問題への感度を支えるもの
知識とは何か
問題意識とは何か
問題意識を高めるにはどうすればいいか
情報と接するときの,インターフェースにあたるのが,その人の感度である。どんな情報にアプローチするのか,何を拾い,何を捨てるのか,情報のどこに注意を払うのか,何に気をとめるのか,のポイントとなるものだ。それは,内のリソースと外のリソースに分けて,大まかに,仮説的に考えておく。
情報への感度には,その人のもつアンテナとその人のフィルターのふたつの側面から考えなくてはならない。それを内的リソース(資源)とよぶなら,その感度を上げるには,アンテナの感度をあげることと,フィルターを活用することだ。フィルターはよく固定観念とか先入観と呼び習わされている。それはその人の知識と経験と気質のすべて,その人のもつ内的リソースそのものである。
アンテナは,問題意識と呼んでおく。これは,いまその人のいる状況,たとえば,どんな仕事をしているか,チームとしてどんな課題やテーマを追っているか,どんなことに興味や関心をもっているか,どんなニーズや動機をもっているか,といった,その人のいる文脈によって規制されている。
フィルターは,そのひとが培ってきた内的なものの特質,これまでの経験,知識,技能,あるいはもう少し体質的な気質や性格といった,いわばその人のパーソナルな特質にかかわるものだ。大きく分けると,
知的フィルター
感性的フィルター
にわけられる。前者は,その人の知識,経験であり,自分のもつ意味や価値を通してものを見る。どちらかというと後者は,その人の感覚的,感情的なうけとめ方であり,ある部分生得的ではあるが,多くは生きる中で身につけてきた,喜怒哀楽や好悪を通して見ることとなる。多くはマイナス的に受け止められるが,むしろそれを自分の特徴として受け止める姿勢がいる。それが,外部リソースを生かす鍵になる。
内的にもっているものだけでは,どうしても限界がある。そんなときに,外部の頭脳を使うことになる。有識者の見解を求めたりするのはその一つだが,チーム内,組織内での情報交換や意見交換,つまりはキャッチボールを通して,別のリソースを手に入れるということが重要になる。たとえばブレーンストーミングのように,人とのキャッチボールを通して,相手のリソースを借りて,自分にないアンテナやフィルターを手に入れる。キャッチボールをする効果は,異なるリソースに出会うことで,自分の中で気づかなかった,あるいは埋もれていた新たなリソースを発見することにもある。人との違いに気づくには,まずは自分のリソースに気づいていなくてはならない。
一般に知識には,所有型知識(Knowing That)と遂行型知識(Knowing
How)があるとされる。前者(〜ということを知っている)だけでは所蔵されている知識に過ぎない。後者(いかに〜するかを知っている)によって初めて生きた知識となる。それで知識・経験があるということができる。そのとき,形成されるのが,いわばコツやウデというものだが,その中身は,
@自分はどういうときにどうするタイプの人間かという自己(の可能性,傾向の)認知
Aある状況ではこういうことがおき,こういうふうになるであろうという,行動や出来事の蓋然性についての知識
Bかくかくの状況・立場ではこういう役割や行動が期待されているという状況への認知
C人間(社内の)はこういう性格と傾向があるといった経験知
Dこうなればこういうふうになるだろう,あるいはこういうことがあればこういう結果になるだろうといった,因果関係の図式の認知
といったものが一般に列挙できる。つまり,知識があるとは,こういう思考の枠組みができているということにほかならない。これによって見えるものが決まってくる。これを先入観とか固定観念と呼んでいるにすぎない。
意識とは,「〜の意識」だから,「〜」を意識しているとき,われわれは「〜」が何かを知っている。それが花であれば,花とは何であるかを知っているから,花を意識する。問題意識という場合,「〜」は問題のことである。それを「問題」と意識するには,問題が何かを知っていなくてはならない。われわれは知っていることしか意識できないからだ。少なくとも,何が問題となるかを知っていなくてはならない。あるいは,問題意識を,問題への気づきと言っても同じことだ。何が問題かを知っていなくては気づきようはないのだ。
