仮説とは何か
仮説を立てる
仮説の条件
仮説を検証する
●仮説とは何か〜仮の説明概念によって新たに見えるもの
@仮説の萌芽
現状や理論への問題意識(何か変ではないか,何とかならないか)が,現象や既知のものの見方・考え方に,「これはおかしい」「こうすれば,こうなるのではないか」という発見や着想につながる第一歩である。この段階の問題意識や疑問を,作業仮説と呼んでもいい。
A現場・現実・現物からの三つの着想
@現実の観察結果を定量的にデータとしてまとめることを通して,見えてくるもの
A現実の観察を,定性的,モード的,感性的にまとめることで,見えてくるもの
B現実の観察を通して,概念や論理として(こうだからこうなる)読み取ったもの
C二次情報,二次データを通して,@ABと照合しつつ,読み取ったもの
データでも,一次的情報でも,既に一定の仮説に基づいて切り取られている(アンケートの項目,調査の対象等々)ことを忘れてはならない。いずれの場合も,主観性においては変わらない。もしそうなら,仮説は,抽象的であるほど,汎用性と共に,当りはずれがおおきくなる。仮説は,まず,第一歩として,具体的であること。具体的とは,特定されているということだ。
原因分析に,一つの要因について,5つの「なぜ」を洗い出させる,5Whyというのがある。仮説の場合も,一つの仮説について,5つとはいわないが,3つ以上の,「それがなぜそうなったのかを説明できる」原因を考えてみることで,が必要だ。仮説を補強する手続きといってもいい。
こうして固まった仮設を,説明仮説と呼ぶ。
B仮説検証作業
仮説の検証は,仮説を説明できる事例,事象例を列挙し,それによって,説明して見せることだ。
仮説とは,事象を説明してみせることなのだから。それを説明できる現実例をもってこなくてはならない。
(参考文献;伊丹敬之『創造的論文の書き方』)
●仮説をたてることの意味
◇仮説(情報から読み取った構図=仮の説明概念)をまとめるには,
・現状への問い直し(このままでいいのか,という問題意識)の強さ
・それを何とか(解決)したいという強い意欲(思い)
・何とかならないかと,多角的に検討できる発想の幅と奥行
にあるが,思い入れの強さだけでは,独りよがり(勝手読み)に終わる危険性がある。自分の仮説(読み)を客観的な批評に耐えられるカタチ(モノ)にしなくては,「仮説」づくりは終わらならない。
◇仮説(仮の構図=仮の説明概念)を立てることこと,ものを見る視野に,一定の窓(枠)を創ることだ。それを通して,現実を一定のパースペクティブ(視界)に切り取る。そういう見方(方向と領域)でとらえたことによって,どれだけ(問題意識が問題にした)「問題」を解決してくれるかどうか,である。それが,“仮説の説得力”である。
●仮説をたてる手順
時代や事象を読み解く仮説(仮の説明概念)を立てていく。仮説についての制約はないが,キーワードつなげたものや,文意から当然読める程度のものではなく,その奥に想定できる何かを考え,「どこそこではこんなことが起きる」「これからこうなる」「(何年後)こんな時代が来る」「こうすれば解決できる」等々,時代を生き抜く手掛かりをまとめていく。
○まずは疑問からはじまる
現状をそのまま受け入れたり,情報をただそのまま読む限り仮説の必要はない。現状に疑問や危惧,不安,期待をいだくから,そのことを確かめる必要が生まれる。仮説の端緒は,ここにある。自分のリソースを信じて,疑問,不審,気になるところを見つけ出す。ただ,その疑問が勘違いか,根拠のあるものか,確かめなくてはならない。そのとき現場へ赴くことも含め,情報が必要になる。それが確かだとすると,その理由を確かめたり,その行方を想定したりすることが必要になる。その場で理由が明確になるなら,そこで終わるだけである。
○キーワードやフレーズ,断片の情報,断片のエピソード,事実の断片を拾い出す
まず「気になること(事柄)」「引っかかるフレーズやキーワード」を,とにかく拾い出す。疑問でマーキングしたところから,キーワードやフレーズ,断片の情報,断片のエピソード,事実の断片等々をカード化する。あるいは,疑問をチェックしながら,同時にカード化してもいい。
○キーワード,フレーズ,断片等々の間につながり(脈絡)を見つけてグルーピングし,フレーズないしタイトルをつける
拾い出したキーワードなどを一覧化し,断片の情報やキーワードをつないだり,分けたりしながら,つながり(脈絡)をみつけてグルーピングしていく。その場合,グルーピングにまとまる多数派だけでなく,そこにまとまりきらない,微妙な違いのあるものにも注意して,ひとグループとしておく必要がある。場合によっては,さらに分割したり,束ねなおしたりしながら,つながりをみつけていく。見つけたつながりに筋が通っていれば,誰もが,その筋をたどりなおせるはずである。そうしたグループ化されたつながりを言語化して,キーワードやフレーズにまとめていく。それは抽象的よりは具体的の方がいい。必要なら更にグルーピングをする。
