当営業所は,営業一課,二課,管理課の三課構成だが,営業に専属のアシスタントがないため,管理課の4名の女子社員が,電話の取り次ぎ,事務処理,得意先への走り使いなどをサポートしていた。
その日,朝の課内ミーティングの最中,隣県の得意先から重大なクレームが入り,川端君は,筒井課長と共に出張せざるをえなくなった。しかし,その日,川端君は,この半年地道に努力して,やっと食い込むことに成功したY社に,試作品を届ける約束が入っていた。工場の技術者をなだめすかしてやっと先方の会議にまにあわせることができたいわくつきの試作品であった。川端君は,工場の関係者にあわただしく電話をいれると,Y社の担当者にも確認を入れ,管理課の吉田さんに声をかけた。
「急なことで,土浦までいかなくてはならない。今日の午後一番で,この試作品をY社まで届けてほしい。所在の地図と担当者,電話はここにメモをつけておくから」
川端君は,筒井課長と急ぎ足で出ていった。それとちょうど入れ違いに,本社からの出張から帰ってきた管理課の野原君が,
「今日中に,このデータをまとめて本社まで送ってほしい」
と,吉田さんに命じた。吉田さんは,
「川端君から,Y社まで試作品を届けてくれるとたのまれているのですが……
と,川端君の件を伝えたが,野原君は,
「こっちは急ぐんだ。今日の夕方までに送ると,今朝本社と約束してきたものだ。それは今日でなくてはいけないのか」
「そこまでは聞いてませんが」
「じゃあ,それは明日にしてくれ。第一,君は管理課の人間だよ。こっちの仕事を優先してくれなくては困るよ。川端君はだいたいが人使いが荒い。自分のことは自分でやってもらわないと」
そんなやり取りをした後,Y社には翌日一番で届けることにの処理を優先させることになり,野原君は,「所長との打ち合わせがあるから」と,急ぎ足で書類を片手に営業所長のところへ向かった。