では問題とは何か。認知心理学では,“いまはこういう状態である”という初期状態(現状)を,それとは異なった別の“〜したい状態”(目標状態)に転換したいとき,その初期状態が“解決を要する状態”つまり“問題”と呼ぶ。言い換えると,眼前の状態を“問題”とするかどうかは,目標状態をもっているかどうかによる。つまり目標状態がなければ,問題は存在しない。簡単にいうと,下図のように,目標状態を期待値と呼ぶとすると,こうしたい(目標状態)のに,そうなっていない(現状),だから問題だ,ということになる。
第1は,問題とは,所与ではなく,当該の状態を問題と感ずる人にとってのみ存在するという意味で,「私的である」ということである。「問題」はいつも誰かの目を通してのみ“問題”となる。どこかに「問題がある」のではなく,誰かが「問題にする」ことによって「問題になる」。だから共通な問題がもともと“ある”のではない。個々の私的な問題が共通な問題に“なる”あるいは共通な問題に“する”というプロセスを経ることなくては,共通の問題は存在しない。
第2は,目標状態の中身を,いわゆる“目標”のほかに,例えば達成すべき課題水準,維持すべき水準,保持すべき正常状態,守るべき基準といったものに広げていくと,目標状態とは,自分に負荷している目的意識からくるものであり,それがあるからこそ現状に対して“問題”を感じさせるのだと言えるだろう。
第3に,目標と関わる心理状態を,「〜したい」(欲求)状態だけでなく,他に「〜しなくてはいけない」(使命・役割)「〜する必要がある」(役割)「〜すべきだ」(義務)「〜したほうがよい」(希望)といったものまで想定してみると,それは,初期状態を認知する人が,そこでどういう立場(視点)で状況に向き合っているかが鮮明になってくる。
@知識・経験をもっていること
A目標(乃至目的)が何であるかを知っていること(目標意識)
Bそれが自分の問題であると感じていること(私的関わりの自覚)
Cそれを自分が何とかしなくてはならないと感じていること(役割意識)
問題意識があるから問題が見えるのではない。問題が見える立場と意識があるから問題意識というものがあるように見えるだけだ。肝心なのは,どういう状態だと問題が見えやすい状態とすることができるか,ということなのだ。これが大事なことだ。だから,問題意識は教化できないが,問題の見えやすい状態を強化することはできる。問題意識を育てるとは,そういう状況を設定してやることにほかならない。
たとえば,「遅刻」を問題にしたとしよう。それは,あるべき基準との差を問題にしたことになる。しかし,世の中ではそんなことを問題にしていること自体が問題だとして,いつもわくわくできる職場になっていないからだ,という目標状態との差に問題を変えると,理想(あるべき姿)とのギャップを問題とすることになる。
わくわくする職場を目標状態(あるべき姿)にして気づく問題では,メンバーの元気や落ち込みに目が向く,遅刻しないことを目標状態にして気づく問題では,時間すれすれに飛び込むメンバーに目が向く。こうした問題への意識の差は,良し悪しではなく,その問題解決で何を目指そうとするか(目的)によって変わるのである。たとえば,ひとりひとりの創意工夫を発揮してもらうことを目指せば,そのためにどうしたらわくわくする職場をつくれるかを問題意識としてもつことになり,メンバーの落ち込みが引っかかる。一方,ミスなくロスなく仕事を完結するということを目指せば,どうすればきまったことを守れるか,を問題意識としてもち,わずかな遅刻も見逃せないこととして引っかかってくる。
その目的に応じて,目標状態(あるべき姿)が違い,意識する問題が変わるのである。ここで問われているのは,ひとりひとりの問題意識ではなく,メンバーに問題を意識しやすくするために何が必要なのかなのである。
たとえば,ゼロ災害を目指して,清掃が行き届いた状態を意識していれば,わずかな埃,汚れにも目が向く。新たな商品開発を目指して,ひとりひとりのアイデア力を意識していれば,わずかな発想の芽にも敏感になる。それに目が向かざるをえないはずである。それによって実現したいもの(目的)がどれだけ意識されているかによって変わるのである。とすると,個々人のスキルやマインドだけではなく,チームとして,何を目指しているか,そのためにどういう状態にしたいのかが,明確であるかどうか,それをチーム内でどれだけ徹底できているかどうかに左右されるのである。目的意識によって問題意識は決まるのである。
