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スキル辞典3

スキル事典31

やる気を引き出す

  • どうすれば部下はやる気になるのか

  • それって本当にやる気の問題なの?

一見やる気がないように見えるときも,事実なのか,こちらの先入観なのかを確かめる必要がある。

まずは,いま当該の部下に起きていることは何なのかを,正確につかまなくてはならない。やる気がないを前提に,なぜやる気がないのか(原因探求),どうしたらいいのか(手段検討),と対応するのは,やる気の問題でなければ,的外れになる。やる気がないとみえたときでも,背後を推測してみると,さまざまことが想定でき,一筋縄ではゆかないのである。

第一に,本当に本人のやる気の問題なのかどうかである。上司が,やる気がないと判断しているのは,自分の期待している仕事の仕方,仕事への取り組み姿勢,仕事の遂行能力ができていないからだが,部下には一杯一杯だけなのかもしれないし,これで十分やっているつもりなのかもしれない。それは,上司の期待が相手との間ですりあわされていないことを意味する。

 第二は,仮にやる気がないとしても,それが本人だけの問題なのかどうかである。本人にはやる気があっても,それを果たす知識やスキルが欠けていたのかもしれない,聞きたくても,周囲は自分の仕事で精一杯で声をかけられない状況かもしれない,上司や同僚との関係に悩んでいるのかもしれない等々,そうなった別の理由があるかもしれないのである。とすると,それは上司が部下の見積もりを誤ったことからきているのである。


  • どんなときにやる気をなくすのか

 有名な心理学実験に,繰り返し逃れられない電気ショックを経験した犬は,避けられる場面でもそのショックを回避しようとせず無抵抗になるという。これを学習性無気力というが,自分でコントロールできない経験を重ねることで無気力になるのだというのである。それには,ふたつの要因がある。

 @自分自身にコントロールできない原因があると感ずる場合(内的要因)

 A外的状況がコントロールできない原因があると感ずる場合(外的要因)

 要は,自分のリソース(知識・経験・スキル)のせいと思うか,相手のせいと思うかだが,どちらにしても,結局自分に帰ってくる。自分にはとうてい無理だと思うか,たまたまむずかしすぎたが,次は努力すればできると思うか。それは,過去に成功体験をもっているかどうかによって,自分は何とかできる人間と思っているか,いつも失敗している人間だと思うかによる,といってもいい。逆に言えば,努力すればコントロールできるという自信がもてていれば,無気力に陥るのを避けられるのである。そういう自信をどうつけさせるかの問題と考えてみることが大事なのである。

  • そもそもやる気とは何か

 「やる気」の「遣る」とは,「ものごとをはかどらせる」こと,やる気とは,「物事を積極的に進めようとする目的意識」(広辞苑)とある。やる気があるとは,それをするための「何か」(目的)が自分の中にあることなのである。それをするためならその気になれる,たとえば,それをする意味や価値や魅力(大切さや値打ち,面白さや楽しさ),興味や関心,自己表現(目立つ,存在感,賞賛)等々が必要なのである。しかしそのことにどんなに価値や魅力があっても,自分にやれる(できる)と思えなければ,願望や夢,憧れで終わるだろう。その距離が遠すぎれば,努力する気にすらならないだろう。

 そう考えると,やる気がある状態には,

@その気になれる意味や価値がある(やりたいことかやりたいもの)こと,

Aそれが自分にも,(努力すれば)やれると思えること,

が必要である。ただ,厳密に言うと,「やれる」と思うには,「やれる」という予感(自信)だけの場合と実際に「やれた」経験(実績)があってそう感じる場合とがある。予感だけなら,うぬぼれや過信も入る。現実にぶつかったとき通用する根拠もないのに,のうてんきに自信だけをもたれても困るのである。

そこで,「やれる」と思えるには,@自分ならできるのではないかという自分への自信(あるいは自分へのプラスイメージ)だけでなく,その裏づけとして,A具体的にどうやればいいかがある程度見通せ(こうすればいいのではないかという予想が立ち),それなら自分にできると思えることが必要になる。そういう予想ができるには,ある程度経験が必要である。自信を空手形にしないためには,担保となる経験が必要なのである。

つまり,第1に,「やりたいこと」が「やれる(かも)」と思えること,第2に,「やれる(かも)」が「やれた!」経験の裏打ちをさせること,2つをセットにして,やる気を現実に着地させることが必要なのである。

経験の裏打ちをさせるにも,まず実際にやらせなくてはならない。自分にもできると思えるには,

・やることのおおよその見通しができる,

・こうすればいいという,やり方の予想ができる,

・それをするのに必要な知識やスキルが自分にあると思える,

ことが必要である。それには,

・十分やれる可能性のあるものにチャレンジし,

・まず,確実に達成した成果をえて,

「やれた!」という成功感を感じることが必要である。「やれる(かも)」が,実際に「やれた!」を味うことで,次への自信(「次もできる(かも)」)ともっとうまくやりたいという意欲につながる。それには,楽々できるのでは自信にはならない。少し努力してクリアできるようなハードルを,励ましながら,チャレンジさせる必要がある。できないかもしれないとしり込みする不安を,

・できるだけ協力と支援を惜しまない,

・困ったときには,いつでも相談に乗る,

という後ろ盾で支えて,一歩踏み出させ,何とか「できた!」という,成功感を味わせるのである。そうした経験の積み重ねによって,どんなときもある程度「こうすればできる」という見通しをたてられる自分への自信をつけさせることである。


  • やる気を育むチームの条件

このためには,それが本人だけの孤独な戦いではなく,その努力自体が,メンバーから支えられ認められ,支援がえられ,メンバーとして受け入れられていると感じさせるものでなければならない。なぜなら,「こうすれば」できるという見通しには,ここまでは自分でできるが,ここからは助力があればできるという判断が必要なときがある。成功感で,もうひとつ必要なのは,なんでも自分でやりとげることだけではなく,周りの力を借りて,一人ではできない高いハードルをクリアする経験なのだ。でなければ,自分の力以上の仕事をすることはできない。本人のやる気だけに問題を完結させるのではなく,周囲も巻き込んで仕事をやりとげていく力を育てていくプロセスこそが,チームのパフォーマンスにとっても欠かせぬことなのである。

以上を整理すると,やる気を引き出し,持続させるのは5つである。

@その気になれる意味や価値(やりたいことかやりたいもの)がある

Aやってみて,「やれた!」という成功感を味わう(実績をつむ)

B自分にもできる(こうすればできそうだ)と思える(自信をつける)

Cそうやっている自分の努力をメンバーが認めている(承認される)

Dメンバーとして受け入れられていると感じられる(有効感がある)

やりたいと思うものがあっても,自分ができると思えなければ,やる気にはつながらず,やりたいと思っても,どうやればいいかが見えなければ,やってみようとは思わない。またやりだしても,達成の目途が立たなければ,意欲は萎えるし,まして誰も自分のやっていることを認めてくれなければ,やる気は続かないのである。

そう考えると,メンバーのやる気を育てるのは,チームリーダーやチームメンバーが,部下を育てることに関心をもち,その気にさせる仕掛けをつくることが不可欠だとわかるのである。つまり,

@本人にやりたいことを見つける機会があり,

Aそれをやりとげるための助言やヒントをもらうことができ,

B自分にできると感じられる体験をつむチャンスが与えられ,

Cそれを後押しし,励まし支える雰囲気があって,

D一歩一歩やれたという成功感を積み重ね,

Dチームに必要な人間だと認められる

 ことが必要なのである。それはマネジメントとしての課題なのである。


  • コミュニケーションの土俵をつくる

    ●コミュニケーションのセットアップ

     まずは,相手が何を感じ,どう受け止めているかを確かめる。その際,いきなり一対一で面談するのもいいが,相手に鎧を装わせるだけだ。たとえば,立ち話から,「いま時間ある?」とか,「ちょっといいか?」と声をかけ,「最近の仕事について話しを聞きたいが,いいかい」と,両者が話す場を設定するところからはじめるのがいい。まずは,さりげなく近況を聞きながら,自分が気になっていることを,きちんと伝えてみる。そこで本人は言訳したりするかもしれないが,できていない状態を問題にするのではなく,たとえば,

    ・いまの状態をなんとかしたいと思っている,

    ・そのために一緒にそれを解決したいと思っている,

    と,一緒になんとか解決したいという姿勢をきちんと示すことである。

    ●危機意識を共有する

    本人だって,いま状態をいいとは思っていないかもしれない。責めるよりは,それをなんとかしないか,と問いかける姿勢が必要である。たとえば,自分がやる気をなくした例でもいいし,周囲で見聞した例をあげてもいいが,このままではまずい,この状態がつづくと本人にとって決してプラスにならない,と真摯に気遣っている気持ちを伝える必要がある。できれば,このままではまずい,なんとかしなくてはいけないという危機意識を共有できるのが一番いい。もちろん,いまのチームにとっての危機感を伝えるのも悪くはないが,上司は自己保身のために説得している,と不信感を与えるだけかもしれない。君が本気を出してくれると,チームとしても,自分としても,助かるけどね,程度のことを,吐露するのは悪くはないが。


  • どうやる気を起させるか

     必要なのは,やる気がある状態を引き出し,それを促進するものをみつけ,それを阻害するものをのぞいて,これならやれるという見通しと見積もりをもたせることである。それは,相手の状態によって,アプローチが変わる。大きく分けて,

    その1;やる気を阻害するものがある

    その2;その気にさせる意味や価値を見失っている

    にわけて考えていくことになる。まず阻害要因から考えてみる。

    その1:やる気の阻害要因を除く

    たとえば,妨げているものが,やる気の条件の,

    @その気にさせる意味や価値を見失っている

    A「やれた!」という成功感を味わえていない

    B「やれる(かも)」(自信)が失われている

    Cメンバーから支援がえられない(落ちこぼれ感)

    Dメンバーとして受け入れられていない(疎外感)

    どの段階にあるかを考えたとき,@ABは,本人に起因する内的要因でもあるが,CDの上司やメンバーの非協力,無関心,放置という外的要因によって生じていることもある。もしそうなら,チームのマネジメントそのものに起因している。他のメンバーにも大なり小なり同様の問題が起きている可能性がある。チームの役割分担,チームの協働体制,コミュニケーション等々,改めてチームのあり方全体を見直す必要がでてくるかもしれない。

    ●妨げているものをピンポイントで見つける

    本人に起因していることを例にとって考えてみる。@は,後で考えるとして,ABで,本人の知識,技能,経験の不足(事実としての不足)あるいは不足感(本人の自信喪失)に起因しているなら,

    ・わかっていないこと(知識)

    ・できないこと(スキル)

    ・やったことがない(経験)

    の何が足りないのか,足りないと感じているを,具体的につかむ必要がある。具体的な事例にもとづいて,「指示されたこと」と「できた結果」を対比し,ひとつひとつ具体的に洗い出していかなくてはならない。上司や先輩にとって「できて当たり前」のことでも,できていないことがある。その場合細分化されたスキルや知識だったりするので,原因となったつまずきの要因をピンポイントまでブレークダウンする必要がある。

●できる実感をもたせる第一歩でなくてはならない

不足しているものが明確になったら,いつ,どういう機会に,どんなかたちで身につけていくかを具体化していく。それには,できなかったことが,できたと実感できるような,小さなステップからはじる。ここが一番大事なポイントになる。はっきりわからないときは,ためしにやってみて,そのステップを一緒に決める。後戻りしてもいいので,無理せず,一歩でも半歩でも四分の一歩でも,確実に自分ができるようになっていることを,自分でも確かめられ,周囲からも認知される成功が得られなくては意味がない。

大事なことは,できたという事実を,「できたね」とタイミングよく言葉に出して認めることである。ほめられることに,性格的に抵抗を示すものも,事実には素直に反応できる。わずかなことでも,できるレベルに上がったことを,ひとつひとつをきちんと認める姿勢が,やる気のバックアップになる。

それを段階的に一歩一歩踏んで,できた体験を積み重ね,自分がやった結果できた満足感を味わせる。できたことはやりたいと思い,やれたことは,もっとうまくやりたくなるはずである。ただ,しばらくは本人のペースを意識する必要がある。当然他のチームメンバーの協力も欠かせないだろう。

●サポートすることを明言すること

このプロセスでは,「できる(かも)」が感じられるように,

・現有のスキルや知識を正確にフィードバックし,

・やれる見通しをつかむためのヒントや助言を与えて

・後押しとなる励ましをして,

まずは,第一歩を踏み出させ,ついで,

・きめ細かなフォローの姿勢,

・どんなときにも相談に乗ったり,支援するという態度,

・具体的で,肯定的な承認とプラスのフィードバック

によって,確実に「できた!」につなげていく。大事なのは,言葉である。言わなくてもわかるではなく,言わなくては伝わらない。ひとりで抱え込まなくても,メンバーや上司がサポートするし,そのための機会や場はいつも開いていることをきちんと言うことが,不安を支えるつっかい棒になる。同時に,きちんと伝えておきたいのは,人の力を借りることの重要性である。今後より大きな仕事をする際には,どれだけ人の力を借りられるか,人の力を引き出せるかが問われる,いまそれを学ぶ機会でもあるのである。


その2:その気にさせるものを確認する

●やってみたいと思う意味や価値を確認する

 その気になれるものを見つけ出すのは,簡単ではないが,キーワード風に言うと,「なりたいこと」「やりたいこと」「こだわっていること」「大事にしていること」「魅力を感じるもの」「時間を忘れて打ち込めるもの」等々を言葉に出させてみる。仕事と私生活は別,自分の好きなことと仕事とは関係ないと思い込んでいることも多いので,私的なことに踏み込んでみることも突破口になる。仕事の経験だけでなく,「いままでわくわくしたことはなかったか」「自分でやった!と思った経験はないか」といった質問も投げかけてみる。上司が趣味で熱中したことが仕事に役立った例なども,相手に自分の中から,価値や意味を見つけ出すヒントにはなる。

 何が本当にやりたいことかが見つかるとは限らない。たとえば,漠然と「企画的な仕事」と,憧れをいうかもしれない。それを一笑しないことだ。何がしたいことを見つけるための,ひとつの取っ掛かりと考えて,その理由やその何をやりたいと思ったかを掘り下げてみる。ぼんやりした憧れは,意外と本人のやりたい的の周辺であることが多い。企画と言いながら,自分のアイデアで仕事をしていくことや,人のやらないことを提案することや,ひとを巻き込むといったことなのかもしれない。それをピンポイントに絞ってみることで,業務との接点が見つけやすくなる。

●上司としての期待をきちんと伝える

同時に,上司側として,チームメンバーの一員として,「どうなってほしいか」を,チームの全体像からブレークダウンして,具体的に提示する。どういう役割を担ってほしいのか,その役割はチーム内でどんな意味があるのか,そのために何ができるようになってほしいのか,それは本人にどんな意味があるのか等々。そのとき,いま何が,どれだけできているかを具体的に示すことが必要である。

その際,現有リソースについて,十分できていること,あと少し努力すればできること,今後の課題になっていることをきちんと示す。あるいは,本人も気づいていない特徴に目を向けてやるのも大事である。

●具体的な仕事の中にいかせると感じさせること

 やりたいことのすべてが仕事の中で実現できるわけはないが,「やりたいこと(興味・関心)」と「やらなくてはならないこと(期待)」の接点を,具体的な業務にみつけられるよう,自分が生かせる,意味があると思わせるものを,一緒に考えていく。個人の(こうしたいという)目標とチームの(こうなってほしい)目標をつなげることで,日々の仕事ひとつひとつに,自分にとっての意味が見えてくるようにするのである。それには,本人のやりたいことがピンポイントで具体化されているほど,接点となる具体的な場面や仕事が見つけやすいはずである。

【チームメンバーとしての目標(しなくてはならない)と個人目標(したいこと)の接点】

このとき大事なのは,それをきちんと着地させるために,

@「やりたいこと」が,いまの仕事の中に,具体的に示せること,

Aさらに次の仕事や将来の仕事に,具体的に展望できるようにすること,

B「やれる」という感じをもてるように助言とサポートをすること,

C「やれた!」となるために,具体的な一歩を経験できること

である。その先にどんなステージが描けるのかを考えることは,ただ直近の仕事をこなすだけの対処療法で終わらせないために不可欠である。AをやったらB,BをやったらC,CをやったらD,というステップアップの全体像を具体化することで,ステージ毎に意味がでて,いま何が必要かが全体の中で見渡すことができる。そのとき具体的なモデルになる人物があるとなおいい 。

やる気については,“やる気”をどうカタチにするかを参照ください。

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スキル事典32

タイプ別部下の指導法


  • 年上の部下の指導法

  • 共通のチーム目的の達成を分担することでは他のメンバーと同じことを求める

 大事なことは,かつての上司であれ,先輩であれ,自分のチームのメンバーとして,チーム目標達成のための役割分担をし,それにふさわしい期待成果をきちんと求め,職務遂行を完遂するようにフォローしなくてはならない。それが,チームを預かるものの責務であり,役割だ。

 そのためには,まず自らが,自分の部署長としての役割をきちんとおさえ,自分のなすべきことを明確化しなくてはならない。それが,チームの方針となり,その実現のために,それぞれが何をなすべきかを,担当者が考える。

 その観点からは,年上かどうかは関係ない。自分が何を達成するために,どうすう役割を担っているか,そのために何をなすべきかが,主体的に考え遂行することこそが,求められる。仮に,かつての上司ということで,特別扱いしたり,ダブルスタンダード担った瞬間,チームはチームとして機能しなくなるはずである。それが,チーム運営の基本である。


  • そのひとが有効感を持てる遇し方を考える

 大事なことは,まず,自分の方針と目標をきちんと説明し,それへの協力を求めるチームメンバー全員に求める役割意識だ。しかし,だからといって,年長者やかつての上司を,一般メンバーと同じに遇していいということではない。チーム運営上の方針の一貫性と,個々の彼らへの期待とは別である。少なくとも,自分より先輩であり,それなりの経験と知識を持つ人を,どう遇するか,その知識と経験に敬意を表し,彼らのもつ知識と経験,ノウハウを,自分のチーム運営のために協力し,サポートしてもらうように求めることは重要である。そのために,たとえば,後輩の指導役やサポート役,助言役を求める,といったことがあってもいい。

 少なくとも,チームの管理者として,役割上求めることには例外はあってはいけないが,といって,個人として,先輩への敬意を失ってはいけないし,またそのキャリアに対する礼を失してはいけない。ないがしろにする姿勢は,相手には必ず伝わるものだ。それがチーム全体のチームワークを崩す一穴となりかねない。

 どんな場合も,自分がチームや同僚に役立っている,貢献できているという感じをもてることが自信につながるはずである。先輩としてただ敬するだけではなく,その人にふさわしいチームへの貢献の仕方を,かつての先輩と一緒に考える姿勢は失ってはならない。


