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ロジカル(論理的)であるとはどういうことか〜筋をつける
◇ある推論が論理的であるとは,その推論のプロセスが形式的に正しいこと。それを妥当性と呼ぶ。つまり,話がつながっていること,つじつまがあっていること。つまり,ロジカルかどうかとは,そのプロセスの筋が通っているかどうかをさす。その妥当性は,前提の結論や実質的内容とは関係なく,前提と結論のつながり方に依存している。
◇筋の通り方には,
・意味の論理の筋
・事実の論理の筋
のふたつがある。前者を演繹,後者を推測,と呼ぶ。演繹では,妥当かどうかという形式的側面(論理性)が問題になり,推測では,説得的かどうかという内容的側面(事実性)が問題になる。しかし両者は相互補完である。推論で確証された法則が演繹の前提となる。
@演繹的思考
演繹とは,ある主張からその含意している意味をとりだすこと。一つないし複数の主張から,その意味するところを明らかにし,それによって論証を組み立てたてる。演繹的思考は,与えられた前提から結論に至る,前提→論証→結論と流れが一本の論理的流れにならなくてはならない。前提となっている一般的論(真理=法則)の個別化をたどり,「それゆえに」「だから」と結論づけていく。つまり,例証をする,守りの論理である。演繹的結論の場合,論理の流れに飛躍があるとすると,前提以外の要素をいれた,推測(論理の飛躍か前提の間違った適用)が入っていることになる。
自分はDNAを基礎としている(結論)←自分は生命体である(個別事例)
↑
すべての生命体はDNAを基礎としている(一般論)
【一般論の中に,自分が生命体であることが含意されており,そこから,「だから」と結論を導き出している。】
A推測的思考
推測は,ある事実証拠に基づいて,それには含意されていないような,他の事実ないし一般的な事実の成立を結論する。これには,二つある。
●仮説的思考
証拠をもとにそれをうまく説明するタイプの推測。証拠がなぜそうなっているかを説明していく。その場合,仮説のよしあしは,次の点によって評価される。
・立てた仮説が,証拠となる事実を適切に説明しているかどうか
・他に,事実を説明するに足る仮説がないかどうかのチェック
彼の踵に赤土がついている(証拠)→郵便局に行ってきた(仮説)
↑
郵便局の前は赤土がある
他には赤土のある場所はない
●帰納的思考
仮説的思考のなかでも,個別の事例を証拠に,一般的主張を結論するものを帰納的思考という。帰納的思考は,個々の事例事から出発し,別の事例へ,あるいは一般化に向かう。帰納的思考は発見的で,攻めの推論である。これが確実かどうかは,次の点によって判断される。
・個々の事例=サンプルが十分かどうか,偏りがないといった,サンプルの適切さ
・的外れの一般化になっていないこと
【推測と帰納の関係】
- 論理の筋のたて方
- 論理のつじつまとは
かつて,生物学者の日高敏隆氏が,こんなことを言っていた。
若い頃,高山に生息するマツノキハバチという蜂の研究をしていた。ある年に大量発生したり,わずかな数に激減したりするが,生態が余り知られていないため,研究室で生育してみることにした。中央アルプスの二千五百メートル付近で幼虫を捕まえ,一度目は,常識的な昆虫の飼育温度25度に設定したが,3日で全滅した,次の年,気温が問題だったのではないかと気づき,高山の温度に近い気温に保ってみたが,やはり全滅してしまった。昆虫生理学者に調べてもらっても,病気ではないという。翌年はっと気づいた,という。高山の温度に一定にするといっても,捕まえたときの夏の温度を保ったが,「もしかすると,夏は夏の,冬は厳冬の温度が必要なのではないか」と。そこで,一年間の温度変化を調べ,そのサイクルに合わせた気温変化を実現してみたところ,翌年孵化に成功した,という。
そこで,問題は,「はっと気づいた」というところです。まさか,学術論文に,「はっと気づいた」とは書けず,温度計測記録をもとに「1日のうちに高温低温の周期が必要」と結論づけた,という。(1992.8.3日経新聞 「私の科学技術観」より)
「常識的な昆虫の飼育温度25度に設定した」というのは,演繹的思考の例といっていい。演繹の場合,前提としていることの中に,後段の結論を導くに足る意味が含まれているかどうか,である。前提→論証→結論,の流れが,一本の論理的流れになっていなくてはならない。そこに,飛躍があるとすると,推測が入ってくる。ここで必要となるのが,帰納的思考である。
帰納的思考では,個々の事実,出来事から,一般的な結論を導き出すことになるが,
@具体的な事実やデータを集め,
A何らかの共通点を見つけ,グループ化して,
Bそれをもとに全体を説明できる仮説を立て,
Cそれを検証する,
という流れで推測していく。そこには演繹のような意味的連続性はないので,ある種の飛躍が伴うことになる。そのとき,この推測の信頼性を確実にするには,
@データや事実の正確さや適切さ
Aデータや事実の数,
B全体を説明できる適切な一般化
C反証を立ててみても,それを崩せる推測の正当性,
たとえば,先の日高氏の論証の流れは,
@「はっと気づいた」前段階で,まず,一定の温度に保ってはどうかと着想している。一定温度維持仮説を立てる,
A次に,自分たちの管理の瑕疵ではないかと疑い,温度管理不徹底仮説を試す,
B更に,温度を山の一年の変化に合わせればいい,つまり気温の高い夏と寒い冬の両方が必要なのではないかという,通年気温変化仮説にたどりつく,
となる。
フィリップ・ゴールドバーグは,こんな例を紹介しています。
ある心理学者がノミを「とべ!」と言ったら跳ねるように訓練した。試みに,ノミの足を一本取ったところ,ノミはまだ命令にしたがってとぶことができた。そこでさらに一本ずつ足を取っていったが,ノミはまだとぶことができた。やがて足を一本もなくしてしまったノミは命令してもとばなくなってしまった。それをみた学者は,こう結論づけた。「足をすべて失ったノミは聴覚をなくす」と。
ここにあるのは,帰納的推測の持つ的外れな飛躍の見本である。ノミの「足を順次」とっていっても,とべという指示にしたがったというのも,足がなくなったことで「命令がきこえなくなった」というのも,足=耳というのも,ひとつひとつ架空の一般化のもとにうちたてられている。しかし,前提となっている,「とべと命じたらとぶノミ」という一般化自体が崩れてしまえば,この全体の論証の枠組みは崩れ去る。
帰納的推測は,集められた事実に基づきますから,それが間違っている,あるいは検証不能なら,その結論は再現不能です。更に,その事実に基づいて結論づけられたものも,結論としての的をはずしていることになる。
しかし,この結論を笑い飛ばすことはできるが,このプロセスを笑い飛ばすことはなかなかできにくい。ここには,われわれがものを考えようとするときの展開の仕方の一例が現れている。
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論理的思考のタイプ〜フロー型とツリー型とマトリックス型
問題(P)というのは,P=f
(c1,c2,c3,c4……cn)と,いくつかの原因(cause)の組み合わせの関数と表現できる。
ひとつの問題に寄与している(と思われる)原因を洗い出し,その相互関係の中から,特定できる因果関係を抽出していくわけだが,それには,
@関連事実を集める
A通常との変化チェックする
B仮定してみる……経験・原則・公理で仮説を立てて,事実で確認する
等々がありますが,ここで,帰納的推測(@A)や演繹的推測(B)がなされることになる。
原因追求の仕方には,フローで考えること,ツリーで考えること,マトリックスで考えることが可能である。
たとえば,廊下で滑って転んだ→バナナの皮が転がっていた→ゴミを捨てたものが落とした→といったように,時系列の流れになることが多い。しかし現実には,このように単線の因果の流れにはならない。たとえば,
転んだ人間は遅刻しそうで走っていた→寝坊した→前夜深夜まで残業した→
廊下は老朽化していてワックスで表面をごまかしている→今朝塗り替えたばかり→
という複々線の因果が平行して流れていることが多い。これを見逃すと,ノミの仮説を笑えなくなる。
これは,上記の平行した因果の流れを同時的に分析するのと同時に,それを構造化して,より細分化していくことになる。その問題の原因と考えられるものは何と何と何か,その原因の原因と考えられるものは何と何と何か,その原因の原因と考えられるものは……と「なぜ」を連発して(たとえば,5Whyはひとつに5ずつ原因を絞り出す),どんどん原因を個別化,特定化していく。この利点は,原因が特定されることで,「何をすればいいか」まで,解決のアクションに直結させるところにある。
・座標軸型
・2軸の対比型
《原因分析のマトリックス・フォーマット》
事実収集
着眼点 |
何が
具体的にどんな現象が |
どこで
発生した場所・箇所 |
いつ
どんな場合,どういう状況で,その後は |
程度・傾向
問題の大きさ,量的に拡大か縮小か |
問題として発生している
事実(発生した「事実」) |
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|
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問題として発生してない
事実(対比する「事実」) |
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両者の間の違い(異同点) |
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発生「事実」の関連領域で
