コミュニケーションは自分の伝えたことではなく,相手に伝わったことが,伝えたことである。まずは,相手に聞く姿勢になってもらうための準備作業がいる。それをセットアップという。土俵があって初めて会話は始まる。そのためには,手順がいる。
@コミュニケーション開始の手続きがいる
コミュニケーションは自分の話したことではなく,相手に伝わったことが,自分の話したことである。相手にできるだけ届くように,まずは,相手に聞く姿勢になってもらうための準備作業がいる。両者が土俵を意識して初めて伝える・聞くの関係が始まる。たとえば,一対一の対話なら,「いまちょっといい?」「いま,5分いい?」「ちょっと話がしたいのだが,いい?」とはじまるだろう。ミーティングなら,事前の日程調整からはじまる。
A共通の土俵にのっていなければ,会話の歩留まりは25%である
どのレベルのコミュニケーションでも,相互の間で,お互いに「どういうテーマ(話題)」を話をしているかについて共通認識ができていなければ,すれ違いざまの挨拶にすぎない。共通に何について話しているという土俵がないところでは,コミュニケーションは成立しない。仮にコミュニケーションしても,「言った,言わない」が起きる。一対一なら,「何々について話したい」となるし,ミーティングなら,アジェンダの周知になる。
B相手に何が伝わったかの確認がなくては会話は終了していない
相手にどう受けとめられたかを確認するためにも,相手からのフィードバックなくては,会話は終わらない。
C依頼や指示なら,一言付け加える。
「終ったら゜教えてね」
どうも,個々人のコミュニケーション能力に還元する癖がある。もちろんそれも大事だ。しかし,復習と結果報告というフィードバックが,ルールとして決まっていれば,上司からも,他部署からも,それを求めることが出来る。
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上位者の指示に対する反応,たとえば厳しく叱責されたときを例に,アサーティブ・アプローチを具体的に例示する。
@土俵を共有する
セットアップである。「ちょっとよろしいでしょうか」「少しお時間いただけますか」など,いまから話をしたいという土俵を相手と共有する。
A自己開示する
自分の今の気持ちを正直に伝える。「言いずらいんですが……」「どう申し上げていいか迷っているんですが……」「どきどきしているんですが……」という言い方をすることで,相手の身構えを緩める。
B事実を伝える
ここは,相手を持ち上げたり,感情を交えるのではなく,「いつも大声で叱責されるのですが」「いろいろ細かな気配りをいただくのですが」など,事実,起こっていることを表現する。「いやなんです」という感情から伝えては,相手は受け入れにくい。
C感情を言語化する
ここは,その事実に対して,自分がどう感じてきたか,を率直に伝える。「大声を出されるたびにびくびくして
おびえていました」「ちょうど何かしょうとするたびに先回りされた気がしていやでした」等々。
D望む変化をリクエストする
率直に,どうしてほしいか,どうなりたいかを伝える。「〜したい」「〜してほしい」「〜してほしくない」「〜してはどうでしょうか」。ただ,いくつも要求を羅列するのではなく,ひとつ,しかも的を絞る。あわせて,それを放置した自分の責任はきちんと伝える。「もっと早くお伝えしないでいた自分にも責任があります」「迷いに迷って言いそびれてしまった私も悪いと思います」等々。
E相手の反応を求める
自分が言ったことについて,相手がどう受け止めたかをきちんと聞く。自分の主張を理解してほしいなら,相手も理解将とする姿勢がいる。
F繰り返す
自分のしてほしいことをもう一度,きちんと整理して伝える。相手の反論や感情的反発にふりまわされることなく,自分の主張を繰り返す。
G会話を終了させる
相手にうんといわせるまで主張するのが目的ではない。それでは,立場が代わっただけで同じコトをしていることになる。相手に考える時間を与え,選択の余地を残す。「聞いてくれてありがとう」「ぜひ心に留めておいてください」「2,3日後に話す時間をつくってください」
(参考文献;森田汐生『「NO」を上手に伝える技術』,アン・ディクソソン『第四の生き方』)
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リーダーと部下全体,リーダーと部下ひとりひとり,部下同士のコミュニケーションをするための,お互いが何について話しているかを共有できている場,それを土俵と呼ぶとすると,それにはふたつある。
●上司と部下,先輩と後輩,同僚同士といった,役割に基づくコミュニケーションの状況(機会)づくり。
●そのつど,その場その場の,私的コミュニケーションの場づくり。
コミュニケーションのレベルと関連づけると,前者が,チームレベルや業務遂行レベル,後者が一対一レベルにあたる。チームレベルや業務遂行レベルでのコミュニケーションがなければチームとならない。しかしチームメンバーひとりひとりが何をしているのか,何を考えているのか,何を思っているのかを知らなくては,ひとりひとりの仕事をただ足しただけの集団になる。もちろん,ふたつの土俵が別々に必要というわけではない。一緒に役割を果たすこともあるし,別々に設定しなくてはならないこともある。ただ,チームには,この両輪のコミュニケーションが必要なのである。
こうしたコミュニケーションの土俵づくりでするのが,“ジョハリの窓”でいう,パブリックづくりである。自分(リーダー)が知っている自分を,自分が果たしている役割,自分のしている仕事の仕方,進め方,何を重視し,何に価値をおいているか,を他人(部下ひとりひとり)が,理解してくれている部分とすると,パブリックのできている部分だけで,部下ひとりひとりとのコミュニケーションの土俵ができていることになる。これを相手との間で形成するのが,コミュニケーションの土俵づくりをする意味である。
パブリックを広げる方法はふたつである。
第一に,自分が何を考え,どう思っているかを語ることである。自分が何を目指し,何をしようとしているかを明確にすることによって,プライベイトな部分を小さくできる。
第二は,相手からのフィードバックを聞くことである。自分の行動がメンバーからどう受け止められているかをフィードバックしてもらい,自分の知らない部分,気づいていない部分を受けいれることによって,ブラインドの部分を減らせるのである。
この土俵をつくるために,とりわけ上司殿関係づくりをし続けなくてはならない。これが,自分の守備範囲を明確にする作業にもなっていくのである。
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アクノレッジメントとは,「a
statement or action which recognizes that something exists or true」そこに存在していることに気づいていと表明したり振る舞いで表すこと。相手の存在を認め,更に相手に現れている違いや変化,成長や成果にいち早く気づき,それを相手に伝えること。
アクノレッジメントはほめることと同じではない。評価ではなく,事実を伝えること。
事実,相手が何をどう達成したのか,どう変化したのか,を言葉にして伝える。
アクノレッジメントを伝える
@YOUメッセージ 「あなたは○○だね」
ATメッセージ 「あなたが○○したことは,わたしにこんな影響があった」
BWEメッセージ 「あなたが○○したことは,わたしたちにこんな影響があった」
そこに存在していることに気づいていと表明したり振る舞いで表すこと。相手の存在を認め,更に相手に現れている違いや変化,成長や成果にいち早く気づき,それを相手に伝える,というアクノレッジメントには,直接そのことを伝えることの他に,相手の変化や成長を前提にして,
「なぜそんなことができたんですか」
と,その先を相手に質問する方法がある。仮に,それを間接的なアクノレッジメントというとすると,そういう効果のある質問には,次のような例が挙げられる。
どうやって(そんなことが)できたんですか
何がきっかけでそうしようと思ったのですか
それができたわけを教えてください。
あなたにそんな力があると,どこで気づいたんですか
どうしてそんなことが可能になったんですか
どんな幸運がそれを可能にさせたんですか
どういうふうにそれがうまくいったのですか
何がうまくいったのですか
そうしたらいいとどうしてわかったんですか
(それをしたことで)何が変わりましたか
(なしとげた後)何から変わったとわかりましたか
どんな学びがありましたか
そこから何がえられましたか
そこからさらに学べそうなことは何ですか
そこで役に立ったことは何ですか
誰(何)か助けになったものはありますか
どんことをやってそれができたんですか
いまからもっともっとできそうなことは何ですか
どうやってそんな心境になれたんですか
そんな状況なのにどうしてそれが可能だったんですか
どこにそんな力があったんですか
そんなすごいことができた自分をどう思いますか
それをなしとげた自分についてどんなことを言ってやりたいですか
何がそれをもたらしたんですか
何からヒントをつかんだんですか
それができると思ったのはなぜですか
次にどうつながりますか
自分のなかに何が起きたんでしょうか
いま考えると,もっとうまくやれると思うことはありますか
それから
ほかに
それで
●その他アクノリッジ効果のあることは
うなづく
反映
繰り返す
感嘆
【対人認知における「承認(アクノレッジメント)」の位置づけ】
※1「認知」とは,クライアントがある特定の行動を起こしたり,ある特定の目標を達成したりする過程で発揮したその人の強みや良さに気づき,それを本人に伝えること。自分の本当の姿をコーチがみてくれている,知ってくれていると感じられるようにするためのスキル。短に相手の行動を表面的にほめたり,評価するのではなく,コーチとして感知した相手がどんな人なのか,その人自身が気づいている以上のリソースや力,価値観などを伝えること。(『コーチングバイブル』)
※2「コンプリメント」とは,ねぎらうこと,敬意を表すること。あくまでクライアントの言葉や行動にもとづいた事実に根ざしていなくてはならない。直接的なコンプリメントと間接的なコンプリメントがある。直接的なコンプリメントは,肯定的評価(「それはすごいですね,よくやれましたね」)と肯定的反応(「わあ,すごい!」)がある。間接的コンプリメントは肯定的な質問である。@望まして結果について更に「どうやってそれをやったんですか」と質問する,A関係を通して,「それを聞いたらお子さんはどう反応するでしょうね」と,肯定的なものを暗示する質問,B何が最善かはクライアントがわかっていることを暗示する,「どうしてそれをしたらいいとわかったんですか」と質問する。(『解決のための面接技法』)
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単純接触効果とも言う。繰り返し接すると好意度や印象が高まるという効果のことである。1968年、アメリカの心理学者ロバート・ザイアンスが論文にまとめ知られるようになった。
何度も見たり聞いたりすると,次第によい感情が起こるようになってくる,という。。たとえば、よく会う人や、何度も聞いている音楽を好きになっていく。これは見たり聞いたりすることで作られる潜在記憶が,印象評価に誤って帰属されるという,知覚的流暢性誤帰属説で説明されている。また、潜在学習や概念形成といったはたらきもかかわっているとされる。
図形や、漢字、衣服、味やにおいなど、いろいろなものに対して起こる。広告の効果も、単純接触効果によるところが大きい。CMでの露出が多いほど単純接触効果が起きて、よい商品だと思ったり欲しくなったりするのである。よ1
ただ,いくつかの条件があることも分かってきている。
大学生以上の大人には単純接触効果は見られるが,子供には効果が生じない,とされる。また,この効果は,新奇な対象にかぎられ,すでによく知っているもの,見慣れたものは,逆に飽きられるということも言われている。
しかし,閾値以下というか,自分では見たかどうか覚えていない者についても,単純接触効果がもあるとされる。
また,望ましくない者に結びついたものを繰り返し見ると,学習効果によって,嫌いになる,ということもあるとされる。
別のデータでは,日に三回以上,声を掛ける上司には,好意とまでは行かなくても,自分を気にかけてくれている,というように感じてくれるというのもある。
要は,声を掛ける必要,接触する必要のある側が,意識的にそれをするしかない,ということになる。それは,それで,一定の効果がある,ということなのだろう。数値の上では。
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質問
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ここでは,特に,断らない限り,コーチングで言う,質問を指す。しかし,基本的に,それは,日常でも意識的に使うことが出来る。たとえば,
「お前は馬鹿か」と叱るよりは,
「おまえ,自分で考えて,馬鹿なことをやったと思うことはないか?」
と質問した方が効果があることはある。ここでの「質問」は,そんなことを含めている。
-
質問が効果があるのは,人は,問われたことの答えを自分の中に探す,からだ。それは考えでも,感覚でも,感情でも同じだ。その問いが,どんなぼんくらの問いでも,鋭い問いでも同じことだ。それを受け止め,答えを自分の中に,勝手に探す。問われたことに,答えようと,おのれの中に注意を向けようとする。答え