  • やる気のない部下の指導法

  • やる気というとき,自分の働き方イメージで決めつけていないか

 仮に,上司から見て,やる気がないと見えたとする。しかし,やる気がないと決めつける前に,自分が期待している「やる気」を一度きちんと整理する必要がある。なぜなら,やる気のイメージは,一般には,「何にでもばりばりやる」「積極的に何でも取り組む」「困難なことでも根気よくやり遂げる」というイメージが強いが,ある調査では,「静かに熟考する」「納得しないことはやらない」「感受性が強い」「生き生きしている」「仕事を楽しんでいる」「何かを達成しようとする意志が強い」「ユーモアがある」「心に余裕がある」等々と,かなり幅広い。これは,世代によっても,職位・職責・職種によっても違う。そこから気づくのは,どういうやる気を求めるかには,どういう仕事のやり方を求めるかを意味しているところがあるのである。

 とすれば,「あいつはやる気がない」と言っているとき,管理者が,自分のイメージしているやる気,つまりどういう働き方観から評価しているかが問題となる。「バリバリ動き回る」とか「根性がない」といった肉体的な表現のほかにも,「あんまり会議でも発言しない」「自分の主張がない」「チャレンジする気持がない」「言われたことしかしない」「高めの目標を与えてもそれをクリアしようと努力しない」「すぐできません,わかりませんと音を上げる」「自分でとことん考えようとしない」「仕事を掘り下げようとしない」「仕事の幅が狭く,積極的に努力したり勉強したりしない」といったイメージを指しているかもしれない。

 例えば,「仕事に積極的に取り組む」というのが,“やる気”のイメージだとしよう。その「積極的」という中には,「いつもいい方に前向きに考える」「どうしたらいいかとことん工夫する」「自分の責任でやろうとする」「何についても主体的に取り組む」「いつも先へ先と読む」といった多様な意味がある。上司は,「前向きに考える」というイメージだが,部下は「どうしたらいいかとことん工夫する」ことだと考えていたとすれば,部下にとって,取り組むまでには時間もかかるし,性格的に不安を一つ一つ除去してからでないと着手しにくいところがあればなおさら,上司をじりじりさせるかもしれない。

  • やる気をなくした理由があるはず

 組織に入ったときからやる気がなかったはずはないのだから,部下がやる気をなくしたのは,理由があるはずである。たとえば,「仕事で失敗して自身をなくした」「自分の能力不足で自分がいやになる」「仕事が合わない,面白くない,興味がわかない」「自分の力が生かせない」「自分の意見が通らない」「上司・職場と合わない」「上司・職場に評価されない」「会社のシステムに納得できない」等々。おおざっぱにわけると,自分の内部要因と外部要因の二つある。自分の内部には,自分の努力面と,自分の能力・感性面の二つがある。

 心理学的には,それには「もう少し努力すればよかった」という努力不足に原因を帰属させる助言が,能力に原因を帰属させるよりもやる気育成に有効である。が,問題は,それを援助する上司が,職制として,もともと「もっと努力しろ」という姿勢を強いる,職場の風土・制度・価値観を体現するものとして,部下の前にある,ということを見落としてはない。

 有名な心理学実験に,繰り返し逃れられない電気ショックにあった犬は,逃れられる場面でもショックを避けようとしなくなる,という「無気力の獲得」を示したものがある。自分の力ではいかんともしがたい事態を前にすると「無気力」に陥るこという,この外部的な不可避の力は,意識的でなく無意識的に行使しているときの方が多い。自分なりに全力を尽くして頑張ったつもりなのに,いつも上司から,「お前は努力が足りない奴だ」としかみられない人の場合,自分の能力のせいにする人よりは,無気力に陥りにくいとしても,度重なれば十分やる気をそぐ力になり,「この上司の下では芽がない」と感じてしまえば,やる気を失うことになる。

  • だめなら,何がどうダメで,どうすれば良いのかが示されなくてはやる気が生まれない

 結果を評価する場合,それがどういう視点から何を問題にしているのか(自分がどういう期待をもっていて,その何が期待水準とギャップを生じているのか)をはっきりさせていなくてはならない。

 また単に駄目だと言うだけでなく,何がどうまずいのか,どこがなぜまずいのか,をきちんと説明しなければなりません。でなければ,それを改善していくには,それをどうすればいいかを考える手掛かりがない。

 心理学的には,自分の能力に見合った目標を設定させ,小さな目標を段階的に踏ませていくことで,成功体験を積み重ねて,「自分の有効感・有能感と自己決定感」(自分がやった結果できた・役立ったという満足感と自分がチームにとって必要な存在だという承認感)を味わわせていくことが重要である。そのためには,肯定的な自己評価を下せるように,上司からのきめ細かいフィードバックや励まし,ブレークダウンした目標の設定,上司・職場からのメンバーとしての承認,積極的な期待の表明,適切な支援・助言,肯定的な評価のフィードバック等によって,組織の中に自分の位置と役割を意識化していけるように,指導していくことが必要である。


  • 指示待ちの部下の指導法

  • 指示待ちとは言うけれど

 指示待ちとは,言われなくてはやらない面と言われたことしかしない面がある。しかし,それには, 本人側からみると,

 ・自信がないのと何をしていいのかがわからない

 ・積極的にやることのメリットが見えないか,やって損した経験がある

 ・自分の役割を自己限定している

 ・何をしていいかわからない

 ・引かれた路線だけを歩いてきたので,自分で考えて行動する癖がない

 ・何がわからないかがわからない

 等々が考えられる。管理者側からみれば,主体的に自分のなすべきことを判断してやってくれなければ,チームの戦力となっていない。とはいえ,やってみていなければ,その面白さも,自信も湧くはずはない。

 そこで,第1段階は,少しずつ,指示を高めながら,自信をつけていくしかない。その上で,その仕事をしている意味を感じさせ(第2段階),チームでの自分の有効感を実感させ,最後はチームのために,更なる成長をどうはかるかを自分で考え,改善努力をしていくようにさせる(第3段階),ところまもっていきたい。


【第1段階】

  • 指示の中身の具体化〜やらなくてはならないことをひとつひとつ

 そのためには,まず具体的な指示でなくてはならない。

 @何をするのかの明示(完了状態を具体的に示す。〜の表を作るでは,表のフォーマットしか作らない)

 Aいつまでに(日時の明示)

 Bどの程度(どのレベルなのか,期待水準の明確化)

 さらには,必要に応じて,

    誰(と誰)が(実行主体,協力者)

  どこ(とどこ)で(担当部署,実施場所)

 も具体的なアドバイスがいる。

  • クリアすべきステップを細分化し,手順も具体化する〜やれるレベルにブレイクダウン

 実行プロセスについての指示も,具体的でなくてはならない。

  どういう手段と方法で(実施の道具,手立て,使用資源)

  どういう手順とステップで(実施の段取り,スケジュール)

  どれくらいの予算・コストで(必要な経費)

 しかし,本来これらは,一時的な処置でなくてはならない。言わないとやらないというので,指示だけをすれば,指示待ちを助長するだけである。こうした手取り足取りは,仕事の達成ン感を味合うことで,その面白さと自信をつけさせることが狙いでなくてはならない。あくまで,求められている役割を自覚し,自立して仕事をできるようになるための対処療法にすぎない。


【第2段階】

  • その仕事をする意味を教える

 ・なぜ本人に担当させるかを明確にする

 ・不慣れのため,メンバーとして当然了解できるはずの前提条件が十分わからないこともあるので,その目的遂行で期待される成果(目標)や予測される制約条件,利用できる資源なども教示しておく

 ・それに対する管理者としての関心,期待も明確に示す

 ・中間での報告・相談などの必要性を指示し,必要なら応援する旨も明示しておく

 ・場合によっては,相談相手も決めておいてやる

 ・取り組むにあたって,十分できると判断している根拠なども付け加えて,自信を与えておく

 といったアドバイスが有効である。

  • 実行プロセスでのサポート

 実行で自分であれこれ工夫したり,検討したりしながら,何とか目標達成しようとする試行錯誤の努力である。この過程で必要とされているものとして,

 ◆精神面で,

  ・いまやるべき課題をきちんと認識している

  ・行動する前にいつから,どうやって,実施していくかを計画する力がある

  ・計画を立てるときに,成功失敗の予想をあれこれ考えている

  ・いますぐ成功しなくても,根気よく取り組もうとする

  ・自分独自のやり方でやろうと工夫を試みる

  ・その場で何が有効か,自分の役割を認識して適切な行動が選択できる

  ・周囲の状況や条件等をよく調べ,見通してからとりかかる姿勢がある

 ◆行動面では,

  ・わからないことがあると自分で資料をさがしたり,調べたりすることができる

  ・経験に当てはめたり,実物と比べたり,類比したり,推論したり,いろいろな視点から検討する

  ・それでよかったかどうか現実に当たって調べようとする

  ・自分の考えをわかってもらうために,表現を工夫して人に伝えようと努力しようとする

  ・うまくいかないとき,いろいろ試して出来るようになるための自助努力をする

  ・うまくいくように必要なものを整えたり,効果を上げるための準備をしたりする

  ・自分ができないときにどう管理者に相談して,達成するようにする

 等ができているかどうかが,チェックポイントとなる。忘れてならないのは,一人で抱え込むことではなく,必要に応じて,上司やメンバーにどうアドバイスや支援を求めていくかに気づかせることも大事なポイントとなる。れがチームで仕事をするとはどういうことかを身につけていく機会ともなる。


【第3段階】

  • 全体の流れとの関連に気づかせることでチェック力を高める

 本人は,自分の担当職務の出来不出来にのみこだわりがちである。しかし管理者のチェックとしては,チームの力をどう借りるか,あるいは逆にチームにどんな影響を与えるか等,チーム全体へ目を向けるように注意を促していく姿勢が必要となる。 したがって仕事をチェックするときも,

  @未達,逸脱はないか

  A優先順位に間違いはないか

  Bスケジュールに無理はないか

  Cムリ,ムダ,オチはないか

 という自分の仕事の進捗度だけではなく,

  Dチームに影響を与えることはないか

  Eチームの協働態勢によってカバーできることはないか

 といった,チーム全体の流れを振り返る視点を強調する必要がある。

E自己改善ポイントをどう気づかせレベルアップを支援するか

  いままでのやり方では

  自分ひとりでは

  いますぐには                             できない

  いまのままでは

 という現状から,

 ・具体的に何ができていないのか

 ・メンバーの力を借りればどの位できるのか

 ・管理者がサポートすればどれだけやれるのか

 等々,本人だけでなく周囲の支援を含めた視点で振り返らせたい。

 また,本人に不足しているものをどう身につけさせていくかは,少し長期の視点で考えたい。本人が今後どういうキャリアを考えているかとすりあわせれば,

 ・本人に,1年後2年後どういうなりたいかというキャリア設計を考えさせ,

 ・管理者が本人の将来にまで関心をもっていることを示す

 ことになる。それも,部下を戦力化しなければならない管理者の当然の責任となる。

OJTのスキルについて の各論は,目次をご覧下さい。
“やる気”をどうカタチにするか」を参照してください。

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スキル事典33

部下の指導・育成のスキル


  • 部下の指導・育成のための5つのポイント

    • 第1のポイント】ほめ方・注意の仕方−育成・指導の基本スキル

    @ほめ方

    ほめられることは,自分の存在価値が認められるということ。大切なことは,ともかく自信をもたせること,それには,ほめ方のタイミングとやり方にかかっている。

    ・チームリーダーとしての期待することを,指示の段階で明確にしておくことが,ほめやすい状況をつくる

    ・成果だけでなく,プロセスでの努力もよく見て,ほめること

    ・職場のメンバーも認めていることであれば,ミーティング等メンバーのいるところでもほめる

    Aしかり方

    ・理由をはっきり言う。ルール違反は人前でしかる。

    ・感情的にならない。人格でなく行動や事実を,具体的に叱る。イエス・バット方式で,良い点はほめ,悪い点を改めさせるようにすること。

    ・方法や程度を考える。相手の性格・能力を考慮しないと,かえって自信喪失になってしまう。場合によっては陰で叱ることも。間違いやミスはその場でしかる。しかるべきときにしからないと意味がない。

    B注意の仕方

    注意が一番むずかしく,相手がなぜそういう行動をとったのか,その状況をきちんとつかんでから指摘する必要がある。注意の場所も,メンバーの前でやった方がいいのか,別室でやった方がいいのか,相手の性格にもよるので,慎重でありたい。

    ○好ましくない点を事実にもとづいてはっきり示す
    その行動について,どこがどう具体的にまずいのか指摘して改めさせること。ただし,「何を考えてそうしたのか」を確かめておく必要がある。

    ○間違いの指示も具体的に

      ・どこを改めるかを指摘する

      ・正しいやり方の理由やその重要性を説明する

      ・その箇所を言って聞かせ,やってみせる

      ・やらせてみる

      ・やらせながら急所とその理由を確認させる

      ・再び正しいやり方の必要性,重要性を話して,励ます

      ・引き続きフォローする

    B質問への答え方

    ・仕事上のことで,本人が調べたり考えたりできることはヒントに止め,自分で考えるように仕向ける。

    ・相手が何を聞きたいのかを正しくつかむ。特に,自分の経験との違いから質問しているのなら,職場での仕

    ・事の進め方,考え方をすりあわせるいい機会となる。

    C不平不満の受けとめ方

    大事なことは,相手が言いたいことをきちんと言わせること。きちんと聞いてもらったことで,相手の気がすむこともある。途中で,こちらの先入観や評価で話の腰を折れば,言いたいことを止めてしまうかもしれないし,言っても無駄だとあきらめてしまうかもしれない。その上で,相手の話の事実に基づいて,解決すべきことと説得すべきことを見極めなくてはならない。ただし,はじめから説得する気持でなく,何にひっかかっているのか,何に疑問をなのか聞く耳をもっていること。


    • 【第2のポイント】やる気の育て方−どう自信を持たせるか

    @チームリーダーの確信がメンバーの確信に通じる

    チームの凝集度(力)を高めるのには,どれだけメンバーが目的意識を共有化できるかである。そのために,チームリーダーは,確信をもってチームの目指すもの(目的と目標)を指し示すことができなければならない。それがチームメンバーに,日々の仕事の意義(目標達成のためになすこと)への確信をもつ根拠となる。それによって,チームの目的と情報の共有化を図り,

     ・何のためにそれをするのか(目的意識)が明確となり,

     ・そのために何をしたらいいか(目標意識)が共有化され,

     ・どういう役割を果たせばいいのか(役割意識)が分担され,

     ・何をチェックしたらいいのか(評価基準)が一致し,

    チームメンバーがひとつの目的実現のために一体となって取り組むことができる。それが,何よりもチーム全体のやる気づくりの根源となる。

    Aゴールの明示とプロセスのフィードバック

    メンバーに必要なのは,目的や目標の進捗状況,いま自分たちへに何を期待しているのか,現在までの自分たちの仕事ぶりをどう考えているのかという情報である。つまり,

     ・いま目標達成プロセスのどの辺りのあるのか,残りはどのくらいなのか

     ・目指すものを達成するのに,これから何を,どうすべきなのか

     ・達成のメドはどうなのか

     ・いままでのやり方,方法で間違いないのか

     等々,各自へのゴールへの途上,方向の明示と頻繁なフィードバックである。ポイントは2つである。

     ◎方向性の明示(何をすべきかが共有化される)

     ◎各人が確認できる(途中で道に間違っていないこと,自分の仕事ぶりに確信がもてること)

    B自己の有効感・有能感への確信

    メンバーに,自分の能力に見合った目標を設定させ,小さな目標を段階的に踏ませていくことで,成功体験を積み重ねて,「自分の有効感・有能感と自己決定感」(自分がやった結果できた・役立ったという満足感)を味わわせていくこと。そのためには,肯定的な自己評価を下していけるように,

      ・不安や違和感を除去するきめ細かいフィードバックや励まし

      ・ブレークダウンした目標の設定

      ・リーダー・職場からのメンバーとしての承認・積極的な期待の表明

      ・適切な支援・助言,肯定的な評価のフィードバック等

     たとえば,創造的に仕事をサポートするには,目標を与えただけではなく,

      ・何かやろうとしたときには,そのチャンスを与える

      ・きっとできるだろうと,信頼して見守る

      ・助けを求めてきたら,惜しみなく力を貸す

    C部下への効果的な情報の与え方

     ・どのような成果を期待しているかをあきらかにする−使命・責任

     ・個々の成果の要件を示す

     ・どのようにその結果を評価するかを,はっきりと示す

     ・模範となる標準を用意する。その理由も説明する。

     ・模範となる人を示し,それに近づくには何を利用すればいいかを示す

     ・各自の業績の途中経過をフィードバックする。フィードバックは頻繁に,明確な形で行う。

     ・各自の業績上の問題や,その人が責任を負っている問題解決に役立つバックアップ情報を提供する。

     ・業績が悪い場合,それに対する改善策を立てさせ,あるいは助言し,実施する。


    • 【第3のポイント】戦力アップへの実務指導の仕方−どう一人で達成する力をつけるか

    ◇戦力アップのための指導は,目標をどう一人で達成させるかということがポイントになる。その場合の支援ポイントは,実際に仕事を指導から完結までやらせながら,機会を見て,適宜,報告させたり,相談させたりの過程でのアドバイスということになる。

    @指示の仕方

    ・やらせたいことの必要性,目的,背景となる事実,目標(どの程度の成果を期待しているか),役割分担,達成の方法,投入資源の条件,予算等をきちんと伝え,理解させること。

    ・相手の能力を見極めて,「言い渡す」「頼む」「相談する」の違いが出るそれは相手にとっては,チームリーダーが自分の力量をどう評価しているかを知る機会ともなる。

    ・相手の理解を確認する。ここで,質問の仕方が鍵になる。相手の気づいていない点,情報,問題点を気づかせる狙いもあり,またそれはチームリーダー側の求めているレベルをそれとなく伝える場でもある。「もし,〜の場合はどうする?」「こういう事態のときはどうする?」「こういう情報はどこにあるか知っているか?」等々

    A助言・援助の仕方

    ●本人が助言・援助を求めてきた場合,その原因と解決に必要な能力を見積もった上で,現在の能力レベルではどんな援助をすべきか考えたい。特に,それがキャリアの違いで生じていることなのかどうかを見きわめておく必要がある。その場合,職場での仕事の進め方への疑問を投げかけているケースもありえる。その辺りを配慮して,次のようなアドバイスのどれを与えるのが適切か検討する。