起こった変化事項 |
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推定される「原因」 |
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推定「原因」の検証状況 |
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論理的思考の罠〜何のためのロジカルである必要があるのか
因果関係を目的化するのを避けるには,
@何のために原因究明が必要なのか,
Aそれによって何を実現したいのか,
Bどういう成果が得られればいいのか
といった問題解決の目的や目標を見失わないことである。論理的思考も原因分析も,問題解決の手段である。われわれは実務の世界にいる。製品をつくって売る,システムを作って売る,サービスを提供する,娯楽や楽しさを提供する等々,スタイルやカタチは変わっても,問題なのは,論理的であるかどうかではない。提供する製品やサービスがユーザーにとって必要なものだったのかどうか,あるいは,ユーザーが本当に求めていることは何なのかを,つかむことである。われわれに発生する問題のほとんどは,誰が真の受益者か,誰のためにそうしているのか,を見失ったところで起きている。それを正し,何をすればいいかをつかもうとしつづけること,そのことを確かめ,検証し,確信を持つためにこそ,論理的思考が必要なのである。
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論理的思考のチェックポイント〜何のためにそうしたのか
本当にその推測なり思考が正しいかどうかは,当初の問題を論理的に整理できていることが必要である。たとえば,目的手段分析という考え方がある。これは目的のためにどういう手段があればいいのか、その手段のためにどういう手段があればいいのか、その手段のためにどういう手段があればいいのか………、と手段をブレークダウンすることによって、具体化していく。これが、モノ(商品)やコト(システム、制度等)の場合は、機能や働きの目的機能分析になる。
われわれが、日常の意思決定で使っていることである。たとえば、下図のように、明日の旅行に必要なものは何か、という目的を考え、そのために何が必要となるかを列挙していき、その列挙したもので十分かをチェックする、という場合と、考え方は同じである。
この目的→手段を,目的を結果に,手段を原因に置き換えれば,結果→原因の連鎖として組み直すことができる。そして,その原因群で,本当にそういう結果をもたらすのか,たとえば,ノミの足すべてを切る→聞こえていて飛べない因果の流れを推測するのに,何が不足しているのかを洗い出す作業,この検証がなくては,論理的思考もロジカル・シンキングごっこに終わるだけである。
《参考文献》 野矢茂樹『論理トレーニング』(産業図書),フィリップ・ゴールドバーグ『直観術』(工作舎),市川伸一『考えることの科学』(中央公論社)
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情報アクセスは“問い”である。情報とは,「伝達された(る)何らかの意味」であるとして,その要件を,金子郁容氏は,こう整理した。
・情報の発信者と受信者がいること
・伝えられるべき何らかの意味(内容)をもっていること
・受け手に伝わるスタイル(様式・形態)で表現されていること
逆にいえば,紙ベースであれ,ディジタルベースであれ,だからこそ,そのどこを問うか次第で,アクセス可能なのである。
あるメッセージに含まれている情報の不確実性を減らすために必要な量の情報をシャノンは,次のように定義した。情報量I,得られる可能性のあるメッセージ数Mとするとき,
I=log2M あるいは言い換えると,M=2I
つまり,「イエス」「ノー」のいずれかの選択だけが存在するとき,そのメッセージで1ビットの情報が得られる。情報1ビットは,「イエス」「ノー」2通りの可能性からの選択を表す,というわけである。とすると,1ビットの情報とは,あるメッセージを言い当てるために尋ねなくてはならない「イエス」「ノー」(つまり,オン・オフ)の質問数に等しい。「イエス」「ノー」いずれかの1回の選択で,一つの質問が解けていく(不確実性が減る)ことが1ビットである。情報量は,質問数で測ることができるのである。つまり,“問い”の数なのである。
情報量が質問数で測れるなら,情報探索とは,問題明確化のために,意味のある質問を次々として,“具体化”,“特定化”していくことである。こうした目的意識的な質問を“設問”(つまり仮説のサーチライト),設問の意味のあるつながりを“設問のネットワーク”(サーチライトに当たる点と点をつなぐ)と呼ぶ。何を,どう設問していけば,問題の核芯に到達できるのか,そうした有機的につながった設問のネットワークを組み立てること,これが“設問の構想”である。そのために,求める情報を明確にして,それに適う設問を組み立てなくてはならない。その要件は次の4つである。
@目的を明確化する
何のために,何をしようとしているのか,設問の目的,理由,意義を明確化すること。
A目標(求める成果)を絞り込む
目的にとって必要な情報にはどんなものがあるかを明確にする。このためには,目的に必要な条件,要因,要素を徹底的に洗い出し,優先順位に従って必要情報に置き換えなくてはならない。
B必要情報の条件づけをする
求める情報を明確にするには,情報の条件づけをしておく必要がある。つまり,目的達成に絶対欠かせない条件(絶対条件)と,不可欠ではないが目的達成にとってより望ましい(好ましい)効果を与えるであろう条件(希望条件)に整理しておく。これによって,情報の選別基準を明確にすることができる。この条件を切り口として,必要条件を洗い出していく。それには,絶対条件をクリアした上で,できるだけ希望条件を適えられる情報(ターゲット)に絞り込んでいく。
C求める情報を的確な設問に置き換える
必要な情報が明確化されていても,そのままの形でどこかにしまわれていない。求める情報が的確な応答として返ってくるように,具体的な設問に置き換えていかなくてはならない。つまり情報探索では,特定解に絞り込んでいくために,具体的な設問の形に置き換えなくてはならない。その設問づくりが,Bで洗い出した必要情報の分解・細分化(つまり特定化)をしていくことになる。
問いは,単に「なぜ」「どうして」と分からないことを質問をするだけでは十分ではない。既知の枠組みにとらわれないようにしなくてはならない。それにはバラバラ化が有効であることは前回触れたが,そうした“問い”(つまり仮説のサーチライト)をつなげて,何を,どう設問していけば,問題の核心に到達できるのか,そうした有機的につながった設問のネットワークを組み立てなくてはならない。その方向は,大きく分けて,次の4つのタイプがある。
・分解型(ブレイクダウン,フロー,ツリー図,フィシュボーン,組成分解,構造分解等),
・グルーピング型(加除,加減,乗除,削る・足す,モジュール化,関係づけ等)
・組み合わせ型(組み替え,結合,連結,つなげる等)
・アナロジー型(類比・類推,連想,イメージ,対比,比喩,変形,代用・代替等)
の4つのタイプがある。
・分解型の設問ネットワーク
@系統図(ツリー)状に設問をブレークダウンする
全体構造を樹状に分解する方向を仮定すると,選択肢を経る毎に,曖昧さは減少し,具体化・特定解へと絞られていく。方向性なく進めるよりは,一定の方向性(仮定)をもたせておく方が,効率的である。
A目的→手段連鎖で設問をブレークダウンする
「全体構造を樹状に広げていく」方法は,目的(目標)のための手段は何か,その手段(下位目標)のための手段はないか,と目的→手段の連鎖として,設問のネットワークを組み立てることもできる(これは,組織・システムのようなコトあるいは商品のようなモノの働き(役割・機能)の場合は目的→機能に置き換えてみる)。
B原因→結果連鎖で設問をブレイクダウンする
目的→手段連鎖の設問を,目的を結果に,手段を原因に置き換えれば,原因→結果の連鎖として設問を組み立て直すこともできる。
C二者択一の選択肢連鎖で設問をブレイクダウンする
@ABほど設問が明確でなく,漠然とした曖昧な問題状況の中で,周辺から核心へと,問題の焦点を絞っていくとき,二者択一によって,曖昧さを少しずつ消去しながら,絞り込んでいく。例えば,世界状況は→国内状況は→業界状況は→社内状況は→職場の状況は→メンバーの状況は……というように,広げた状況から個別の状況に,順次ブレイクダウンしていく設問の仕方がある。また,例えば,ある人の職業を言い当てるために,設問を立てていくには,自営か勤め人か→公務員か民間か→メーカーかサービスか→重厚長大か軽薄短小か→……と,外から順次二者択一式に絞りをかけていくというものもある。かつてテレビの「二十の扉」という番組で,「それは動物です」という切り口から,20の質問で答にたどりつくというものがあり,それは動物です→人ですか?→今も生きていますか?→実在ですか?……と,二者択一の質問を20回繰り返していく。いわば,220
(1,048,576)分の1に細分化していくことである(例えば,イエス/ノーの選択1回を1ビットとすると,5回で,25=32通りになる)。
Dタコ足式の設問ネットワーク