※このプロセスは,川喜田二郎氏が,フィールドワークの観察メモを整理・集約のために開発されたKJ法のそもそものプロセスそのものである。
この場合,アプローチとしては,ふたつある。
@キーワードを拾い上げる中で,大まかな括り(つながり)の見込みをつけて,仮のグループを設定し,それにキーワードや断片を集めていく。この場合,見込みのタイトルや概念からずれるものを,別にグルーピングすることが重要になる。
Aキーワードや断片をみながら,帰納的にグループ化して,つながり(脈絡)に集約していく。この場合,時間がかかる。
○グループないしグループタイトル(フレーズやキーワード)を,いくつか選択する
キーワードやフレーズをいくつか選択する。その段階で,キーワードやフレーズは,それまでの背景や文脈から切り離されて,言葉だけが浮遊した状態になる。そのことで,モード情報とセットになっていたコード情報が,自由になったとみなす。どんなエピソードや背景をくっつけるかで,言葉のもつイメージが変化することになる。
○フレーズやキーワードをグループから切り離し,それに新たにエピソード(出来事),文脈をみつける
新たなつながりをフレーズにしただけでは,情報の整理,要約であり,状況説明でしかない。仮説になるには,それによって現実を読むための,キーとなる文脈(コンテキスト)あるいはその兆しを見つけなくてはならない。それがあってはじめて仮説となる。また,キーワードやキーとなる言葉だけでは,その言葉に何をイメージするかを,受け手にゆだねることになる。その人の経験と知識から,それぞれ勝手に想像してもらうことになる。それでは,仮説にならない。
せっかくみつけたつながりのキーワードを現実化させる,ある文脈,もう少し踏み込むと,シチュエーション,場面(たとえば,誰が,どこで,いつ,といったことがピンポイントになっている)を見つけて,セットで提示しなければ,そのつながりを仮説として提示したことにならない。それは,
・時間軸を未来へ踏み出すか,
・空間軸を他所へ踏み出すか,
・主体(登場人物)を他の誰かに変える,
ことになるはずである。たとえば,フレーズを「少子化が進む」とする。これでは事態の説明にすぎない。時間軸を未来へ,空間軸を別の場所へ広げながら,「そこで何が起きるか」を考えると,「働き手がいなくなる」となり,更には,「労働市場を外国人に頼らざるをえなくなる」となり,更には,「日本人は消えていく」となるか,「日本文化が変わる」となるか,ただ延長線上ではない状況を描き出さなくてはならない。それは,ビジョンを描くのと同じである。
○新たな文脈を見つけるために,フレーズやキーワードをビジュアライズする
ビジュアライズは,そこから,新しいストーリー,新しい世界,新しい何かが見えるものにしていかなくてはならない。それは見つけたフレーズに未来や別の世界,文脈に投影して,こうなる,こんなことが起きる,こんな事態が出来すると,ビジュアルにそれがもたらす現実像を描いて見せることである。それが,フレーズの新しい状況を見つけることであり,キーワードに文脈を見つけることである。それが具体的で,ピンポイントあるほど,リアルに見えるのではなかろうか。
【ビジュアライズの手順】
※人の認知形式,思考形式には,「論理・実証モード(Paradigmatic
Mode)」と「ストーリーモード(Narrative Mode)」がある(ジェロム・ブルナー)。前者はロジカル・シンキングのように,物事の是非を論証していく。後者は,出来事と出来事の意味とつながりを見ようとする。
ドナルド・A・ノーマンは,「物語には,形式的な解決手段が置き去りにしてしまう要素を的確に捉えてくれる素晴らしい能力がある。論理は一般化しようとする。結論を特定の文脈から切り離したり,主観的な感情に左右されないようにしようとするのである。物語は文脈を捉え,感情を捉える。論理は一般化し,物語は特殊化する。論理を使えば,文脈に依存しない凡庸な結論を導き出すことができる。物語を使えば,個人的な視点でその結論が関係者にどんなインパクトを与えるか理解できるのである。(『人を賢くする道具』)
フレーズの新しい文脈,新しい現場を見つけるために,たとえば,「新しいファミリー」というキーワードから,ビジュアライズを進めてみるとすると………。
●キーとなることばや例示を明確にする
まずはキーワードやフレーズを言い切る。
●作成したキーワードを,具体的場面(シーン)に置き換えてみる
例えば,「いまどきのファミリー」というキーワードの,「イメージ」を具体化すると,20代夫婦,ヤンキー夫婦,歳の差夫婦,30代夫婦,高齢結婚夫婦等々いろいろあるが,限定するには,まだイメージが広すぎる。そこで,