は自分の中にある,といわれるのはその意味だ。エリクソンが,よくアネクドート(逸話)や小話,たとえ話やアナロジーを使ったのもその狙いからだ。脳は,おのれの知っていること以上を知っている,という。意識していることなど,脳の中のほんの一部でしかない。問われて,初めて,意識を向けることになる。問いは,自分の意識していないことに,
無意識の中に眠りこけていた自分のリソースに,注意を向けることだ。
-
ソクラテスの産婆術ということばがある。それは,「相手に質問を投げかけ,相手がそれに答えていくことによって,自らの間違いに気づき,真の知に到達できるようにする」というもので,ソクラテスは,これによって,多くの人々を真理に導いた,とされる。コーチングの質問も,そうした位置づけにある。
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質問の位置づけと意味
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質問の構造
○聞くと質問の関係〜「聞く」という言葉の意味から
質問は,聴く行為との連続性の中にある。
○質問の構造〜質問者と被質問者の関係
○「質問」の機能〜「質問」と「答え」の関係
@質問は答えを求める。
A質問は答えを強いる。
B質問は答えを決める。
C質問は持続力をもつ。
D質問は答えのスペースを決める(拡大質問>限定質問,オープンクエスチョン>クローズドクエスチョン)。
E質問が答えのステージ(場,時,誰,モノ,コト)を決める。
F質問は答えを枠づける。
G質問は会話を拘束する。
○「質問」の意味〜字源的・字義的
「質問」 疑問または理由を問いただす
「質」 問う/ただす(正す)/是非をきわめる
「問」 ききただす(問≒訊 訊はコトバをもって問う)
○質問のパターン〜「訊く」「確かめる」「問う」の関係
オープンクエスチョン
拡大質問 何,なぜ,どうやって
限定質問 いつ,どこ,誰
肯定質問 できる,可能,有効
否定質問 できない,だめ,妨げ
未来質問 目標の先,何年後,明日
過去質問 昨日,何年前
未知(未知)の質問
既知の質問
クローズド質問 イエス,ノーで応えられる 選択肢が限られている
If質問 もし何々なら,もしコーチなら,
スライドアウト 他には,もうありませんか
チャンクダウン・チャンクアップ 具体的に言うと,もっと具体的に,要するに何ですか
@クライアントを丸ごと受け入れ,そのままに○印をつけて認めること
Aクライアントが自分を変え,成長していく可能性があると信じていること
Bクライアントの中に答えがあると信じていること
Cクライアントのなりたい自分,ありたい自分から目を逸らさないこと
Dクライアントの考えや思い,感情の枠組みに沿って考えること
Eクライアントの土俵の上で,一緒に考えること
Fクライアントのいつもの考えを拡大しようとすること
Gクライアントのいつもの視点を変えようとすること
Hクライアントの死角に焦点を当てようとすること
Iクライアントのできないことではなく,できること,やりたいことに焦点を当てること
Jクライアントの過去ではなく未来に向う方向性を見失わないこと
Kクライアントの目的を外さないこと
Lクライアントのゴールを絶えず更新しようとすること
Mクライアントを客観化しようとすること
Nクライアントの言っていることの,曖昧さ,不確かさを絶えず確かめられること
Oクライアントの答えを広げようとすること
Pクライアントのリソース(経験・スキル・資質・仲間)を引き出す姿勢を忘れないこと
Qクライアントの価値観,大切にしていることを軸として手放さないこと
Rコーチングを振り返るメタコミュニケーションを欠かさないこと
Sクライアントがしてほしい質問,求めている質問は何かを意識していること
※仮に「何でできなかったのですか」というネガティブな質問も,その前振りとして,上記@〜Sを付け加えれば,ネガティブな言葉の文脈が変わる。たとえば,「あなたを丸ごと受け入れ,あなたそのままを認めているからこそ,(そのあなたが)『何でできなかったかのですか』」というように。
@質問は答えを引き出す力がある
質問されると,人は自分のなかに答えを探そうとする傾向がある。
A質問は思考力を鍛える力がある
質問する側もされる側にも思考への刺激がある。また想定外の質問されると思考の焦点が変わる。
B質問することで必要な情報が手に入れる力がある
質問を具体化したり,更に掘り下げたりすることで,必要な情報が増えていく。
C質問は場(会話)をコントロールする力がある
質問する側に自分のほしいものを聴き出せる,というアドバンテージがある。
D質問は心を開く力がある
質問から相手が自分に興味や関心をもっていると感じると,自分のことを語りたくなる。
E質問は聞き上手につながる力がある
的確な,相手にフィットする質問する力を磨くことで,当をえた答えをえられるようになる。
F質問はその気にさせる力がある
何をしていいかわからないとき,質問に答えていく中で,やるべきことが見えてくることがある。
G質問は関係性を強める力がある
おざなりの会話ではなく,発言を深めていく質問で,お互いの信頼が高まる。
H質問は知を深める力がある
ソクラテスの産婆術ではないが,投掛けられた質問によって間違いに気づき,知を深められる。
I質問は可能性を開く力がある
問われる中で,自分のリソースに気づき,潜在力に目覚め,できる自信を深められる。
(ドロシー・リーズ『質問力トレーニング』に加筆)
@コーチが自分の土俵の上から,知りたいことを聞く
Aコーチが,クライアントにクライアント自身の土俵の上で自問するよう促す
B共通の土俵の上で,クライアントと共にクライアント自身に問うような問いをする
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-
コミュニケーション・タブー
コミュニケーションを拒絶され他と感じると,脳は,頭を殴られたのと同じ衝撃を受けるらしい。その意味で,タブーとは,コミュニケーションを妨げるという意味であると同時に,自分とってもマイナスをもたらす,という意味がある。たとえば,認知症にならない3条件というのがある。
@有酸素運動
A脱メタボ
Bコミュニケーション
と言われる。たとえば,人がひらめいたとき,0.1秒の間に,脳内の広い部位がリンクして活性化するという。そういう脳への影響を,もたらすコミュニケーションは,少なくとも,
風呂,
飯,
という会話や,テレビを見ての独り言(自己対話)は指さない。
よく,何気なく言う言葉に,
「大丈夫?」
というのがある。実は,上司から声を掛けられたのだとすれば,
「大丈夫ではない」
という返事はしにくい。その声掛け時代に,言外に,
「大丈夫ではないなんてことは,ないだろうか。」
というニュアンスを嗅ぎ取る。第一,何を大丈夫と言っているのか,大まかにまるめ過ぎて,答えにくいはずである。
もう一つあるのは,
≪求められていないアドバイスは,説得になる≫
という考えだ。つまり,
「アドバイスしていい?」
という問いは,言外に,「私のことを聞きなさい」と言っているように聞こえるのである。それに,「アドバイスしていい?」と言われて,
ノー
とは言いにくい。
その意味では,答えが,
イエス
か
ノー
としか答えられないような声掛けは,タブーと言っていい。
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人が自分のことを人に伝えようとするには,心理的な安心感と雰囲気が必要です。もし聞き手が一方的にしゃべったり,相手の言うことに口を挟んだり,批判的な反応をしたりすれば,それが確保されていないことになります。相手の内的な視点に関心も敬意も払わないなら,話す気を失うのは当然です。そうした雰囲気と安心感を与えるには,以下のタブーを避けなくてはなりません。注意しなくてはならないことは,それを意識してやっている場合よりは,無意識にしていることが多いことだ。
@指図したり,先導したりする
「そういう暗い話は聞きたくないな」「A課長のことではなく○○課長がどう言っていたかに聞きたいんだ」「そういう経緯についてはいいから,結論を聞かせてほしい」等々,相手が何について話すかをコントロールする。
A判断したり,評価する
「君はそこで,あんなことを言うべきではなかったね」「それは人生最大の失敗だね」「そんなことをしているから,成績が上がらないんだ」等々,自分の立場や価値観から,相手を評価したり,判定したりする。
B非難する
「これは全部君の責任だぞ」「何を言っているんだ,これは君が企画したことではないか」「君のおかげで部長に叱責されたじゃないか」等々,相手を名指しして責任を追及したり,責任転嫁する。
C攻撃する
「君は一度でも僕の言うことに従ったことがないじゃないか」「お前はあほか!」「お前はどうしてそうぐずなんだ」等々,相手をけなしたり,攻撃を加えて,苦痛を与える。
D道徳的なことを言ったり,説教する
「先輩には敬意を払うべきではないか」「言いたいことを言えばいいと言うものではない。立場をわきまえて発言すべきだ」「私語する暇があったら,一件でも多く電話をするべきだ」等々,相手に自分の持っている価値判断から「〜すべきである」「〜してはいけない」等々と物事を説こうとする。
E助言や教示をする
「その仕事は私の経験ではこういうやり方をすべきだ」「彼には,もっと強圧的な言い方をしないと伝わらない」「もっと趣味をもつべきだ」「彼をこのプロジェクトからはずした方がいい」等々,相手のすべきことは自分が一番わかっていると言う態度で教えを垂れようとする。
F相手の感情を受け入れない
「男は泣くべきではない」「そんな弱虫では生きていけないぞ」「何がそんなに楽しいのか理解出来ない」「君の悩みなんてちっぽけなもんだ」等々,相手の感情を貶めたり,理解しなかったりする。
G自分の話しにもっていく
「それは大変だったね,僕もね,こんなことがあったんだ。聞いてくれる?」「僕も君と同じことに出会って,成功した例を話してあげよう」「僕は聞き上手だから,みんながその話を聞かしてくれたよ」等々,相手が自分の話をしているのに,それをさえぎって,自分の話にもっていく。
H尋問する
「そういうやり方をしたのはなぜなのか?」「君は〜のことが好きなのか?彼女のどこがいいのか話せよ」「どうしてそういう甘い考えになれるのか,説明してもらおう」等々,相手が望んでいないのに,詮索したり,追及する質問をする。
I安易に元気づけたり,ジョークを言って慰めようとする
「誰だってそんな時は落ち込むもんだよ,そうくよくよするな」「君なら大丈夫,がんばれ」「それは,〜だな。おかしいだろ?こんな調子でいこうよ」等々,相手のためというより,自分の気持ちや感情を押し付けている。
Jレッテルを貼ったり,診断する
「君は神経質だな」「A型でしょ,A型の人はそういうときには,そんな反応をするものなのよ」「それは過剰反応だよ」等々,意味のない血液型や根拠のない診断で素人判断をする。
K過剰な解釈をする
「君が熱くなりすぎるので,みんな辟易しているのだと思うよ」「君は一人突っ走りすぎると,浮きはしないかと恐れてるんだね」「子供のころ母親に邪険にされたんで,あんな年上が好きになったんだよ」等々,外から相手の行動を説明し,理屈づけるが,相手自身が考えていることとは隔たりがある。
L話を拡散させたり,関係ない話にする
「そういえば,思い出したんだが……」「この話はまた別の機会と言うことで,ここでは次の件に移ろう」「それは場所を移して,後でゆっくりやろう」等々,話の本筋からずらしたり,話を先延ばししたりする。
M注目しているふりをする
「それは面白いとおもったよ」「それはすごい」「それはたのしい」等々,心にない相槌や同意を,実際以上にオーバーにして,相手をしらけさせる。
N時間の圧力をかける
「ちょっと時間がないので,話は短めに」「ちょっと忙しいのでね」「ずっと出かけっぱなしなので」等々,聞くための物理的時間が少ないことを伝えて,相手の話す条件を制約する。
O態度が聞く姿勢にない
相手の話に身が入っていれば,表情や態度に出るはずだが,腕組みしたり,足を組み替えたり,貧乏ゆすりをされたりすると,言葉で反応があっても,本音は聴きたくないというメッセージを相手に送っているのと同じことになる。
P声が小さく反応が薄い
聞いているということが,相手に伝わらなければ,聞いていることにはならない。声が小さかったり,相手が感情を高ぶらせたり,大きな声になっているのに,それに同期せず,冷ややかだったり,小声だったりすると,相手は次第に引いていく。声の大小はある面で相手の特徴だが,抑揚や口調には反応の感情が出る。
Q言葉に実がない
「そうなの,大変ね」「それは心配ね」等々,一応返事はあるし,反応もあるが実を感じられず,おざなりに成っている。また返事のタイミングも,感情もずれている。
R安易に触ったりする接近したりする
身体の距離は相手との新密度によって変わる。せっかくの話なのに,意味なくタッチされたり,肩を触れられたりするタイミングも頻度も話とそぐわないと,態度だけで聞いているふりをしていると感じてしまう。
S相手を裏切る
「ここだけの話なんだが」「ちょっといい?」等々と言いながら,打ち明けられた話や持ちかけられた相談をもらしたり,ほのめかしたりする。
(ネルソン=ジョーンズ『思いやりの人間関係スキル』相川充訳)を参照
コミュニケーション効果を台なしにするタブーには,もう一つ別のバージョンがある。似たようなものだが,10ヶ条。
1.話し手を締め出す
「あいつの話はおもしろくない」「どうせたいしたことじゃない」「いつもくだらないことしか言わない」「いつも言い訳ばかりだ」という態度をしていないだろうか。そうなるとほとんど聞いていないし,当方が聞いていないことは相手にわかるものだ。
2.早まった結論を出す
「そこまで聞けばわかった」「よっしゃ」「まかせておけ」「みなまで言うな」と勝手に早呑込みしてしまっていないだろうか。相手はもっと別のことをいいたいのかもしれないのに!