ある問題について,仮定した設問を核にして,関連する設問を,ランダムに蛸足式に拡散させていく。必ずしも,関連性を一貫させなくても,それに関連するものは何か,それとつながるものは何か,と核の設問の周囲をぐるぐる回る形でもかまわない。核設問は,厳密な意味の中核ではないから,それを変えていくことで,設問の幅を広げる。ただし,必要項目を整理しておかないと,堂々巡りに陥る危険がある。この拡散のさせ方には,ランダムに広げる他に,中心から周辺へと,社内事情→業界事情→経済界事情→政府の規制→外国の圧力・規制→世界市場の事情……と,問題を順次,論理的に同心円で拡散させていくことができる。
E関連図式(連関,つながり)の設問ネットワーク
蛸足式のランダムな設問の関連性をもっと徹底的に一貫させて,芋づる式にしたもの。関連するものは何と何か,それぞれに更に関係の深いものは何と何か……,と設問をつなげながら組み立てていく。この場合,まったく思いつくまま洗い出し,それをグループ化して整理していくこともできる。またその組み合わせから,別の視界が開けることもある。
・グルーピング型の設問ネットワーク
バラバラになった情報の中に,意味のある「つながり」(束ね直しの基準)をつけることによって,バラバラの「地」に「図」を見つけ出す。
・組み合わせ型の設問ネットワーク
異質のものを組み合わせることで,ピース自体の出自にかかわりなく,全く新しい全体像を見つけ出す
・部分に焦点を当て,全部ではなく1部分で組み合わせを見つけていく(代理型)
部分に焦点を当てて,全部ではなく1部分で組み合わせを見つけていく(部分に偏った仮説型の変型)
・何か媒介を使って(似たものの輪郭を借りる)輪郭のモデルを創り出す(仮説型)
何か媒介を使って(似たものの輪郭を借りる)輪郭のモデルを創り出す。グルーピングで得た全体の関係性から,何かになぞらえられる(見立てられる)アナロジーを発見し,個々の組み合わせを導き出す。まず全体の枠組を発見するアナロジーを見つけなくてはならない。
・ランダムにいろいろ組み合わせて輪郭を創り出す(発見型)
ランダムにいろいろ組み合わせて輪郭を創り出す。グループ化した情報群同士を,逐次組み合わせて,新しい可能性を見つけていく。例えば,機能別区分とそのサブグループ群の組み合わせを探るために,各機能毎にサブグループのカードを並べ,スライド式に順次ずらして組み合わせを検討する。
機能1 |
サブ1 |
サブ2 |
サブ3 |
サブ4 |
サブ5 |
サブ6 |
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機能2 |
サブ1 |
サブ2 |
サブ3 |
サブ4 |
サブ5 |
サブ6 |
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機能3 |
サブ1 |
サブ2 |
サブ3 |
サブ4 |
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↑
選択した組み合わせ
・アナロジー型の設問ネットワーク
@連想式に次元を広げる設問ネットワーク
タコ足式の連想だと,どうしてもある一定次元をつなげやすい。そこで,思いつき的に拡散させるにしても,もう少し飛躍をさせるには,アナロジー(イメージによる想像)を駆使するのが便利である。同じ言葉で考えているだけではつながらものが,イメージを介在させることで,飛躍できるのである。
A類推式の設問ネットワーク
与えられた条件や情報の枠組みを考えるとき,そのまま掘り下げるのではなく,その特定の状況を,別の状況設定に(仮定して,仮想して)置き換えて,問題の枠組みを変えて考えてみる。そうすることで,与えられた問題の枠組みの中では,気づかなかった別の視界(「問題」)が見えてくる。
※アナロジーの見つけ方については,ここをご覧下さい。
B拡大(縮小)式の設問ネットワーク
通常の視点で見ている限り,情報の深度や幅が深まったり広がったりすることは別として,特別に距離感が変化することはないが,対象との距離を意識的に変えることで,近づけば拡大するし,遠ざかれば縮小する。裏側に回れば裏返したことになる。上から見れば俯瞰したことになる。
こうして問いは,
@目的
A目標(期待される成果)
を確認した上で,
B必要情報(絶対条件・希望条件)(それでどういうことが知りたいのか),
C設問へ置き換える(知りたいことをつかむには,何を尋ねたらいいか,具体化する),
へと具体化する。このとき,Bは,@Aに基づいて,できるだけ多く列挙し(このとき,設問ネットワークによる仮定が必要になる),その目的達成のために必要な優先順位(ウエイト)をつけ,それに沿って,順次Cで,それを得るためにはどういう問い方をしたらいいかという設問の形に置き換える。これが具体化(特定化)されるほど,情報源のアクセス先も特定される。そして,D探索方法・場所(設問に対する情報を得る相手・場所・方法)の形で集約する。これが,収集した情報の評価にもなるはずである。
D「探索方法・場所」
は,Cの設問への最適の情報を,「誰に,どういうところで,何処で,どんなデータベースで探索したらいいか」を列挙する。当初は,かくかくの情報を,どこそこで,誰々から手に入れるという形で,厳密に具体化(特定化)しにくい。直接情報源にアクセスできる方法がみつからなければ,それを手に入れるための手段情報で代替し,特定化できたところから,順次絞り込んでいく。情報探索は,私的パースペクティブを描くことに他ならない。情報分析をないがしろにする気はないが,分析は探索のパースペクティブを確認する作業といっていいのではあるまいか。
@ヒトメディア(知人,スタッフ,同僚,家族,キーマン,斯界の権威者,専門家,学者,ユーザー等)
Aマチメディア(店舗,街角,公共施設,繁華街,デパート,スーパー,ディスカウントショップ等)
Bマスメディア(新聞(全国紙,地方紙,経済誌,専門紙,スポーツ紙),雑誌(月刊誌,週刊誌,専門誌,ファッション雑誌,趣味誌,ライフスタイル誌),テレビ,ラジオ)
C商品メデイア(商品,新製品,商品カタログ,通販カタログ,パンフレット,PR誌等)
D口コミメディア(噂,伝聞,雑踏での会話,車内の会話,井戸端会議,タウン誌等)
E業界メディア(業界紙(誌),仲間内,社内,取引先,同業者,販売店,販社(問屋)等)
Fデータベース(国内外の商用データーベース,記事検索サービス,人物データベース,産業統計データベース,企業情報データベース,雑誌・書籍データベース,図書館(国会図書館,公文書館,地域図書館,専門図書館,業界図書館,大宅文庫等))
Gパッケージメディア(ビデオソフト,LD・CDソフト,テープソフト,電子ブック,ゲームソフト等)
H公的メディア(政府刊行物,官報,政府・地方自治体・業界団体等公的機関のレポート,調査報告書,市役 所・区役所・県庁・官庁そのもの)等々
Iネットワークメディア(インターネット,ボランティア組織,NPO,NGO等々)
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面談は,コミュニケーションのスキルを象徴的に現す。お互いの立場の違いを強く出すのか,その場での目的を強く意識するのか,相互の理解を前面に出すのか。それは,ある意味で,マネジメントスタイルやリーダーシップスタイルの表現になる。日常のマネジメントが強圧的で,権威的なのに,面談や話し合いのスタイルが,融和的ということはありえないし,不自然だ。ここで,面談のスキルを提案するが,あくまで,自分のマネジメントを実現するための手段であって,面談だけが,孤立してあるわけではなく,自分のマネジメントのあり方を振り返り,チェックするきっかけとしていただければいい。
最も効果のあるコミュニケーションは,立ち話である。部下との親密度を高めるには,接触の頻度が多いほどいいという。それなら,立ち話に勝るものはない。第一に,相手の警戒感を解かせ,鎧を着せる暇を与えない。第二に,どんなに忙しくても,立ち話なら,時間が取れる。それも,30秒という信号待ち程度なら,もっと確率が上がる。これを30秒ルールと呼ぶ。
- 上司と部下との間で,この面談の目指すものは確認されているか
いったい何のために面談するのか,その確認が,上司自身に,まずできていなくてはならない。たとえば,
・OJTの実施前なら,目標設定
・OJTの実施中なら,目標の進捗状況
・OJTの実施後なら,目標結果の評価のすりあわせと次への展開の確認
というように,それに応じて,進め方も,事前の準備も異なってくる。
【面接の目的と目標の確認】
面接は,単に目標管理の目標を確認したり,擦り合せたり,OJTのプロセスを確認する,結果を評価したりするだけの場ではない。
上司側にとって,
@自分の考え方,方針,目標を確認し,徹底する場
A自分自身の仕事への価値観を伝える場
B自分への信頼を確認する場
C自分の将来について話す場
であり,部下にとっても,
@自分の考え方を伝える場
A自分の仕事の抱える問題状況を伝える場
B自分の将来への希望や考え方を伝える場
C自分への信頼をえる場
でもある。
@自分が一方的にしゃべらず,どう相手の話しを引き出,耳を傾けるかを心がける
〜聴くというのは積極的にそういう姿勢を取ろうとしないと聞き流しにつながる
A具体化,具体例を訊く質問を効果的に用いて,相手の気持ちや本音を訊き出す
〜質問を細かくして,ときやところやひとを具体化させる等々
〜肯定的,仮定的な質問で,それをやるにとどうしたらいいか?もし君ならどうするか?等々
〜言葉の意味,状況,判断基準を問うことで,それはどういう意味?どうしてそう考えた?等々
〜そのときの気持ちを確かめることで,そのときどう感じた?本当はどう思う?
〜5W1Hで具体化して,ピンポイントに絞り込んでいく等々
B自分の考えを押しつけたり,説教にならないように,提案や自分の考えとして話す
〜僕はこう思うが,君はどう考えるか?こうしたほうがいいと思うがどうか?