     ・こうしてはどうかと,解決策を教えるのがいいのか

     ・こういう考え方をしてみてはどうかと,ヒントを与えていいのか

     ・こうしないからいけない,と原因を教えたほうがいいのか

     ・こういうことを調べてはどうか,と情報のヒントを与えるのがいいのか

     ・そのやり方をもう少し突っ込んでみてはどうか,と自信を与えるのがいいのか

     ・必要知識・視点のヒントを与えるのがいのか

    ●相手に考えさせるためにいろいろ質問してみる。自分に自信がある場合や,自分の仕事の仕方に固執しすぎている場合,相手の考えを聞き出すことが,とりわけ重要となる。

     ・君はどう思うか

     ・君はこれまでなら,どうやってきたのか

     ・こういう点を考えてみたか

     ・こういうことを調べてみたか

     ・こういう事実,情報があるがどう思うか

     ・こんな場合どうするか

     ・こうなったらどうするか

    ●相手の考え方がわかれば,

     ・そのやり方が生かせるところは,はっきりそのやり方でいいと指示

     ・良い点は,具体的にそこはおもしろいと伝える

     ・それまでのやり方ではまずいも,もっと掘り下げれてみろ,こう考えれば生きてくるとヒントを与え,「もう少し生かす工夫をしてみろ」と励ます

    といった指導を心がけたい。それは,甘やかすというのではなく,伸ばすためのチームリーダーとしての工夫なのである。

    ●本人が過大評価傾向にある場合は,報告・了解も得ずに突っ走るおそれがあるので,頻繁に報告するよう,「どうなっている?」と,チームリーダー側から催促してみる必要がある。

    B報告のさせ方

    ●あまり細かく細部にわたる内容を聞く必要はない。重要な業務の実施計画の概要と遂行状況,計画変更の有無,業務の終了結果等々。

    ●報告の成果に焦点を当て,成果に至るプロセスを重視する。それは結果に有効か,所期の成果をあげるためのネックは何か等々。

    ●報告の要領

     ・命令された事項の終了したところでタイミングよく報告。

    報告は,結論(どうなったか)→理由(どうしたそうしたか)→経過(どうやってそうなったか)の順で報告する。

     ・事実と推量・判断は区別する。

     ・できるだけ定量的に報告させる

    中間報告のタイミング(遂行途中で,どういう時点で報告するか,またどんなことが起きたら報告するかを前もって決めておく)。

    C報告の受け方

    ●部下の報告や情報を受けたときは,「それはいけるよ」「参考になった」といった肯定的な受け止め方をする。

    ●欠点が目についても,良い点をみつけてやるか,欠点を自分で気づくように示唆してやる。

    ●困難な問題については,その重大性をきちんと指摘した上で,一緒に考えようという姿勢を示す。

    ●とにかく,相手の言いたいことを聞くという前向きの態度,雰囲気を示す。

      ・批判をしない

      ・腰を折らない

      ・身を乗り出す,うなずくなど,態度で聞いている姿勢をあらわす

      ・相手の言ったことを,自分の表現にして投げ返す

    チームリーダーにとってキイポイントとなる箇所については,相手のもっている情報やアイデアを聞き出すために,もっと何かないかという姿勢をとる。それによって,自分の報告の中で何が大事か,どういう視点が大切かに気づける。

    D仕事の割り当て方

    ・PDCAの含まれるまとまった仕事を与える。

    ・本人の伸びに応じて,仕事の範囲をタテヨコに広げていく

    ・チームリーダーのやっていた仕事を会社の仕事に含まれるように編成替えを心掛ける

    ・能力を延ばすための機会を意識的につくる

    E職務代行のさせ方

    自分または他の部下の仕事の一部を代行(会議への代理出席,計画の立案,臨時業務の代行)。自分または他の部下の不在時の代行。

    ・代行業務の内容,範囲,手順を明確にしておく。

    ・代行の理由,目的を明示しておく。

    ・権限の範囲,程度を明示しておく(事後承認か,事前承認か,完全委任か)

    ・現有能力,経験の内容水準をつかみ,代行経験によって,何を習得させるのかを明確にしておくこと。


    • 【第4のポイント】チームメンバーとしての役割意識の育て方−役割自覚をどうもたせるか

    @メンバーとしての役割の確認と刷り合わせ

    必要なのは,バラバラではなく,全体として仕事を完結させるのに必要な能力である。まず自分の役割意識をしっかりもち,それに基づいた目標を自覚し,その達成のための計画を立て,遅滞なくそれを遂行して完結させ,更に新たな目標に挑戦するような場を設定して,飛躍のチャンスを作り出す。

    役割意識は,

    @周りの要求や期待を主体的に受け止める姿勢があるかどうか

    A全体を頭に入れて自分の担当を考える姿勢があるかどうか

    B自分は何をしたいのか,どんな仕事をしたいのか,何を身につけたいのかと,いった自分の成長志向をもっているかどうか

    によって左右される。本人にそれを考えさせるために,次のようなステップを踏むと,確かめやすい。

     ・部門の使命・果すべき基本的機能・役割は何か

     ・その機能・役割を果すためにどんな仕事が必要なのか

     ・それをチームとして,どういう分担・配分で担っているか

     ・その一端として,本人が期待されている役割は何か

     ・その役割を遂行するためにどういうスキル・能力が必要なのか

    以上を,本人に質問し,考えさせながら,チームリーダーも一緒になって考えてい。このプロセスを通して,本人の希望や志向についても確認していくことができる。

    A「役割」は主体的につくっていくものである

    「役割」は,主体的に創り出していくものである。チームリーダーはチームリーダーとしての役割との格闘を通して,そこで目標を達成することの,自分にとっての意味を見つけ出す。部下(後輩)は,自分自身の役割との格闘(目標達成のために何をすべきか)を通して,そこでの自分にとっての意味を見つけ出していく。その意味には,「目標達成をどう進めるかに,自分の発想を反映させる」という意味と同時に,「自分自身の成長(キャリア形成)のステップにとっての成果を見つける」という意味が含まれる。そういう主体的な,挑戦的マインドなしには,主体的なチーム運営はないし,またそうでなくては役割意識を,単なる組織規程の枠通りに維持するだけだ。チームリーダーのその姿勢が,メンバーにも,自分の役割との格闘の必要性に気づかせる。


    • 【第5のポイント】目標達成力の指導―「目標」と目標達成の意味を教える

    @部下(後輩)の成長の視点のある目標設定
     〜組織目標(すべきこと)と個人目標(したいこと)の接点を見つける

    組織目標=個人目標などはありえない。組織としての目標達成を目指すこと(役割意識)が,同時に個人としての(こうしたいという)成長目標にな(す)ることができれば,問題意識(何とかならないか)は,目的意識(何のためにそうするのか)がより個人的な思い入れが強まり,達成を導く力となりうる。チームリーダーの指導力が求められる所以となる。その場合,むしろ,組織目標達成の中に,個人成長の意味をどう見つけさせるかが鍵となる。

    【組織目標(〜しなくてはならない)と個人目標の接点】

    Aプランの目的を明確にしてやる

    プランの成否は,目的にかなっているかどうかによる。まず,

     ・なぜ本人に担当させるかを明確にする

     ・不慣れのため,メンバーとして当然了解できるはずの前提条件が十分わからないこともあるので,その目的遂行で期待される成果(目標)や予測される制約条件,利用できる資源なども教示しておく

     ・それに対するチームリーダーとしての関心,期待も明確に示す

     ・中間での報告・相談などの必要性を指示し,必要なら応援する旨も明示しておく

     ・場合によっては,相談相手も決めておいてやる

     ・取り組むにあたって,十分できると判断している根拠なども付け加えて,自信を与えておく

    といったアドバイスが有効である。

    B実行プロセスをどうフォローするか

    実行力で大事なのはむろん個人的な能力・スキルとそのレベルアップだが,それ以上に大事なのは,自分であれこれ工夫したり,検討したりしながら,何とか目標達成しようとする試行錯誤の努力である。この過程で必要とされているものとして,

     ◆精神面で,

      ・いまやるべき課題をきちんと認識している

      ・行動する前にいつから,どうやって,実施していくかを計画する力がある

      ・計画を立てるときに,成功失敗の予想をあれこれ考えている

      ・いますぐ成功しなくても,根気よく取り組もうとする

      ・自分独自のやり方でやろうと工夫を試みる

      ・その場で何が有効か,自分の役割を認識して適切な行動が選択できる

      ・周囲の状況や条件等をよく調べ,見通してからとりかかる姿勢がある

     ◆行動面では,

      ・わからないことがあると自分で資料をさがしたり,調べたりすることができる

      ・経験に当てはめたり,実物と比べたり,類比したり,推論したり,いろいろな視点から検討する

      ・それでよかったかどうか現実に当たって調べようとする

      ・自分の考えをわかってもらうために,表現を工夫して人に伝えようと努力しようとする

      ・うまくいかないとき,いろいろ試して出来るようになるための自助努力をする

      ・うまくいくように必要なものを整えたり,効果を上げるための準備をしたりする

      ・自分ができないときにどうチームリーダーに相談して,達成するようにする

    等々ができているかどうかが,チェックポイントとなる。忘れてならないのは,メンバーの支援をどう活用していくか,この点に気づかせるのが大事なポイントとなる。

    C全体の流れとの関連に気づかせることでチェック力を高める

    本人は,自分の担当職務の出来不出来にのみこだわりがちである。しかしチームリーダーのチェックとしては,チームの力をどう借りるか,あるいは逆にチームにどんな影響を与えるか等,チーム全体へ目を向けるように注意を促していく姿勢が必要となる。 したがって仕事をチェックするときも,

      @未達,逸脱はないか

      A優先順位に間違いはないか

      Bスケジュールに無理はないか

      Cムリ,ムダ,オチはないか

     という自分の仕事の進捗度だけではなく,

      Dチームに影響を与えることはないか

      Eチームの協働態勢によってカバーできることはないか

     といった,チーム全体の流れを振り返る視点を強調する必要がある。

    D自己改善ポイントをどう気づかせレベルアップを支援するか

     いままでのやり方では 

     自分ひとりでは       \ 

     いますぐには        /   できないという現状から,

     いまのままでは    /

     ・具体的に何ができていないのか

     ・メンバーの力を借りればどの位できるのか

     ・チームリーダーがサポートすればどれだけやれるのか

     等々,本人だけでなく周囲の支援を含めた視点で振り返らせたい。

    また,本人に不足しているものをどう身につけさせていくかは,少し長期の視点で考えたい。本人が今後どういうキャリアを考えているかとすりあわせれば,

     ・本人に,1年後2年後どういうなりたいかというキャリア設計を考えさせ,

     ・チームリーダーが本人の将来にまで関心をもっていることを示す

     ことになる。それも,部下を戦力化しなければならないチームリーダーの当然の責任となる。

    E仕事との格闘を通して成長のチャンスをつくる

     “格闘”とは多忙さとは関係なく,どれだけ「目的意識」を失わないかにかかっているそれ(その仕事)は「何のために(目的)するのか」,その目的からみて,目標・手段は適切か,あるいは「その目的は今も重要か,もっと別の目的(何のために)を創れないか」等々の,問いを続ける姿勢である。それが,結局目標達成力なのである。格闘の基本マインドはもちろん自責化である。

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スキル事典34

OJTのスキル


  • OJTの行動指針づくり自己の業務の点検と指導方針の明確化

    • 自分の仕事の全体像と役割行動の分析−OJT分析の前提づくり(1)

      • 自分が遂行している業務の全体像をつかむ−仕事の俯瞰図業務の関連図づくり

    ◇自分の仕事と関わる,上下左右を関連づけ,自分の仕事がどういうポジションと役割をになっているかを位置づける。この作業を通して,
     ・自分の仕事と役割の目的を確認し(この仕事をすることは何のためなのか),
     ・その意味を明確にし(自分の仕事をすることを通して,直接的には何に寄与しているのか),
     ・それによって,自分の仕事についての確信(自分が仕事をすることの意味とそれへの自信)
     を再確認する。

    ※自分のポジショニングを明確化することで,全体の中での,自分の役割と使命がより,具体的にイメージできるはずである。部下(後輩)のOJTにおいても,部下(後輩)への仕事の委任においても,この使命や役割の確認と共有化が,重要となる。


    • 自分の仕事の全体像と役割行動の分析−OJT分析の前提づくり()

      • 役割行動分析−自分の仕事と必要能力の洗い出し

    ◇自分自身が,業務の流れの中で,どういう役割を果たしているかを,現実の業務行動,作業を通して全体化していく。この場合,進め方としては,
     @現在やっている個別作業を具体的に(「〜のために〜を〜する」具体例で)列挙し,
     Aそのトータルを,自分の役割(「〜を〜する」役割)として, 明確化するこの場合,周囲の自分への役割期待(〜なんだから,〜してほしい)を主体的に受けとめ,それも考慮する
     Bその役割行動から,逆に,それにふさわしい行動は何かを考え,現在はやっていないし,できていないが,役割から考えてやるべきだし,やらなくてはならないと思われる仕事や行動のモレやヌケを追加する
     C個別の行動・作業レベルについて,それをきちんと達成するためには,何が必要か,技能(〜できる)や知識(〜を知っている),姿勢・心構え(〜しようとする)を,具体的に洗い出す。

    ※役割行動分析の留意点
    @必要な業務行動・作業は,できれば,「何をする」が特定できるまで(たとえば,〜の記録を書く)具体化する。 そうすることで,それに必要な能力も特定しやすくなる。
    A同じく,必要能力も,それに必要なのは「〜ができる」「〜を知っている」というところまで,具体化する。そうすることで,それを身につけるにはどうしたらいいかが,具体化しやすくなる。

    ◇仕事とどれだけ“格闘”したかが成長の鍵だが,それは多忙さとは関係なく,どれだけ「目的意識」を失わないかにかかっているそれ(その仕事)は「何のために(目的)するのか」,その目的からみて,目標・手段は適切か,あるいは「その目的は今も重要か,もっと別の目的(何のために)を創れないか」等々の,問いを続ける姿勢である。そのポジションの役割は固定ではない。それなら,誰が担当者になっても同じになる。一人一人が,自分の役割に主体的に格闘し,何をウエイトを置くか,を決めていく中で,メンバー間のキャッチボールが活きる


    • 自分の仕事の全体像と役割行動の分析−OJT分析の前提づくり(3)

      • 知識・技術・スキルの成長ステップを描く−どう成長していくかのモデルづくり

    ◇変化の激しい時代ではあるが,技術やスキルについて,習得していく基準(成長の目標と目安)が必要である。個々人の成長目標やキャリアプランにとっても,その分野,その職種での自分の目標となるはずである。その場合の,基準・成長ステップは,たとえば,次のようなイメージが描ける。

    この場合,
     @全体的な必要技術の体系図(個別技術やスキルとの関連性をもたせた)
     A技術修得の基準を定義した基準表
     といったものが必要となる。たとえば,下記のようなものがあればいい。

    レベル 求められるもの 修得に必要な方法

    国際レベル

    国際レベルとは,……国際標準レベルの……

    国内レベル

    業界レベル

    社内レベル
    部門レベル
    チームレベル

     ◇職種によっては,社内ないし業界レベルで,こうした技術の修得体系が明確な場合は,それに準拠するが,そうしたものがない職種の場合,大まかな成長ステップをつくるとよう。そのステップが,目指すスキルの全体像をイメージできるからである。この修得には,現場レベルのOJTだけではなく,部門や全社的なローテーションが必要となる。それは,上位者とはかりながら,どう具体化するか,別の施策が必要となる。

    • 成長ステップを描くため留意点

    成長ステップを描くためには,留意点は,ふたつである。

    @成長ステップができていなければ,教えるための手順とステップは見えない

    A能力は具体的なスキル・知識・経験まで具体化されていなければ,アクションにつながらない


     


    • 「育成」の基本方針をつくる−誰に,何を,どう教えていくのかをプランニング

    ◇誰が育成対象になるのか,相手に合わせた,その仕事の役割と能力要件を明確にする。たとえば,
     (a)配属された新人に,職場メンバーとしての基本を教える
     (b)配属された新人に,自分の仕事の一部を教える(委任する)
     (c)転属してきた新メンバーに,その前任者の仕事を引き継ぐ
     (d)転属してきた新メンバーに,自分の仕事の一部を任せる(委任する)
     (e)後輩(あるいは部下)に,レベルアップ,更なる成長をはかるために育成する
     (f)後輩(あるいは部下)に,自分の仕事の一部を任せる(委任する)
     (g)後輩(あるいは部下)に,新たな業務遂行や役割が担えるように育成をする等々
     にあわせて,次の4つのステップで,プランニングし,実施していく。

    第1ステップ,育てる相手の役割分析と業務像の明確化〜育てる目的の整理
    第2ステップ,育てる目標と水準の共有化〜目標とレベルの確認
    第3ステップ,育てる相手の現状分析と進め方のすりあわせ〜何を,どうすべきかをプランニング
    第4ステップ,成長の手順とステップのプランニング〜何がどう不足しているのか,課題の確認
    ステップ,育成プランの遂行とフォロー〜OJTのPDCA

    ※以下,代表的ケースとして,@(一定の経験のある部下や後輩に)自分の仕事の一部を任せる場合,A(後輩や新人を)一定レベルまでレベルアップしていこうとする場合,を例にしてOJTのプランニングを考えてみる。


    • 業務委任から「育成」の行動指針をつくる−仕事をどう任せるかをプランニングする

      • 自分の仕事の何を部下(後輩)に委任するかを検討する―業務委任の育成効果

      ◇自分の業務を部下(後輩)にまかせようとする場合,
       @その作業を自分がすることの意味や目的が確認でき,相互で共有化されること
       A本人の担当した部分が,明確な役割として明示できるものであること
       B断片作業や単位作業ではなく,PDCAのひとまとまりの流れのある仕事であること
       C必要な知識・技能の修得プロセスの流れに沿ったものであること
       D本人の伸びに合わせて,自分でも工夫し,拡大できる余地のあること
       E本人の成長目標との関連づけができ,成長できる機会がもてるようにすること
       が必要である。


       

      • 任せる仕事の全体像を整理する−目標としての仕事の意味と全体をきちんと伝える

    ◇任せる役割とその意味,必要能力が洗い出せたところで,部下(後輩)に,まかせるために必要な業務の全体像を整理する。また,部下(後輩)に任せる必要な業務と,それを遂行するために必要な能力が明確になったところで,その育成プランニング(つまりOJT)へとつながっていく。


    • OJTのための「育成」行動指針をつくる−どう部下育成するかをプランニングする

    (1)本人が担う仕事の全体像を整理する−目標としての仕事の意味と全体をきちんと確認し直す

    ◇部下(後輩・新人)のレベルアップをはかろうとする場合も,やはり,
     @その作業を本人がすることの意味や目的を再確認し,相互で共有化し直すこと
     A本人の担当した部分が,明確な役割として明示できるものであること
     B断片作業や単位作業ではなく,PDCAのひとまとまりの流れのある仕事であること
     C必要な知識・技能の修得プロセスの流れに沿ったものであること
     D本人の伸びに合わせて,自分でも工夫し,拡大できる余地のあること
     E本人の成長目標との関連づけができ,成長できる機会がもてるようにすること
     が必要である。

    (2)OJT遂行にどんな“旗”を立てるのか―OJTの基本構造の確認

    ◇部下(後輩)の仕事と能力の全体像を共有化できれば,このOJTが,自分(たち)にとって,どういう意味があり,そのメリットは誰にあるのかは,具体的に確認しやすくなる。なぜなら,それが,OJTの目的を確認することになっているからである。後は,その目的を達成するためには,何(期待する成果)を,どうやって(手段・方法)実行することが,ベストなのかを,具体的に検討することになる。