・どういう場所(場面,部屋)で
・どういうとき(機会,時間帯,時期)に
等々,使われている(登場する,話題にされる)場面,シチュエーションを具体的に思い描いてみる。
●それにふさわしい登場人物を設定してみる
その場面にふさわしい登場人物(たち)は
・誰(どんなターゲット,どんな対象,どんなグループ,どんな年齢層)が
ふさわしいのか,性別,年齢,職業,背景,来歴等々を描きながら,それに似た映画,アニメ,マンガ,小説を借りて,ストーリーを描いてみる。
●その場面の効果を上げるには,どんな仕掛け(舞台装置)がふさわしいかを列挙してみる
・子供を置いてのデートの二人
・親子(父と子,母と子)連れ
・家族連れ
等々によって,それに似つかわしい舞台装置は何かを,街,町並み,風景,季節,時間,衣装を含めて挙げてみる。
●こうして,状況設定と登場人物によって,文脈が整い,ひとつのストーリーを描いてみる
・何のために(動機,ニーズ,欲求)
・何を求めて(期待して,関心・動機)
・どのくらい(予算,コスト,値頃感,頻度)
・どんなふうに(使用方法,利用方法)
●出来上がった文脈のストーリーから,新しい何かが見えたか
いままでにないモノに見えるか,新しい意味(価値)が見えるか,新しい効用が見えるか,新しい世界が見えるか,新しい生活が見えるか,新しいジェネレーションが見えるか等々
○立てた仮説をひとつ選ぶ
立てた仮説を,最も信憑性,蓋然性,信頼性,妥当性の高いと思われるものを一つに絞る。それに条件や前提がある場合は,それを明確にしておく。たとえば,「こういうときには」「こういうことがおきれば」等々。
仮説は,たとえば,
・未来をみせる(こんなふうになる)
・解決を描く(こうすればいい)
・新しい発見をみせる(こんなことができる)
・変化像を描く(こんなふうに変わる)
・未来への処方箋(こうしなくてはいけない)
になっていなくてはならない。未来像でも,その解決策でも,そのためのアイデアでも,そこで実現される場面や状況をビジュアルに描いてみせなくては,仮説にならない。そうすることで,仮説として,フレーズに新しい文脈がセットされていなくてはならない。
○仮説の表現は,シンプルに断言する(言い切る)
仮説はシンプルで,ビジュアルでなくてはならない。
・まず,ためらわず言い切る
・極端化(局限化)する
・明確に絞り込む
・肯定表現でなくてはならない
その“新仮説”に基づいて,どんなことが説明できるかを,きちんとした言葉で,記述・整理する。
たとえば,「こういう条件のときには,かくかくになるだろう(かくかくのことが起きるだろう)」
○仮説の検証
仮説は,ものやことをみる手掛かり,時代や事象を読み解く(説明できる)ものになっていなくてはならない。それは,未来や混沌への灯台や探照灯である。その意味で,仮説のチェックポイントが必要である。たとえば,
・時代の先(いま)を読み解けているか
・新しい発見や意味を表現できているか
・新しいものの見方の準拠枠をつくれているか
・新たな解決(実現)の糸口になっているか
・新しいものを見つける指針(切り口)になっているか
・いまあるもの,システム,サービスの発想(視点)転換になるか
○仮説はモード情報の背景があるコード情報である
仮説は,フレーズだけでは仮説にならない。それはコード情報にすぎない。それに,独特のピンポイントなシチュエーションが加わってはじめて,リアリティができる。その両者のセットを見つけ出さなくてはならない。
仮説は,ひとつ思いついたら,それで終わりではない。それを視点(見る人)を変えたり,場面や時間を変えることで,更に別の仮説にたどりつく。更に,仮説(何々が起きる)→どうしたらいい,何があったらいい→解決策へと展開もできる。
●仮説づくり
の構造〜仮説づくりは情報の構造をつくり直す
○コード情報とモード情報のセットを崩す
@情報の構造は,コード情報とモード情報がセットになっている。
Aフレーズをモードから切り離すして,新しいモードを見つけることで,情報の意味を変える
○情報から新たなフレーズを見つけ出す
@さまざまな情報から,新たなフレーズを見つけ出す。
A新しいフレーズに新しい状況を見つけ出す
●仮説ひらめきのための手順
・その問題は,より単純な場合に変えられないか
・その問題は,より解きやすい同等の問題に置き換えられないか
・その問題を解くための簡単な手続き(アルゴリズム)を発明できないか
・別の分野からの定理を応用できないか
・その結果を,良い例と反例でチェックできないか
・その問題をみる角度が,解答と無関係に与えられていないか,それが誤った方向に導いていないか(M・ガードナー)
●パースの仮説4条件
@もっともらしさ(plausibility)