3.自分の期待を読み込む
「おれのことは,わかってくれるはず」「あそこまで言ったんだ,きちんとやってくれるはず」「あれだけ教えたんだ,できるはず」という,一方的な思い込みはないか。それでは相手のことが見えてはいない。あるいは逆に,「そうだろう,よくわかる」「そうだ,それがおれの言いたいことだ」と,自分の期待や願望だけを聞き取っていることはないか。それでは,相手の本当に聞いて欲しいことは聞こえていない。
4.厭な部分には耳をふさぐ
「そういうことを言いたいんじゃないでしょ」「そんなことは聞いていない」と,途中で遮ってしまっていないか?言いたいことを決めるのは,相手なのに。
5.空想の羽根を広げる
相手の話から勝手に自分のイメージを広げて,相手の言うことを聞いていない。勝手に解釈する。片言聞いただけで,勝手に自分の空想やアイデアを肥大させていく。そこには相手の気持も考えも全く入り込む余地はない。
6.前もって答を予行演習する
相手の話の途中から何を言おうかと一生懸命考えていて,結局聞いていない。どう叱るかとかどう言い訳するかとか,自分の都合や事情にこだわっているいるだけ。それならコミュニケーションする必要などない。予想しない結論になるから会話がある。
7.感情的な言葉に反発する
後輩のくせに,新人のくせに,そういう生意気なことを言うのか。相手の言葉尻にこだわっているのは,結局自分の立場やプライドを傷つけない心地よい言葉を重んじているだけ。中身が自分の意向や趣旨に反すれば聞く耳をもたないのだと,相手は受け取るだけだろう。
8.話し方を評価する
そういう言い方はあまりいい表現でない,言い方が間違っている,表現にミスがある,と口の利き方を問題にして,自分の価値観でつい説教を垂れる。たまたま表現スタイルで文句をつけているが,結局形式を理由に中身を聞く耳をもたず,自分の価値観を押し付けているだけ。
9.相手の人格を拒否する
「そういう反抗的な人の言うことは聞きたくない」「文句ばかり言う人への聞く耳はない」という表現を使ったら,二度と会話をする機会を失ったと考えていい。権威や威厳だけで会話する者は本人もそれに弱いということを露呈しているにすぎない。
10.選択して聞く
聞きたいこと,おいしいことだけしか聞かない(人を選ぶ,情報を選ぶ)。おいしいことしか聞かない人には,おいしいことしか誰も言わないということにほかならない。とても相手の悩みに聞く耳をもてそうもない。
(デビッド・アウグスバーガー『聞く』に加筆)
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もっと聞く力をもて,といわれる。コーチングマインドでもカウンセリングマインドでも(この二つはスキルとしては重なる部分が多い。コーチングの主要スキルはロジャース
の傾聴やNLP,論理療法から借りているところが多い)同じようにいわれる。しかし,ではどうするのか,そのあたりは,はるかにスキルを蓄積している精神療法に学ぶところは多い。少しそこから整理して抽出してみたのが以下のスキルだ。
この前提は,TAでいう,「I'm OK You're OK」だ。つまり,相手を受け入れ,自分を受け入れて始めて,聞くことができる。
1.相手自身を主題にしない
話し相手が部下や後輩だとして,どうしても部下のしたこと,部下の発言,部下の失敗,部下の報連相,部下の成果等々となると,「どうして君はそうしたの」と,上位者や先輩として,部下に話を聞く姿勢となる。それでは,どうしても部下側は,聞いてもらう立場であり,言い訳する立場になる。そういう会話のスタイルをしている限り,話をしにくいし,聞きにくい。そこで,部下の「したこと」,「発言」「報連相」「成果」そのものを,ちょうど提出された企画書を前にして,一緒に企画そのものを検討するように,部下と一緒に「したこと」,「発言」「報連相」「成果」をテーマ,上位者と下位者が一緒になって眺めている関係がほしい。二者関係から,そういう三角形の関係にすること。そうすることで,聞く側も,部下という属人性を
離して検討しやすくなる。また聞く側が,相手に巻き込まれて,同情したり,一体化したりするのを妨げるのにも有効。
2.まず話をやめる
他者に対しても(他者対話),自分に対しても(自己対話),話している限り,人の話は耳に入らない。この場合,口に出しているだけとは限らない。心の中で,相手を瀬踏みしたり,相手に反論したり,あるいは自分自身のいいわけのために,ああでもない・こうでもないと自身と反芻したり,も含まれる。
3.相手と同じ目線になる
保育士が幼児の前で屈むのは,相手と同じ姿勢になることだ。相手が立っていて,自分が座って報告を聞くという関係は,すでに相手の話を聞く関係づくりになっていない。相手の体験する視線と同じ位置に,自分の目の位置をおくことで,相手の話を聞こうとする姿勢が相手に伝わる。同じ位置で,相手の主観上の,感情上の世界を味わって見ようとする姿勢である。
4.相手の感や気持ちに焦点を当てる
話には,事柄や出来事とその人の感情がある。相手が話す出来事や事柄は,意味なく出されるのではなく,その場でのその人感情があるから,それを伝えようとするはずである。そのときの,その事柄や人物や出来事にまとわりついている相手の感情,悲しさ,うれしさ,怒り,恐れ等々を感じ取ろうとする。「どう感じました?どう」「どういう気持ちでした?」と,質問してもいい。そういう姿勢が相手に聞かれている,聞いてもらっていると受け止めてもらえる。聞いているかどうかを決めるのは,相手であるのだから
。
5.相手のそのとき,その場,その思い,その感情をイメージする
相手にはなれない。相手の立場にもなれない。相手の気持ちももてない。しかし相手の話を,シチュエーションとしてきちんと思い描き,その場に,目の前にいる相手をはめ込んで,そこにいる相手をはめ込んで,そのとき相手が体験した,そのとき,その場の思い,感情を出来る限り具体的にイメージしようとすることは出来る。そのとき,そこで相手がどう感じ,どんな思いをしたのか,そのフィーリングを一緒になって感じようとすることはできる。それは相手の目線で,相手はそれが相手の話を聞くことだ。そのために,5W1Hで,いつ,どこで,何が,どうしたかを聞いていくことが,助けになるが,一緒に感じながら「それで」「それから」と聞いていけば,尋問とはならない。
6.相手と呼吸をあわせる
相手がどんな息遣いをしているのか,その呼吸のペースにあわせようとすることはできる。荒い息遣いなのか,のんびりした息遣いなのか。それが,相手にあわせようとする,こちらの態度となる。あわせられたかどうかも大事だが,あわせようとする姿勢,態度は相手に伝わるはずだ。息遣いをあわせることは,しゃべり方やスピード,テンポをあわせることになる。並んで歩くときのスピードが合い,歩調が合うのと似ている。
7.相手の言葉遣いやしゃべり方にあわせる
相手がぞんざいな口調をするのか,丁寧な口調なのか,早口なのかスローなのか,あるいは方言があるのか,標準語なのか。独特の言葉遣いがあれば,それをなぞって返してもいい。それは両者の間に共有化される,独特の雰囲気を作り出すことになる。
8.巨大な耳になる
自分の全身が巨大な耳になったとイメージしてみる。したがって口はない。相手の言葉がただ耳に流れ込んでくる。それを必死で聞きとり,理解しなくてはならない。したがって,聞きながら,他の作業をするとか,落書きしたりする等々ということはできない。ただひたすら聞く姿勢をとる。
9.話の構造をつかむ
話の細部や中身をつかもうとする前に,全体の構造をつかむ。構造がつかめれば,細部は後でも確かめられる。そうした構造は,「○○と思う」の「○○」が中身,構造は,「思う」に現れる。「○○と思う」と「○○とも思う」では,話の構造が違う。「○○」は話し全体の部分であるということになる。「○○になればいいと思っていた」というとき,いまから見て,「○○になればいい」という思いは,過去のものになっているという話の構造になる。
10.相手の考えの視点を変えるヒントを出す
相手の話を聞きながら,いきなり,「それはおかしい」「そうじゃない」といきなり批判されれば,結局何も聞いてくれていないと思わせるだけだ。その場合,「その立場を変えて考えたら」とか「考え方をちょっと変えて見たら」とか「確かにそうだが,視点を変えて見たら」と前置きして見ることで,傾聴を崩さないで,つながる会話になる。たとえば,「その考え方は一理ある。その枠組みで考える限り,そう考えられる」と,その考え方を返し,しかし「こういう枠組みでみると」と一言付け加えれば,相手は自分の意見を一緒に考えてくれていると受け止められる。
11.相手の言葉を繰り返して,一言加える
相手が「今の状況は,とても楽観できないです」と言ったら,「とても楽観できない状況なんだね。その中でもこれだけ苦労したんだから,少しはうまくいきそうなところもあるんじゃないか?
」と,自分の意見や考えをちらりと付け加える。その場合,一緒に同じものを見ている,考えているという視点でなければ,この人は聞いていないとすぐわかってしまう。自分の言っていることばを繰り返されると,しゃべっている本人には一緒にその場にいてくれると受け止められる。確かに,並んで話しているという雰囲気にはなるが,ただ繰り返されると馬鹿にされた感じがする。そこに,一緒に考えている姿勢を崩さずに,同じ目線で,違う見方を加えてみる。「このやり方では絶対うまくいかないと思う」「絶対うまくいかないと思うわけだね。そうしたら,別にどういうやりかたをしてみたらいい?」
12.ひたすら待つ姿勢を示す
よく部下が黙るとこらえきれずに次々としゃべってしまう上司がいる。黙っているということは,何も考えていないのではなく,頭の中でいろいろなことが駆け回っているはずなのです。人間は言葉の20倍のスピードで頭の中を言葉にならないイメージや重いが疾駆している,といわれています。相手の沈黙をじっと待てること。できれば,なにかはなすのなら,「じっくり考えて,待っているから」と待っていることを相手に伝えてもいい。当然,相手がしゃべり終わるまで,待つ。話の腰を折らない,遮断しないということは当然。
13.自分の発言への相手の反応をモニターする
ペンフィールドとラスマッセンの大脳皮質の運動の局在を示す図に,顔や口,手の指が非常に大きく描かれている。相手の心の動きは,多く,顔面,それも口唇周辺によく出る。相手の口の周りの力の入れ方を真似るだけで,相手の気持ちがわかる,とさえいわれる。また両手の指の動きにも反応が出る。コーチングでは,話し方や声の抑揚,大きさを合わせるペーシングとか,からだの動きや表情を映すミラーリングといった技法を使うが,相手の反応の見方として意味がある。コミュニケーションとは相手にきちんと伝わってはじめて成立する。その意味では,相手の反応をきちんとモニタリングできてではじめてコミュニケーション力があるといえるので,それを見極める力は聞く力そのものといってもいい。
14.自分のネガティブな気持ちに気づく
反発や怒り,嫌悪の感情を,それはおかしい,そういう甘えたことをいっているからだめなんだ,と批判してしまえば,相手は自分を聞いてくれていないとしか受け止めない。またそう頭ごなしにいうとき,自分自身の弱さを相手への批判でカバーしているところもある。そう感じたら,ストレートに返さず,自分の感情を突き放して見る間がほしい。いま,何を感じているのか,何を考えているのか,自分としてはどうしたいのか等々,自分に問いかける間を持つことで,その感情を抑えるにしても,抑えずに出すにしても,たとえば,「今の君の発言を聞いていると,正直言って,あまりいい気持ちではなかった」という冷静な返し方になり,少なくとも会話の土俵は保てる。
15.明確化,具体化,焦点(キーワード)化,要約化
「私は,あなたの今の話をこういう風に理解したが,それでよかったか,その状況を私はこう受け止めたんだが,それでいいか」と確かめていく。あるいは長い話をまとめて,要するにこういうことでいいのか,とまとめて返す。それ自体が聞いていることの証になるだけでなく,話の焦点を絞っていくことになる。
16.質問の形で指摘する
コーチングなどでは,質問を重視するが,その意味は,「これはまずいだろう」と直接指摘されるよりは,「これはまずくないか?」と言われることで,@ソフトになる,A質問された側が自分の中で返答を考えることでさまざまに自分の中に連想を生み出し,揺さぶられること,B結果として自分自身の中で是非の判断,答えを見つけることになること,がある。それは,聞く側にも,相手に的確に聞くために,聞く力が必要になる。
17.わからない,知らない
ことはそのまま伝える
すぐれた上司は「わからないという言葉で勝負する」と言われる。「わからない」「それはよく知らない」という言い方をすると,部下(後輩)側は,それについてより説明しなくてはならなくなる。少なくとも,「お前の言うことはちっともわからん」「何を言ってるのかわからん」という言い方だと非難を込めているが,そうではなく,フランクに,「よく知らない」「よくわからない」といわれれば,知っている側が説明しなくてはならない。それは,より聞くきっかけとなる。さらに,「よくわからないが,僕の思いつくのはこんなことだが,それでいいのかな」とか「こう考えてもいいのかな」等々とやりとりをすれば,それ自体が相手にいろいろなことを考えるきっかけとなり,「ああ,こういうことかもしれません」と答えを見つけたりする。これは,三角形の関係になっているのと同じになる。
18.問題を能力と置き換えて聞く
文句ばかり言う,ぐずぐずしている,仕事が遅い,言い訳ばかりしている,上位者は大概部下(後輩)より経験も知識も多い。だからけちならいくらでもつけられる。いくらでも批判的にみる。そのために,相手の話は耳にとどかず,何をくどくど言っているかという顔になる。そこで,相手に見つけた「けち」を,問題としてではなく,能力に置き換えて見る。たとえば,「文句ばかり言う」のは問題意識が旺盛,「仕事が遅い」のは慎重等々。そうすることで,少なくとも,まず相手の話をプラスとして聞こうとすることになる。
19.肯定的な言葉だけを使う
肯定的な言葉を使うように心がける。マイナス表現,非難めいた言い方をしない。たとえば,「いいアイデアが出なくて困っています」と部下が言ったら,通常なら,「君はいつもそうだ」とか「これだけ待ったじゃないか」とか「本当に考えたのか」とか思ったり,言ったりする。しかしそう言ったところで,いい考えがでてくるのでもないし,部下がいまいい考えを思いつくわけでもない。それなら,「それはがんばったな」とか「目いっぱいがんばったんだね」と,できたところを前向きに評価するか,ねぎらって,「では,でたものから,進めてみよう」とした方が,事態は前へ進む。批判は,できなかった過去をとがめているに過ぎない。それで未来は変わらない。どうしたらできるようになるかは,相手の現時点をプラスとして,そこから出発するしかない。
20.言外の言葉を聞き取ろうとする
相手は,すべてを語っているとは限らない。隠したいということもあるが,表現出来ないということもうる。自分でも気づかずにいることもある。言葉が,相手の心の氷山の一角と考えると,言葉尻を捕らえたり,語った事実だけで,評価したり,怒鳴ったりすることの愚に気づく。大事なことは,相手の語ろうとしていることの全体像をつかむことだ。むろん,あら捜しや隠し事を詮索するためではない。