    @目的の共有化をはかる―何のためにOJTが必要なのか

    @何のために「教えるのか」(目的)
    A誰のために「教えるのか」(利益享受者)

    ・対象業務(業務上のポジション)の要求レベルから考える

    ・対象者への役割期待の水準(職務遂行への役割期待とのギャップ)から考える

    ・対象者の職務遂行能力の水準(要求水準とのギャップ)から考える

    ・本人のキャリア(成長)目標(どうなりたいか)のステップから考える

    A期待水準をすりあわせる−それによって何を目指すのか(どういう水準に育てるのか)

    @どういう状態にするのか(能力の水準,レベル)
    Aどういう成果を期待するのか(業務の期待成果)
    B何を身につけてほしいのか(職務達成の質とレベル)

    B目標の共有化をはかる―何を育成目標にするのか(何を身につけるのか)

    (2)OJT遂行の“旗”をどう具体化するか―実行プロセスの刷り合わせと実行プランニングの立案

    @何と何から,どういうレベルまで高めるのか
    A誰がそれを実行するのか
    Bどういう機会を設定し,どう実行するのか
    Cいつ(からいつまでに)実行するのか
    D何から,どういう手順とステップで実行するのか

  • 部下(後輩)指導の基本マインド

(1)聞き上手になることが指導のキイポイント−求められるコミュニケーション能力

◇人間は起きている間の70%以上をコミュニケーションに使っている。少なくとも職場生活は,もっとそのウエイトは高い。特に上位者になる程,基本スキルといってもいい。チームリーダーにとって,コミュニケーションは,たんなる伝達ではなく,お互いに何かを共有しあうことであることを留意し,次の3つの機能を心掛ける必要がある。

@要望する機能−高い目標を要求したり,厳しく結果をチェックしたり,最後まで諦めず目標達成にチャレンジさせる,たえざる工夫・努力を求める等の,チームリーダーからの相手の役割への要望。
A共感する機能−失敗やミスも相手の状況やいきさつを考慮したり,結果だけでなく努力を評価したり,仕事を進める上で部下の意見に耳を傾けたり等,相手の立場になって考えたり,一緒になって考えようとする。
B伝達する機能−部下が自立的に仕事を遂行できるように,会社の方針,自分の方針・ビジョン,それぞれの仕事の位置づけや意味等,部下が何をなすべきこときちんと伝える

(2)聞き上手の条件

@いつでも耳を傾ける
A相手のコミュニケーションに注意を向ける
B相手が見るのと同じように見る
C評価を一時棚上げにする
D相手の考え(感情)が表現されるまでまつ
E対話を求めようとする姿勢(修正や改善をおそれない)
Fタイミングよく,的を射た問い,質問を発する

コミュニケーションタブーについては,ここをご覧下さい。

  • 部下の指導のやり方−2パターンある

◇パーソナルな指導には,個人別(の1対1)指導という意味と,個々の仕事について1つ1つ指導するという意味の2つがあり,シチュエーショナルな指導には,あるひとまとまりの仕事につけて,その場その場で自分の経験とスキルを生かして仕事をこなしていくという,能力発揮の機会を与えるという意味がある。

◇職場環境を構成しているのは,風土と人間(メンバー)と仕組み。それに基づいて動かしているがチームリーダー。その四者をつなぐのが,コミュニケーションである。それは指示・命令から報告・連絡・相談,あるいはミーティング,全社的な規約や文書から,部門内の文書や会話まで,意思伝達にかかわる機能を意味する。このすべてが,自分の方針を示す場であり,指導機会となる。

《部下指導のタイミングチェックリスト》

1.そのときその場での指導(パーソナルな指導)→個別の育成チャンスを活用して指導する

・特定の仕事の指示命令をするとき
・新しい仕事をさせるとき
・仕事の分担を決めるとき
・仕事の打ち合わせをするとき
・職場ミーティングを開いたとき
・新しい課題を与えてそれを打破させるとき
・部下が決裁を求めてきたとき
・仕事の遂行意欲を失っているように見えたとき
・壁にぶつかって困っているようにみえたとき
・けっこううまくやって成果を出しているとき
・部下と共同で仕事をやるとき
・部下と仕事上の議論をしているとき
・部下が人と応対したり,話をしているのをみたとき
・部下が電話をしているとき
・部下が,指示と異なる動きをしているとき
・部下が社内外の人と折衝するとき
・部下の態度行動に問題を感じたとき
・部下が仕事のことで相談にきたとき
・部下が意見や提案をもってきたとき
・部下が不満を言ってきたとき
・部下と雑談しているとき(コーヒーブレイク等)
・報告が遅れたり,しなかったとき
・仕事が終了したとき
・部下が報告にきたとき
・残業するとき
・部下が出張へ出掛けるとき,帰ったとき
・部下が職場外の研修に参加するときと帰ったとき
・自分が外出・出張するときと帰ったとき
・部下を会議に同行させたとき
・他部門の折衝に同行させたとき
・部下を上層への報告に同行させたとき,代行させたとき
・職場外で話す機会のあったとき

2.育つ環境・状況づくりによる育成→職場風土・環境づくりや伸びる場の設定によって育成する機会を与える

・新しい職務の割り当て
・職務変更(ジョブローテーション)
・新しい役割の付与(代行,代理)
・見学実習
・職場研究会・勉強会の開催
・発表会,報告会
・小集団活動
・順次指導・ペアシステム

《人事院『部下指導マニュアル』から抜粋》


  • OJTプランのプロセス管理

◇計画は立てるのが目的ではなく,実現するのが目的である。とすれば,計画達成の可否は,プランニングではなく,その遂行プロセスでの遂行度のチェックと軌道修正がいかに的確に,タイミングよくできるかにかかっている。

  • 計画遂行度のチェックとPDCA−仕事の基本と同じである

◇PDCAとは,Plan(計画)→Do(実行)→Check(確認,軌道修正)→Action(次への対応)と,仕事の計画から次へのステップまでの,全サイクルをいう。仕事の管理において,それを“自己モニタリング”できる(調整=自分で自分の管理行動をチェックし軌道修正できる)ことが,基本となる。OJT計画の遂行でも,事態は同じである。

  • 計画−OJTの成否の8割を左右する

◇OJT計画は,立てた目標をどうやって達成するかという手段と手順を明確にすることである。そのポイントは,
 @それを達成するために使える(職場の)資源(ヒト・モノ・カネ・情報・トキ・ノウハウ)の最適活用
 AOJT遂行中の不測事態,予想されるリスク,障害に備え,育成計画の実現可能性を高める
 BOJT遂行の進捗を手順化する
 C全体のフローから,各パートごとの連携,報連相の緊密化
 Dあらかじめチェックポイント,チェック時期を決めておく

《OJT方針のチェック》

OJTの基本方針

いまやっている

明日からできる

いまのままではムリ

上位者の方針・考え方を刷り合わせている

部下の指導方針(どういう状態にしたいか)を明確にしている        
部下の指導基準(何を,どうすべきか)を明確にしている        
指導の期待値(どういうレベルにしたいか)を明確である        
指導成果(どうなったか)の評価をきちんとしている        
指導結果(どこが問題か)を必ず次に活かすような仕組みをつくっている        

   
《指導基本姿勢チェック》

指導のチェックポイント

やっている

 明日からできる

いますぐにはできない

優先項目

どういう部下に育てるかの構想をきちんともっている
「仕事ができる」とはどういうことかを明確にしている
仕事に対する要求水準・要望事項を明らかにしている
仕事に求めるレベル・質は必ず明示している
部下に不足している能力・スキルをきちんと伝える

(1)目指す目標は明確か?

◇目標の共有化によって,
 @OJT対象者に何を,どこまで目指すのかを明確にしてあるか
 AOJT対象者にとって,どの程度の努力を要するのかを明確にする
 Bどういう手段,行動が必要かが絞れる
 つまり,目的と目標の明確化によって,「何のために」(目的=意味)「何を」(目標=期待する成果)をはっきりさせることによって,必要スキル,必要期間,必要工数等々が明確となり,現状とのギャップが,クリアすべき問題として明確にすることができる。

(2)全体計画と個人計画の整合性−問題発見プロセスとしてのPDCA

◇「入力」→「プロセス」→「出力」の管理こそが,日常行動そのものだ。そこでのPDCAのチェックがどこまできちんとできていたかの“ツケ”(結果)として「問題」は現れる。


  • 実行−何をすべきかの実行プロセスそのものが育成機会

(1)計画の手段,方法にそって遂行しているか?―全体の仕事の分担・流れへの目配り

(2)優先順位は決まっているか?―何が重要で,何が緊急かの判断を教える機会

◇優先順位の決め方
@トラブル,クレーム等,放置すると相手に迷惑をかけ,信用問題になりかねない事柄(緊急性)
A相手に要求されていること,市場ニーズの変化への対応等に応えるべき事柄,あるいはそのために努力すべき事柄(重要性)
Bコストダウン,納期短縮,機能・性能の向上等,競合他社やクライアントから陰に陽に要請されている事柄(影響の拡大傾向,あるいは悪化傾向)
C納期厳守,故障やミスのゼロ化,品質の維持向上等,本来やるべき業務(目標からの逸脱)
Dより一層の品質向上,業務の効率化等々,業務の改善(新たな目標の設定)

(3)障害対策は迅速か?−リスクにどう対応するかが価値基準のすりあわせ機会

◇内部障害
@あらかじめ想定していた障害なら,すばやく関係者を集めて,予定していた対策でいけるかどうか検討し,即実行する
A予想外の障害なら,まず状況を調べよ。短期対策と長期対策にわけて検討,短期については即手を打つ。

◇外部障害
@スピード(迅速な対応,実行),的確さ(状況判断,処置,フォローの適正さ),誠実さ(約束履行)
Aできることとできないことは明確にする
B相手の立場・メンツをつぶさない努力(相手の立場を悪くしないために,できることは最大限にする,上位者による対応等)
C今後の対応策をきちんと提示し,確実にフォローする

(4)報連相は適切か?−業務は一人でするものではないことの確認機会

◇報連相のポイントチェック

報告:PDCAの共有化(仕事の進捗状況のすり合わせ)
連絡:業務情報の共有化(保有知識やチエ・ノウハウのレベル合わせ)
相談:問題状況の共有化(事態の現状認識や見通しのキャッチボール)

・定期的報連相と,随時報連相の区別はあるか?
・チェックのタイミングは決まっているか?
・突発事態は,情報の共有化のためにどうするかが決まっているか?
・報連相の手段は決まっているか?
・不在時の報連相の取り方は決まっているか?
・なぜ相手はその報告が必要なのかを考えたことがあるか?
・いつ,どこで,何を,どう報告するかが決まっているか?
・連絡時間は決まっているか?
・緊急事態の連絡方法は決めてあるか?

《OJTプロセスのチェック》

指導のチェックポイント    やっている 明日からできる いますぐにはできない 優先項目
不足スキル・能力の育成の仕方を工夫している
部下を育てるために意識的に仕事の割り当てをしている
自分の仕事の代行・代役を割り振っている
部下を意識的に仕事先に同行させている
自分と違う仕事の仕方でもある程度本人の裁量に任せる
部下の仕事の進捗状況についての目配りを怠らない
仕事の標準・レベルから外れた部下の指導に時間をさく
部下の企画・開発アイデアが具体化できるよう見守る
部下の提案はカタチにさせるように支援する
仕事に関する助言には丁寧に答える
部下の報告をきちんと聞く時間を必ず取る
部下の仕事ぶりの良さや姿勢はきちんと評価しほめる
仕事のミスやルーズさはきちんと叱る
部下の質問にはできるだけきちんと答える
部下に新しい仕事を指示するとき意図を明確にしている

  • 点検−タイミングをのがすな

(1)Checkの3つのタイプ

・計画の期待水準と進捗水準のギャップの確認(どこまで出来ているのか,どれだけ遅れているのか)
・何をどう軌道修正すればいいかの分析と対策方針の決定(手段の再選択,手順とステップ,ピッチの見直し)
・計画あるいは目標の見直し(何のために,どういう成果を目指していたのか,の再確認あるいは修正)

《計画達成度進捗状況チェック》

チェック項目

該当の有無

初期の目的(何のためにこれを達成しようとしているか)を逸脱していないか  
達成目標(期待する成果)の未達やズレはないか  
目指す目標の絶対条件(それが達成されなければ全体が台無しになる,あるいは目標達成の意味が損なわれる)ははっきりさせてあるか  
実行手段は行動レベル(何をするか)まで具体化されているか(手段の手段の手段の………具体化の徹底)  
予定期間の行動計画(いつからいつまでに何をするか)に狂いやズレはないか  
予定した手順やステップ(何から,どういう順序でどう進めていくか)は順調に進捗しているか  
想定した資源(ヒト・モノ・カネ・トキ・ノウハウ)は計画通りに使えているか,また予定通りに実行されているか  
計画時に立てたリスク対策や予防策に,想定外の事態や障害が生じていないか  
計画の遅れや進捗状況のズレや未達の原因は究明されているか  
計画の軌道修正は可能か,それとも当初計画そのものの見直しを必要とするか  

(2)結果評価は重層化してとらえる

  • 対処−間違いに気づいてもたださなければ何もしなかったのと同じ

(1)処置すべきことは2つある

・目標(期待された成果)−結果としての成果=成果のギャップ
・目標に最適の手段−現実に用いた手段=手段のギャップ

(2) 解決策は具体化されているか

◇解決策具体化のポイント
 ・何をどうしたらいいか明確にされているか?
 ・具体的な行動レベルのものになっているか?
 ・数値化されているか?
  ・解決の実施は具体的なアクションプログラム化されているか?

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スキル事典35

OJTのためのコミュニケーション・スキル


  • OJTのためのコミュニケーション・スキル

  • 自己開示できる表現力をつける

管理者に必要なのはアサーティブな自己表現である。それは,「自分も相手も大切にした自己表現」である。自分の意見,考え,気持ちを率直に,しかしその状況に合わせて適切に表現できることを,アサーションと言う。

 自己表現には,

 @攻撃的(アグレッシブ)な自己表現 自分の意見,主張は大切にするが,相手のことはあまり眼中にない。結果として相手に自分を押し付けることになる。たとえば,並んでいるときに割り込まれると,「おまえ,ここはみんな並んでいるんだ,後ろに並べ」と大声で怒鳴る人。「私はOKあなたはOKでない」という姿勢。

 A非主張的(ノン・アサーティブ)な自己主張 相手に配慮やおもんぱかりはするが,結果として自分の思いや主張を表現しなかったり,し損ない,自分を大切にしないことになる。たとえば,列に割り込まれると,一人でぶつぶつ言うが,我慢してしまう人。結局ストレスがたまり,被害者意識を募らせることになる。「私はOKでないが,あなたはOK」という姿勢。

 Bアサーティブな自己表現 自分も相手も大切にする自己表現。しかし自分の意見がとおるというのではないが,安易に妥協せず,お互いの意見を出し合い,譲ったり譲られたりしながら,相互に納得のいく結論を出そうとする。そのプロセスを大事にするから,葛藤が起こることを覚悟し,葛藤を引きうけていこうとする気持ちが強く出る。したがって,強く主張するだけでなく,相手の表現にも耳を傾ける。たとえば,列に割り込まれたときは,「ここは皆さん並んでいますから,後ろに並んでいただけますか」と冷静に,きちんと伝える。「私はOKあなたもOK」という姿勢。大切なことは,共有できる事実で語ることだ。

【管理者のアサーティブ度チェック】

目的・方向性,ビジョンを常に自問し,メンバーに明確に語るようにしている
メンバーとのベクトル合わせ,判断基準の刷り合わせを怠らない
メンバーの役割を明確にし,何をなすべきかについて話し合っている
メンバーに,途中経過,進捗状況,目標達成度についてオープンにしている
プランや企画立案に当っては,メンバーの知恵を集めるようにしている
メンバーに自らの問題意識をぶつけ,キャッチボールすることをいとわない
目標達成の障害となる行為,判断基準からの逸脱には,その理由を説明して,注意もし叱責もする
メンバーの状態や進捗度を見極めながら,いつでも声をかけたり,サポートの手を差し伸べる
メンバーの力量,成長目標について率直に現状を評価し,レベルアップへの支援も心がける
どんな難局,行き詰まりにも諦めず,メンバーの衆知を集めて乗り切ろうとしている
自分の問題や不都合についても謙虚に聞く耳を持っている
メンバーからの具申,提案,提言は必ず全体でオープンに議論する
自分の意思決定についてはオープンにし,その理由についても説明する
周囲から誉められたときは感謝の気持ちやうれしさを率直に表現できる
自分の知らないことがあったとき,「すいませんよくわからないのですが」と素直に聞ける
部下の仕事ぶりや日頃の対応で優れていると感じたときは率直にその気持ちを伝えられる
自分への不当な要求や批判には冷静に反論できる
たとえ重要な顧客やトップからの無理難題には,きちんと反論し拒否できる
部下の支援やサポートの要請には,自分の判断で不要と感じたときはきちんと説明し,拒否できる
自分の過ちやミスは率直に認めて,謝ることができる
自分の決断の過ちが明らかとなれば,直ちに修正するのをいとわない
結果責任については,自分自身が負うことは当然だと考え,常にその旨表明している

  • アサーティブな表現をするための基本ステップ〜DESC法

 D=Describe 自分のぶつかっている状況や相手の行動について,相手と共有できる客観的事実を描写する。自分の気持ちや感情を交えずに表現する。
 E=Express  Explain 自分のぶつかっている状況や相手の行動に対する自分の感情や気持ちを建設的に表現する
 S=Specify 相手に望む行動,提案,妥協案,解決策などを提案する
 C=Choose 肯定的否定的等々相手の出方を予想して,どう行動するか選択肢を考えておき,次の提案とする
 たとえば,会議中の喫煙でもうもうになったとすると,「会議が一時間続いて部屋がもうもうです」(D),「私は煙草を吸わないので喉が痛くなってきました」(E),「しばらく空気を入れ替えませんか」(S),「そうすればこのまま会議が続けられますが」(肯定的結果へのC),「でなければちょっと一息入れませんか」(否定的結果へのC)


  • 自己開示のためのスキル

◇アサーティブであることのスキル

 @自分を知ること 自分の気持ち,考えに正直であることが前提となる

 A共感的理解 相手が何を感じ,何を考えているか,相手の立場で理解しようとすること

 B受容 相手を受け入れられるには,自分自身を受け入れられなくてはならない

 C対等で相互尊重 権威や立場で相手を操作するのではなく,相手を知りたいという思い

 D自己信頼・自己尊重 自分を信頼することで,自分の内部の声に耳を傾けることができる

 E自責 相手を尊重する,相手に耳を傾けるのは,自分の責任でするということ。そうするのもしないのも自己責任

 F多様性を受容 自分と異なる多様性こそがチーム力に繋がる

 G感情を言葉にする 怒ってしまえば,感情そのものをぶつけたことになる。「私は怒っている」と表現することで,相手との理解の土俵ができる

 H非言語コミュニケーション 言葉以外のしぐさ,表情もまたコミュニケーションになっている。コミュニケーションのうち,言語は7%しか占めていない。残り93%のうち,55%が表情,38%が口調。


