らせることになる。「私はOKでないが,あなたはOK」という姿勢。 Bアサーティブな自己表現 自分も相手も大切にする自己表現。しかし自分の意見がとおるというのではないが,安易に妥協せず,お互いの意見を出し合い,譲ったり譲られたりしながら,相互に納得のいく結論を出そうとする。そのプロセスを大事にするから,葛藤が起こることを覚悟し,葛藤を引きうけていこうとする気持ちが強く出る。したがって,強く主張するだけでなく,相手の表現にも耳を傾ける。たとえば,列に割り込まれたときは,「ここは皆さん並んでいますから,後ろに並んでいただけますか」と冷静に,きちんと伝える。「私はOKあなたもOK」という姿勢。大切なことは,共有できる事実で語ることだ。
D=Describe 自分のぶつかっている状況や相手の行動について,相手と共有できる客観的事実を描写する。自分の気持ちや感情を交えずに表現する。
◇アサーティブであることのスキル @自分を知ること 自分の気持ち,考えに正直であることが前提となる A共感的理解 相手が何を感じ,何を考えているか,相手の立場で理解しようとすること B受容 相手を受け入れられるには,自分自身を受け入れられなくてはならない C対等で相互尊重 権威や立場で相手を操作するのではなく,相手を知りたいという思い D自己信頼・自己尊重 自分を信頼することで,自分の内部の声に耳を傾けることができる E自責 相手を尊重する,相手に耳を傾けるのは,自分の責任でするということ。そうするのもしないのも自己責任 F多様性を受容 自分と異なる多様性こそがチーム力に繋がる G感情を言葉にする 怒ってしまえば,感情そのものをぶつけたことになる。「私は怒っている」と表現することで,相手との理解の土俵ができる H非言語コミュニケーション 言葉以外のしぐさ,表情もまたコミュニケーションになっている。コミュニケーションのうち,言語は7%しか占めていない。残り93%のうち,55%が表情,38%が口調。
・Lは,Look at の意味。自分の気持ち,欲求を振り返ること。たとえば,「困っている」「緊張している」「腹がたっている」「反対である」といった,相手に伝えたい自分の気持ち,感情を明確にしておくことである。 ・Aは,Arrangeの意味。相手に切り出すTPOを決める。 ・Dは,Define problem situation つまり,自分のかかえている問題状況を明確にすること。そのときの鍵は事実に即して,ということ。 ・Dは,Describe your feelingsつまり,「私は……と思う」(これを“Iメッセージ”と呼ぶ)と,自分の気持ちを表現し,伝える。「おまえは」と怒りをぶつけるのではなく,「私は,君のその態度に腹がたっている」と表現することで,コミュニケーションの土俵に乗せることになる。 ・Eは,Expressつまり,以上の自分の気持ちを表現していく。 ・Rは,Reinforceつまり,自分の提案に相手が乗りやすいように,スパイスを加える。たとえば,「そうしたほうがあなたにかくかくのメリットがあるはずです」あるいは「そうしないとこういうマイナスがあります」といったようなメッセージを加える。
@共有できる事実をさがす いきなり自分の要求や感情を伝えるのではなく,相手にもわかる事実を伝えようとすることで,自分の感情を押さえることにもつながる。たとえば,列に割り込まれたとき,「ここは並んでいるんですよ」「列の後ろはあそこです」という。 A感情にとらわれない状況把握 非難したくなっても,その気持ちを脇において,状況を観察する。そうすることで,相手の行為の理由や状況が見えてくる。観察するということは,状況や相手について見える事実を客観的に把握することであり,それを感情的でなく,言葉にできれば,会話の土俵ができる。「何でそんな態度をとるんだ」と怒鳴っても,問題は解決しない。売り言葉に買い言葉になるのなら,「そういう態度をとられると,僕としては君を助けてやる気持ちがなえてしまう」と言ったほうが,次へつなげられる。
@具体的な提案をする 観察された事実と自分の感情を区別できていれば,どうしてほしいかをきちんと伝えても,そのメッセージは伝わるはずである。具体的であるとは,5W1Hである。いつ(からいつまでに),何を,どうしてほしいのか。 A選択肢を提案する やるかやらないかというのは,提案ではない。相手の意志で選択できる可能性を,相手と一緒に考えても言いが,複数(できれば3以上)考えること
参考文献:平木典子『自己カウンセリングとアサーションのすすめ』(金子書房)
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