(参考文献;ピーター・ゼンゲ他『学習する組織「5つの能力」』神田橋條治『追補 精神科診断面接のコツ』
『精神療法面接のコツ』
『治療のこころ』
『対話精神療法の初心者への手引き』等
)
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@リーダーシップは,自分(ひとり)では(裁量を超えていて)解決できないこと,あるいは解決してはいけないことを解決するために,解決できる(権限のある,スキルのある)人を動かして,
一緒に解決しようとしていくことである。
Aリーダーシップが本当の必要なのは,自分のポジションより上や横を動かそうとするときだ。そのとき必要なのは,
・「何のために」「何を目指して」という,意味づけの旗が明示されていること
・必要な人々に,その意味をきちんと伝えていく力があること
B上や横を巻き込むためには,仮に自分の現場で起きたことだとして,それを現場レベルだけでは解決できない,あるいは解決してはいけないから,相手に動いてもらいたいと,相手に認めてもらうために,
@それが組織全体,あるいは相手にとって,動く必要のあることを納得させるものであること
Aそれが,自分の役割遂行上,重要な問題であり,相手が必要があると納得させるものであること
をきちんと伝えなくてはならない。そのためには,
・自分自身の組織での位置づけ,自分のチームや仕事の意味づけができていること(自分の旗との関係づけ)
・起きている問題の奥行きや広がりを押さえ,そのことのもたらす意味づけがきちんとできていること(問題の意味づけ)
が必要である。
リーダーとリーダーシップは区別したい。リーダーは,役割行動であり,リーダーシップはポジションに関係なく,その問題やタスクを解決するために必要と考えたら,自らが買って出る,あるいは誰かの委託を受けて,その解決に必要な周囲の人々を巻き込み,引っ張っていくことである。多く,リーダーとリーダーシップを混同している。つまり,トップにはトップの,平には平のリーダーシップが求められる。リーダーシップはその人の役割遂行に応じて,必要な手段なのである。職位が上のほうに行けばいくほど,リーダーシップがないことが目立ち,下へ行くほど,リーダーシップがあることが目立つ。上に行けばいくほど,リーダーシップを発揮しやすい条件と裁量を与えられているから,あるのが当たり前だから,ないことが目立つのである。
リーダーシップが,トップや上位者にのみ求められているというのは勘違いである。職位が上のほうに行けばいくほど,リーダーシップがないことが目立ち,下へ行くほど,リーダーシップがあることが目立つ。上に行けばいくほど,リーダーシップを発揮しやすい条件と裁量を与えられているから,あるのが当たり前だから,ないことが目立つのである。トップにはトップのリーダーシップか求められるのであり,平には平のリーダーシップが求められる。常識とは異なり,リーダーシップはその人の役割遂行に必要な手段に過ぎない。
つまり,リーダーシップには,
役割としてのリーダーシップ(リーダーのリーダーシップ)
個人としてのリーダーシップ(メンバーのリーダーシップ)
の二つがあり,立場が異なろうとも,いずれにも共通して言えることは,必要なのは,その人が自分の役割を責任を持って達成しようとするとき,自分の裁量内でやっている限り,その仕事は完結しないということである。そのとき,自分の裁量を超えて,人に働きかけ,巻き込んででも,それを達成しなくてはならないときがくる。それが結果としてリーダーシップであるに過ぎない。必要なのは,自分は何をするためにそこにいるのか,そのために何をしなくてはならないのかを,自分の頭で考えられるかどうかだ。それを仕事の旗と呼ぶ。それは
,メンバーとして,平のときから自ら考え続けていなくては,リーダーシップがあって当然という立場になったとき,リーダーシップがないことが目立つことになるだけなのである。
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◇リーダーシップにある3つの常識,
@リーダーシップはトップのものである,
Aリーダーシップはパーソナリティである,
Bリーダーシップは対人影響力である,
を点検してみる必要がある。リーダーシップとは,トップに限らず組織成員すべてが,いま自分が何かをしなければならないと思ったとき,みずからの旗を掲げ,周囲に働きかけていく。その旗が上位者を含めた組織成員に共有化され,組織全体を動かしたとき,その旗は組織の旗になる。リーダーシップにふさわしいパーソナリティがあるわけではない。何とかしなくてはならないという思いがひとり自分だけのものではないと確信し,それが組織成員のものとなりさえすれば,リーダーシップなのである。
そこに必要なのは,自分自身への確信である。それは自分を動かすものだ。それが人を動かす。リーダーシップは他人への影響力である前に,自分への影響力である。「お前がやらなくて誰がやるのか」「自分がやるしかない」と,みずからを当事者として動かせるものが,自分の中になければ,人は動かない。それが旗の意味であり,旗の実現効果であり,そこに共に夢を見られることだ。だから,リーダーシップには,新たな常識が必要となる。@周囲を巻き込める夢の旗を掲げられること,A夢の実現プランニングを設計できること,B現実と夢とを秤にかけるクリティカルさがあること,である。「こうすべきだ」だけでは人は乗らない。それが単なる夢物語でも人は乗らない。夢と現実味をかね合わせて,絶えず点検していける精神こそが,求められるリーダーシップである。それは,パーソナリティでも地位でもパワーでもなく,スキルであることを意味している。
◇だから,リーダーとリーダーシップは区別したい。リーダーは,役割行動であり,リーダーシップはポジションに関係なく,その問題やタスクを解決するために必要と考えたら,自らが買って出る,あるいは誰かの委託を受けて,その解決に必要な周囲の人々を巻き込み,引っ張っていくことである。つまり,トップにはトップの,平には平のリーダーシップが求められる。リーダーシップはその人の役割遂行に応じて,必要な手段なのである。職位が上のほうに行けばいくほど,リーダーシップがないことが目立ち,下へ行くほど,リーダーシップがあることが目立つ。上に行けばいくほど,リーダーシップを発揮しやすい条件と裁量を与えられているから,あるのが当たり前だから,ないことが目立つのである。
その意味で,リーダーシップに必要なのは,周囲を引っ張り,周囲を巻き込んでいくに足る力,である。そのとき
不可欠なのは,
・「どこへ」「何のために」「何を目指して」という旗を明確にできること,
・必要な人々にその意味をきちんと伝えていく力があること,
である。では,その旗を立てるためには,どうしたらいいのか。
何よりも,自分が何をするために,そこにいるのか,を明確にすることである。それは,
・管理職なら,何をするために,そのチームを預かっているのか(何をすれば管理職たりうるのか),
・チームメンバーなら,何をすめるために,そのチームの一員としての役割を担っているのか(何をすれば,チームメンバーたりうるのか),
を明確にすることである。リーダーシップとは,そのおのれの仕事を完成させようとするとき,それをじぶんひとりではできないとき,それを完成するに必要な人々に働きかけ,その完成を成し遂げることなのだとすれば,まずは,おのれの仕事の旗を明確にしなければならない。そのためにこそ,人に働きかける根拠だからである。
@自分の現在の役割を確認する
それには,まず,自分のやっている仕事を列挙してみることだ。
A周囲の期待,上司の期待からみて,自分の役割を考えてみる
・自分と上位との関係の中で,自分がどういうかかわり方をするのか
・自分が周囲からどういうことを期待されているのか
という中で,自分に求められている役割は何か。
B自分がどうしたいのか,どうなりたいのか,どうあるといいのか,を考える
自分がこれからどういう役割行動をになっていきたいのか(自分は何をするためにそこにいる人なのか)を考えることを通して,自分にとってのその役割の意味を見直すことになる。
C自分のキャッチフレーズ(旗印)を考える
上記@ABを受けて,改めて自分の役割を明確化し,その役割に自分の旗(自分のキャッチフレーズ)を考える。その上で,その旗から見て,現状やっていることの中で,抜けていることはないかを考える。
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◇人は意識していないが,自分の見方を持っている。それは価値観であったり,生まれつきの見る位置であったり,こだわりであったり,暗黙の前提であったり,慣れであったり,なんとなく制約を考慮していたり,気づかず固定した位置でみていたりする。それを自分でチェックすることで,それを変えることができる。見方だけは,意識しないと変えられない。特定の見方をとっていることを気づかない限り,変えることはできない。
◇「変える」とは,それを意識してみるという意味だ。例えば,「価値を変える」とは,「〜と見た」とき,「いま自分は,どういう価値観・感情から見たのか」と振り返ってみるということだ。そのとき,善悪なのか美醜なのか喜怒なのかをチェックし,それ以外の,価値観で見たらどうなるか。無意識の見方を意識し,「では,別の見方ならどうなるか」と,改めて別の見方を取ってみる“きっかけ”にする。これを,“バラバラ化”と呼ぶ。
@「みる」をみる−見る自分の対象化
◇見え方を変えるとは,見る位置の移動である。大きくなるとは見る位置を近づけること,小さくなるとは遠ざけること,逆にするとはひっくり返すことだ。位置を動かせるわれわれの想像力を駆使して,見えているものを変えてみることで,見え方を変える。見え方を変えることで,いままでの自分の見方が動くはずである。しかしそれをするためには,対象を見ている自分の位置にいる限り,それに気づきにくい。それが可能になるのは,見ている自分を見ることによってである。つまり,見る自分を突き放して,ものと自分に固着した視点を相対化することだ。そうしなければ,他の視点があることには気づきにくい。これをメタ化と呼んでおく。自分自身を含め,自分の見方,考え方,感じ方,経験,知識・スキル等々を対象化することだ。それは,“「みる」をみる”ことだ。「みる」を意識しない限り,何をみているかはわかるが,どう「み(てい)る」か,どこから「み(てい)る」か,みる自分自身は気づけないからだ。
◇対象化するためには,いったん立ち止まって,自分を,自分の位置を,自分のしていることを,自分のやり方を振り返らなくてはならない。たとえば,言葉にする,言語化する,図解する,というのもその方法のひとつになる。それをするためには,対象化する必要があるからだ。つまり,象徴的な言い方をすれば,「みる」をみる,ということになる。
◇たとえば,どつぼにはまって,トンネルビジョンに陥っているとき,視野狭窄の自分には気づけない。自分がトンネルに入り込んでいること自体を気づかない。それに気づけるのは,その自分を別の視点から,見ることができたときだ。探し物をしている状態がそれに近い。
あったはず,という可有ると思ったところになかったりすると,あとは,どこにあるかわからない。だから,一度探した鞄を,再度洗いざらい探す羽目になる。そういうときは,同じところを,何度も何度も探す。要は,視野狭窄に陥っているので,そこが,「見ていても見えていない」ということが起きる。陥っている状態から言えば,どつぼ,だが,ものを見る側からというと,視野狭窄,あるいは,トンネルビジョン,といっていい。
トンネルビジョンに陥っているとき,視野狭窄の自分には気づけない。自分がトンネルに入り込んでいること自体を気づかない。それに気づけるのは,その自分を別の視点から,見ることができたときだ。そのために一番いい方法は,あえて,距離を取ることだ。それには,
時間的な距離化
空間的な距離化
の二つがある。その場から離れるか,時間を置くか,だが,それを意識的にするには,立ち止まる,ことだと思う。そうすると,選択肢が生まれる。このまま続けるか,ここでいったん止めるか,思案し続けるか等々。選択肢が出たことで,自分に距離を置ける。
この自分の状態,あるいは自分の心理,自分の感情に距離を置いて,おいおい,嵌ってるぜ,という余裕が出れば,距離が持てたのと似ている。つまり,見る自分を突き放して,ものと自分に固着した視点を相対化することだ。そうしなければ,他の視点があることには気づきにくい。メタ化である。
◇自分自身を含め,自分の見方,考え方,感じ方,経験,知識・スキル等々を対象化することだ。それは,“「みる」をみる”ことだ。「みる」を意識しない限り,何をみているかはわかるが,どう「み(てい)る」か,どこから「み(てい)る」か,みる自分自身は気づけないからだ
A「見る」を見るための4原則〜メタ化によってものの見方を相対化する
@「問い」(問題)の設定を変える−その「問い」(問題)の立て方がものを見えにくくしていないか
●問いの立て方を変える 問題そのものを設定し直す,別の問いはないか,問題そのものが間違っていないか,新たな疑問はないか,見逃した疑問はないか
●目的を変える 別の意味に変える,別の意義はないか,別の目的にする,意味づけを変える,意図を変える
●制約をゼロにする 時間と金を無制限にする,別の制約に変える,人の制約を無視する
●根拠を見直す その前提は正しいか,前提を見直す,前提を捨てる,こだわりを捨てる,価値を見直す,大切としてきたことを見直す
A視点(位置)を変える−その視点(立脚点)が見え方を制約していないか
●位置(立場)を変える 立場を変える,他人の視点・子供の視点・外国人の視点・過去からの視点・未来からの視点になってみる,機能を変える,一体になる・分離する,目のつけどころを変える,情報を変える等々
●見かけ(外観)を変える 形・大きさ・構造・性質を変える,状態・あり方を変える,動きを変える,順序・配置を変える,仕組みを変える,関係・リンクを変える,似たものに変える,現れ方・消え方を変える等々
●意味(価値)を変える まとめる(一般化する),具体化する,言い替える,対比する別,価値を逆転する,区切りを変える,連想する,喩える,感情を変える等々
●条件(状況)を変える 理由・目的を変える,目標・主題を変える,対象を変える,主体を変える,場所を変える,時(代)を変える,手順を変える,水準を変える,前提を変える,未来から見る,過去から見る等々
B枠組み(窓枠)を変える−その視界が見える世界を限定していないか
●全体像から見直す 全体像を変える 広がりを変える,別の世界のなかに置き直す,位置づけ直す
●設計変更する 出発点を変える,ゴールを変える,要員を変える,仕様を変える,組成を変える
●準拠を変える 別の準拠枠を設定してみる,よりどころを見直す,前提を変える,制約を消す(変える)
●リセットする すべてをやり直す,リソースを見直す,ゼロにする,チャラにする,なかったことにする
Cやり方(方法)を変える−その経験とノウハウ(経験のメタ化)が方法を狭めていないか
●本当に可能性は残っていないか まだやれるというには何が必要か,何があれば可能になるか,どういうやり方ができれば可能になるか,何がわかれば可能になるか,