  • 自分の考え,気持ちを正確に伝えるスキル〜LADDERの手順

は,Look at の意味。自分の気持ち,欲求を振り返ること。たとえば,「困っている」「緊張している」「腹がたっている」「反対である」といった,相手に伝えたい自分の気持ち,感情を明確にしておくことである。

は,Arrangeの意味。相手に切り出すTPOを決める

は,Define problem situation つまり,自分のかかえている問題状況を明確にすること。そのときの鍵は事実に即して,ということ。

は,Describe your feelingsつまり,「私は……と思う」(これを“Iメッセージ”と呼ぶ)と,自分の気持ちを表現し,伝える。「おまえは」と怒りをぶつけるのではなく,「私は,君のその態度に腹がたっている」と表現することで,コミュニケーションの土俵に乗せることになる。

は,Expressつまり,以上の自分の気持ちを表現していく。

は,Reinforceつまり,自分の提案に相手が乗りやすいように,スパイスを加える。たとえば,「そうしたほうがあなたにかくかくのメリットがあるはずです」あるいは「そうしないとこういうマイナスがあります」といったようなメッセージを加える。


  • 相手を観察するスキル

 @共有できる事実をさがす

 いきなり自分の要求や感情を伝えるのではなく,相手にもわかる事実を伝えようとすることで,自分の感情を押さえることにもつながる。たとえば,列に割り込まれたとき,「ここは並んでいるんですよ」「列の後ろはあそこです」という。

A感情にとらわれない状況把握

 非難したくなっても,その気持ちを脇において,状況を観察する。そうすることで,相手の行為の理由や状況が見えてくる。観察するということは,状況や相手について見える事実を客観的に把握することであり,それを感情的でなく,言葉にできれば,会話の土俵ができる。「何でそんな態度をとるんだ」と怒鳴っても,問題は解決しない。売り言葉に買い言葉になるのなら,「そういう態度をとられると,僕としては君を助けてやる気持ちがなえてしまう」と言ったほうが,次へつなげられる。


  • 要求や希望を明確に表現するスキル

@具体的な提案をする

 観察された事実と自分の感情を区別できていれば,どうしてほしいかをきちんと伝えても,そのメッセージは伝わるはずである。具体的であるとは,5W1Hである。いつ(からいつまでに),何を,どうしてほしいのか。

A選択肢を提案する

 やるかやらないかというのは,提案ではない。相手の意志で選択できる可能性を,相手と一緒に考えても言いが,複数(できれば3以上)考えること

参考文献:平木典子『自己カウンセリングとアサーションのすすめ』(金子書房)
菅沼憲治『セルフアサーショントレーニング』(東京図書)

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スキル事典36

叱るスキル


  • 部下をどう叱る

◇管理者が部下,特に優秀だが,チームワークには非協力的な部下を叱ろうとするとき,何を問題にしたらいいのか。その部下の成績をたのんだ自分勝手な仕事の仕方なのか,チーム内の影響力を自覚しない行動なのか,それとももっと大きな仕事のできるようになってほしいという期待からなのか,によって咎める中身は変わる。そういう部下は,多く,他部署との交渉は,上司にまかせて,自分の成績にしか目が向いていない。そういう部下が,たとえばトップセールスやトップ成績といういまの現状に満足せず,もっと大きな仕事ができるようになるには,個人プレーでやっている限り,限界がある。現象からみると,トップ成績の部下をマネジメントしきれない管理者のリーダーシップが問題のように見えるだが,上司を動かし,チームを動かし,業務を動かす,そういう仕事の仕方を,部下に身につけさせたいという,部下育成の視点から考えたとき,管理者自身がどういう仕事の仕方をしているのか,どうしいう仕事の求めているかが問われてくる。ここで求められているのは,管理者が,目先のトラブルや障害にだけ振り回されず,チームメンバーをどう育てるかという視点をいかに見失わないかである。叱るとか注意するというのは,相手の行動が,求めている役割期待からずれているとき,それをどう自覚させるかに本来の主旨がある。逸脱した行為や規則違反は,その一端にすぎない。それは,どういうメンバーになってほしいのかが,両者で共有化されていてはじめて効果がある。


  • 部下に目指してほしいレベルが意識されているか

本来,仕事ができるとは,「自分が努力すれば,周囲や自分に好ましい変化を生じさせられるという自信と見通し」をもっていることである。この能力と自信を「有能感」「有効感」という。この有能感,有効感の手ごたえには,努力の主体が自分であるとする自律性の感覚(自己決定感)が不可欠である。つまり,「自分の考えを実現すればより効果的のはずだ」という自信である。

能力には,それぞれの人がおかれた状況において,期待される役割を把握して,それを遂行してその期待に応えていける能力(コンピタンス)と,英語ができる,文章力がある等々といった個別の単位能力(アビリティ)がある。どれだけ主観的に有能感をもとうと,そのおかれている状況を把握し,それに応えた自信でなければ,他のメンバーを阻害するだけである。成績を頼む部下には,そういう自覚を欠いており,チームの阻害要因になっている。

自分が期待されている役割を自覚し,それを遂行しきる能力(コンピタンス)が重視されるのは,自分がそこで何をすべきかを自覚し,その状況の中で,求められる要請や目的達成への意図を主体的に受け止め,自らの果たすべきことをどうすれば実行できるかを実践して,アウトプットにつなげていける総合的な実行力こそが求められるからにほかならない。最終的に,それが,個人にとっても,組織にとっても,成長目標のはずである。

  • 4つの役割期待

周囲が自分に期待ないし要求している役割の自覚には,自分がどういう基準で期待をされているかがわかっていなくてはならない。基準には4つある。

●チームの求める期待水準(職位要件,職務基準の“なすべきこと”と同時に,組織風土からくる暗黙の期待,「トップセールスならそれくらいやってくれるはず」「やってくれなくては困る」)

●チームメンバーの期待水準(「あの人ならやってくれるはず」といった個人へのリーダーシップや的確な判断への期待。更に,「あれだけの経験があるならできるはず」といった本人のキャリア・経歴に伴う期待。)

●上位者の求める期待水準(「彼にはこれくらいのことはしてもらいたい」「してくれなくては困る」といった,上位者が,その統括するチーム目的達成のために,分担した機能を完遂することを求める要求。)

●他部署のリーダーやメンバーの期待水準(上位目標を共にさえていく他部署の「この位はやってくれるだろう」「やってくれないとこちらにしわ寄せがいく

成績トップの部下は多く,自分一人で独力で仕事をしている。その気概はよしとしても,一人でやる仕事には限界がある。本当の意味で仕事ができる人間は,一人で抱え込んで,自分だけで仕事をしようとしない人間である。それは,人やチームを動かして,あるいはその力を借りて自分ひとりでやる以上のパフォーマンスをあげようとする人間である。それを,リーダーシップといってもいい。たとえば,ひとりで業務とやり取りして,うまくいかないと他部署を批判するのではなく,同僚や上司に働きかけ,業務との関係を改善して,営業のパフォーマンスアップに資するようにみずから動こうとする。そのためには,ただ自分の成績だけを頼んでも,上司も相手も動かない。


  • 人を動かして仕事をする力をつけるには何が必要か

その人が自分の役割を責任持って達成しようとするとき,自分の裁量内でやっている限り,その仕事が完結しないことも少なくない。ときに自分の裁量を超えて,人に働きかけ,巻き込んででも,それを達成しなくてはならないときがある。それがリーダーシップというものが自分に必要になるときである。必要なのは,その仕事を真に完結するとはどういうことか,そのために何が必要なのか,そのためになぜ上位者や周囲の力が必要なのか,それが組織にとってどんな意味があるか等々を明確にできることである。

大事なことは,2つである。

●何を(誰をといってもいい)どこまで動かさなくてはならないのか,その案件,問題の広がりや影響の大きさがわかっている。

 

●自分にとって,上司にとって,組織にとって,それをすることにどんな意味があるかがわかっている。

 つまり,ここでいうリーダーシップとは,自分(ひとり)では(裁量を超えていて)解決できないことあるいは解決してはいけないことを解決するために,解決できる(権限のある,力量のある)人を動かして,その解決をはかっていこうとすることである。その真価が問われるのは,自分のポジションより上や横を動かそうとするときだ。そのとき,

・「何のために」「何を目指して」という意味づけが明示できること

・必要な人々に,その意味をきちんと伝えていく力があること

が問われる。上や横を巻き込むためには,自分の現場レベルだけでは解決できない,あるいは解決してはいけないから,相手に動いてもらいたいと,相手に認めてもらわなければならない。そのためには,

 @それが組織全体,あるいは相手部署,あるいは上司にとって,動く必要のあることを納得させるものであること

 Aそれが,自分の役割遂行上,重要な問題であり,相手を納得させるものであること

 をきちんと伝えなくてはならない。それには,自分自身が,

 ・自分自身の組織での位置づけ,自分のチームや仕事の意味づけができていること(自分の役割との関係づけ)

 ・起きている問題の奥行きや広がりを押さえ,そのことのもたらす意味づけがきちんとできていること(問題の意味づけ)

 が必要である。トップとしての意識だけでは,人は動かない。まして,それが他部署の人間ならなおさらだ。相手を動かす意味づけができないのは,自分を動かす意味づけができていないことにほかならない。上司は,そのことを本人に気づかせなくてはならない。それは,部下のいまの仕事の仕方を問い直すことにもなるはずだ。


  • 問題にしている意味が相手に伝わらなければ効果がない

 リーダーがしかったり注意して,相手の行動をただそうとするのは,チームの業務遂行にとって,それが「問題」だと感ずるからである。それは,

 @チーム全体に悪影響がある

 A本人にとってプラスにならない

 という2面がある。@は,組織やチームの基準に反している,チームの規範を崩すといったことがあるが,Aは,本人に期待しているレベル,水準から外れている,そんなことをしていては,本人の成長にとって足かせになる等々,現在の役割遂行にとっての意味と将来の成長にとっての意味の2つがある。

どちらの場合も,チーム全体に,自分の方針や考え方,何に価値を置くかについて,きちんと共有化する努力が不可欠である。メンバーに,何を叱られているかが,きちんと伝わるかどうかは,チームとして,チームの目指すこと,メンバーに求めることについて,メンバーと共有化した土俵が確立しているかどうかの試金石である。でなければ,その場主義か,そのつど主義で,一貫しないものになり,メンバーに混乱と反発を与えるだけである。

【叱るのは効果があるのか】


  • 将来の視点から考えさせるプロセス

叱る,というのは,こちら側と相手側とが,その件について共通の土俵に立っていなければ,単に一方的に小言を言うだけのコミュニケーションになってしまう。一方的に行動をただそうとするだけで,相手がそれをまずいとみとめなければ,叱った効果はない。だとしても,成績がトップなんだから,というような部下のごり押しの土俵では意味がない。必要なのは,まったく視点を変えて,この人間がより大きな人間になるために,どうしたらいいかという土俵に変えてみることだ。そのとき,チームのあり方,リーダーのあり方も,その土俵で問題になってくるはずだ。

その視点で見たとき,業務との葛藤は,ひとつの機会である。それを一緒になってどう解決するかを考えていくことを通して,自分にどういう仕事の仕方が求められているかが,わかってくるはずである。それをどう受けとめるかは本人次第であり,その受けとめ方で部下の将来が決まっていくといってもいい。

●まず,徹底的に相手の話を聞く

 聞くというのは,

・相手の話を受け止められる

・相手のいっていることを,正確につかみとれる

・内容を確かめたり,掘り下げたりする質問ができる

ことである。それは,相手の,@経験(何が起きたのか),A行動(何をしたのか,しなかったのか),B情緒(どういう思い,感情をいだいたのか)を確かめ,明確にしていくことである。相手が聞いてもらったと思わない限り,聞いていることにはならない。そのために,まず,相手に自分がきちんと聞こうとしていること,聞きとっていることを態度で示す。うなづいたり,相槌というのは,単に相手の話を聞いていることを示しているだけでなく,相手がいま話していることを認めている,という姿勢でもある。

そのとき,相手の話を単なる他人事の情報や伝聞として聞くのではなく,相手が向き合っている状況や世界を,そのとき相手が見たり,聞いたり,感じたり,味わったりする感情を受けとめ,そのとき相手がおかれた立場や役割に立って,その状態や心理を理解し,そうやって自分が相手の世界を理解したことを,言語的にも非言語的にも,相手にきちんと伝えられる姿勢が必要となる。

●相手を受け止め,一緒に考える

@相手の言っている事柄を受け入れる

 部下の言っていることを,その賛否,当否は別にして,「そう言っている」「そういう状況にあった」「そういう理由があった」と,ひとまず受け入れる。批判されるとわかれば,自己弁護のために,事実を都合よく歪曲するか,そうしないまでも合理化したくなる。事実をそれ以上語るのをやめるかもしれない。批判するというのは,自分の価値観や意志を押しつける部分があるからだ。

A相手を承認すること

 “有能感”“有効感”の手ごたえは,そこで自分が仕事をしている意味を周囲に認めてもらえている,自分は必要とされている,役に立っているという“貢献感”“存在感”と表裏一体である。それを,認めること,あるいはきちんと言葉として,「よく努力している」「頑張っている」「よく貢献している」等々と,具体的に口にすることが必要である。それは,部下をきちんと承認することである。大事なのは,持ち上げることではない。相手の行動や存在についての事実を,事実として言葉にしてやることである。

B自分が受け止めていることを相手に返す

 聴いているというのには,うなずいたり,相槌を打ったりすることだけではなく,相手の言っていることを,きちんと受けとめていることを,相手に返すことが必要だ。それは,@きちんと聴いてもらえているということの反映であり,A中身の確認であり,B言いたいこととの齟齬があれば,それが更に相手に話を進めさせる素材となる効果がある。その反映のさせ方としては,

 ・相手の言っている事実や事柄(5W1H)を返す

 ・意味内容を返す

 ・感情や思いを返す

 の3つがある。返し方には,次のようなものがある。

 ・要約(中身や経過,論旨をまとめてみる)

 ・キーワード(話の鍵となりそうな言葉や事実を返す)

 ・「他には」「その意味は」と追加を促す(それで?そして?と更に促す言葉で返す)

 ・感情や気持ちを表現する(それは悔しいねといった感情をくみとって返す)

 ・焦点をあてる(方向性や根拠,意味か理由か,何か一つのものか,人にか,焦点をあてて返す)

 C自分の受け止めたことのフィードバック

 自分が受け止めたことを伝える。「〜というように受けとめたが,どうか」「それはこういう意味と感じるが」等々とフィードバックする。

フィードバックには,本人にとって,

 ・相手が自分のことを相手の目を通してみること

 ・相手が自分のことをどう受け止めたかを聞くこと

 の2つの効果がある。それを通して,@言っていることの確認,A曖昧な点の明確化,B両者の受け止めた事実と意味の共有化,等々の作業となる。

Dどうしたいのかを確認する

 その上で,どうしたいか,どういう状態にしたいかを確認していく。はじめは,問題に焦点が当たって,業務や上司にこうしてほしい,というようないつもの相手への要求や要望しかででこないかもしれない。しかしその目的が,たとえば営業のパフォーマンスをあげるためだとしたら,それを相手にわかってもらうには,どうしたらいいのかを考えさせるところからはじめてみる。自分の要求通りにならないからといって,相手を非難しても,相手は動きはしない。どうしたら相手を動かせるかを考えることで,相手の仕事がどう自分の業務遂行に影響するのか,自分の業務は相手の業務にどう影響するのか,相手がどうなってくれたら自分の仕事にプラスなのか,それは相手の業務にとってどんな意味や効果があるのか,そのことは結果としていまの顧客サービスをどう変えるのか等々,自分の仕事を,相手との関係の中で,あるいは顧客との関係の中で,更には競争企業との関係の中で,改めて見直す機会となるはずである。

●相手に考えさせ,自分の中に答えを探させる

 このとき必要なのは,自分自身に答えを探させることだ。たとえば,「何やってんだ」という上司の発言は,「(お前は)何やってんだ! (と上司であるオレが判断している)と,分解できる。それは,自分の側の判断基準で,ものをいっているに過ぎない。

 

相手の答えを促すには,土俵を相手に移さなくてはならない。つまり,判断基準も,答えも,相手にゆだねることを意味する。

 上司の判断基準ではなく,部下の判断基準で,どう思うかを聞くことになる。そうすると,たとえば,(部下である君自身は)「何やってんだ」(と思うところはないか),という問い方になる。それは,相手に,自問自答しつつ,自分の中のリソース,経験,知識と対話し,どうしたらいいのか,何が考えられるのか,を導き出すように促すことだ。それを,こちらはただ見守る。

その答えは,部下自身のものだし,部下自身の仕事の進め方,部下自身のノウハウを反映しているはずである。無論,それにアドバイスすることがあるとしても,それを部下は,自分の土俵の上で,自分の主体的な判断で,受け止め,考えるはずだ,という姿勢をとる。一見すると,主導権を譲っているが,土俵をそうやってコントロールしていくことに意味がある。

その上で,たとえば,最終的に,業務と一体になって顧客へのサービスの質をあげていきたい,そのために,業務に協力を求めていくのだとしたら,業務にどう働きかけたらいいのか。業務に動いてもらうためには,どこまで自分ひとりでできるのか,上司にしてもらいたいことは何か,他のメンバーにやってもらうべきことはないか,他に連携すべき部門はないかを問いかけながら,上司として,メンバーとして,サポートすべきことを詰めていく。これは,彼にとってリーダーシップを発揮する機会になるはずである。結果として,上司を動かし,メンバーを動かし,他部門を動かすことで,より大きな仕事をするために,何をしなければならないかを体験することにつながるはずである。それは,他のメンバーの仕事の仕方をも変えていくはずである。

職場のコミュニケーションについては,ここを参照ください。
部下育成のポイントについては,ここをご参照ください。

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スキル事典37

指示待ちの部下を育てる


  • 指示待ちの部下をどう育てるか

  • 指示待ちというのは何か

指示待ちとはどういう現象か

指示待ちというのは,たとえば,

・言われなくてはやらない

・言われたことしかしない

が考えられるが,前者は仕事の力量の問題で,後者は仕事の質の問題である。前者は,上司の指示をまっている,あるいは上司がないと動けない。後者は,上司に言われていないから動かないだけで,やらなくてはならないことは見えている。理由は,手一杯で仕事をふやしたくないとか,上司への反発とか考えられるが,仕事を主体的に完成しようとせず,上司の指示をまっている面では,問題は同じである。