C事実に基づいて話す。〜両者で共有化できる事実を確かめるところからはじめる
D感情的にならない〜そういう言い方をされると,怒りを感ずると,感情を言葉の土俵に乗せる努力をする
E確認できたところをフィードバックしながら,要点を相互で確かめながら進める
F言うべきことは毅然として,きちんと言う
〜チームの責任者として,相手の考えや行動について,自分の考えをきちんと伝え,チームの一員としてのやるべき役割と課題遂行の責務を果たすべきことはきちんと伝え,納得するように話す
@管理者の言葉の力とは何か
言いたいことを表現するための言葉のもつ力は次の3つである。
・何を言っているのか,指示対象,容の明確さ(対象指示性)
・自分はどう考えているのか,自分自身を表現する力(「私」表現性)
・相手はどう受け止めているのか,《フィードバック感受力》(相手の「受信状態」へのアンテナ感度)
管理者が言葉を発するのは,みずからの意思をキチンと伝えるためである。いくら指示が明確でも,意思のない言葉に力はない。意思の力とは,自己確信である。そしてそれが相手にどう伝わっているかを確かめつつ発信することができる必要がある。
◇信頼のバックボーンは,言葉である。といって聖人君主である必要はない。怒りも腹立ちもなくすことはできない。それならなまじ「バカヤロー」と言いたい気持ちを隠すよりも,「ぼくは,バカヤローといいたい気分だ」「そう大声で怒鳴られると萎縮してしまいます」と,アサーティブに言葉にすることだ。それが,感情を直接ぶつけるのとは違う,言葉によるやり取りを可能にするはずだ。感情を感情としてではなく,それを言葉として表現しようとしたことで,@自分の感情との間合いが取れる,A相手の感情とも距離を取れる。感情のやり取りを感情のぶつかりあいでなく,感情を言葉にするコミュニケーションの土俵ができる。必要なのは,語っていることへの「私」性を常に保つことだ。「『〜』と言いたい気分です」「『〜』と考えます」と言うように。
◇しかし,それだけでは独善かもしれない。大事なのは,内容や「私」性という主観的な言葉発信力が,独りよがりにならず,相手に伝わっているかどうかを確かめる力があってはじめて,その人の言葉に力がある,といえるはずである。つまり,自分のいうことに対して,相手がどんな身振り,手振り,感情,言葉,振る舞い等々から,相手に伝わったかどうかを,相手の無意識のフィードバックからきちんと読み取り,相手の状況に対応しながら,臨機応変に発信するスタイル,様式を考えながら,相手がどう受け止め,どう感じ,どう理解してくれているかを推し量ることが出来ることである。それが真の意味の,自分の言葉の伝達力であり,言葉の力の源である。それは共感性と同じく,相手の目線で(自分の視点だけでなく,相手の立場や視点で)確かめられる発想の柔軟性があることをも意味している。
A要求や希望を明確に表現する
・共有できる事実をさがす
いきなり自分の要求や感情を伝えるのではなく,相手にもわかる事実を伝えようとすることで,自分の感情を押さえることになる。たとえば,目標達成が難しくなったと言ってきたとする。そのとき必要なのは,目標と現状との距離を,事実として確認し合えるかどうかだ。「まだ頑張りが足りない」と言うのではなく,予定した行動がなされたかどうか,やっておくべき準備がなされたかどうか,まだ取りうる行動があるのかどうか,といった事実を確認し,取り得る具体的な行動の選択肢を客観的に考えていくことだ。
・感情にとらわれない状況把握
非難したくなっても,その気持ちを脇において,状況を観察する。そうすることで,相手の行為の理由や状況が見えてくる。観察するということは,状況や相手について見える事実を客観的に把握することであり,それを感情的でなく,言葉にできれば,会話の土俵ができる。「何でそんな態度をとるんだ」と怒鳴っても,問題は解決しない。売り言葉に買い言葉になる状況にするくらいなら,「そういう態度をとられると,僕としては君をサポートする気がなくなるよ」と言ったほうが,次へつなげられる。
・具体的な提案をする
観察された事実と自分の感情を区別できていれば,どうしてほしいかをきちんと伝えても,そのメッセージは伝わるはずである。具体的であるとは,5W1Hである。いつ(からいつまでに),何を,どうしてほしいのか。
・選択肢を提案する
やるかやらないかというのは,提案ではない。相手の意志で選択できる可能性を,相手と一緒に考えてもいいが,複数(できれば3以上)考えること。
@まずは相手の言っている事柄を受け止める
この場合,受け入れるということは,それを認めるということではない。うなずくというのは,相手に賛成したのではなく,「相手の言っていることが届いている」という合図,というのと同じである。部下の言っていることを,その賛否,当否は別にして,「そう言っている」「そういう状況に合った」「そういう理由があった」と,ひとまず受け入れることだ。なぜなら,
・批判したり,否定すれば,そこで,後を言うことをためらうだろう。誰だって,自分がかわいい
・咎められることを喜ぶ人間はいない。批判されるとわかれば,自己弁護のために,事実を都合よく歪曲するか,そうしないまでも合理化したくなる。事実をそれ以上語るのをやめるかもしれない。
・咎めるのは,自分の価値観や意志を押しつける部分がある
からだ。まずは「〜について」話すための会話の土俵をきちんと作る必要がある。それには,「うん」とか「なるほど」とかといった言葉で返すのが,相手に受けとめていることを伝える手段となる。
A相手を支持すること
仕事ができるとは,「自分が努力すれば,周囲や自分に好ましい変化を生じさせられるという自信と見通し」をもっていることである。この能力と自信を「有能感」「有効感」という。この“有能感”“有効感”の手ごたえは,そこで自分が仕事をしている意味を周囲に認めてもらえている,自分は必要とされている,役に立っているという“貢献感”“存在感”と表裏一体である。それを,認めること,あるいはきちんと言葉として,「よくやっている」「評価している」「努力は認めている」「頑張っている」「大変だったな」「苦労したな」等々と,表現することが必要である。それは,部下をメンバーの一員として,きちんと承認していることである。とすれば,頭ごなしの叱責や批判はありえない。
B自分が受け止めていることを相手に返す
聴いているというのは,黙ってうなずいたり,相槌を打ったりすることだけではなく,相手の言っていることを,きちんと受けとめていることを,相手に返すことが必要だ。それは,@きちんと聴いてもらえているということの反映であり,A中身の確認であり,B言いたいこととの齟齬があれば,それが更に相手に話を進めさせる素材となる,効果がある。
C自分の受け止めたことのフィードバック
そのとき,自分が受け止めたことを,自分の感想や意見として,伝える。「〜というように受けとめたが,どうか」「それはこういう意味と感じるが」等々とフィードバックする。フィードバックには,
・相手が自分のことを相手の目を通してみること
・相手が自分のことをどう受け止めたかを聞くこと
の2つの効果がある。それを通して,@言っていることの確認,A曖昧な点の明確化,B両者の受け止めた事実と意味の共有化,C今後の方向性の確認,等々の作業となる。この作業は「訊く」(質問)につながる。
@何のために質問するのか
質問で必要なのは,相手をしかるのでも,叱責するのでもいいが,それがメンバーとしての戦力アップや本人の成長につながらなければ意味がない。そのためには,部下本人が,自分の行為や行動,能力レベル,結果を避けたり,逃げたり,合理化したりせずに,向き合わせなくてはならない。それは,本人に,
・自分自身の行動と
・自分の置かれたシチュエーションと
・自分の立場と
等々と向き合い,「どうすればよかったのか」「何がまずかったのか」「どんな選択肢が考えられたのか」「もっと他にどんなことができたか」「何が欠けていたのか」等々と,自分自身と対話させるものでなくてはならない。そうしなくては,自分自身の中から,自分としての動機も意欲も生まれてくることはない。内からの「このままではだめだ」「何とかしなくては」「どうすればいいのか」という自律的な自己決定の意欲を持たせるために部下とコミュニケーションするのである。
A開かれた質問
しゃべりたくない相手に,「はい」「いいえ」で答えられる質問をしても意味がない。それでは相手に語らせることにならないからだ。相手に言葉で表現するようにさせることで,自分自身の感情や思い,その時の状況も含めて,ある程度客観的に眺めざるをえない。相手も自分の状態や感情との間が取れる。
・具体例で質問する 「具体例を挙げてみて」「たとえば,それはどういうこと?」
・質問を細かく細分化する 5W1H(誰が,いつ,どこで,何を)で噛み砕く
・仮定を立てる 「それがダメだったとしたらどうしたらいいと思う?」「それが達成できたとしたら?」
・意見を聞く 「君はどうしたらいいと思う?」「君はどう思う?」
・問題を確かめる 「何に気になる?」「何かまずいことは?」「どこに矛盾があると思う?」「未解決は?」
・曖昧さを確かめる 「それはどういうこと?」「もう少しはっきりさせるとすると?」