●まだやり残していることはないか 他にやっていないことはないか,まだ試していないことはないか,まだやって見たいことはないか,ばかげていると捨てたことはないか,限界を決めつけていないか,
●プロセスを変える まだたどりなおしていないことはないか,別の選択肢はないか,分岐点の見逃しはないか,捨てていいプロセスはないか,経過を無視する,逆にたどる,資源の再点検,見落としはないか
●手段を変える 試していないことはないか,異業種で使えるものはないか,捨てた手段に再チャレンジする
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◇同じものを見ていても,同じように見えているとは限らない。その見え方に,その人のオリジナリティがある。
@具体化の4つのアプローチ〜自分のリアリティ感のレベルを確かめる
●具体例で考える〜具体性のレベルを変える
●強制,あるいは見たいように見る〜見える側を変える
●シリーズ化する〜連想による横展開
●5W1H、あるいはストーリーを描く〜ピンポイントにする
A具体性のレベルを動かす〜自分の当たり前のレベルを変える
具体性は,それぞれ自分にとっての当たり前をもっている。たとえば,「上から」といったときの,上は,二階からなのか,木の上からなのか,屋上からなのか,高層ビルの上からなのか,その当たり前は,意識的に動かすことができるはずである。たとえば,東京タワーの上から,飛行機の上から,人工衛星の上から,月から等々。そのことによって,具体性のレベルを変えていける。
◇因みに,具体的かどうかの原則は,次の3点。つまり具体例で考えること
・他にないたったひとつの「もの」や「こと」であるかどうか
・心の中に,気持ちや感情を動かすイメージが浮ぶかどうか
・特定の何かをそこから連想させる力があるかどうか
Bひとそれぞれがもつ具体性のレベルの根拠〜自分の当たり前には人には当たり前ではない
人は誰でも,自分独自の具体性のレベルを持っている。つまり,人は同じものを見ていても,同じように見えているとは限らない。それは,人のリソースからきている。それを意識すると,他人との具体性の差を発想の違いとして使うことができる。それぞれのレベルの目安にはいくつかあるが,一例を挙げると,
●記憶というリソース
一般に,人の記憶は,
・意味記憶(知っている Knowには,Knowing
ThatとKnowing Howがある)
・エピソード記憶(覚えている
rememberは,いつ,どこでが記憶された個人的経験)
・手続き記憶(できる
skillは,認知的なもの,感覚・運動的なもの,生活上の慣習等々の処理プロセスの記憶)
といわれる(この他,記憶には感覚記憶,無意識的記憶,短期記憶,ワーキングメモリー等々がある)が,なかでもその人の独自性を示すのは,エピソード記憶である。これは自伝的記憶と重なるが,その人の生きてきた軌跡そのものである。発想の独自性は,これに負うことが多い。アナロジーやメタファーは,ほぼエピソード記憶に起因する。
●感覚というリソース
感覚面でも,その人特有のリアリティの差があらわれる。NLP(Neuro-Linguistic
Programming 神経言語プログラミング)では,ひとは,特有の優位感覚をもっているという。
・視覚優位(Visual
ビジュアル) 外部に向って見る場合にも,内部の心象を描く場合にも用いる。
・聴覚優位(Auditory
オーディトリー) 外の音にも,内の音にも用いる。
・触運動覚優位(Kinesthetic
キネステティック) 体感覚(触覚・味覚・嗅覚)。外側にも内側にも向く。
たとえば,ビジュアル感覚に優れている人には,同じものを見ていても,詳細な部分に目が向いたりする。
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◇アイデアとは要素(手段)の組み合わせの発見である。発想というのは,自分の“知識と経験の函数”であり,もっていないものを生み出すのではない。とすれば,既存の知識と経験を,どうすれば新しい枠組みや組み合わせが見つけられるか,自分の手持ちの駒である知識と経験を最大限に活かすにはどうすればいいか,アイデアづくりのポイントは,自分の知識と経験の枠組みを崩し,知識の整理棚をシャッフルできるかどうかにある。
の4つである。
● 「分ける」は,分解してみる,細分化してみる,新たに分けてみる,分け方を変えてみる等々で,新しいカタチ(つながり)を見つける
● 「グルーピングする」は,くくり直す,束ね方を変える,一緒にしていたものを除く,区分の基準を変える,一緒でないものを一緒にする,強制的につなげ変える等々で,新しいカタチ(つながり)を見つける
●「組み合わせる」 は,異質の分野のもの,異なるレベルのもの組み合わせる,新たに組み替える等々で,新しいカタチ(つながり)を見つける
●「アナロジー(類比/類推する) 」は,似たもの,異分野の例になぞらえる,参照にする等々で,新しいカタチ(つながり)を見つける
●「分ける」の意味
いまあるカタチ,いまある意味,いまある条件,いまある構造,いまある位置関係,いまある流れ等々を崩し,その中から,新しい関係づけを見つける
●「分ける」基準
ツリー型の分解 垂直分解(機能分解,目的・手段),水平分解(役割区分)
フロー型分解 流れのパターン(時系列,因果関係,起承転結)
配置型分解 位置関係,布置関係等々パースペクティブ(遠近法)の関係
構造型分解 組成関係,骨格構造等々立体的関係
状況型分解 5W2H,ヒト・モノ・カネ
ジャンク型分解 シャッフル,ピースへ解体
●「分ける」のパターン例
・系統図(ツリー)状に設問をブレークダウンする
全体構造を樹状に分解すると,選択肢を経る毎に,曖昧さは減少し,
具体化・特定解へと絞られていく。
・目的→手段連鎖で設問をブレークダウンする
「全体構造を樹状に広げていく」方法は,目的(目標)のための手段は何か,その手段(下位目標)のための手段はないか,と目的→手段の連鎖として,設問のネットワークを組み立てることもできる(これは,組織・システムのようなコトあるいは商品のようなモノの働き(役割・機能)の場合は目的→機能に置き換えてみる)。
・原因→結果連鎖で設問をブレイクダウンする
目的→手段連鎖の設問を,目的を結果に,手段を原因に置き換えれば,原因→結果の連鎖として設問を組み立て直すこともできる。
・二者択一の選択肢連鎖で設問をブレイクダウンする
@ABほど設問が明確でなく,漠然とした曖昧な問題状況の中で,周辺から核心へと,問題の焦点を絞っていくとき,二者択一によって,曖昧さを少しずつ消去しながら,絞り込んでいく。例えば,世界状況は→国内状況は→業界状況は→社内状況は→職場の状況は→メンバーの状況は……というように,広げた状況から個別の状況に,順次ブレイクダウンしていく設問の仕方がある。また,例えば,ある人の職業を言い当てるために,設問を立てていくには,自営か勤め人か→公務員か民間か→メーカーかサービスか→重厚長大か軽薄短小か→……と,外から順次二者択一式に絞りをかけていくというものもある。かつてテレビの「二十の扉」という番組で,「それは動物です」という切り口から,20の質問で答にたどりつくというものがあり,それは動物です→人ですか?→今も生きていますか?→実在ですか?……と,二者択一の質問を20回繰り返していく。いわば,220
(1,048,576)分の1に細分化していくことである(例えば,イエス/ノーの選択1回を1ビットとすると,5回で,25=32通りになる)。
●グルーピングの目指すこと
バラバラになった情報の中に,意味のある「つながり」(束ね直しの基準)をつけることによって,バラバラの「地」に「図」を見つけ出す。
●グルーピングの基準は共通点
共通点の発見−矛盾し,バラバラの情報から共通性を発見し,新たな関係づけを見つけ出す。
共通点は見つけるのではなく創り出す−「醜いアヒルの子の定理」(渡辺慧)。2羽の白鳥の共通点と白鳥とアヒルの共通点は,述語の数で比較する限り同じである。
●共通点を発見するためのチェックリスト
@まだ細分化し足りないのかもしれない。
A逆に細分化し過ぎてしまっているのかもしれない。そのために,1つひとつが意味の単位を失っているかもしれない。
Bまず似たところはないかと考えてみる。意味的,形式的,質的,形態的,構造的等。
C違いはどこにあるか。逆に,似ても似つかないものはどれか,違いは何か,そうすることで区別がはっきりする。似ていないものとそうでないもの,という2グループの境界線が見えてくる。
D別に言い換え(置き換え)られないか。それはどういうことかと,別に言い換えてみる,別のものにたとえてみる(比喩),他のものに置き換えてみる(拡大解釈,抽象化,縮小,逆さに,裏返す,伸ばす,縮める等)。
Eそれを具体例で考えてみる。具体的人物,具体的事物,具体的出来事で比べてみる。
F両者に関係づけられるものはないか(アナロジー)。一部でも,他を介した間接的でも,断続したつながりでも,僅かに関係づけられるものはないか,原因結果,表裏,前と後,一方が他方の部分,他方が一方 の全体,目標と手段,地と図,相関,従属,相補,補完,入子,主客,陰陽,等々。
G無関係なものはないか。逆に,どんな意味でも無関係なものによって,最初のグループ化が図れる。
H関係や類似させる媒介(触媒)はないか。全く関係なさそうなのに,何か別のモノや言葉と関係づけると,間接的に似てきたり,その関係づけによって,全体の配置が見えたり,順序が見えてくる。
I両者をそれぞれ別のモノ(似たもの,関係あるもの)に置き換えてみる。別のものに置き換えると,共通 項が見えるかもしれない。
J補充・補完してみたらどうか。何か欠けていないか,何か加えられるものはないか。もし,それを補ったら共通項が見つかるかもしれない。
K結合してみる,合わせてみる,重ねてみる。一体化すると,共通項がみつかるかもしれない。
Lそれぞれを統一する(括れる)ものはないかと考える。両者をまとめるとどうなるか,両者共通の傘はないか,共通に括れる枠はないか,と考えてみる。
Mそれぞれを遡ってみる。それぞれが何に原因している(由来している)か,何がもたらしたものかと,背景・根拠・理由に遡ってみる。
Nそれぞれを下ってみる。これからどうなるか,今後の方向,流れを考えてみると,下流では一本化しているかもしれない。何のために,何を目指しているかと,目的を考えてみる。
●組み合わせのめざすこと
異質のものを組み合わせることで,ピース自体の出自にかかわりなく,全く新しい全体像を見つけ出す
●組み合わせの見つけ方
機能1 |
サブ1 |
サブ2 |
サブ3 |
サブ4 |
サブ5 |
サブ6 |
|
|
機能2 |
サブ1 |
サブ2 |
サブ3 |
サブ4 |
サブ5 |
サブ6 |
|
機能3 |
サブ1 |
サブ2 |
サブ3 |
サブ4 |
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↓
組み合わせ例1
○発見型組み合わせ
ランダムにいろいろ組み合わせて輪郭を創り出す
グループ化した情報群同士を,逐次組み合わせて,新しい可能性を見つけていく。例えば,機能別区分とそのサブグループ群の組み合わせを探るために,各機能毎にサブグループのカードを並べ,スライド式に順次ずらして組み合わせを検討する。
○仮説型組み合わせ
何か媒介を使って(似たものの輪郭を借りる)輪郭のモデルを創り出す
グルーピングで得た全体の関係性から,何かになぞらえられる(見立てられる)アナロジーを発見し,個々の組み合わせを導き出す。まず全体の枠組を発見するアナロジーを見つけなくてはならない
○代理型組み合わせ
部分に焦点を当てて,全部ではなく1部分で組み合わせを見つけていく(部分に偏った仮説型の変型)
●アナロジーのめざすこと
異質な分野との対比を通して,まったく新しい意味や行き詰まりの打開につながる
●アナロジーとは
アナロジーとは,当該の何かを,それと似た(あるいは関係のありそうな)別の何かを媒介して見ること,「〜を通して」見る(考える)ことである。
例えば,Aを,それに似たXを通して見る(理解する)というのは,
・Aの仕組みをXの仕組みを通して理解する
・Aの構造を構造を通して理解する
・Aの組成をXの組成を通して理解する
・Aの機能をXの機能を通して理解する
等々。アナロジーで見たいのは,見えない関係を,「〜を通して」見ることで見つけることである。
●アナロジーの“かたち”
アナロジーは,次の2つにわけることができる。
・類似性に基づくアナロジーを,「類比」
・関係性に基づくアナロジーを,「類推」
前者は,内容の異質なモノやコトの中に形式的な相似(形・性質など),全体的な類似を見つけだすのに対して,後者は,両者の間の関係を見つけ出す。特に関係性が重要なのであるが,これには,次の2つのタイプがある。
@両者の構成要素のもつ関係性からの類推
独立した2つの対象間の構成要素の対比によって,既知のBの要素間(β1β2)の関係(b12)がわかっており,Tの要素(τ1)とBの要素(β1)とが対応し,BとTの要素間の関係(b12とt12)が対応しているとき,それとの類推から,Tにおいてもτ2があるに違いない,と推測していく。要素の類推だけでなく,関係そのものの類推でもいいし,性質が1つであれば,類比となる。
B
T
A両者の関係から生み出す全体構造の類推
その要素ではなく,独立しているBとTとの間の関係から,それを図とする地を類推することになる。
@両者の位置関係から,両者の包含関係,全体・部分関係,一部の重なり,という全体としての関係づけの発見。
ABとT自体が,両者を要素とする別の枠組の内部の組成関係である,という関係づけの発見。これは,隠されているフレーム(X)を,両者間の構造から,類推していく。
●アナロジーの見つけ方
グループ群に新しい全体のモデルを見つけるには,次の3パターンがある。
◇全体に関係が似ているものを見つける
イメージや印象,働きなどから見立てる
◇部分からつながりを見つけ,そこから逆算して関連するものを吸引する
メロディの一節からフレーズをつなげていく
◇部分と部分の関係の断片から全体像を見つける
メロディとメロディのつながりから全体を類推していく
●アナロジーのパターン例
・連想式
同じ言葉で考えているだけではつながらものが,イメージを介在させることで,飛躍できるのである。
カッパ→かわうそ→……
ハゲ→屋台のおやじ→中曽根
バーコード→レジ→……
・類推式
与えられた条件や情報の枠組みを考えるとき,そのまま掘り下げるのではなく,その特定の状況を,別の状況設定に(仮定して,仮想して)置き換えて,問題の枠組みを変えて考えてみる。そうすることで,与えられた問題の枠組みの中では,気づかなかった別の視界(「問題」)が見えてくる。
・拡大(縮小)
通常の視点で見ている限り,情報の深度や幅が深まったり広がったりすることは別として,特別に距離感が変化することはないが,対象との距離を意識的に変えることで,近づけば拡大するし,遠ざかれば縮小する。裏側に回れば裏返したことになる。上から見れば俯瞰したことになる。
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アナロジーとはどういうものかについて,ゴードンは,『シネクティクス』の中で,アナロジーの手法を,