仮説は,検討中の問題の現象について,もっともらしい,もっとも理にかなった説明を与えるものでなくてはならない。たとえば、事実Cを説明するために仮説Hを思いついたとして,「HならばC」(仮説Hが真ならば,事実Cは当然の事柄)といえるかどうか、つまり仮説Hが述べている事実(または法則や理論)から必然的に,あるいは高い確率で事実Cが帰結するかどうかが検討されなくてはならない。もし仮説Hで納得が得られなければ別の仮説を発案していくことになる。
A検証可能性(verifiability)
仮説は実験的に検証可能でなくてはならない。提案された仮説は経験的事実に照らして確証ないし反証しうるものでなくてはならない。仮説の検証は,まず演繹によってその仮説からどんな経験的帰結・予測が必然的に導かれるかを示し,そして帰納によってそれらの予測がどれだけ経験的事実と一致するかを確かめられることになる。探求者にとって,もっとも魅力ある仮説という意味で最良の仮説は,それが偽である場合,もっとも容易に反証可能なものである。
B単純性(simplicity)
同じ程度の説明能力を有するいくつかの仮説があるとすると,より単純な仮説を選ばなくてはならない。それは,より扱いやすく,自然であるという意味で,より単純な仮説,本能が示唆するものを選ばなくてはならない。単純な仮説は,その帰結がもっとも容易に演繹され,もっとも容易に監察と照合しうる。もし間違っていれば,手間をかけずに排除できる。
C経済性(economy)
単純な仮説ほど,それを実験的にテストするのに費用や時間やエネルギーが節約できる
●その他の仮説留意点
・切り捨てる
考えるということは,余分なことを考えないということだ。
・抽象化と理想化
たとえば,摩擦や空気抵抗を切り捨てない限り,重力の法則を見つけるのはむずかしいし,理想化してはじめて見つかることもある。もう少し踏み込むと,限界ぎりぎりまで拡大したり,縮小したりする,思考実験でもある。
・最小性と簡素性
できるだけ余分なものをそぎおとす。
(参考文献;米盛裕二『アブダクション』,ジョエル・ベスト『統計という名のウソ』,酒井邦嘉『科学者という仕事』)
●仮説間の比較条件(アブダクションによる判定の条件)
・仮説Hが対立仮説H′よりも決定的に優れていること
・仮説Hそれ自身が十分妥当であること
・説明のもとになるデータが信頼できること
・可能な対立仮説H′の集合を網羅的に比較検討していること
・仮説Hが正しかったときのメリットと間違ったときのデメリットを勘案すること
・そもそも特定の仮説を選び出す必要があるかどうかを検討すること
(参考文献;三中信宏『系統樹思考の世界』)
●立てた仮説を検証する〜たとえば複数の情報から何かを読み取ったとき
@複数の情報を通して,時代や事象を読み解く仮説(仮の説明概念)を立てていきます。仮についての制約はありません。
A立てた仮説を,最も信憑性,蓋然性,信頼性,妥当性の高いと思われるものを一つに絞って下さい。それに条件や前提がある場合は,それを明確にして下さい。たとえば,「こういうときには」「こういうことがおきれば」。
Bその“新仮説”に基づいて,どんなことが説明できるかを,きちんとした言葉で,記述・整理して戴きます。
たとえば,「こういう条件のときには,かくかくになるだろう(かくかくのことが起きるだろう)」
Cその“新仮説”が妥当であることを否定する事例を意識的に挙げ,それを否定し,仮説を支持する事例を反証として仮設的に挙げて,仮説を検証していただきます。
たとえば,「(仮説が)そうは言っても,こうなっているじゃないか」「こうなっていないじゃないか」を列挙し,それに対して,「こうなるはず(仮説)だから,どこどこに,こういうことが起きているだろう,生まれるだろう,こうなっていくだろう」等々とその否定事例を反証し,仮説を支持する事例を挙げて,仮説を検証していきます。いまある事例を反証材料として列挙してもいいし,「こうなのだ(仮説)から,こういうことがおこるはずだ」と,肯定事例の発生ないし発現を予測して,反証してもいい。
D本当にそれで仮設が立証できるかどうかを,具体的データと事実を列挙して,仮設の正当性を証明します。
情報が手元に集まった状態で,何かをそこから読み取ろうとする場合,仮説を立てるのは目的ではない。もちろん,当初の目的がクリアであるとしても,情報にタグがついているわけではない。集まった情報自体から,何を読み取るほかはない。そして,情報から,何が読めるか,何を読み取れるかは,その人の問題意識である。情報の間に,もっともらしい文脈,本当らしい意味のつながり等々が読めるが,それをそのまま仮説にするのなら,単なる状況説明で,文章の読める人にはすべてわかることを説明している程度のことでしかない。
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