・意味を確かめる 「どんな意味があると思うか?」「どれくらいの重要度だと思う?」「何が大事?」
・根拠を確かめる 「どうしてそう思う?」「その根拠は?」
・事実を確かめる いつ,どこで,だれが,何を,どうしたかをピンポイント化
・思いを確かめる 「どうしたかったのか」「どうなればいいのか」「どんな感じ?」
・本音を確かめる 「君の本心を聞かせてくれないか」「ど
うしたいと思う?」
・影響を確かめる 「どうなると思う?」「このままでいくと何が起きると思う?」
・ニーズを確かめる 「どうしたい?」「何がしたい?」「どういう状態がいい?」
・課題を確かめる 「どうすべきだと思う」「何をしたらいいと思う?」
(1)は,意外と緊張する。こういう場合には,間が必要なので,(2)以降を使い分けたい。
(2)は対面法。きちんというべきことをいうことが必要な場合。ただ,対決をする形になり,緊張を強いるので,それをさけるには,(3)のように少しずらした,斜めの対面だと緊張を緩和する効果がある。
(4)は,直角法。視線を交わせなくて済むので,話しやすい位置関係。(5)は,平行法。車の運転席と助手席に隣り合わせた感じで,一番自然な位置関係。書類等々を一緒に見ながらすすめるには適していて,最も親しみを示す位置。
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◇問題解決は,“3つのステップ”で考える。
まず自分が問題にしているにしろ,相手が問題にしているにしろ,問題としていることを明確にし,共通の土俵で考えなければ,問題は共有化されないし,解決行動も共有化されない。
【問題の明確化】
◇問題解決は目的ではない。期待値の明確化とは,どうなったら,その問題が解決したことになるのか,の明確化である。これが解決すべき問題を明確にすることになる。これが解決のために何をしたらいいかを定める。それが明確でなければ目先の問題解決に振り回されるだけである。そのためには,一度確定させた期待値を検討し,それによって何が実現できるのかを考えながら,自分たちの目指す「解決した状態」の意味を明らかにしていく必要がある。
◇「解決した状態」を明確にするには,次々の二つを意識する必要がある。
@目的(それを実現することで何が得られるのか,何のためにそれを実現するのか)との対比。ただ期待値を挙げればいいのではなく,目的との対比で調節する必要がある。
期待値を高く上げればいいというものでもない。目的からみて,
A状態の表現をSMARTによって,達成の有無のわかる,曖昧さのない具体的なものにしなくてはならない。
Bたてた期待値は,より上位の期待値の手段の位置づけになるかもしれない。そういう視点で,どの期待値が最適かを考えてみる。
C仮に,期待値を下げるとしても,大きなパースペクティブの中で,位置づけなおしてみることで,期待値を実現することの意味の再確認となる。
A問題を解決するとはどうすることか〜問題=ギャップをクリアする意味
◇問題を解決するとは,期待値と現状とのギャップを埋めることである。現状を期待値へと上げることである。埋めていくのは,業務遂行だけではなく,連絡,報告,ミーティング,プレゼンテーション等々のあらゆる業務行動によって,である。問題の種類によっては,たとえば,現状回復のような場合,その原因を突き止めて,それをクリアすれば,問題が解決したことになる場合もある。
しかし現状復帰そのものだけでは問題の解決にならないことも多い。たとえば,他社との競争の中では,より高いところに達成目標を置いてそれを解決しなくてはならないことも少なくない。問題解決では,その問題の構造そのものを考えることのほうが重要であることが少なくない。
また多く,そういう問題解決は,現実を動かしてしまうため,かえって問題解決をむずかしくすることもある。たとえば,
水道管から水が吹き出したとしよう。その穴を塞ぐことは原状回復にはなる。しかしそのことによって,その塞いだ穴は相対的に強化されたことにより,どこかが相対的に弱体化することになる。こういう弥縫策では問題解決とはいわない。では,どうなったら解決したことになるのか。この管の目的から考えて,完成像を設定して,そこからできる解決策を考えていくことになる。
どちらが正しいかではなく,その問題の構造から,あるいは,それによって達成したい期待値から,その問題の大きさをとらえなおし,最適な問題解決を考えなくてはならない。
つまり,最初の問題を検討していく中で,それが解決するとはどうなることか,どうなったら解決したことになるのか,を考えていくうちに,期待値が動く。それは理想状態なのか,完了状態なのか,変化自体なのか,行動レベルなのか,行動形態なのか等々。それによって確定した期待値と現状とのギャップが,解決すべき問題となる。
【期待値の明確化】
問題解決で大事なことは,それを解決するために,何をどれだけ動かさなくてはならないか,という現実感覚があること。意識して,大きな相手に挑もうとするのと,気づいたら組織全体を動かさなくてはならないことになっていたというのでは,天地の差だ。
【動かす現実の明確化】
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問題とは,期待値(目標あるいは求める水準)のギャップである。問題は,@気になること(問題にする)だけでは,明確にならない,Aそれをどう(解決)したいのか(どう言う状況になったらいいのか,どうしたいのか),という期待値ないし目標が明確になることで,それに対比して,Bいまどういう状況になっているかが,具体化し,
初めて,C問題(期待値と現状との距離)が明確になる。期待値が異なれば,同じ現象でも,問題の仕方は変わる。
つまり,わかりやすくいえば,次のように表現できる。
しかし,始めに,自分が期待値として設定したことが妥当ではないと,たとえば,世の中ではそんなことを問題にしていること自体が問題だとすると,そうなっていなくてはいけない,あるいはそうしたいという期待値自体が,世の中水準に変えざるを得ない。そうすることで,問題自体が変わることになる。
そうすると,問題自体が大きく,解決のハードルは高くなることになる。こうした,最初に感じた問題とは違う問題が明らかになることが,問題を提起し,それをすり合わせ,共有化していく作業の大事なポイントとなる。問題解決ではこうした期待値の点検,検討が重要になるのはこの理由からである。これが,発生している問題に追われてもぐら叩きに陥らないためには,最も重要なことになる。
問題解決は目的ではない。解決してどうしたいかが,明確でなければ,問題解決は迷走する。期待値の明確化とは,どうなったら,その問題が解決したことになるのか,の明確化である。そのために解決行動を起こすのであり,それが明確でなければ目先の問題解決に振り回される。
何を実現(解決)するか(解決目標)の落とし込み方には,問いの立て方の違う2つのアプローチがある。
目的実現(のための目標達成)の障害となっている原因を,「なぜ(何がそうしたのか)」「なぜ(何がそうしたのか)」と特定化していく。
目的実現(のための目標達成)に必要な手段(何をすればいいのか)を,ブレイクダウンし,具体化していく。
※どちらのアプローチにしろ,特定した,それを達成(クリア)すれば解決できるとする解決目標は,あくまで仮説に過ぎないことを忘れてはならない。
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何をしたいかはっきりするから,それを達成するまでに,何が障害(問題)になっているかが見えてくる。問題解決とは,逆に言えば,自分が実現したい目標達成そのものである。
◇目標の要件
@誰(と誰)が
A何を
Bいつまでに
Cどの程度(どのレベルまで)
を,具体的(何をするかが明確であること)計測可能(計数化もしくはその効果が実証可能)で表現すること
◇目標の5基準(SMART)
@具体的(Specific
個別性,特定性)何かが明確であること,「何が」が特定されていること
A測定可能(Measurable
計測性,検証性)量で測れること,あるいは後から検証可能である,あるいは完了したかどうかがわかるようになっていること
B達成可能(Achievable
実現性)現実的で,達成には特別の努力を要するものであること
C重要性(Relevant
有意味性)その目的達成が,目的達成にとって意味がある(寄与できる)こと
D具体的な期間(Time-bound
期間限定性)達成期間が限定され,期限が決まっていること |
因みに,目標の5基準(SMART)には,さまざまな亜種がある。微妙なさながら,それぞれに意図がある。
Specific 具体的である
Measurable 計測ができる
Agreed upon 同意している
Realistic 現実的である
Timely 期日が明確である
Specific テーマは具体的か?
Measurable 定量的に測定できるか?
Achievable 達成可能なものか?
Result−based 「成果」に基づいているか?