・擬人的類比(personal analogy)
・直接的類比(direct analogy)
・象徴的類比(symbolic analogy)
・空想的類比(fantasy analogy)
の四つ挙げている。
直接的類比は,対象としているモノを見慣れた実例に置き換え,類似点を列挙していこうとするものである。ゴードンは,蓋なしで開閉するもので貝を挙げている。
擬人的類比は,対象としているテーマになりきることで,その機構や働きのアイデアを探るというものである。いわゆる擬人法(モノや動物を人に見立てる)とは違う。モノになり切るものである。チャールズ・ヤン氏は主観類推法と表現している。
象徴的類比は,象徴的なイメージを手掛かりに発想を広げていこうとするものである。ゴードンは,インドの魔術師の使う伸び縮みする綱のもつイメージを手掛かりに,伸縮するものへと連想していく。
空想的類比は,潜在的な願望のままに,自由にアイデアをふくらませていく。ゴードンは,閉じる→向かい合った虫の握手→クモの巣の獲物を捕まえて離さない状態,と連想を飛躍させている。
しかし,問題は,どう使いこなしたらそういう着想がえられるのかの方法は具体化されていないことだ。では,アナロジーを見つけやすくする工夫は何か。
アナロジーを見つけやすくする工夫として,
・アナロジーの見方のポイント(どういう着眼点があるか),
・アナロジーの見え方のリストアップ(類似性と関係性にどんな基本パターンがあるか)
の二つのチェックリストを試作してみたい。
第一は、アナロジーの着眼点の整理である。どういう着眼点に立てば,どんなアナロジーが見えるのか(どんな見方をすればどんなアナロジーとなる)。われわれの取れる視点(見方)毎に,そこから見えるアナロジーを点検していけばいいのである。いわば,見立てにおいて着眼すべきポイントのリストアップである。ゴードンの挙げた擬人的類比,空想的類比は,そういう意味のアナロジーの着眼点を意味する。
第二は、見えているもの(カタチ,構図,関係,機能,性能,流れ等々)を,何に(どんなものに)見立てればアナロジーとして成立するか,基本パターンの整理である。見えているもの,たとえばカタチ,構図,関係,機能,性能,流れ等々のどこに目をつければ,アナロジーに見えてくるか。アナロジーを見つけやすい基本パターンをチェックリストとすればいいのである。アナロジーの類似性、関係性の構図をできるかぎりリストアップしてみた。それと照合すれば,グループの間の関係にどんなアナロジーが隠されているかをチェックできるはずである。こういうパターンはないか,かくかくの見え方はないか等々。見立ての構造の側からのチェックリストである。ゴードンの挙げた直接的類比,象徴的類比は,そういうパターンの一つである。
前者が,アナロジーの見方のリストアップ、後者がアナロジーの見え方のリストアップ,である。それぞれチェックリストとして、以下に試作した。
大事なのは,第1に,手当たり次第に,何かを立ててみることだ。その意味をこう解釈したらどうなるか,いやこうもできる,とあれこれ試す。こうしたら間違っているのではないかとか,正しい使い方ではないのではないか等と考えることは無駄だ。何でもかまわない,試せることなら試す。ここでやっているのは,アイデアを飛躍させるためだ,ということを忘れてはならない。
第2に,そうやって挙げることが目的ではない。そう見立てることで新たな見え方をもたらしてくれるかどうかが大事だ。
着眼点の中には,該当しないもの,妥当ではないものもあるかもしれない。必要なのは,とにかくその視点で見てみること,見えたら,何でも拾い上げておくことだ。ブレインストーミングと同様に,評価しないで,ともかく試みてみることだ。
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情報とは何か
どんな情報定義があるか,少なくとも,見るに値するものとしては,手元の文献で整理してみると,大きく分けると,おおよそは次のようになる。
@情報を量としてみようとするときの定義。シャノンやウィーバーに代表されるような,情報のコード化につながる定義である,
A生物に関わる情報の定義。たとえば,生命体の外界の刺激や視界に写っているものについて,生命体がどう受け止めるか,たとえば,危険あるいは安全というような。またアフォーダンスとしてみるように,そこに意味を見出すこ
とになる。
B社会的なコミュニケーションに関わる情報の定義。この場合,データから言語情報まで含まれるので,コード化された情報から,状況に拘束されたモード情報まで,多様なものがある。
その代表をいくつかピックアップしてみると,以下のようになろう。
●クロード・シヤノン
あるメッセージに含まれている情報の不確実性を減らすために必要な量の情報をシャノンは,次のように定義した。情報量I,得られる可能性のあるメッセージ数Mとするとき,
I=log2M あるいは言い換えると,M=2I
つまり,「イエス」「ノー」のいずれかの選択だけが存在するとき,そのメッセージで1ビットの情報が得られる。情報1ビットは,「イエス」「ノー」2通りの可能性からの選択を表す,というわけである。
●N.ウィーナー
情報とはわれわれが,外界に適応しようと行動し,またその調整行動の結果を外界から感知する際に,われわれが外界かと交換するものである。
情報を受けとり利用してゆくことによってこそ,われわれは環境の予知しえぬ変転に対して自己を調節してゆき,そういう環境のなかで効果的に生きてゆくのである。(『人間機械論』)
●金子郁容
情報とは,「伝達された(る)何らかの意味」である。そのためには,3つの要件がある。
・情報の発信者と受信者がいること
・伝えられるべき何らかの意味(内容)をもっていること
・受け手に伝わるスタイル(様式・形態)で表現されていること。(『ネットワーキングへの招待』)
●P・F・ドラッカー
情報とは,データに意味と目的を加えたものである。データを情報に転換するには,知識が必要である。(『経営論』)
●グレゴリー・ベイトソン
情報の1ビットとは,(受け手にとって)一個の差異を生む差異である。そうした差異が回路内を次々と変換しながら伝わっていくもの,それが観念の基本形である。
情報とは,(付け加えるなにかではなく)選択肢のあるものを排除するなにかである。(『精神の生態学』)
●西垣通
生命体にとって意味作用をもつものである。
第一に,情報の意味は解釈者によって異なる。解釈者/受信者のに間でなりたつ。
第二に,生命体は自己複製する存在であり,刺激ないし環境変化に応じ,自分自身の構成に基づいてみずから内部変容をつづける。その変容作用こそが意味作用である。
第三に,意味作用を喚起する刺激や、それによって生ずる変容は,物質でもエネルギーでもなく,形であり,パターンである。
従って,情報とは,それによって生物がパターンを作り出すパターンである。(『基礎情報学』)
●梅棹忠夫
人間は,ある情報をえることによって,つぎにとるべき行動を決める。情報が行動に影響を与えるのである。
世の中には,行動上の利益をもたらす情報もあるが,そのような利益をもたらさない無意味情報がある。じつは大部分が無意味情報であるとみることはできないだろうか。情報にはかなりの程度,こんにゃくに似た点がある。情報をえたからといって,ほとんどなんの得もない。感覚器官で受け止められ,脳内を通過するだけである。しかしこれによって,感覚器官および脳神経系をおおいに緊張し活動する。それはそれで生物学的には意味があったのである。(『情報の文明学』)
●仮説の前提
・情報には,「コード情報」と「モード情報」がある。(金子郁容)
・情報とは,データに意味と目的を加えたものである。(ドラッカー)
●情報の構成
情報は,ことば(数値も含めたコード)と状況(文脈)がセットになっている必要がある。言語化されるには,その人が受けとめた場面や出来事を意味に置き換えなくては言語化されない。しかしその言語を受けとめたものは,その人の記憶(リソース)に基づいて受けとめる。その意味の背後に,その人のエピソード記憶や手続き記憶に基づいてイメージを描く。
コード情報は,言語化できる情報ということになる。モード情報は,もう少し突っ込むと,一般化されにくい,そのとき,その場所で,その人が,といった文脈や状況に拘束された情報ということになる。
情報の収集も,編集も,ただ言葉やデータレベルだけでなく,その背後のモード情報までを意識しなければ,ただの言葉の操作で終わる。情報に対応するとは,データの処理や集計だけではなく,その背後の状況を読み解きつつ,何が起きているかを描き出す力がいる。
●情報の構造
コード情報であれ,モード情報であれ,情報になるためには,発信者によって向きが与えられる。向きがなければ情報にならない。どんな場合も,出来事だけでは情報にはならない。その情報を発信してはじめて情報になる。そのとき,情報は,その人がどういう位置にいて,どんな経験と知識をもっているかによって,情報は,再構成される。つまり,“情報”は発信者のパースペクティブ(私的視点からのものの見方)をもっている。発信された「事実」は私的パースペクティブに包装されている(事実は判断という覆いの入子になっている)。逆に言えば,私的な向きがなければ,情報にはならない。
・情報(報告/記事)には3つの偏りがある。
・発信者(目撃者)による主観(発信者に理解された範囲で意味づけられた情報)
・報告者(伝聞者=記述者)による主観(記述者に理解された範囲で意味をまとめられた報告情報)
・受信者(読み手)による主観(読み手に理解された範囲で意味を読み込まれた情報)
・情報を構造化するメリット
・その情報の主語(誰が発信したか)がみえる
・発信毎の違いが明確にできる
・疑問の確かめ先がはっきりする
●集める情報とは何か
情報を集めようとするとき,
@知らない何かを確かめるため,
A決断や決定をするときの不確定要素を減らそうとするため,
B新たな何かを見つけたり創り出したりしようとするため,
といった意図がある。いずれも,情報を集めるのは,何らかの不確実性を減らすそうというときである。
●情報の形式
情報の形式は,一般的には定量的情報と定性的情報という言い方になるが,金子郁容氏の言うコード情報とモード情報がわかりやすい。
コード情報は0と1のデジタル化のようにコード化できる情報であり,定量情報はこれに含まれる。
モード情報は,雰囲気,気分,空気,感情,世の中の動き,流行等々文脈(コンテキスト)に制約された情報である。作家マイケル・クライトンが大事にすると言ったのは,ネット情報ではなく直接人から聞く話であるが,これは究極のモード情報になる。
コード情報は,記号化であり,いわば抽象化することである。モード情報とは,個別化することである。あるいは文脈を限定することである。
●集める意味
シャノンは,情報(あくまでコード情報)の不確実性を減らすために必要な量の情報を,次のように定義した。情報量I,得られる可能性のあるメッセージ数Mとするとき,I=log2M あるいは言い換えると,M=2I,つまり,「イエス」「ノー」のいずれかの選択だけが存在するとき,そのメッセージで1ビットの情報が得られる。言い換えると,情報1ビットは,2通りの可能性からの選択を示す。それは,情報量を1ビット増やすと不確実性が半分になることを意味する。「イエス」「ノー」1回の選択で,一つの疑問が解けていく(不確実性が減る)。これを20回繰り返すと,220,つまり1,048,576分の1に不確実性が減っていく。
未知の状況の解明や未知の発見をしようとする,意志決定や発見,創造のための情報収集の場合,情報特有の問題に留意しなくてはならない。コード情報もモード情報も,情報は基本的に人が介することで,向きが与えられると考えられる。たとえば,目撃情報の発信者と受け手で構造化すると,次のように図解できる。
つまり,発信者が情報にパースペクティブ(私的視点からのものの見方)を与えるのである。発信された「事実」は私的パースペクティブに包装されているのである。コード情報でもモード情報でも,それは変わらない。情報は丸められるのである。ドラッカーは,「情報とはデータに意味と目的を加えたものである。データを情報に転換するには知識が必要である」と言ったが,それは,情報に,既知の知識で向きを加えることと考えていい。そんなとき,不確実性を減らすために,イエス,ノーで収斂しても,あまり意味がないかもしれない。情報の向きを暴く,あるいは向きを崩す問いが必要になるのではあるまいか。
●どうすれば向きを崩せるのか
グレゴリー・ベイトソンは,大学の授業でこんな質問をした。
「幼い息子がホウレン草を食べるたびにご褒美としてアイスクリームを与える母親がいる。この子供が,
@ホウレン草を好きになるか嫌いになるか,
Aアイスクリームを好きになるか嫌いになるか,
B母親を好きになるか嫌いになるか,
の予測が立つためにはほかにどんな情報が必要か。 |
ここにあるのは,情報の向きを変えるための,収集する側の意図的な試みがある。あえていえば,仮説がいるのである。端緒となる情報は,「幼い息子がホウレン草を食べるたびにご褒美としてアイスクリームを与える母親がいる。」だけである。それに,ベイトソンは,@からBまでの問いをたてた。つまり仮説を立てたのである。しかも,この仮説は,「母と子の行動に関するコンテキストに関わる情報」を集めるために,立てている。
このとき,情報の“向き”が問題になる。たとえば,関連する情報を聞き出したとする。その情報をつなぎ合わせれば,おそらく一定の文脈が見えるはずである。しかし,ここにあるのは,情報提供者のもたらした「情報の向き」に沿って推論した,いわばお膳立て通りの結論にすぎないからだ。未熟な指揮官にとって恐ろしいのは,集まった「情報が互いに支持を保証し,あるいはその信頼度を増大」しあって「心に描かれた情報図が鮮やかに彩色される」ことだと指摘していたのは,クラウゼヴィッツであった。情報の向きが揃ったときは,それを疑うにはよほどの判断力がいる。
●向きを変えるためにどんな問いを立てるか
向きとは文脈(コンテクスト)と呼んでもいい。もっともらしい見える文脈に代わる,他のありえる新しい文脈の選択肢をどれだけ浮かび上がらせられるか。必要なのは新しい現実(状況)を発見することである。情報探索とは,そのために,意識的に問いを立てることなのである(選択肢がたくさん考えられることを発想力とも呼ぶ)。もし,こうなったらどうなのか,もし,こうしなかったらどうなのか,もし,これがなかったらどうなのか……。単に「なぜ」「どうして」と分からないことを問うだけではない。いまないなにかを仮定(あるいは仮設)することである。
新たな文脈をみつけるとは,いまあるものを当たり前とせず,ああでもない,こうでもないと,現状に問いかけることである。これが,情報のもっている“向き”,情報の提供者の丸めた“向き”,情報の発信者がつくりだした“向き”,情報の仲介者・報告者がいじくり直した情報の“向き”
,あるいは世の中の通念としての“向き”に流されないための,自分で情報の“向き”を発見するための方法なのである。これがおそらく情報収集の成果のはずである。
●文脈とは何か
いわゆる,5W1Hとか5W2Hといわれるものがある。つまり,
・何のために(WHY)
・何を(WHAT)
・誰が(誰に)(WHO)
・いつから(いつまで)(WHEN)