多くは,指示した側の期待度と受けた側の遂行意識のギャップである。指示した側は,自分なりに考えて仕事を完成させることを求めているが,指示された側は,指示された分だけ進めていこうとする。この齟齬は,部下が,

●自分のチーム内のポジショニング(役割期待)がわかっていない

●求められているレベルに必要な仕事の仕方ができていない

ことからきている。しかしそれは,指示した側が,何をしてもらいたいかをきちんとすりあわせていない結果ともいえるのである。

指示は成立しているのか

上司が指示待ちという場合,しかしそもそも指示は成立しているのだろうか。指示が成立していなければ,指示待ちもない。

 仕事の指示と受命はどこで完了するのか。上司が指示を出したところか,部下がそれを確認したところか。しかし部下がいちいち指示を求めるのは,

 ・指示の完了状態,方向性,期間の確認が不十分

 ・どの程度までに仕上げるかの達成基準が共有化されていない

・途中で確認するチェックポイントを決めていない

のかもしれない。それは指示・受命が完了していないことを意味する。上司ができるはずと思っていることは,期待にすぎない。一緒にやったからといって,上司の視点と同じことを学んだとは限らない。一緒に行ったときに,ついていくので精いっぱいで,どの道を通ったか覚えていないのと似ている。それを確かめなかったのは,できると判断して指示を終えた上司のミスである。

指示待ち状態が起きているとき,上司と部下との間で何が生じているのか

 指示待ちとは,上司の視点で見ると,指示をまっていると見えるが,部下から見ると,仕事の割り当て,仕事の任せ方の行き違いに見える。つまり,部下は指示の仕方を問題にし,上司は指示され仕事の仕方を問題にしている。両者にズレがある。部下に,きちんと仕事を完成させるような指示の仕方をしなかったのは,上司の責と考えるところからはじめなくてはならない。


ここでは,以下,部下にどう主体的に仕事に関わってもらうかを,上司の視点で考える。部下に,チームのため何をしたらいいいかを考えながら,自律的に仕事を動かそうという気になってもらう,そのためにマネジメントとしてどう関わるかを考える。

  • 本人に担ってほしい仕事の全体像と役割を相互で再確認する

 業務遂行に必要な能力には,@英語力や対話力,プレゼン力のような単位能力と,Aおかれた状況で自分に期待される役割を自覚し,それを遂行することで期待に応えていける能力とがある。いまここで問われているのは,後者である。そこでいう役割とは,チームメンバーや上司が「これをしてくれるに違いない」「ぜひこうしてもらいたい」と期待を寄せていることである。その意味で,期待は自分ではコントロールできない。新人であれ,中堅であれ,そのポジションに伴って,周囲が期待するのである。それに応えようとしなければ,期待はずれはつづき,チームの一員として認知されにくい。そこで,

・自分は何をするためにチームメンバーとしているのか

・それを果たすことで,チームの目的や方針にどうリンクしているのか

・そのために,自分は何をしなければならないのか

・そのために,何ができなくてはならないのか

を相互ですりあわせ,周囲の期待とのギャップに気づかせ,それに応えるには,何が足りないのか,それを身につけていくのに,何をしたらいいのかを確認し,期待に応える一歩を踏み出させなければならない。

 

  • 仕事をチームとリンクさせることで当事者意識を喚起する

 期待されている役割とそれに必要なスキルを確認するだけではなく,日々の自分の仕事そのものがチーム全体とどう関わるのか,またチームは上位部署とどう関わるのか,その一翼をになう自分の仕事がどんな位置にあるのかを確認する。点になっている仕事を線にして,チームにつなげる。上司に指示された課題も,チーム全体の中に配置することで,自分の担当業務の一環であることに気づければ,それをすることが自分の仕事だと気づくのを促せる。


  • 指示待ちの部下を育てるステップ

 指示待ちなのが,ただ指示がないからやらないだけなのか,未経験による不安なだけなのか,まったく一人でできないレベルなのか,によって違う。

@言われていないからやらないが,やる必要のあることが見えている場合なら,なぜ相手にたのむのか,その仕事にどんな意味があるのかを確認した上で,相手がその仕事を受けて,どういう完了状態にしようとしているのか,そのためにどう進めていくつもりなのか,進捗上どんなことが予想されるのか等々,相手の考えを引き出すように質問してみるのがいい。そのやり取りを通して,完了状態や進め方をすりあわせるのと同時,相手にやる力があることを認め,チェックポイントを決めて,必要ならいつでも助力を求めるように伝えておく。

A途中でチェックポイントを決めてチェックしてもらえればできるレベルなら,チェックポイントを,時間か仕事の区切りかで決めて,そこで相互チェックする。最初は短い間隔で,少しずつ長くし,そのつど次のステップの課題を検討しながら進めていく。

B基本的にいちいち聞かないと次へ進めないレベルなら,何ができ何ができていないのかを細かくチェックして,仕事を完成させるプロセス全体を経験させなくてはならない。このレベルを前提に,どう進めるかを,4段階にわけて考えてみる。各段階が,指示まちからの成長のステップにもなる。

  • 4段階で部下を育てる

●メンバーとしての役割の確認と刷り合わせ

役割意識をもつには,受身ではなく,

@周りの要求や期待を主体的に受け止める姿勢があること

  Aチーム全体の仕事を頭に入れ,その中で自分がすべきことは何かを考える姿勢があること

Bどうなりたいのか,どんな仕事をしたいのか,何を身につけたいのかといった自己成長の視点から,いまの自分の仕事の意味を考えられること

 が重要である。本人にそれを考えさせるために,たとえば,

 ・部門の使命・果すべき基本的機能・役割は何か

 ・その機能・役割を果すためにどんな仕事が必要なのか

 ・それをチームとして,どういう分担・配分で担っているか

 ・その一端として,本人に期待されている役割は何か

 ・その役割遂行にとって,重要な業務は何か

 ・それをするためにどういうスキル・能力が必要か

とったことを問いかけ,本人に考えさせながら,一緒に考えていく。このプロセスを通して,本人の希望や志向も確認していくことができる。

●主体的に仕事ができるように育てていくステップ

 必要なのは,その役割にふさわしく,主体的に仕事をしていく力をつけることである。そのために,バラバラではなく,全体として仕事を完結させることである。そこで,たとえば次のようなステップをとってみる。

@少しずつ指示を高めながら,自信をつけていく【第1段階】

Aその仕事をしている意味を感じさせる【第2段階】

B実行をサポートしつつやりとげさせる【第3段階】

Cチームを意識して,自分の成長をどうはかるか考えていける【第4段階】

もちろん,言わないとやらないというので,一方的な教示をすればするだけ,指示待ちを助長することになる。すべてのステップでは,求められている役割を自覚し,自立して仕事をできるようになるため,問いかけて考えさせ,応えさせてまた問いかけるという,相互のキャッチボールのプロセスが不可欠になる。自分で考えて,展開がひらけ,それを自分ですることで達成感を味わい,面白さと自信をつけさせることがねらいである。


  • 第1段階

@指示の中身の確認〜どういうやり方を期待しているかを刷りあわせる

 @何をするのかの明示(完了状態を具体的に示す)

 Aそれをすることの意味(それをすることがどんな意味があるのか)

 Bいつまでに(与えられた期間の明示)

を確認しただけで,また本人にゆだねてしまえば,同じことがおきる。そこで,「指示した目標」について,自分の想定していることを元に,その仕事に,相手がどれだけのことを考え,見込んでいるかを見積もらなくてはならない。

Aステップに細分化し,手順を具体化する〜やれるレベルにブレイクダウン

 大きな柱になることを,そのままやり出せば,やれるかどうかの見通しのないままはじめることになる。まずは,それぞれを具体的な手段に落としてみる。そうすることで,自分に何ができるのかできないのかがはっきりしてくる。

  • 第2段階

Bその仕事をする本人の意味,チームにとっての意味を考える

 ・なぜ本人に担当させるか,本人の仕事との関連を明確にする

 ・取り組むにあたって,十分できると判断している根拠を伝え,上司としての期待を示す

 ・その仕事のチーム全体での位置づけ,他の関連する業務とそれを誰がやっているかも教示しておく

 ・それをすることで,次にどんなことにチャレンジしてもらうかも伝える

 ・その仕事自体のもつ,知識,スキル,経験の意味,おもしろさも伝える

  • 第3段階

Cそれを実行するための段取りを検討する〜仕事をすすめる構想をたてる

実行の段取りについても,相手の考えを聞きつつ具体化していく。特に,

 どういう手段と方法で(実施の道具,手立て,使用資源)

 どういう手順とステップで(実施の段取り,スケジュール)

 どれくらいの予算・コストで(必要な経費)

をつめて考える。同時に,どのポイントで,チェックしあうかの時期も確認しておく必要がある。その他,

・その目的遂行で期待される成果や予測される制約条件,利用できる資源なども教示しておく。

 ・中間での報告・相談などの必要性を指示し,必要なら応援するので,いつでも声をかけるようも伝えておく。相談相手を決めておくといい。

 大事なのは,周りに聞きにくいからと,一人で抱え込ませないことである。必要に応じて,上司やメンバーにどうアドバイスや支援を求めていくかに気づかせることが,自分でできないこと,やっていけないことをやろうとしないポイントとなる。

D実行プロセスでのサポート

 実行することでしか身につけられないことがある。たとえば,自分であれこれ工夫しながらなんとか達成しようと,試行錯誤するプロセスである。ここで,必要とされるのは,

◆精神面

 ・行動する前にいつから,どうやって,実施していくかを計画する

 ・計画を立てるときに,成功失敗の予想をあれこれ考える

 ・自分独自のやり方でやろうと工夫を試みる

 ・その場で何が有効か,適切な行動を選択する

 ・周囲の状況や条件をよく調べ,見通してからとりかかる

◆行動面

 ・わからないことがあると自分で資料をさがしたり,調べたりする

 ・経験に当てはめたり,実物と比べたり,いろいろな視点から検討する

 ・自分の考えをわかってもらうために,人に伝えようとする

 ・うまくいかないとき,いろいろ試して出来るように自分で努力する

 ・うまくいくよう必要なものを整え,効果を上げる準備をする

 ・自分ができないときに上司や先輩に相談して,達成できるようにする

 等々だが,このプロセスで,どうタイミングよく,「いま何が必要なのか」とか「他に何か方法はないのか」などと問いかけ,一方的な助言やアドバイスでなく,本人に考えさせながら,気づかせていくことが必要である。


  • 第4段階

E全体の流れとの関連に気づかせることでチェック力を高める

本人は,自分の担当職務の出来不出来にのみこだわりがちである。しかし管理者のチェックとしては,チームの力をどう借りるか,あるいは逆にチームにどんな影響を与えるか等,チーム全体に目を向けるように注意を促していくことが必要となる。したがって仕事をチェックするときも,

 @未達,逸脱はないか

 A優先順位に間違いはないか

 Bスケジュールに無理はないか

 Cムリ,ムダ,オチはないか

 という本人の仕事の進捗度だけではなく,

 Dチームに影響を与えることはないか

 Eチームの協働態勢によってカバーできることはないか

 といった,チーム全体の中での位置づけと全体との関連を振り返る視点を強調する必要がある。

F自己改善ポイントをどう気づかせレベルアップを支援するか

 いままでのやり方では

 自分ひとりでは       

 いますぐには

 いまのままでは

できないという状態から,

 ・メンバーの力を借りればどの位できるのか

 ・管理者がサポートすればどれだけやれるのか

 等々,本人だけでなく周囲の支援を含めた視点で振り返らせたい。また,本人に不足しているものをどう身につけさせていくかは,少し長期の視点から考えていく必要がある。

指示待ち部下の指導については,タイプ別部下の指導法-1-タイプ別部下の指導法-2-を参照ください。
また,OJT,については,
OJTのスキ ルを参照ください。

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スキル事典38

職場のコミュニケーションを円滑にする


  • 職場のコミュニケーションを円滑にするにはどうすればいいのか

◇部下,特に若手とどうコミュニケーションをとるか。問題は,若手とのコミュニケーションがうまくとれないところにあるのではない。その中身なのだ。コミュニケーションをとる必要のあるのは,部下ではなく上司だ。なぜならば,コミュニケーションはチームをマネジメントする要だからだ。その意味では日常の会話ができないことよりも,仕事に関するコミュニケーションそのものが十分とれているのかどうかの方が重要だ。雑談などに気をとられる前に,仕事に関して,どうやってコミュニケーションのチャンネルと機会をつくるかの工夫が優先されなくてはならない。


  • コミュニケーションは何のために必要なのか

チームとして機能するには,@共通の目的,A役割分担,Bコミュニケーションが不可欠とされる。では,具体的には,それはどうなっていることなのか。

たとえば,目的を共有するという。では,どうなったら共有したことになるのか,ただお題目のように目的を復唱することではない。それぞれの日々の仕事ひとつひとつが,チームの仕事につながっていることを,そのチームの仕事が上位部署の仕事につながっていることを,ひとりひとりが,ひとつひとつの仕事で了解できていることだ。そのためのコミュニケーションを管理者がしたのかどうか。

では,役割分担とは,どうなったら役割分担していることになるのか。単に自分の担当に責任をもつことなのか,それだけではない。自分の担当業務を介して,自分が解決できない事案にぶつかったとき,それを自分でかかえず,上司やチームに投げかけられることだ。チームで仕事をし,そのための自分の役割がわかっているとは,自分の役割を超えた案件で,自分がやるべきことなのか,チームでやるべきことなのか,チームを超えた部署や組織でやるべきことなのかが見極められることでなくてはならない。そのためには,日々上司やチームメンバーとの間で,お互いの仕事について,率直にコミュニケーションをとれる土俵ができていなければ,「それはうちの仕事ではない」「どうせ言ったって仕方ない」「どうせどうにもなるまい」ですましてしまうことになる。

さらに,コミュニケーションがとれているとは,どうなっていたらコミュニケーションがとれていることなのか。コミュニケーションが必要なのは,役割を割り振って,あとは蛸壺にはいってひとりひとりが背負い込んで黙々と仕事をする職場にしないためだ。そういう職場は,チームになっていない。仮にチームの目指すものをどう分担するかがわかっていたとしても,チームではない。チームで仕事をするとは,一人で仕事を抱え込まず,他人にも仕事をかかえこまさない仕事の仕方のことだ。そこではどんな仕事も,自分一人でやっているのではないという了解がとれている,些細な問題もチームに上げ,チームで解決すべきことはチームで解決しようとし,上位部署もまきこんで解決すべきことは上司を介してより上位にあげていく。そのときもし自分のやるべきことをチームにあげたとすれば,「それは君の仕事た」と,本人につき返すことができるチームだ。そういうコミュニケーションがとれていてはじめて,チームの要件としてのコミュニケーションがとれているといえるのである。

  • チーム内コミュニケーションの3つのレベル

他部門や上位部門を含めた組織内のタテ,ヨコのコミュニケーションのレベルや仕組みがあることが前提になるが,チーム内には3つのコミュニケーションのレベルがある。

●チーム全体としてのコミュニケーション

 チームは何をするためにあるのか,そのために何をするのかという,目的や方向性を確認し,そのために,ひとりひとりが何をするのかを確認し,すりあわせ,フォローしていくレベルである。

●業務遂行レベルでのコミュニケーション

 仕事を現実に遂行していく上で,上司とメンバー,メンバー同士,場合によっては,他チームや上位者とのコミュニケーションを,日々,年度を通してしていくレベルである。たとえば,チームのおかれている状況認識の刷り合わせ,正確な情報の共有,問題意識の共有,ノウハウ,知識・経験の共有化。そのために報連相,ミーティング,打ち合わせ等々。

●個々のメンバー同士の一対一のコミュニケーション

 必ずしもインフォーマルだけではなく,仕事の上でも,私的に問題意識を交換したり,雑談したりするコミュニケーションのレベルである。たとえば,日頃からキャッチボールの機会を確保し,問題意識をすりあわせられる。懇親,親睦の他,何気ない会話のできる職場の雰囲気づくり等々。

 管理者にとって,チーム全体のコミュニケーションと業務遂行レベルのコミュニケーションがなくては,チームとして機能しない。もちろん,雑談や立ち話,あるいは喫煙ケージでの会話というのは重要ではあるが,チームとしてのコミュニケーションの土俵があってこそ意味がある。


  • コミュニケーションの中身と求められる能力

 コミュニケーションは言葉のやり取りだけではない。コミュニケーションをかわすということは,相互に心理の階層をもっている。ただ,表面的にかわされている事実関係の情報だけでは,つかめない相互の心の動き,感情の変化も重要になる。

とすると,コミュニケーションには,単に,指示命令したり,業務に関わる情報交換といったレベルの,話しあえる能力(責任・使命からの役割行動)だけでなく,ときに,新しい仕事への不安や自信がないためのおびえについても,理解し,励ましたり,サポートしたりできる,ふれあえる能力(感情交流,自己開示)が欠かせない。そこでは,管理者自身が,それを隠したり強がったりするのではなく,自分はどう克服したのかを語れる率直さが必要になる。管理者自身も,自分の本音や自分の本心に向きあわなくてはならない。自分に向きあえているだけ,メンバーの向き合っているものに向き合うことができる。

  • コミュニケーションの土俵をつくる

その意味で,管理者と部下全体,管理者と部下ひとりひとり,部下同士のコミュニケーションをするための,お互いが何について話しているかを共有できている場,それを土俵と呼ぶとすると,それにはふたつあるはずである。

●上司と部下,先輩と後輩,同僚同士といった,役割に基づくコミュニケーションの状況(機会)づくり。

●そのつど,その場その場の,私的コミュニケーションの場づくり。

上記のコミュニケーションのレベルと関連づけると,前者が,チームレベルや業務遂行レベル,後者が一対一レベルにあたる。チームレベルや業務遂行レベルでのコミュニケーションがなければチームとならない。しかしチームメンバーひとりひとりが何をしているのか,何を考えているのか,何を思っているのかを知らなくては,ひとりひとりの仕事をただ足しただけの集団になる。もちろん,ふたつの土俵が別々に必要というわけではない。一緒に役割を果たすこともあるし,別々に設定しなくてはならないこともある。ただ,チームには,この両輪のコミュニケーションが必要なのである。

Dコミュニケーションの土俵づくりが意味するもの

こうしたコミュニケーションの土俵づくりで何をするのか。それを考えるのに,“ジョハリの窓”が役に立つ。これは,他人との関係の中で,自分にわかっている自分/自分にわかっていない自分,他人にわかっている自分/他人にわかっていない自分の4つの窓で,自己を理解しようとするものだが,ここでは,パブリックという領域に着目してみる。

パブリックとは,行動・感情及び動機について,自分がよく知っていて,他人も知っている部分とされる。これを下図のように書き換えてみる。つまり,自分(管理者)が知っている自分を,自分が果たしている役割,自分のしている仕事の仕方,進め方,何を重視し,何に価値をおいているか,を他人(部下ひとりひとり)が,理解してくれている部分とする。そうすると,このパブリックのできている部分だけで,部下ひとりひとりとのコミュニケーションの土俵ができていることになる。これを相手との間で形成するのが,コミュニケーションの土俵づくりをする意味である。