Time-oriented いつまでに,が明確か
Specific 具体的である
Measurable 測定ができる
Achievable 達成ができる
Result-oriented 結果を重視する
Time-bound 期限がある
Specific その部門特有のテーマ
Measurable 達成できたかどうかが判定可能
Achievable 到達できる
Realistic 現実的に出来る
Timely 一定の期間内で達成できるもの
Specific 具体的であること
Measurable 計測可能であること
Agreed upon 同意できていること
Realistic 現実的であること
Timely 明確な期日
Simple 理解しやすい
Measurable
見通しのきく
Attainable
達成できる
Realistic
現実的な
Time-framed
時間を基準にした
Specific 具体的であること
Measurable 計測可能であること
Accountable 進捗度が確認可能な
Resonant エネルギーが動いている
Thrilling はらはら,どきどき
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@原因分析型は,目的実現の障害となっている障害(支障原因)を,「なぜ」「なぜ」と特定化していく,つまり何がないのか,あるいは,何ができていないか等々,できない理由や要因を洗い出す,
A目的手段分析型は,目的実現の手段(必要手段),何があればいいか,何ができればいいか等々を,ブレイクダウンして,できる手段(行動)を洗い出す
前者は(なぜ実現できないのかと)できない理由を,後者は(どうすれば実現できるかと)できる手段として挙げていく問いの立て方の違いであって,構造的には裏表の関係になる。ただ,何かを実現しようとする問題達成型の場合,過去からの時系列の中で,後ろ向きになる原因分析型より,未来指向の目的手段型の方が発想しやすい。
どちらが正しいかという問題ではなく,どちらが,現実の問題解決により有効かという視点から考えていい。たとえば,原因分析は,ピンポイントで原因にたどり着かなければ意味がない。そういう問題の場合に有効であり,目的・手段分析は,問題を未来に設定した目標達成のためにどうするかを考えるのに向いている。
◇期待値(目標あるいは基準)の要件
@誰(と誰)が,A何を,Bいつまでに,Cどの程度(どのレベルまで)を,具体的(何をするかが明確であること),
計測可能(計数化もしくはその効果が実証可能)で,しかもプラス(「〜しない」ではなく「〜できるようになっている」で)表現すること。つまり,「何のために」(目的=意味),「何を」(目標=期待する成果),「いつまでに」(期限)「どのレベル」(期待水準)「どれだけ」(計測ないし検証可能性)等々の明確化によって,現状とのギャップが,クリアすべき課題としてより具体的に浮かび上がることになる。
【期待値の5基準(SMART)】
@具体的(Specific
個別性,特定性)明確で「何が」がクリアであること
A測定可能(Measurable
計測性,検証性)量で測れる,あるいは検証可能である,あるいは完了したかどうかがわかるようになっていること
B達成可能(Achievable
実現性)現実的で,達成には特別の努力を要するものであること
C重要性(Relevant
有意味性)その目的達成が,目的達成にとって意味がある(寄与できる)こと
D具体的な期間(Time-bound
期間限定性)達成期間が限定され,期限が決まっていること |
以下では,ギャップをクリアすべき課題@ABのうち,課題@をクリアすべき要因(手段1と呼んでもいい)abc,要因aをクリアすべき要因(手段2と呼んでもいい)イロハ……と解決手段をブレイクダウンしていくプロセスを例示する。
※要因は,目的手段分析では手段,原因分析では原因と読みかえる。
@ギャップの距離を埋めていく
期待値と現状との距離を解決要因(解決行動)で埋めていくことになる。たとえば,ギャップを埋める大きなも問題を@ABあるとすると,たとえば,問題@の距離をうめるために,同じように解決要因で埋めていくことになる。それを要因abcとすると,たとえば,要因aの距離を埋めるために,同じように解決要因で埋めていくことになる。それを要因イロハとすると,たとえば要因イをの距離を埋めるために,同じように解決要因で埋めていくことになる。同じ作業を繰り返すことで,問題@をスモールステップ化していくことになり,同じように,問題ABも繰り返すことで,ギャップ全体をスモールステップ化していくイメージになる。
Aギャップのツリー構造
それをツリー構造に描きなおせば,下図のようになる。これが解決手段の洗い出しになっている。この場合,
・原因分析型なら,「何でそうなるのか」「何でそういうことが起こるのか」という問いになる。
・目的・手段分析型なら,「そのために何をしたらいいか」「そのために何が必要か」という問いになる。
これを問題に応じて選択しなくてはならない。
原因分析の場合,その原因群で,本当にそういう結果をもたらすのか,を洗い出す作業が不可欠である。ピントはずれの原因では,ピントはずれの解決策になる。
◇目的・手段分析型では,ギャップを埋める手段を洗い出し,最適解決行動につなげるようにしていく。目標達成のための必要手段を洗い出していくことになる。
目的手段分析は目的のためにどういう手段があればいいのか、その手段のためにどういう手段があればいいのか、その手段のためにどういう手段があればいいのか………、と手段をブレークダウンすることによって、具体化していく。これが、モノ(商品)やコト(システム、制度等)の場合は、機能や働きの目的機能分析になる。
われわれが、日常の意思決定で使っていることである。たとえば、下図のように、明日の旅行に必要なものは何か、という目的を考え、そのために何が必要となるかを列挙していき、その列挙したもので十分かをチェックする、という場合と、考え方は同じである。
◇仮に,期待値を埋めるために必要な大きな柱を,A,B,Cとすると,少なくとも,期待値との距離全体に比べると,解決行動の的は小さくなる。ただ,この柱を考えるためには,距離を埋めるために原因を分析するか,手段を洗い出すかの方針を決めておく必要がある。
◇最終的に,絞り込まれ,特定された原因か,特定された手段を実現するために何をするかという形で,解決目標が選択されることになる。そのための選択肢は,具体的で多いほどいい。ツリー状に展開するメリットは選択肢を広げられることにある。
原因分析をするのは,問題(P)というのは,P=f
(c1,c2,c3,c4……cn)と,いくつかの原因(cause)の組み合わせの関数と考えるからである。
ひとつの問題に寄与している(と思われる)原因を洗い出し,その相互関係の中から,特定できる因果関係を抽出していくわけだが,それには,
@関連事実を集める
A通常との変化チェックする
B仮定してみる……経験・原則・公理で仮説を立てて,事実で確認する
等々があるが,ここで,帰納的推測(@では集めた事実から何を読み取れるか,Aでは両者の間の異同から変化を推測する)や演繹的推測(Bでは,仮説を立てて読み取れるかどうかを推測する)がなされることになる。
原因追求の仕方には,フローで考えること,ツリーで考えること等々が可能である。
@フロー型
たとえば,廊下で滑って転んだ→バナナの皮が転がっていた→ゴミを捨てたものが落とした→といったように,時系列の流れになることが多い。しかし現実には,このように単線の因果の流れにはならない。たとえば,
転んだ人間は遅刻しそうで走っていた→寝坊した→前夜深夜まで残業した→
廊下は老朽化していてワックスで表面をごまかしている→今朝塗り替えたばかり→
という複々線の因果が平行して流れていることが多い。これを見逃すと,ノミの仮説を笑えなくなる。
Aツリー型(たとえば5WHY)
これは,上記の平行した因果の流れを同時的に分析するのと同時に,それを構造化して,より細分化していくことになる。その問題の原因と考えられるものは何と何と何か,その原因の原因と考えられるものは何と何と何か,その原因の原因と考えられるものは……と「なぜ」を連発して(たとえば,5Whyはひとつに5ずつ原因を絞り出す),どんどん原因を個別化,特定化していく。
この利点は,原因が特定されることで,「何をすればいいか」まで,解決のアクションに直結させるところにある。
-
目的手段分析の場合〜ツリーの筋をチェックする
@縦につながる〜筋が通るか
A横につながる〜全体がカバーされてもれもダブりもないかどうか
B因果関係分析・目的手段分析を目的化しない
目的化するのを避けるには,
@何のために問題究明が必要なのか,
Aそれによって何を実現したいのか,
Bどういう成果が得られればいいのか
といった問題解決の目的や目標を見失わないことである。目的化するのは,そのロジックを自己完結させるからである。目的手段分析も原因分析も,問題解決の手段である。
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◇解決プラン(解決策)を考えるプロセスには,2つある。
@解決目標〜解決課題としてあげた物を何によって解決して行くのか,という解決目標を明確化すること
A解決行動計画〜解決目標を,何から,どうやって現実に行動して行くのか,という行動計画を具体化すること
そのためには,まず何を解決策として示すかの解決策提示の土俵を明確化する必要がある。それには3つある。
@全体プラン提示型〜問題すべてを解決策として示そうとする場合
全体の解決課題とその解決目標,実行スケジュールを明確化していくことになる。
Aモデルプラン提示型〜効果的と思われる部分を解決する
問題が大きすぎたり,組織全体に影響が及んだりする場合,一気に実現させるのが難しいと考えた場合,全体を展開するのにその解決案が以下に効果的かを実証する意味で,効果的な部分や効果の出そうな部署でモデル展開していく。
B問題意識提示型〜自分の旗から重要と思う課題を提起する
※手段の洗い出し,実行手段の洗い出しでは,課題間や目標間でダブることはありうる。厳密なロジックよりは,その課題に必要な原因や目標に必要な実行手段がブレークダウンができているかどうかに留意したい。
※原因の洗い出し,実行手段の洗い出しでは,課題間,目標間でダブることはありうる。厳密なロジックよりは,その課題に必要な原因や目標に必要な実行手段がブレークダウンができているかどうかに留意したい。また,原因分析型では,解決目標は具体化された,特定した原因をターゲットにするために,目的手段分析に比べ,解決目標はかなり具体化されており,目的手段分析の行動目標(行動計画として何をするか)のレベルに近いものになっている。