・どこから(どこまで)(WHEN)
・どうやって(HOW)
というものである。ものごとを,具体化する,とはこういうふうに,ピンポイント化,特定化することだ。たとえば,誰が,何時,何処で,どうしたの?と聞かないと,ものごとがはっきりしないのは,逆にいうと,ものごとを個別化,特定化するには,こういうことをしなくてはいけないということでもある。ことだ。それを,条件の明確化ないし,状況の明確化と呼んでもいい。それは,文脈をはっきりさせる,ということだ。
文脈とは,前後関係,あるいは脈絡と呼び変えてもいいが,それのおかれている状況をつまびらかにするということだ。状況証拠という言葉がある。疫学アプローチという言葉がある。疫学調査に基づいて,人的,環境,物理的,生物的,社会的,病原的な諸点から,因果関係の相関度を調べ,原因を絞り込んでいく。環境ホルモンや公害や食中毒で,犯人
が絞り込まれていくのも,それだ。いわば,文脈から因果の筋を仮定していく。かつて,かいわれ大根が,食中毒の犯人に想定されたのも,この考え方に基く。つまり,「それとともに一緒に浮かび上がってくる出来事の状況であり,条件であり,因果の流れとして含まれる全てである」とされるが,要するに,われわれが発想するときの,
・誰が(主体)
・どの位置から(視点)
・何を(対象)
・どういう条件で
・どう見ている(とらえている)か(見ている情報=言葉,イメージ,論理)
という条件において,
@この背景となっている社会的・文化的文脈
Aその主体の置かれている場面・状況という文脈
Bこの主体の考え方,感情等の心理的文脈
Cとらえている言語的脈絡としての言語的・意味的文脈
(更に,D我々の学問的達成や知的水準といった知的文脈,を加えてもよいが,あえて区別せず,Cにくくる)
の4つがありえるはずであり,そのそれぞれが変更されるだけで,とらえられたモノ,コトは全く変わっていくのである。つまり,意味の脈絡(論理)も,状況の脈絡(状況)も,状況の要件(条件)も,すべては文脈という表現の幅と奥行の中で,変るということだ。コンテンツ(内容)は,コンテキスト(文脈)で変わるからだ。
●文脈を崩す鍵
文脈を崩すには,バラバラ化と呼ぶ切り口が使えるはずである。とりわけ,とき,どこ,だれといった条件をどう変えていくかが鍵になるはずである。
@視点(立場)を変える いまの位置・立場そのままでなく,相手の立場,他人の視点,子供の視点,外国人の視点,過去からの視点,未来からの視点,上下前後左右,表裏等々
A見かけ(外観)を変える 見えている形・大きさ・構造のままに見ない,大きくしたり小さくしたり,分けたり合わせたり,伸ばしたり縮めたり,早くしたり遅くしたり,前後上下を変えたり等々
B意味(価値)を変える 分かっている常識・知識のままに見ない,別の意味,裏の意味,逆の価値,具体化したり抽象化したり,まとめたりわけたり,喩えたり等々
C条件(状況)を変える 「いま」「ここ」だけでのピンポイントでなく,5年後,10年後,100年後,1000年後あるいは5年前,10年前,100年前,1000年前等々 |
こここでいう「変える」とは,それを意識してみるというほどの意味だ。例えば,「視点を変える」の,「視点を意識する」とは,「〜と見た」とき,「いま自分は,どういう視点・立場からみたのか」と振り返ってみるということだ。そのとき,会社の立場で見たのだとすれば,それ以外の,父親として見たらどうなるか,客の立場で見たらどうなるか等々。無意識の視点を意識し,「では,別の視点ならどうなるか」と,改めて別の視点を取ってみる“きっかけ”にすることができる。
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●仮説とは何か〜仮の説明概念によって新たに見えるもの
@仮説の萌芽
現状や理論への問題意識(何か変ではないか,何とかならないか)が,現象や既知のものの見方・考え方に,「これはおかしい」「こうすれば,こうなるのではないか」という発見や着想につながる第一歩である。この段階の問題意識や疑問を,作業仮説と呼んでもいい。
A現場・現実・現物からの三つの着想
@現実の観察結果を定量的にデータとしてまとめることを通して,見えてくるもの
A現実の観察を,定性的,モード的,感性的にまとめることで,見えてくるもの
B現実の観察を通して,概念や論理として(こうだからこうなる)読み取ったもの
C二次情報,二次データを通して,@ABと照合しつつ,読み取ったもの
データでも,一次的情報でも,既に一定の仮説に基づいて切り取られている(アンケートの項目,調査の対象等々)ことを忘れてはならない。いずれの場合も,主観性においては変わらない。もしそうなら,仮説は,抽象的であるほど,汎用性と共に,当りはずれがおおきくなる。仮説は,まず,第一歩として,具体的であること。具体的とは,特定されているということだ。
原因分析に,一つの要因について,5つの「なぜ」を洗い出させる,5Whyというのがある。仮説の場合も,一つの仮説について,5つとはいわないが,3つ以上の,「それがなぜそうなったのかを説明できる」原因を考えてみることで,が必要だ。仮説を補強する手続きといってもいい。
こうして固まった仮設を,説明仮説と呼ぶ。
B仮説検証作業
仮説の検証は,仮説を説明できる事例,事象例を列挙し,それによって,説明して見せることだ。
仮説とは,事象を説明してみせることなのだから。それを説明できる現実例をもってこなくてはならない。
(参考文献;伊丹敬之『創造的論文の書き方』)
●仮説をたてることの意味
◇仮説(情報から読み取った構図=仮の説明概念)をまとめるには,
・現状への問い直し(このままでいいのか,という問題意識)の強さ
・それを何とか(解決)したいという強い意欲(思い)
・何とかならないかと,多角的に検討できる発想の幅と奥行
にあるが,思い入れの強さだけでは,独りよがり(勝手読み)に終わる危険性がある。自分の仮説(読み)を客観的な批評に耐えられるカタチ(モノ)にしなくては,「仮説」づくりは終わらならない。
◇仮説(仮の構図=仮の説明概念)を立てることこと,ものを見る視野に,一定の窓(枠)を創ることだ。それを通して,現実を一定のパースペクティブ(視界)に切り取る。そういう見方(方向と領域)でとらえたことによって,どれだけ(問題意識が問題にした)「問題」を解決してくれるかどうか,である。それが,“仮説の説得力”である。
●仮説をたてる手順
時代や事象を読み解く仮説(仮の説明概念)を立てていく。仮説についての制約はないが,キーワードつなげたものや,文意から当然読める程度のものではなく,その奥に想定できる何かを考え,「どこそこではこんなことが起きる」「これからこうなる」「(何年後)こんな時代が来る」「こうすれば解決できる」等々,時代を生き抜く手掛かりをまとめていく。
○まずは疑問からはじまる
現状をそのまま受け入れたり,情報をただそのまま読む限り仮説の必要はない。現状に疑問や危惧,不安,期待をいだくから,そのことを確かめる必要が生まれる。仮説の端緒は,ここにある。自分のリソースを信じて,疑問,不審,気になるところを見つけ出す。ただ,その疑問が勘違いか,根拠のあるものか,確かめなくてはならない。そのとき現場へ赴くことも含め,情報が必要になる。それが確かだとすると,その理由を確かめたり,その行方を想定したりすることが必要になる。その場で理由が明確になるなら,そこで終わるだけである。
○キーワードやフレーズ,断片の情報,断片のエピソード,事実の断片を拾い出す
まず「気になること(事柄)」「引っかかるフレーズやキーワード」を,とにかく拾い出す。疑問でマーキングしたところから,キーワードやフレーズ,断片の情報,断片のエピソード,事実の断片等々をカード化する。あるいは,疑問をチェックしながら,同時にカード化してもいい。
○キーワード,フレーズ,断片等々の間につながり(脈絡)を見つけてグルーピングし,フレーズないしタイトルをつける
拾い出したキーワードなどを一覧化し,断片の情報やキーワードをつないだり,分けたりしながら,つながり(脈絡)をみつけてグルーピングしていく。その場合,グルーピングにまとまる多数派だけでなく,そこにまとまりきらない,微妙な違いのあるものにも注意して,ひとグループとしておく必要がある。場合によっては,さらに分割したり,束ねなおしたりしながら,つながりをみつけていく。見つけたつながりに筋が通っていれば,誰もが,その筋をたどりなおせるはずである。そうしたグループ化されたつながりを言語化して,キーワードやフレーズにまとめていく。それは抽象的よりは具体的の方がいい。必要なら更にグルーピングをする。
※このプロセスは,川喜田二郎氏が,フィールドワークの観察メモを整理・集約のために開発されたKJ法のそもそものプロセスそのものである。
この場合,アプローチとしては,ふたつある。
@キーワードを拾い上げる中で,大まかな括り(つながり)の見込みをつけて,仮のグループを設定し,それにキーワードや断片を集めていく。この場合,見込みのタイトルや概念からずれるものを,別にグルーピングすることが重要になる。
Aキーワードや断片をみながら,帰納的にグループ化して,つながり(脈絡)に集約していく。この場合,時間がかかる。
○グループないしグループタイトル(フレーズやキーワード)を,いくつか選択する
キーワードやフレーズをいくつか選択する。その段階で,キーワードやフレーズは,それまでの背景や文脈から切り離されて,言葉だけが浮遊した状態になる。そのことで,モード情報とセットになっていたコード情報が,自由になったとみなす。どんなエピソードや背景をくっつけるかで,言葉のもつイメージが変化することになる。
○フレーズやキーワードをグループから切り離し,それに新たにエピソード(出来事),文脈をみつける
新たなつながりをフレーズにしただけでは,情報の整理,要約であり,状況説明でしかない。仮説になるには,それによって現実を読むための,キーとなる文脈(コンテキスト)あるいはその兆しを見つけなくてはならない。それがあってはじめて仮説となる。また,キーワードやキーとなる言葉だけでは,その言葉に何をイメージするかを,受け手にゆだねることになる。その人の経験と知識から,それぞれ勝手に想像してもらうことになる。それでは,仮説にならない。
せっかくみつけたつながりのキーワードを現実化させる,ある文脈,もう少し踏み込むと,シチュエーション,場面(たとえば,誰が,どこで,いつ,といったことがピンポイントになっている)を見つけて,セットで提示しなければ,そのつながりを仮説として提示したことにならない。それは,
・時間軸を未来へ踏み出すか,
・空間軸を他所へ踏み出すか,
・主体(登場人物)を他の誰かに変える,
ことになるはずである。たとえば,フレーズを「少子化が進む」とする。これでは事態の説明にすぎない。時間軸を未来へ,空間軸を別の場所へ広げながら,「そこで何が起きるか」を考えると,「働き手がいなくなる」となり,更には,「労働市場を外国人に頼らざるをえなくなる」となり,更には,「日本人は消えていく」となるか,「日本文化が変わる」となるか,ただ延長線上ではない状況を描き出さなくてはならない。それは,ビジョンを描くのと同じである。
○新たな文脈を見つけるために,フレーズやキーワードをビジュアライズする
ビジュアライズは,そこから,新しいストーリー,新しい世界,新しい何かが見えるものにしていかなくてはならない。それは見つけたフレーズに未来や別の世界,文脈に投影して,こうなる,こんなことが起きる,こんな事態が出来すると,ビジュアルにそれがもたらす現実像を描いて見せることである。それが,フレーズの新しい状況を見つけることであり,キーワードに文脈を見つけることである。それが具体的で,ピンポイントあるほど,リアルに見えるのではなかろうか。
【ビジュアライズの手順】
※人の認知形式,思考形式には,「論理・実証モード(Paradigmatic
Mode)」と「ストーリーモード(Narrative Mode)」がある(ジェロム・ブルナー)。前者はロジカル・シンキングのように,物事の是非を論証していく。後者は,出来事と出来事の意味とつながりを見ようとする。
ドナルド・A・ノーマンは,「物語には,形式的な解決手段が置き去りにしてしまう要素を的確に捉えてくれる素晴らしい能力がある。論理は一般化しようとする。結論を特定の文脈から切り離したり,主観的な感情に左右されないようにしようとするのである。物語は文脈を捉え,感情を捉える。論理は一般化し,物語は特殊化する。論理を使えば,文脈に依存しない凡庸な結論を導き出すことができる。物語を使えば,個人的な視点でその結論が関係者にどんなインパクトを与えるか理解できるのである。(『人を賢くする道具』)
フレーズの新しい文脈,新しい現場を見つけるために,たとえば,「新しいファミリー」というキーワードから,ビジュアライズを進めてみるとすると………。
●キーとなることばや例示を明確にする
まずはキーワードやフレーズを言い切る。
●作成したキーワードを,具体的場面(シーン)に置き換えてみる
例えば,「いまどきのファミリー」というキーワードの,「イメージ」を具体化すると,20代夫婦,ヤンキー夫婦,歳の差夫婦,30代夫婦,高齢結婚夫婦等々いろいろあるが,限定するには,まだイメージが広すぎる。そこで,
・どういう場所(場面,部屋)で
・どういうとき(機会,時間帯,時期)に
等々,使われている(登場する,話題にされる)場面,シチュエーションを具体的に思い描いてみる。
●それにふさわしい登場人物を設定してみる
その場面にふさわしい登場人物(たち)は
・誰(どんなターゲット,どんな対象,どんなグループ,どんな年齢層)が
ふさわしいのか,性別,年齢,職業,背景,来歴等々を描きながら,それに似た映画,アニメ,マンガ,小説を借りて,ストーリーを描いてみる。
●その場面の効果を上げるには,どんな仕掛け(舞台装置)がふさわしいかを列挙してみる
・子供を置いてのデートの二人
・親子(父と子,母と子)連れ
・家族連れ
等々によって,それに似つかわしい舞台装置は何かを,街,町並み,風景,季節,時間,衣装を含めて挙げてみる。
●こうして,状況設定と登場人物によって,文脈が整い,ひとつのストーリーを描いてみる
・何のために(動機,ニーズ,欲求)
・何を求めて(期待して,関心・動機)
・どのくらい(予算,コスト,値頃感,頻度)
・どんなふうに(使用方法,利用方法)
●出来上がった文脈のストーリーから,新しい何かが見えたか
いままでにないモノに見えるか,新しい意味(価値)が見えるか,新しい効用が見えるか,新しい世界が見えるか,新しい生活が見えるか,新しいジェネレーションが見えるか等々
○立てた仮説をひとつ選ぶ
立てた仮説を,最も信憑性,蓋然性,信頼性,妥当性の高いと思われるものを一つに絞る。それに条件や前提がある場合は,それを明確にしておく。たとえば,「こういうときには」「こういうことがおきれば」等々。
仮説は,たとえば,
・未来をみせる(こんなふうになる)
・解決を描く(こうすればいい)
・新しい発見をみせる(こんなことができる)
・変化像を描く(こんなふうに変わる)
・未来への処方箋(こうしなくてはいけない)
になっていなくてはならない。未来像でも,その解決策でも,そのためのアイデアでも,そこで実現される場面や状況をビジュアルに描いてみせなくては,仮説にならない。そうすることで,仮説として,フレーズに新しい文脈がセットされていなくてはならない。