パブリックを広げる方法はふたつである。

第一に,自分が何を考え,どう思っているかを語ることである。自分が何を目指し,何をしようとしているかを明確にすることによって,プライベイトな部分を小さくできる。

第二は,相手からのフィードバックを聞くことである。自分の行動がメンバーからどう受け止められているかをフィードバックしてもらい,自分の知らない部分,気づいていない部分を受けいれることによって,ブラインドの部分を減らせるのである。

 その意味では,業績が伸び悩む中,お互いに協力し合ってタッグを組まなくては,乗り切れないというおのれの思い,これからチームをどうしたいのかという自分の考えを,まずきちんとメンバーに伝えなくてはならない。そしてその思いを,メンバーがどう受けとめるかを聞くところから,パブリックづくりは,とりあえずスタートする 。


  • コミュニケーションの手段と機会

コミュニケーションの目的は,職場の目的達成のために,各人が何をするかの分担をはかり,それぞれの分担した機能が,有機的に機能するよう,常にベクトルを合わせることである。そのために,各職場毎に,いつ,誰と誰が,何を,どこで,どういうときに,どういうカタチでコミュニケーションをとれるようになっているか,その仕組みとツールが共有化されていなくてはならない。

  • どうコミュニケーションをスタートさせるか

 では,具体的にどうコミュニケーションをはかればいいのか。コミュニケーションは自分の話したことではなく,相手に伝わったことが,自分の話したことである。相手にできるだけ届くように,まずは,相手に聞く姿勢になってもらうための準備作業がいる。両者が土俵を意識して初めて伝える・聞くの関係が始まる。どのレベルのコミュニケーションでも,相互の間で,お互いに「どういうテーマ(話題)」を話をしているかについて共通認識ができていなければ,すれ違いざまの挨拶にすぎない。共通に何について話しているという土俵がないところでは,コミュニケーションは成立しない。仮にコミュニケーションしても,「言った,言わない」が起きる。

まず,一対一の対話なら,たとえば,「いまちょっといい?」「いま,5分いい?」「ちょっと話がしたいのだが,いい?」とはじまるだろうし,ミーティングなら,事前のアジェンダの周知からはじまる。その意味では,もともと盛り上がっている雑談に,友人関係でもないものが,途中から加わろうとすることには無理がある。その場合,「話に加えてもらってもいいか?」と,了解をとり,「何の話?」と,話題を教えてもらうことが,そのコミュニケーションの土俵に乗せてもらうための礼儀というものである。


  • コミュニケーションの機会を逃さない

     コミュニケーションの機会はさまざまあるが,そのつど何のためにそれをするのかという目的意識を明確にもち,それを相手にも伝えなければ,単なる情報のやり取りで終わる。当然ミーティングの目的と立ち話の目的は違う。

●報連相

 たとえば,報連相,報告というのは,仕事のPDCAの共有化,仕事の進捗状況のすりあわせであり,連絡とは,業務情報の共有化,知識,情報のレベルあわせであり,相談とは,問題状況の共有化,現場で起きていることの見通しをキャッチボールすることである。上司にとっては,現場で何が起きているかを知る機会であり,部下にとっては,どこまで自分が責任をもち,上司やチームがどれだけサポートしてくれるものなのかを,確かめ,すりあわせる場でもある。とするなら,このひとつひとつが,上司と部下との間で,パブリックを作り上げていく機会そのものである。その中で,大事なことは,仕事はチームでするものであり,自分で解決してはいけないことや解決できないことは,それを解決できるレベルに上げて,チームや上司,あるいは更に上に上げて,解決するようにはかることであり,決して自分でかかえこんだり,背負い込んだりしないですむためにこそ,報連相という,コミュニケーションの土俵があることを,相互で確認していく場でもある。

●ミーティング

ミーティングは,何のために開いているのか。たとえば,全員に方針や考え方を周知徹底する,全員で決めたという手続きが必要,全員の意見を聞きたい,全員が顔を合わせる唯一の機会,問題意識を共有化等々。それには,ただ漫然と開くのでなく,まずリーダーとして,どんなミーティングにしたいのか,を明確にしなくてはならない。たとえば,全員に意見を言ってほしい,ただ順次発言を廻すだけでなく,自由闊達な,ブレーンストーミング的なやり取りができるミーティングをしたい,云々。

もし全員がそこに参加することに意味があるのだとすると,それを意味あらしめるためには,そこに参加し,議題に意見を交わす必要があるからではないのか。仮に,メンバーの話を聞くということを目的においたなら,儀礼的に発言を求めるだけでは意味がない。意見が出ないなら,出るように,あるいは出したくなるように,会議前の準備作業で,あるいは会議のプロセスで,更には会議終了後のフォローで,工夫をしなくてはならない。

たとえば,ミーティングの事前に,ひとりひとりと話をしてみる,テーマや議題について周知をはかる。またミーティングの進め方としては,出た意見をボードや模造紙に文字化し,発言者から切り離し,それについて論ずるようにする,その役を若手に振ってみる,若手にミーティングの進行役を任せてみる。あるいは,ミーティングの席を毎回変えてみる,若手だけとミーティングをしてみる,事前にベテランに根回しし,しばらく発言を我慢させ,若手だけの意見を徹底的に求める,ミーティングのあと,若手ひとりひとりと振り返りをしながら,感想を求める等々。

会議などで,意見がないのは,何も考えていない,考える必要に迫られない,意見はあるがいいたくない,言うとあとでベテランから嫌味を言われたりして不利益になる,意見はあるがいっても仕方がない等々があるだろうが,まずは,意見を言わないで済ませてしまうことに,会議のもち方や問いかけ方に問題がある。意見を言いたい言いたくないのレベルではなく,当事者として,絶対意見を言わなくてはならないのなら,言わなくてはならない状況をつくらなくてはならない。少なくとも,儀式のように,意見を求めるだけの風土を変えなくてはならない。

たとえば,若手から発言を求め,それをきちんと聞く。場合によっては板書する。意見を求めて,「別に,」という返事なら,そこで終えない。「別に,と言うのはどういう意味?」と聞いていく。黙っていても,ただ待つ。聞くとは,聴き切る姿勢だ。相手が何を考えているのか,あるいは何も考えていなのも含めて,言い尽くすまで,待つこと,待てることだ。「特に考えていませんでした」と応えても,それで終わりではない。「いま,どう思うかを考えて」「そう聞かれて,どう感じた?」と聞く。困惑しようが,引かれようが,会議が,皆の意見を求めるために開くのなら,それはリーダーの決断で動きはじめるはずだ。ただ,それは追求でも吊るし上げの場ではない。どんな発言であれ,発言があれば,途中で評価したり批判することなく,最後まで言い尽くさせる。そういう反応や雰囲気で,ここで意見を言ってもいい,意見を言ってよかったと感じさせる雰囲気が醸成されるようにしなくてはならない。それは,リーダーにしかできないことなのではないか。

●雑談・立ち話

 日々何気ない雑談したり,立ち話をする。それをどう意識的なコミュニケーションの手段にするかだ。例えば,上司が,日に何度も,「どう?うまくいってる?」とか,「必要があったらいってね?」などと声をかける,とする。そうすれば,初めはうるさく感じても,少なくとも,上司が自分を気にかけてくれていることだけは伝わる。3回以上接触があると,親しみを感じるというデータもある。それを,いわば,相手との土俵づくりのきっかけにするのである。後は,日に何度か,立ち話で,情報交換ができるようになればいい。形式ばった報連相とは別に,私的に報連相を重ねられるようになるだろう。信号待ちの30秒程度の立ち話でも,積み重ねることで,十分相手とのパブリックを広げることはできるのである。(了)

職場のコミュニケーションについては,ここを参照ください。

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スキル事典39

上司を動かす


  • 上司を動かすリーダーシップ

ここで取り上げようとしているのは,チームリーダーのリーダーシップとは何かということである。

チームは自己完結しているのではなく,組織全体の中で,その役割がある。上位者にとって,そのチームの成否が自分の預かる部署全体の成否につながる。チームをあずかるものは,上位者との関係の中で,自分に何が求められているかを常時考えながら,チーム運営をはからなくてはならない。場合によっては,チーム運営のために,上司を動かさなくてはならない場合もある。そこに必要なのは,ただよい業績をあげるだけではない,人の管理と仕事の管理の両方にかかわるリーダーシップが必要である。チームリーダーのチーム運営の失敗は,単に自分への咎にとどまらす,上位者にも及ぶことがわかっていなくてはならないのである。たとえば,営業成績を上げるために,上司の時間管理への注意を無視し続けた場合,どんな問題があるのだろうか。また場合によっては,上司を動かすために何が必要なのだろうか。


  • チームリーダーの役割とは

チーム・リーダーに求められるのは3つの役割となる。

●旗を立てる機能(指示機能)

何のために(目的),何をするか(目標),どこへ向うのか等々,チームの仕事の意味づけと組織全体とのリンケージ(関連づけ)をとり,クリアな旗印を明示することである。

●巻き込む機能(盛り上げ機能)

立てた“旗”をどう実現(達成)するかの手段として,目的達成のために,チームとしての活力を維持・向上させるために,必要なことはすべてが対象となる。どうメンバーをまとめ,集団としての力を盛り上げていくかを工夫し,実践する。場合によっては上位者だけでなく,チーム外のキーマンも巻き込む。一番肝要なのは,コミュニケーションであり,そのためのチャンネルが確立していること,日々円滑化の為の工夫をすること,協働体制づくり,メンバーの指導・育成,職場風土づくりその他日常の細々としたチーム運営等々。

●やりきる仕組みづくり機能(仕掛けづくり機能)

 目指す旗を確実に達成するために必要なさまざまな仕組みや仕掛けをつくり,環境や条件整備をして,旗の実現をお膳立てをする。一人一人に自主的に取り組ませるための仕組み,業務分担の見直しや調整,チーム全体が足並みが揃う仕掛け,障害物を取り除く工夫,途中経過や進捗状況を共有化する仕組みづくり等々。

リーダーが確信をもってチームの目指すものを指し示せなければ,チームメンバーが毎日の仕事の意義(何のためにそれをするのか)に確信をもてるはずがない。それこそが“旗印”が必要な理由である。それによって,何のためにそれをするのかという目的意識が明確となり,そのために何をしたらいいか(目標意識),どういう役割を果たせばいいのか(役割意識),チームメンバーがひとつの目的実現のために一体となって取り組むことができる。しかしそれが,組織全体とのリンクを欠いた,チーム内に自己完結したものでは,そのパフォーマンスは,組織の何にも寄与しないことになる。何にもリンクしない孤立した旗は,チームの旗としての意味をなさない。


  • チーム目標の意味

目標は,基本的に,単独では存在しない。目的(何のために)−目標(何をする)の連鎖の中に位置づけられる。たとえば,ある目標(何をする)は,その目的(上位目標)から見れば「手段」である。しかし,その目標の手段(下位目標)からみれば,その手段を取る目的となる。組織の各目標は,そうした組織の目的達成の手段としてある。連鎖の中にある目標が1つ崩れただけで,この目的に向けての体系全体が崩れ,目的達成は難しくなる。とすれば,その手段は,目的達成に適合しているかどうかが,たえず問われなくてはならない。もし,目的不適合(あるいは目的不全)の活動であれば,目的への寄与のない活動と見なされなくてはならない。

時間管理もまた,組織全体の目的連鎖の中に位置づけられているはずであり,チームリーダーが,残業削減を無視し手業績優先を続ければ,たとえ業績がクリアできても,目的不適合である。チームリーダーに,残業が増えても業績をあげることが組織の目的にとって重要であるという覚悟があってしていていたのならまた別であるが。

《目的手段の階層構造》

下位目標(目的からみると手段)の妥当性は,上位目標(下位目標からみると目的)の妥当性による。ある作業行動(は,何かをするという目標の手段に当たる)が目標に適合しているかどうかは,その目標(は,何のためにするかという目的の手段に当たる)が目的(何のためにそれをするか)の手段として適切かどうかによってのみ,チェック可能である。

つまり,一方通行ではなく,手段(下位目標)から上位目標(目的)に,また上位目標(目的)から下位目標にと,双方向でキャッチボールされることで,自分の行動が意識的に軌道修正される。チームリーダーは,その作業を竹之内課長との間できちんとしていなくてはならなかったのである。たとえば,いま組織全体が何に重点をおいていて,課長自身が何を重視しているのか,その中で,時間管理にどのくらいの優先順位をつけているのか等々。


  • 組織全体の中でのチームの位置づけを再確認する

チームは,組織目的の機能分担の一翼を担っている。チームの目的は,より上位の組織の目標であり,チームの目標は,チームメンバーにとっては,目的である。

チームメンバーは,チームの目標達成のためにどうするかを考える。しかしリーダー自身が,自分のチーム所属する上司の部署目的に寄与していなければ,リーダーとしてその役割を果たしたことにならない。

 

チームリーダーは,上司が何を期待しているのか,何を目指しているのかを,どこまで意識していたのか。上司の考えは,その上位者の考えを反映しており,上位者は,組織全体の方向性を反映しているはずである。そのことに目が向いていなければ,チームリーダー失格である。


  • チーム目標も組織全体の動きと連動している

チームリーダーが,上司の方針や考えを意識していないということは,会社全体がどういう方向に向かっているのかが,ほとんど意識されていないことを意味する。それは,チームの目標は見えているが,その意味が見えていないことを意味する。意味が見えていないことは,それを達成することの意味が共有化されていないことであり,目標達成そのものが目的化されている恐れがある。役割意識なきところに問題意識(何とかならないか)はないが,役割意識は,何のためにそこにいるかという目的意識なしにはありえない。目的意識あってこそ,その役割として実現しようとする自分の目標の意味が見える。目的達成のために自分にどういう役割があり,それにふさわしくどんな目標を立て,それをどうやって達成していくかが自己点検できるためには,自分のポジションは「何をするためにあるのか」という目的の明確化こそが大前提となる。

この問題で,仮に上司である課長を巻き込んで自チームをサポートしてもらうには,それが,上司にとって動ける意味のあるものになっていなくてはならない。それは,組織全体の方向性とリンクしていることだ。自分(あるいは自分のチーム)は,組織全体の中で,何をすることを求められているのか,自分(自分の預かるチーム)の存在意味(チームの目的)を,明確にしなくてはならない。自分(自分のチーム)の使命と自分自身の意思を織り込んで,自分(あるいはそのチームのチーム)として何をするのかを明確にしてはじめて,チームリーダーのリーダーシップは機能する。

 

その意味で,これだけパフォーマンスをあげているのだから,残業規制とはけしからんというのは,チーム内に自己完結したものの見方にすぎない。組織全体の方向性にかなうように,どうチームを運営していくかを考えなければ,リーダーシップを発揮しているとは言えないのである。

  • チーム内での方針を固める

 まずは,全体の方向性を見定めなくてはならない。たとえば,大きな経営の方針のもとに,たとえば,業務の効率化という方針のもとに,残業削減が位置づけられているのか,あるいはコスト削減の一環として,シーリングが定められているのか,それによって,取り組み方が変わってくる。つまり,組織全体の方向性にどう関わるかということは,何のために残業削減するかの位置づけが変わるのである。たとえば,いきなり総枠規制をかけるのか,業務や仕事の効率化の積み上げとして削減をはかっていくのか,によって枠組みに添うように,仕事を変えるのか,仕事の変え方に応じて減らしていくのかが変わってくる。一番大きいのは,メンバーのそれへの関わり方である。

いずれにしても,チームにとって,営業成績のクリアしつつ残業を見直すことは,同じ人員で,いかに少ないインプットで効率的なアウトプットを引き出すか,ということを共有化することである。組織全体がそのことで目指している方向にリンクさせながら,自分たちの意味づけを共有化していかなくてはならない。自分たちなりにそれをすることの意味を見つけ出さなくては,単なるやらされ感で仕事をしているのと同じである。それをしないためには,本格的に全員の役割分担,仕事の仕方を,あわせてい見直さなくては,意味がない。それは,チーフをおいて,口火をきることはできないはずである。

仮に,総枠規制が全社の方針でも,それをチーム内で徹底するとき,いきなり結論を下すのではなく,その結論を出すプロセスに,メンバーも参画し,その意味を共有化することである。場合によっては,総枠に添うように,仕事を見直すアプローチをとっても構わないのだ。そのとき,

●チーム内で努力できること(チーフのコントロールできること)

●チーム間で調整できること(チーフ間でコントロールできること)

●上司の決裁を要すること(上司の裁可のいること)

にわけて,チーム内で徹底して検討する必要がある。まず,自チームの事情だけでは,上司は動かない。チームでできること,チーム間でできることをしておいた上で,

●上司の部署全体の位置づけ(上位部署との関係)を考え,

●その部署内での自チームの役割,責務を考え,

●それを達成するために,どういうことが必要なのかという提案をする,

という姿勢が必要なのである。それは,その提案こそが,上司の部署のパフォーマンスにとっても不可欠であるということを,きちんと説明できるものでなくてはならない。

  • 上司と合意点を見つけるための5つのポイント

いままで,きちんと話す場をつくってとこなかったようだから,まずは,上司との共通の土俵をつくらなくてはならない。そこで必要なのは,相手が何を求めているか,相手は何を大切にしているかをつかむことだ。ポイントは,5つである。

●上司の大切にしていることをつかむ

 上司が何に価値をおいているのか,何を大切だと考えているのかをきちんとつかみ,それをこちらが理解していることを伝えなくてはならない。自分にとって,何が大事かを考えていないと,相手のそれが見えないかもしれないが,たとえば,「自分は,チームにとってこういうことが大事だと考えている」「課長のご方針はここがポイントと理解して,チームではこういう具体的な展開をしている」と伝えることを通して,上司の価値観とすり合わせていく。

●相手とつながりを築く

 課全体としての残業削減の中で,自チームの残業削減の意味と役割を,一緒に話し合う限り,その点では,相手も自分も,この場で何かを決する役割をになっているという立場は同じである。その立場のまま対立するか,逆にその共通の立場であるからこそ,その土俵から見れば,すべては共通の視界になる,ということもできる。そのとき,少なくともお互いに満足感を残しながら,できるだけ時間や資源を無駄にしないで,解決したいという,共通の目的をもっているはずである。そこで必要なのは,ともに会社の目的を実現するという意識である。

●お互いの自律性を尊重する

 要求は相手を拘束する。それは相手にネガティブな感情を引き起こす。提案は,その選択肢が多く,それを決める自律性を相手に与えている限り,相手の自由を縛らないはずであり,決定したという感覚を相手に残せる。相談なら,相手と一緒に考えている状況をつくり出せる。自律性を高めるには,