@手段や原因を絞り込んだ解決目標実現のための手段を洗い出す
◇解決行動プランを考えるとき,@更に手段を分ける,A分けた手段を同一対策でグルーピングする,B同一効果の対策で組み合わせる,C民間や他自治体での成功例を参照する(アナロジー)といったスキルが有効になる。
◇洗い出した手段を,@目標達成に寄与する重要度の高い手段あるいはその組み合わせを選択,絞り込み,A緊急に必要な対策,短期対策,長期対策に分けて,手段遂行のプランニングを立てる。
この選択は,「パレートの法則」(80対20)である。問題の80%は20%の原因から生ずる。結果の80%は20%の手段からもたらされる。手段相互に関連性をつけ“へそ”(80%の解決を作り出す20%の手段)を見つける。これは,解決策があくまで仮説であるということを意味している。
仕事をしていれば,誰でも,ふつう一つは行動プランを持っている。いままで通りでよければ,ひとつは対策が思い浮かぶ,それではまずいから問題が起きている,とすれば,すぐ思いつく解決行動は捨てることが必要になる。
当り前のことながら,目指しているものを実現してこそ解決行動である。解決案には,それがないと目的実現とはいえないもの(絶対に譲れない条件)が実現できているかどうかを評価基準として,それを満たす対策の中から,リソース(ヒト・モノ・カネ・時間・ノウハウ)との兼ね合いで,できれば望ましい条件がどれだけ達成できるかを勘案し,対策案を選択する。選択肢として,2つ以上の案,できうれば3つ考えておくのが常識である。
プランの種類としては,緊急性の高いもの,短期的に立てるもの,長期に取り組むものがある。時間的に切迫している場合は,直ちに取り組む必要がある。また短期と長期は必ずしも別のものとは限らない。全体の解決には,時間がかかる,あるいは時間が掛けられる場合,その第1ステップとして,当面何をしておくことが,次へと着実につなげられるかでステップ化する。
◇解決プランに正しい間違いはない
解決プランに正しい,間違いはない。解決策は現実に適用させ,現実を変えられなくては意味がない。間違っていなくても,現実にフィットしなければ,その解決策は機能しないだけだ。機能しない理由として,次のようなものが考えられる。
◇解決目標設定までのチェック
@解決課題のもれはないか
これは,各課題レベルでも,課題をクリアするだけの目標が洗い出せていないときにも,同じように,課題解決のための解決目標の漏れは生ずる。
A手段あるいは原因の洗い出し不足はないか
◇行動目標立案でのチェックポイント
@行動目標ないし解決目標の設定に抜けはないか
Aアクションレベルまで届いているか
◇プランの意味づけ
@解決しようとしていることの全体像は明確か
Aどこからやるか,そこからスターとさせることの意味と効果ははっきりしているか
Bそれをやることで,全体の実現や更なる目標達成にどうつながるかが描けているか
Cそれを確実に遂行する仕組みとチェックの仕掛け
◇アクションプラン立案のポイント
@主体は明確か
誰と誰が実行するのか。それは本当にあなたに実行できるのか,あなたがコントロールできることなのか。本当の実行主体は誰か,その人を動かすにはどうしたらいいかまで詰めてあるか。
A解決行動の狙い,意図は明確か
たとえば,「コンセプトを明確にする」という課題だとして,そのコンセプト作りそのものがここでの課題解決目標になるのか,コンセプトを明確にするために何をしたらいい課を考えるのか,の区別はついているか。
B使える時間の中での優先度は決まっているか
時間の限度の中で何を優先させなくてはならないかは明確か。長期プランだとすると,その中で「今」どういうポジションにあり,いまやらなくてはならないことは何かが,明確か。それをしておかなくては,次へつながらないキーとなることがあるはずで,それがきちんとやるべきこととして組み込まれているかどうか。
C広がりへり目配り
それは自分が直接実践できる直接アプローチできることか,誰かにさせる間接的なアプローチなのかが区別できているか。直接アプローチと間接アプローチとでは,対策が異なる。
D確実に遂行できる仕組みと進捗度のチェック
確実にやり遂げていくための仕組みとうまくいっているかどうかをチェックする仕組みとそのタイミングは決まっているか。やれるという前提で進めているところはないか。達成できたかどうかを何で確かめられるか。問題解決行動は,現状を動かそうとする。しかし現状はそのほうが都合がいいから,そうなっていることが多い。それを動かすのは,簡単だが,それを継続させる仕組みを持たないと,逆ばねが働き,元へ戻る。それを咲ける工夫がいる。
E継続へのフォローの仕組みはできているか
自分の取り組んだことを,自分だけでなくチーム全体で継続して続けるよう引き継ぐ仕組みをつくってあるか。
◇アクションプランのチェックポイント
@それは本当に実行できるのか
それは自分が決裁し直接実行できる目標なのか,あるいは協働者がいるのか。上司が係っているのか。
Aリソースの見積もりは正確か
見積もった,ヒト,モノ,カネ,トキ,ノウハウなどが過不足ないのか。また,前提条件や制約条件(予算や要員等々)を見落としていないか。
B手段はアクションまで詰めてあるか
確実に行動レベルまでブレークダウンされているか。やれるつもりの段階やスローガンにとどまっていることはないか。アクションまで落とすことで,リスクが具体的に見えてくる。
C想定される障害について対応策が練られているか
何とかなると,高をくくっているところはないか。やれなくても仕方ないと,言い訳しているところはないか。
Dもう本当に手立ては残っていないか
通常仕事をしていれば,ひとつは対策をもっている。それ以外に,本当にもう他にないのか。
◇状況の読み
自分を取り巻く状況はどうか
どういう立場(スタンス)でかかわっていくのか
どういう目的をもっていくのか(どこまでいくのか,だれをどうしたいのか)
最終期限として何時までにするのか,働きかけのタイミングはいつか
どういうスケジュールで進めていくのか,部門間の波及効果をどう読むか
経費の負担は何処がもつのか,どんなもっていき方をするか
最終責任者は誰(何処)か,だれが実力者か
◇着手の着眼点
・周囲に気づいてもらう(問題の共有化)
・メンバーに対するアプローチ
実施主体となるべき人へのアプローチ/上の承認/根回し=協力者の獲得/問題意識の共有/突破口の発見と経路づくり/メンバー固め
・案をどう通すか
決裁経路の把握/側面援助,からめ手,各個撃破等の方法の把握/妥協案,譲歩案,次善策の用意
・案のPR
どうやれば明確に,鮮明にできるか/どんな方法で,どうやって,誰に,何処で,誰がやるか
・動き易い状況づくり
制約条件の除去/促進条件の強化
・行動態勢づくり
役割の確定/動くメリットの確保/チャンネルづくり
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いいアイデアが生まれるのは,よく運だといわれます。しかし仮にそれが偶然でも,その運を引き寄せるもの,運を引き寄せやすくする何かがあるはずです。それを,アイデアを生み出しやすい状況,運を呼び込む土俵を作る,と言い換えてもいいでしょう。
たとえば,コピー機の販売会社の営業マンは,コピーが売れつづければいつかその書類を捨てるのにもお金をかける時代がくると確信しました。そこで,従来の,破ったり焼いたりする方法以外に,いい方法はないかと,あれこれアイデアを考えつづけました。そんな中,立ち寄った立ち食いうどん屋で,ふいに思い出しました。若いころアルバイトでうどんの製麺工場で,生地を回転するローラーの刃で切ってうどんを作っていたのです。書類もうどんのようにこまかく切れば読めなくなる,と気づいたのです。これがシュレッダーの開発につながります。
また,安全かみそりの刃がすぐに劣化してしまうことに着目し,「もっと刃を有効にできないか」と考えていた技術者は,ある日板チョコを切れ目に沿って追ったとき,はっと気づいたそうです。刃に板チョコのように,等間隔に切れ目を入れたら新しい鋭利な部分に差し替えられるのではないか,と。そこで,試作に次ぐ試作を試みつづけ,ついに,切れ目の設定角度は60度が最適であることを発見し,カッターナイフの開発に至るのです。
アイデアを生み出すきっかけになったのは,たまたまうどん屋で製麺機を見た,という偶然かもしれません。同じくが,たまたま見た板チョコからひらめいたのかもしれません。しかしその前に,情報をどう廃棄するかということであったり,刃についてであったり,問題意識をもっていたからこそ,それがアイデアにつながったのに過ぎません。
ここから,アイデアをまとめあげていくプロセスには,二つのポイントがあるように思えます。
第一は,アイデアを生み出すもとの問題意識をどう表面化させるか
第二は,問題意識をどうアイデアをカタチにまとめるか
です。それを個人としてではなく,チームとして,組織としてするにはどうするか,を考えて見ます。
問題意識を,問題への感度です。「このままでいいのだろうか」「何かもっとうまくやるやり方があるのではないか」「もっといいモノがないだろうか」と,現状に問題を感じることです。その感度は,わかりやすくいえば,次のように表現できる。
問題への感度は,期待値や基準が明確になっていればいるほど,感じやすいはずだ。組織で言えば,トップが目指していること,何をしようとしているかが共有化されていればいるほど,問題は出しやすい,ということになる。
たとえば,報告・連絡・相談というのが求められます。しかし,それは上位者の職場管理のツールでも部下のアリバイ証明のためにあるのでもありません。それをすることが,共通の目的達成のために不可欠だからです。メンバーがつかんだ情報をチームとして共有化することで,共通認識を持つことができます。ひとりひとりのかかえている問題状況をきちんと共有化してもらうことで,ひとりで抱え込んで追い詰められる事態を避けられるはずです。何のためにチームを組んでいるのか,メンバーの数の和ならチームを組む効果が出ているとはいえません。1+1=2+αをどれだけ出すか,問題意識もまた,個人のスキルとして考えている限り,チームとしての問題解決になることはないはずです。
それよりは,どんな些細な気がかりでも,どんなつまらなそうな違和感でも,チームメンバーの問題意識にさらすことで,「どうです?」「ひょっとしたら」「前にもこんなときが」「それならこうしたら」等々といった,キャッチボールを通して,掘り下げる場があることです。このとき,ミーティングや会議だけを想定されていたら大間違いです。会議のみで問題意識がかわされることはまれです。何気ない会話,雑談,立ち話,重要なことはこうした中で気づかれます。そういうことがフランクにできる場づくりが必要なのです。ポストイットは,はがれる接着剤を開発したシルバーとはがせる付箋を探していたフライのキャッチボールの結果です。それなしにポストイットは世にはでていないのです。