○仮説の表現は,シンプルに断言する(言い切る)
仮説はシンプルで,ビジュアルでなくてはならない。
・まず,ためらわず言い切る
・極端化(局限化)する
・明確に絞り込む
・肯定表現でなくてはならない
その“新仮説”に基づいて,どんなことが説明できるかを,きちんとした言葉で,記述・整理する。
たとえば,「こういう条件のときには,かくかくになるだろう(かくかくのことが起きるだろう)」
○仮説の検証
仮説は,ものやことをみる手掛かり,時代や事象を読み解く(説明できる)ものになっていなくてはならない。それは,未来や混沌への灯台や探照灯である。その意味で,仮説のチェックポイントが必要である。たとえば,
・時代の先(いま)を読み解けているか
・新しい発見や意味を表現できているか
・新しいものの見方の準拠枠をつくれているか
・新たな解決(実現)の糸口になっているか
・新しいものを見つける指針(切り口)になっているか
・いまあるもの,システム,サービスの発想(視点)転換になるか
○仮説はモード情報の背景があるコード情報である
仮説は,フレーズだけでは仮説にならない。それはコード情報にすぎない。それに,独特のピンポイントなシチュエーションが加わってはじめて,リアリティができる。その両者のセットを見つけ出さなくてはならない。
仮説は,ひとつ思いついたら,それで終わりではない。それを視点(見る人)を変えたり,場面や時間を変えることで,更に別の仮説にたどりつく。更に,仮説(何々が起きる)→どうしたらいい,何があったらいい→解決策へと展開もできる。
●仮説づくり
の構造〜仮説づくりは情報の構造をつくり直す
○コード情報とモード情報のセットを崩す
@情報の構造は,コード情報とモード情報がセットになっている。
Aフレーズをモードから切り離すして,新しいモードを見つけることで,情報の意味を変える
○情報から新たなフレーズを見つけ出す
@さまざまな情報から,新たなフレーズを見つけ出す。
A新しいフレーズに新しい状況を見つけ出す
●仮説ひらめきのための手順
・その問題は,より単純な場合に変えられないか
・その問題は,より解きやすい同等の問題に置き換えられないか
・その問題を解くための簡単な手続き(アルゴリズム)を発明できないか
・別の分野からの定理を応用できないか
・その結果を,良い例と反例でチェックできないか
・その問題をみる角度が,解答と無関係に与えられていないか,それが誤った方向に導いていないか(M・ガードナー)
●パースの仮説4条件
@もっともらしさ(plausibility)
仮説は,検討中の問題の現象について,もっともらしい,もっとも理にかなった説明を与えるものでなくてはならない。たとえば、事実Cを説明するために仮説Hを思いついたとして,「HならばC」(仮説Hが真ならば,事実Cは当然の事柄)といえるかどうか、つまり仮説Hが述べている事実(または法則や理論)から必然的に,あるいは高い確率で事実Cが帰結するかどうかが検討されなくてはならない。もし仮説Hで納得が得られなければ別の仮説を発案していくことになる。
A検証可能性(verifiability)
仮説は実験的に検証可能でなくてはならない。提案された仮説は経験的事実に照らして確証ないし反証しうるものでなくてはならない。仮説の検証は,まず演繹によってその仮説からどんな経験的帰結・予測が必然的に導かれるかを示し,そして帰納によってそれらの予測がどれだけ経験的事実と一致するかを確かめられることになる。探求者にとって,もっとも魅力ある仮説という意味で最良の仮説は,それが偽である場合,もっとも容易に反証可能なものである。
B単純性(simplicity)
同じ程度の説明能力を有するいくつかの仮説があるとすると,より単純な仮説を選ばなくてはならない。それは,より扱いやすく,自然であるという意味で,より単純な仮説,本能が示唆するものを選ばなくてはならない。単純な仮説は,その帰結がもっとも容易に演繹され,もっとも容易に監察と照合しうる。もし間違っていれば,手間をかけずに排除できる。
C経済性(economy)
単純な仮説ほど,それを実験的にテストするのに費用や時間やエネルギーが節約できる
●その他の仮説留意点
・切り捨てる
考えるということは,余分なことを考えないということだ。
・抽象化と理想化
たとえば,摩擦や空気抵抗を切り捨てない限り,重力の法則を見つけるのはむずかしいし,理想化してはじめて見つかることもある。もう少し踏み込むと,限界ぎりぎりまで拡大したり,縮小したりする,思考実験でもある。
・最小性と簡素性
できるだけ余分なものをそぎおとす。
(参考文献;米盛裕二『アブダクション』,ジョエル・ベスト『統計という名のウソ』,酒井邦嘉『科学者という仕事』)
●仮説間の比較条件(アブダクションによる判定の条件)
・仮説Hが対立仮説H′よりも決定的に優れていること
・仮説Hそれ自身が十分妥当であること
・説明のもとになるデータが信頼できること
・可能な対立仮説H′の集合を網羅的に比較検討していること
・仮説Hが正しかったときのメリットと間違ったときのデメリットを勘案すること
・そもそも特定の仮説を選び出す必要があるかどうかを検討すること
(参考文献;三中信宏『系統樹思考の世界』)
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●立てた仮説を検証する〜たとえば複数の情報から何かを読み取ったとき
@複数の情報を通して,時代や事象を読み解く仮説(仮の説明概念)を立てていきます。仮についての制約はありません。
A立てた仮説を,最も信憑性,蓋然性,信頼性,妥当性の高いと思われるものを一つに絞って下さい。それに条件や前提がある場合は,それを明確にして下さい。たとえば,「こういうときには」「こういうことがおきれば」。
Bその“新仮説”に基づいて,どんなことが説明できるかを,きちんとした言葉で,記述・整理して戴きます。
たとえば,「こういう条件のときには,かくかくになるだろう(かくかくのことが起きるだろう)」
Cその“新仮説”が妥当であることを否定する事例を意識的に挙げ,それを否定し,仮説を支持する事例を反証として仮設的に挙げて,仮説を検証していただきます。
たとえば,「(仮説が)そうは言っても,こうなっているじゃないか」「こうなっていないじゃないか」を列挙し,それに対して,「こうなるはず(仮説)だから,どこどこに,こういうことが起きているだろう,生まれるだろう,こうなっていくだろう」等々とその否定事例を反証し,仮説を支持する事例を挙げて,仮説を検証していきます。いまある事例を反証材料として列挙してもいいし,「こうなのだ(仮説)から,こういうことがおこるはずだ」と,肯定事例の発生ないし発現を予測して,反証してもいい。
D本当にそれで仮設が立証できるかどうかを,具体的データと事実を列挙して,仮設の正当性を証明します。
情報が手元に集まった状態で,何かをそこから読み取ろうとする場合,仮説を立てるのは目的ではない。もちろん,当初の目的がクリアであるとしても,情報にタグがついているわけではない。集まった情報自体から,何を読み取るほかはない。そして,情報から,何が読めるか,何を読み取れるかは,その人の問題意識である。情報の間に,もっともらしい文脈,本当らしい意味のつながり等々が読めるが,それをそのまま仮説にするのなら,単なる状況説明で,文章の読める人にはすべてわかることを説明している程度のことでしかない。
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自分の「機能」というのは,その役割(職位や職務の分担)に求められている目的(なすべきこと)をどれだけ果たしているかであり,それにかかるコスト(投入に要する時間や経費)に比して,オーバーしているなら,その役割に求められている期待(目標)値(産出の量と質)に達していないことになる。
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価値を高めるには
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コストをみる目安は
- 年収及び労務コスト,事務所設備等の維持費等,諸々を加味すると,約年収×1.7〜2.3倍(時間当りで出す)
- その人が貢献したコスト削減(いままでよりどれ位少ない経費,資材で同じアウトプットを出したか
- その人が貢献した効率アップ(いままでよりどれ位短縮した時間で,同じアウトプットを出したか)
- その人が貢献した無用業務,過剰・重複業務の削減による時間短縮
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機能をみる目安は
【自分の価値を測る】
価値分析の要素 |
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T.自分の仕事にかかるコストはいくらか |
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U.自分の役割・責任に求められるアウトプット |
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V.自分の価値はいくらか(V=F/C) |
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※価値には,使用価値(その人の有用性を示す),魅力価値(その人のもつ魅力)等を考える
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自己イメージ(自己像)と他者イメージ(他者像)とのギャップ
- 自分の価値を知るもう一つの方法は,他者視点である。ジョハリの窓というのもあるが,自己イメージと他者イメージを並べてみて,自分でギャップを確認するというのもある。
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“コンセプト”は,別に「テーマ」の概念(意味内容)を表現するものではない。むしろ,正確な意味では,客観的な意味内容をどうシフトさせるか,偏らせるか,に“コンセプト”をつくる意味がある。誤解を恐れずに言うなら,コンセプトは,テーマの私的な方向づけなのである。テーマに,ウエイトづけし,シフトさせ,ある意味で特定部分にフォーカシングすることなのである。そうしたフォーカシングが,そのまま受け入れられたものが,固有名詞が一般名詞化したカタチで生き残っていくことになる。もちろん,ネーミングとコンセプトはイコールではないが,「セロテープ」「ウォークマン」「カップヌードル」「ごきぶりホイホイ」「ほか弁(ほっかほっか亭)」「ポストイット」「(スーパー)ガン保険」等々をみると,何にシフトし,どこに焦点を当てたかが鮮明に見えるはずである。
さて,そこで,コンセプトをどうつくるかである。このためのスキルが,“スクランブル法”である。これは,池辺陽氏のデザインスゴロクを簡略なステップ化した岩崎隆治氏のトライアングル法の変形版である。そのすすめ方は,次のようなステップとなる。 ※池辺陽氏のデザインスゴロクをステップ化した岩崎隆治氏のトライアングル法を高沢公信がモデルチェンジしたバージョン。
1,取り上げるテーマの確認。
ここで,テーマを最終確認する。テーマについてのニュアンス,意味あいの違いを刷りあわせておく。
2 ,テーマに何が必要なのか,欠かせないのか,必要な「条件」,構成する「要素」,「要因」等々を,具体的に洗い出し,ラベルに書き出す。
ここでは,テーマ決定後の,テーマの前提条件,意味づけ,テーマ分析での作業が生きてくるが,この作業で改めて テーマを多角的に見直すことになる。
いまあるものを前提にする必要はなく,「いまはない」が,あるいは「いまは必要とされていない」が,「あったらいい要素(条件)」「あってほしい要素(条件)」「あるのが望ましい条件(要素)」「あればいいのにと願う要素(条件)」「あったらいいなと夢見ている条件(要素)」「他人は知らず自分には絶対必要だと感じている条件(要素)」等々の,「わがまま条件」「自分勝手条件」「身勝手条件」「好き勝手条件」「独りよがり条件」でかまわない。
3 ,ラベルを,グループ化していく。
どうしてもグループからはみ出すラベルは,独立したグループとして扱う。
4 ,グループ化が終わったら,それぞれのグループ毎に,その各ラベルが何を主張しているかを読み取って,全体を的確に表現できる言葉で,タイトルをつける。
5 ,グループ群の中から,重要性の高いものを9グループ選び出し,優先順位をつける。
当然,何を重視するか,何を取るかで,テーマのニュアンスが変わっていくことになる。
6 ,9グループの中の,優先順位の高い,1位,2位,3位の3グループを選び出し,(フォーマットの)トライアングルの一番外の角に,それぞれ置く。
7 ,次に,優先順位の4,5,6位を取り出し,各辺の真ん中に,先に置いた2つのグループと関係がありそうなものを,それぞれ置く。
8,更に,優先順位の7,8,9位を取り出し,各コーナーに,先に置いた3つのグループと関係がありそうなものを,それぞれ置く。
9 ,テーマは要するにどういうことなのかを,キイワード(キイ・イメージ)として中心に書き入れる。
中心のキイワードの見つけ方としては,次の2つのやり方がある。 ・全作業を通して,あるいは配置した結果を眺めながら,浮かんでくるものを見つける ・(展開例のように)7〜9位を配置するとき,3つのコーナーで,4つのタイトルに関係をつけたが,そこで得た意味やイメージを,積み重ねていく
キイワードは,テーマの新しい意味の発見となる。このキイワードによって,テーマに新しい光が当たったり,新しいニュアンスを創り出しているものでなくてはならない。これが「コンセプト」となる。
要するに,この作業は, ・9個の組み合わせから見立てられるアナロジー ・9個の組み合わせから喩えられる比喩 ・9個の組み合わせから象徴できるシンボル 等々の発見である。
キイワードは,イメージに置き換えたい。イメージで表現するメリットは,言葉で要約したり,説明しただけでは伝達しにくい,微妙なニュアンスが受け止められやすいところにある。
10,結論として,最適コンセプトを見つける。
こうして絞ったコンセプトは,次の評価基準でチェックしなくてはならない。 ・選んだコンセプトは,本当に,企画テーマの特徴や狙いを的確に表現したものになっているか ・課題の求めるものとずれを生じていないか ・コンセプトで,意味の説明だけでなく,やりたいことのニュアンスが表現されているか ・それは,企画テーマの新しい価値と意味を具象化したものになっているか ・それは,既に何処かで,誰かが,使ったものではないか,あるいはそれに似ていないか
スクランブル法フォーマット
別図のように,「うまいラーメン屋」というテーマのコンセプトをつくってみることができる。優先順位8〜9位を配置するときに,図のようにイメージ化しておくと,それを積み重ねることで,全体のコンセプトを見つけ出す手段とすることができる。
《テーマ;「うまいラーメン屋》
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