そうしてみると,期待されている問題意識とは,目指している目的からみて,「本当の問題は何か」「もっと大きな問題はないのか」と,問題そのものを問い直す姿勢,あるいは意識的に問題を立て直す姿勢と言えるのである。それは,逆に言えば,目指す目的にとって,どういう状態になっていればいいのかという,目標状態(あるべき姿)そのものを問い直し,場合によっては,新たに目標状態(あるべき姿)を設定し,いままでなかった問題を見つけ出すことをも意味しているのである。つまり,問題意識にとって本当に重要なのは,目的実現のためにどんな目標状態(あるべき姿)でなければならないのか,そうなるとどんなことが問題になるのかと,問題そのものを立てられることなのである。
問題意識が低い要因には,
@チーム全体で目的意識がクリアでなく,方向性がばらばら,
A自分のなすべき役割がはっきりせず,自分のなすべきことが見えていない,
Bどういう状態にすべきかが,目的と対比してもはっきりさせられない,
C問題は見えていても,どうしたらいいかのアイデアが行き詰まってしまう,
D日々ついつい問題を意識せず,後から気づくことが多い
等々,さまざまなレベルがある。それをひとりひとりのスキルアップで対応していくのも一つだが,チームとして,実務の中で,問題意識をもった仕事の仕方そのものを求めていくほうが効果的なのである。
まず,問題の特性から言えることは,
第1は,問題が誰かの目を通してのみ問題になるのだすると,共通な問題があるのではなく,ひとりひとりが問題にしている問題を,共通な問題にするプロセスを経る必要がある。
第2は,問題とする“基準”,たとえば達成すべき目標,保持すべき正常状態,守るべき基準等々が共有化されていなくては,何を問題とするかがバラバラになる。基準が共有化されてこそ現状に対して問題を共有化できる。
第3は,基準と関わるひとりひとりの意識には,理想との差,目標の未達,不足や不満,価値や意味との距離等々あるから,チームとして目指すもの(目的),期待する成果(目標)をすりあわせる必要がある。
そこで,「問題を意識する」ことを高めるには,次の4点が重要になってくるはずである。
@チームの仕事についての知識・経験をもっていること
A目的が何であるかを知っていること(目的意識)
Bそのために自分が何をすべきかを考えていること(役割意識)
Cそれをしなくてはならないのは自分であると感じていること(当事者意識)
つまり,問題意識があるから問題が見えるのではない。問題が見える立場と意識があるから問題意識が強くなる。そうすると,チームとして,どういう状態だと問題が見えやすい状態にすることができるか,である。それは,チームの目指すものは何かという目的意識があるから,その中で自分は何をすべきかが意識でき,その役割意識があるからこそ,自分にとって何が問題かに気づきやすいのである。これをたえず,チーム内で確認し,すり合せることが必要となる。問題意識を高めるために,ひとりひとりのレベルアップももちろん必要だ。しかしそれだけではなく,大事なことは,ひとりひとりの問題意識を,一個人のスキルや能力として自己完結させないことだ。どんなにすぐれた問題意識の持ち主でも,個人の発想の枠から出ることはできない。それよりは,どんな些細な気がかりでも,どんなつまらなそうな違和感でも,チームメンバーの間で問題意識にさらすことで,「どうです?」「ひょっとしたら」「前にもこんなときが」「それならこうしたら」等々といった,キャッチボールを通して,掘り下げる場があることだ。ミーティングや会議だけではなく,何気ない会話,立ち話等々も含め,そういうやりとりを可能にするチームの雰囲気が,ひとりひとりに自分の問題意識に敏感にさせていく。
up
- 当サイトで紹介する,研修プログラム一覧はここにあります。
- 研修の進め方は一貫して,自己点検を中心とします。その進め方は,ここをご覧下さい。
- 研修プランのカスタマイズについては,ここをご覧ください。
|