・まずは,自分にできることを自分で制約していないか。何ができるのか,何をすれば,少なくとも現状を動かせるのか,を考える

・意思決定する前に,意思決定のための案を作ることはできる。それは,自分の視点からだけではない選択肢をたくさん考えることである。

・一緒にブレーンストーミングをしてみる。両者は共通のテーマのもとに,一緒にさまざまな選択肢を検討し,よりよいものにしていく。

●上司の課長としての役割の意味を尊重する

 当然,課全体の方向性にどう関わるかが前提である。ひとは,自分の役割意識を疎かにされると,軽視されたと感じ,感情的に反発する。どうすれば相手を尊重したことになるか,がポイントである。それには,まずは,

・礼儀正しいこと。ぞんざいに扱われて喜ぶ人はいない。

・正直であること。ごまかしや偽りなく,真摯に向き合うこと。

・そのとき,その場にふさわしい対応ができること。

●相手に不本意な役割を強いない

 誰もが自分の望む,満足できる役割を演じたい。交渉の中で,不本意な役割を甘受させられれば,屈辱や怒りを感じさせ,交渉が不首尾に終わることになる。満足できる役割には,重要な意味がある。

・何のためにしているかが自分に意味づけられれば,その役割を演ずることのの筋道ができる。

・お互いに,協力関係の中で,役割を担いあうことで,お互いに満足できる役割を再確認する。

リーダーシップについては,「リーダーシップとは何か」「リーダーシップ論」「リーダーシップに必要な5つのこと【1】【2】」を参照してください。
交渉については,「
交渉・折衝のスキル1」「交渉・折衝のスキル2」を参照ください。

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スキル事典40

プロジェクトを成功させる


プロジェクトチームの進捗停滞 し,意見対立と,それがそれぞれの出身母体に伝聞し,そこからの反対意見が生じることによって,チームメンバーがばらばらになり,チーム自体の存在に危機が生じる, さて,そういうシチュエーションで,チームリーダーは,どうチームを結束させていくか,リーダーシップが問われる。プロジェクトそのものを問い直し,チームとしてのまとまりを再構築していくリーダーシップとは何かが問われている。 それは,翻って,そもそも当初から,何をしなくてはならないか,ということの確認でもある。そんな前提で以下,考えてみている


  • プロジェクトチームを成功させる

  • プロジェクト・チームの要件は何か

 プロジェクトチームの要件としては,

●何のためのチームなのかが明確で,何をするためのチームなのか,チームの存在理由と意味が明確であること

●チームとして到達すべき目標が明確で,共有化されていること

●目標達成のために,役割分担がはかられ,相互の役割が機能的に統合されていること

等々があげられる。つまり,チームの存在意義となすべきタスクが明確であり,それをするための役割分担がきちんととれている。だからこそ,お互いをつなぐつながり方ができあがっていく,といえるのである。

では,チームメンバーからみると,どういうときにまとまり,どういうときにまとまりが損なわれるのか。

@チームが組織内での位置づけが高いと認識されているとまとまる。

Aチームの目指す目標が魅力的なとき,チームに魅力を感じる。逆に目標達成が不可能になったり,大きな障害を突破できないと感ずると結束力が弱まる。

Bチームの意思決定にメンバーの参画度が高いとき,まとまりは高くなる。

Cチーム内で重視されていると感ずるメンバーはチームに魅力を感じる。

Dメンバー相互の協働関係が強ければ,チームに魅力を感じ,対立関係が強まると結束力が弱まる。

Eチームの価値(そのチームに所属していれば有益,誇り等々)があると感じられると魅力を感じる。

等々といわれる。これを左右できるのはリーダーのリーダーシップしかない。

  • チームの活力を高めるためにリーダーはどうあるべきか

チームの活力を高めるには,どれだけメンバーが共有できる目的をもてるかである。そのために,リーダー自身も,確信をもってチームの目指すもの(目的)を指し示すことができなければならない。

何のためにそれをするのか(目的意識)に魅力があり,そのために何をしたらいいか(目標意識)が共有化され,どういう役割を果たせばいいのか(役割意識)が分担され,何をチェックしたらいいのか(評価基準)が一致できていれば,チームメンバーがひとつの目的実現のために一体となって取り組むことができるはずであり,それは,チーム全体のやる気の根源となるはずである。

 しかしそれは,組織やチームの視点に過ぎない。チームの活力が何のために必要なのかによって変わるはずである。たとえば,大まかに3つの面から考えてみることができる。

第一は,チーム自体のパフォーマンスにとって。チーム自体の維持と向上から,活力がなくてどうして,結果を挙げられるだろう。それがなくて,チームの存在意義はない。

第二は,リーダー自身のパフォーマンスにとって。チームに活力がないとは,リーダーが何かを求めても,メンバーからは何の反応も,前向きの行動も生まれず,ただ言われたことを仕方なくやっている,ということになる。それではリーダー自身にとっても,その一つ一つの仕事にも,自分自身の存在にも,意味も達成感も見出すことはできない。

第三は,メンバー自身のパフォーマンスにとって。メンバーが,自分がそこにいて,働くことに意義を感じられること,特に自分がそこで有用とされ,そこでの成果に寄与できているという有効感や,そこで働くことで自分自身のやりたいことを実現できるという効力感がもてなければ,そこですごす時間は単なる義務感でしかない。

リーダーは,どうしてもチームへの貢献を求めがちだ。ともすると,リーダーはチーム目的と一体化してしまっているからだ。チームとしての「しなくてはならないこと(環境要因)」「できること(内部要因)」「したいこと(意思)」と,リーダー自身の「しなくてはならないこと(環境要因)」「できること(内部要因)」「したいこと(意思)」とがイコールとしてしまっている。もちろん,それを否定する気はないが,その範囲にとどまる限り,個人商店主的リーダーシップであって,そのチームの存在意味も限定されたものであるし,そうしたリーダーシップは,メンバーにとってメンバー自身の活力を減らすストレス要因そのものにもなる。

本当は,まずリーダー自身が本当に,そこで自分自身を活性化できているのか,と自問しなくてはならない。心から充実し日々生き生きとしているのかどうか。気づかずにやらねばならないこと(それも自分のそれではなく組織のそれ)とリーダーとして役割から来るやりたいことが重なって,本人はそれが自分のやりたいことと勘違いし,迷惑にもそれをメンバーに強要していることはないのか。問題なのは組織と一体化していることではなく,リーダー自身がそれに気づかず,あたかも自分の意思であるかのごとく思い込んでいることだ。そこでは,ただ「なすべきこと」を要求するだけのリーダーシップしかない。それはリーダーシップではなく,ボスという肩書きに頼っているに過ぎない。

たとえば,活力というのをイメージとして言うなら,チームメンバーひとりひとりが,自分自身の責任でなすべきことをわきまえ,その達成のためにチームメンバーと助け合いながら,組織としてのパフォーマンスをあげるように努力するプロセスということができる。そのときメンバー自身もまた自分自身の本音と意思に向き合い,何をしたいのか,それは今ここでできているのかを考え,チームにもオープンに話せる雰囲気がなくてはならない。それがなければ,表面上は活発な意見交換がなされても,それは組織として「なすべきこと」についてのみであって,ひとりひとりの「やりたいこと」を諦めるか,はじめから考慮に入れていないか,そもそも意識していないか,のいずれかでしかない。それを方向づけていくのがリーダーシップそのものなら,リーダー自身が自分の本心と本音と意思に,きちんと向き合っていなくてはならない。でなくては,結局その活力は,メンバーのためのものではなく,組織とリーダーのためのものでしかない。それは真の活力とは言えない。

  • リーダーシップに何が必要なのか

一般的に,

@リーダーシップはトップのものである,

Aリーダーシップはパーソナリティである,

Bリーダーシップは対人影響力である,

といった常識がある。しかし,リーダーシップは,トップに限らず組織構成員すべてが,いま自分が何かをしなければならないと思ったとき,みずからの旗を掲げ,周囲に働きかけていくことではないか。その旗が上位者を含めたメンバーに共有化され,チーム全体を動かしたとき,その旗はチームの旗になる。そのリーダーシップにふさわしいパーソナリティがあるわけではない。何とかしなくてはならないという思いがひとり自分だけのものではないと確信し,それがチームメンバーのものとできれば,リーダーシップなのである。そこに必要なのは,自分自身への確信である。それは自分を動かすものだ。それが人を動かす。リーダーシップは他人への影響力である前に,自分への影響力である。「お前がやらなくて誰がやるのか」「自分がやるしかない」「自分はこれを何として実現したいのだ」と,みずからを動かせるものが,自分の中になければ,人は動かない。それが旗の意味であり,旗の実現効果であり,そこに共に夢を見られることだ。

だから,リーダーシップに必要なのは,@周囲を巻き込める夢の旗を掲げられること,A夢の実現プランニングを設計できること,B現実と夢とを秤にかけるクリティカルさがあること,である。「こうすべきだ」だけでは人は乗らない。それが単なる夢物語でも人は乗らない。夢と現実味をかね合わせて,たえず点検していける精神こそが,求められるリーダーシップである。

  • なぜチームにビジョンが必要なのか

 自薦他薦で「リーダーになる」ことは可能だが,メンバーにリーダーと認知されない限りリーダーではありえない。リーダーと認められなければ,仮に旗を掲げても,誰もついていかない。いまリーダーであるからといって,いつまでもリーダーでありつづけられない。常にメンバーから問われているのは,(あなたは)「何のために(何を実現するために)リーダーとして存在しているのか」である。その答は,リーダーである限り,自分で出さなくてはならない。その答が出せなくなったとき,リーダー失格である。

 もちろん「リーダーである」ことは目的ではない。あくまでチームの目的を達成することが目的である。それにはたえず「チームの目的は何か」を明確にさせなくてはならないだろう。リーダーは,一方では,自分は「何のために(何を達成するために),リーダーとしているのか」「(目的を達成するために)リーダーとして,何をしなくてはならないのか」「(目標を達成するために)リーダーとして,どういうやり方をすべきなのか」等々と絶えず自問しつづけなくてはならない。しかしそれだけに自己完結させればチーム維持そのものが目的化してしまうだろう。だから他方では,果してこのチームはまだ存在する理由を,持ちつづけているのかどうか,チームの使命そのものへの問い直しもまたリーダーにしかできないことである。

 チームにビジョンが必要なのは,チームは何をするために存在しているのかというリーダーの問いへの答えが,ビジョンであり,旗印であるからである。旗を鮮明に掲げ続けられるかどうかは,リーダーがチームの目的とどれだけ格闘したかの結果であり,そこにこそリーダーシップが必要なのである。そのビジョンが,それを実現するために何をすべきかを,メンバーに考えさせる値打ちがあるかどうかをリーダーは問われているのである。


  • プロジェクトチームの成功要因

●プロジェクトのコンセプトが明確である

 ・顧客が明確であるか。つまりユーザーは特定されているのか。

・製品・サービスが明確か。つまり何が解決さるのか,あるいは何が実現されるのか。

・差別性が明確か。つまり何が違うのかがはっきりしているのか,他にない何があるのか,等々。

●支援するトップと支援するミドルマネジメントが不可欠である

 成功した開発プロジェクトの第一要因は,「トップの理解と励まし」である。このトップが,社長であることもあるし,研究開発部門のトップの場合もある。最初は少数のトップの支援でも,その人の影響力で多数のトップのコンセンサスをとりえるからなのである。幸運にも,社長がそのテーマに強い関心をもっている場合もあるかもしれないが,トップの関心をひきつける努力はプロジェクトチーム,特にリーダーのトップへの関わり方にある。仮に名目上であれ,実質的であれ,最終意思決定権者が,ほっておいてもプロジェクトに関心をもち,強くバックアップしてくれるというのは他人任せにすぎる。みずから,どうすれば,強い関心と支援をもらえるか,チームメンバーとともにアイデアをしぼらなければならない。

そのとき忘れてならないのは,プロジェクトに関心をもってくれる,ミドルをみつけることである。それでなくても,新規のプロジェクトは既存の事業にとって強力なライバルになりうるし,また自部署から有力な人材を割かれていたりもするので,利害に反することが多く,ともすれば足を引っ張られる。そんなとき,ミドルクラスに,理解者と支援者を見つけることは,実質的なプロジェクト運営にとって,協力な援護射撃になる。

●目標が明確であり,責任がはっきりしている

 プロジェクト成功要因で多いのは,「目標が明確,テーマが明確」「責任が明確」である。テーマが明瞭で,限定されており,期限が明確で,予算の裏づけがあることで,チームにやる気を起こさせる。それが自社にとって重要な課題であるほど,トップの関心も高く,達成にやりがいが高くなる。

●リーダーが優れ,メンバーが優れた異種混合チームであること

成功要因に多いのは,「チームリーダーが優秀」「メンバーの質と量」「チームワークがいい」である。リーダーにとって,メンバーは所与だが,与えられたリソースをどう有効に機能させて,ひとりひとりの力を引き出し,チームワークを高めていくかは,リーダーのリーダーシップそのものである。

●情報収集力がある

・外部情報,特に基盤技術の情報,特許情報,その他消費動向,市場情報など,ニーズに適応する情報,他社情報

・内部情報,異種の知識や情報の交換

・その他非公式の情報源,人的情報源のネットワーク

 意外に,情報の多くは,社内やチーム内にあることがある。それが特定の誰かに秘匿されていることがある。それは待っていても見つからない。チーム側から働きかけていく。人を介して探していくことになる。その協力関係づくりも,バックアップを得るための手段になるはずである。

●関係部門との協力関係をつくっている

 結局社内のコンセンサスをどうとるかが,プロジェクトの成果を実践していくときに問われる。しかしそれはプロジェクト推進中から関係部門との調整,協力関係をどうとってきたかにかかっている。

 トップの関心や関係部署のバックアップは,実は,チームメンバーのやる気や元気につながるのである。関係部門から,どんな意見であれ,コンタクトがあったということは,そことまだ協力関係ができていないということである。そこでどうきちんと考え方を示し,バックアップしてもらう関係にするかが重要である。重点関係部門をピックアップして,そのことを,チームメンバーときちんと協議し,それぞれの役割を分担しながら,対応策をとっておく必要がある。

●チームメンバーにとっての動機づけと達成感がある

 個々のメンバーにとって,このプロジェクトに参加することが社内的にどうとらえられているかということと関係があるが,誇りであったり,それ自体に名誉であったりという動機づけと,これに参加していくこと自体が,自分のキャリアにとって意味があると感じられることである。それは与えられるものではない。周囲に認知されることを通してえられるはずである。チーム内に自己完結させず,周囲への働きかけることを通して承認と認知が得られていくはずである。

●チーム内の円滑なコミュニケーションがとれている

 情報の共有化,問題意識のすりあわせ,ざっくばらんな会話が保証されている。チームワークのよさと関連するが,ミーティングのような制度化されたコミュニケーションだけでなく,日常のさりげない会話やすりあわせがふんだんに行われていることが必要である。それはリーダーから働きかけていける。「なにかあった」「僕のサポートできることはない」「何かあったら聞かせてね」等々。

●スケジュール管理が十分行われていること

 スケジュールの計画と進捗管理がきちんとできていること。これは,コミュニケーションの機会や場があることと関連があるが,マイルストーンごとの中間報告やチェックが厳密に行われていることで,やりなおしや後戻り,停滞を最小化する。中間報告は,当然関係部署との関係強化にも機能するはずである。

  • プロジェクトの共通認識の再形成をはかる

●自分たちのやっていることへの確信と意味づけを見失わない

 いま問われているのは,プロジェクトチームの存在意味だ。このチームは何をするために存在しているのかが揺らいでいる。再度このチームで何をしようとしているのか,そのために,いまメンバーに何が問われているのかを,再確認しなくてはならない。

チームの凝集度(力)を高めるのには,どれだけメンバーが目的意識を共有化できるかである。そのために,リーダーは,確信をもって,何のために自分たちのチームがあり,チームの仕事があるのかを指し示すことができなければならない。末吉リーダーは,見失いかけているチームの存在意味を問い直さなくてはならない。それは,次の点であろう。

・プロジェクトの目指す製品開発の将来像,つまり,チームメンバー内で,自分たちの新製品が,市場で,どんな位置づけになるか,の共通理解ができているかどうか。当社にとっての重要度,市場での価値,競争相手との競合関係についての共通認識があるかどうか。

・プロジェクトの会社でのポジショニング,会社内でどんな位置づけになっているか。どんな意味があるかによって,このプロジェクトに参加することの,それぞれの参画意識,動機づけにかかわってくる。

 この2点が,チーム内では揺らいでいる。自分たちがやっていることの意味づけの再確認が不可欠である。

●ゴールの明示と進捗プロセスの共有

いま,プロジェクトは二者択一の前で立ち往生している。しかし必要なのは,事態を俯瞰する視点である。たとえば,本当にこの二案しかないのか,この技術使用のためのサブノウハウの開発が必要なのに,その技術が当社には不足しているというのは,どれくらい確かめられているのか等々という問題提起を,チーム内で自己完結させず,広く組織内外で情報収集をしてみる。

それは,チームにとっては,チームを挙げて問題解決に取り組むことになり,さらに,関係部署,関係する人々に協力を求めることで,プロジェクトに巻き込み,組織を挙げて,自分たちの問題として,チームをバックアップする雰囲気を醸成していくことができる。そのためには,同時に,関係部署にメンバーだけでなく,チームリーダー自身が積極的に話し合い,たとえば,内製化をするためのリソースやノウハウを組織内外に探る手助けを等々,協力を求めるアプローチが不可欠である。チームとしてのこの作業に取り組むことが,いまの進捗状況を自分のものとして把握し,プラス・マイナスの手ごたえをつかむ機会になっていく。

●チームに何で貢献するかの再確信

いまチームの直面している問題に,どう分担して取り組むか,その中で,いままでの役割分担と貢献の仕方とは別の分担,別の貢献の仕方が見えてくる。それは,プロジェクトのステージが,別の段階に達したことになるはずである。その体験を通して,「自分の有効感・有能感と自己決定感」(自分がやった結果できた・役立ったという満足感)を味わう機会がふえ,自分の成長になることが,チームの一員としての意味につながり,新たな自己評価を下せるようになることは,チームのメンバーにとっても重要なはずなのだ。

●共に戦っているフィールドの共有化

担当したことを,共通の場でフィードバックしあう。それは,特定の部署の抵抗といったマイナス面との戦いではなく,プロジェクトを意味あらしめ,その存在意義を高めるために,一緒に問題や障害と戦っていく,そのことがチームの一体感をつくりあげていくはずである。そういうフィールドは,情報交換と問題のすりあわせの機会を意識的につくりだし,その中で,情報と問題を共有し,チームとして打開し,解決していく中で,強まっていくはずだ。そのフィールドを,維持し続ける努力こそが,リーダーに求められている。

リーダーシップについては,「リーダーシップとは何か」「リーダーシップ論」「リーダーシップに必要な5つのこと【1】【2】」を参照してください。
参考文献;
大江建『なぜ新規事業は成功しないのか』(日本経済新聞社 1998)河野豊弘『新製品開発戦略』(ダイヤモンド社 1987)

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