よくこんな質問を受けます。うちの社員に,何かいいアイデアはないか,あったらどんどん出してくれ,というのだが,なかなか出てこない,出てきてもありきたりでつまらないものばかりだ
,社員の発想力をアップするいい方法はないか,と。それはさしずめ,図のようなやり取りなのではないでしょうか。
二つの疑問が浮かびます。まず,アイデアは完成型でなくてはいけないという誤解があるのではないか。「ありきたり」と思っているのはトップだけかもしれない,という疑問はさておくとして
,アイデアづくりとは,端緒の思いつきをキャッチボールで深めていくものです。その共同作業のおもしろさをトップは気づいてもいないし,逆に部下はトップを恐れているのかもしれない。次に
,トップのアイデアへの思いや期待がきちんと伝わっていないのではないか。なぜ必要なのか,何を期待しているのか,というトップの思いです。
キャッチボールという言葉は,少し説明する必要があるかもしれません。周知の3Mのポストイット開発をめぐる逸話で,シルバーという人が,接着剤を開発していて,貼ってもすぐ剥がれてしまうものをつくり出してしまいました。彼はそれを「失敗」とはみなさず
,社内の技術者同士のミーティングで,自分にはこの使い道が思いつかないが,誰かいい使い道があったら教えてくれないかと,提案したのです。その中に,いつも聖歌隊で,本に挟む付箋に不便を感じていたフライという人が
,その使用方法として,ポストイットを発案したのです。こうした自分の問題意識をぶつけることで,新しい何かの発見につながるやりとりを,キャッチボールと呼びたいのです。
カーネギーは,「2人の人間がいて,いつも意見が一致するなら,そのうち1人はいなくてもいい人間だ」(『人を動かす』)と
,言っていました。ひとりひとりの発想努力は重要です。が,それ以上に,ひとりひとりの違いを生かしてアイデアをぶつけ合えれば,もっと発想量はふえるはずです。アイデアは
,キャッチボール力なのです。
たとえば,そうすると,冒頭の会話は,部下のもってきた「ありきたり」のアイデアをテーブルに置いて,それを一緒に眺めながら考えている,という構図になります。そうすれば
,他のメンバーも,そこに加わりやすくなるはずです。
まだるっこしいと感じる向きがあるかもしれませんが,アイデアとはこうして深まるものです。これを場の共有といいます。このメリットは,五つあります。
第一は,それぞれ異質な発想をぶつけ合うことが,異質な関係を見つけやすくすることになります。自分の発想の枠を違う視点からの異見で,見方が変わったり,新たな発見をしたりすることを促す効果があります。多くの先進的な企業で
,部門や専門を越えて雑談できるたまり場つくりをしているところがあるのは,こうした効果を狙っているのです。
第二は,アイデアを考えることは,目的ではないはずです。現状をいまよりよくしたいということからかもしれません,売れる何かを作りたいという熱意からかもしれません,あるいはこうあるべきだという理想を実現したいという思いからかもしれません。これが問題意識です。これが共有化できていなければ
,誰もその土俵で,同じ方向を向いて考えてはくれません。これは,先ほどのように図解できます。
少なくとも,どうしたいのか,どうあるべきなのか,といった期待値が共有化されていなければ,そうなっていないことに何の問題も感じないし,それを何とかしなくてはとは思わないでしょう。組織として
,何を目指しているのか,何を実現しなくてはいけないのかという期待値を明確化させ,組織構成員に伝えるのはトップです。目指すものを共有していなければ,同じ問題をみていないし
,同じように何とかしなくてはとは思わないのです。実は,こうしたアイデアのすり合わせの場をもつということは,トップからみると,何が部下に伝わっていないか,どこを向いているのかを確かめる場であるのです。
第三は,こうしたアイデア形成プロセスに参画することで,そのアイデアに対する親和が増し,自分たちのものという意識が生まれやすくなります。これが自分たちのアイデアの価値基準になっていくのです。更には外から来たアイデアへの目利きができるようになるはずです。単純に外から結論だけもってきたときに起きうる防衛的な反発を防ぐには
,こうした熟成のプロセスをとれれば,同じ効果が期待できるはずです。
第四に,人と話すメリットは,話すことで,自分のアイデアが,更に研ぎ澄まされることがあるのです。たとえば,アイデアマンのトップなら,自分のアイデアを,人と話すことを通してアイデアを深めていくはずです。アイデアマンといわれる人は
,いろんな人とのネットワークの中で,キャッチボールを重ねてアイデアを進化させているはずです。
第五は,アイデアは,話しているこの場だけでなく,参加したそれぞれの頭の中で,継続し,発展し,深化され,進化していっているのです。頭の中は,活動し続けるのです。アイデアを考えるおもしろさは
,こういう体験をしなくてはわかってもらえないのです。
この図式は,リナックスのようなオープンソースを,ネット上で,無数の人が,寄ってたかって完成させていくプロセスに似ていなくもない。
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トップの思いは伝わっているか〜場の共有から,意識の共有へ
この場を共有できるものにするかどうかは,トップの責任です。それを,コミュニケーションの土俵と呼びます。
ジョハリの窓というのがあります。自己理解の仕方として,自分にわかっている自分/自分にわかっていない自分,他人にわかっている部分/他人にわかっていない部分の4つの窓に分けてみようとするものです。
大事なのは,パブリックの部分です。トップと部下の関係に置き換えると,自分の考えが伝わっている程度に応じてしか,相手と土俵を共有できない。必要なのは,自分の考えをきちんと話すこと
,そして部下の状況をきちんと聞きとること。ここを確立する責任は,トップにあるはずです。トップは話しているつもりでも,口頭のメッセージは25%しか相手に届かない。とすると
,相手に伝わった25%だけがトップの語ったことなのです。
「ありきたり」のアイデアしか出ないとすると,トップが思うほど,相手に自分の思いや考えが伝わっていないのだ,と考えることからはじめるべきでしょう。部下は自分のリソース(資源)です。それをどう使いこなせるかはトップの器量です。それはトップの旗の提示の仕方に示されます。大阪万博のときの
,「千里から天理へ」(千里の万博出展ではなく天理の開発センターへの投資)というトップ方針が,今日のシャープの礎になっています。トップは何をしようとしているか,明確な旗を示す必要があるのです。それが
,前述の期待値の明確化です。これが共有すべき場そのものです。これがあることで,メンバーには,いま何が必要かがわかりやすくなるのです。
アイデアは,要素の組み合わせであり,いいアイデアを手に入れる方法はアイデアをたくさん考え出すことです。共有する場ができたとすると,そこで効果的にアイデアを出すには
,スキルを共有することも必要です。アイデアづくりには,分ける,グルーピング,組み合わせる,アナロジー,の4つの原則があるのです。
「分ける」は,一体のものとして見ている,いまあるカタチ,いまある意味,いまある条件,いまある構造,いまある位置関係等々を分解することで,新しい関係づけを見つけます。「分ける」を目安は,
・もう少し細かくならないか
・もう分けられないか
・他の分け方はできないか
・何か前提にしていないか
・自分で条件を設定していないか
・型にはめていないか
・他の視点はないか
・見落とし,ヌケはないか
といったことになりましょう。
わけるという例では,たとえば,一体だったものを分けることで,それ自体が商品になったりします。たとえば,有名店のラーメンが,その出し汁自体を商品としたり,手打ち蕎麦店の
,手打ち作業自体を客に経験させることを商品としたりするのもそれに当ります。また温暖化ガスの排出権を取引するのもそれでしょう。
「グルーピング」は,バラバラになった情報の中に,意味のある「つながり」(基準)を見つけ出します。
「グルーピング」する目安は,
・まず似たところはないかと考えてみる
・違いはどこにあるか。逆に,似ても似つかないものはどれか
・別に言い換え(置き換え)られないか
・両者に関係づけられるものはないか,無関係なものはないか
・両者をそれぞれ別のモノ(似たもの,関係あるもの)に置き換えてみる
・結合してみる,合わせてみる,重ねてみる
・それぞれを統一する(括れる)ものはないかと考える
・それぞれを由来・背景・根拠・理由に遡ってみる
・それぞれをこれからどうなるか,下ってみる
等々となります。
これは,業種のくくり方とか商品アイテムのくくり方を,別種にし直したりすることで,従来と異なる市場を発見することがあります。たとえば,プラスが出した小型の文具セットは,確かに小型文具品をセットにしただけのようですが,事務用品という実用性からファッションやおもちゃの領域を開拓したことになります。あるいは,ドレッシングを調味料の棚に並べるのではなく,生野菜の販売棚にくくることで,店としての食べ方の提案になっていきます。店舗の中にそうした試みがいくつもみつけられるはずです。
「組み合わせる」は,異質の分野のもの,異なるレベルのものを組み合わせることで,ピース自体の出自にかかわりなく,新しい全体像を見つけ出します。全体だけでなく,その一部分同士からも新しい組み合わせを見つけます。
代表的組み合わせは,ラジオとカセットを組み合わせたラジカセですが,昨今は,電子レンジで調理する手軽さから,米飯と具材を組み合わせたセット米飯が花盛りです。マツタケ釜飯,ホタテ釜飯,五目釜飯等々。MPU(マイクロプロセッシング・ユニット)は,コンピュータの中央処理装置(CPU)を1チップに集積したものですし,LSIはIC1000個以上を集積したものですが,これも組み合わせ例でしょう。あるいは,デスクトップファクトリーと呼ぶ,精密機械用の超自動組み立てラインも実用化されています。最近のカメラつき携帯電話
,音楽プレーヤーつき携帯電話も,もちろんこの例です。
「アナロジー(類比/類推する)」は,似たもの,異分野の例になぞらえる,たとえる見たてることです。似た「〜を通して」見る(考える)ことです。
たとえば,スタッドレスタイヤの目的は,アイスバーンを滑らないことです。ではその同じ目的で,それに役立つものはないか,たとえば,北極の白熊はなぜ滑らないのか,その手の構造を通して見て考えるのです。
・白熊の手は爪がある,それを役立てられないか
・白熊の手の皮膚は筋肉との間がルーズで接地面が広がる,その構造を利用できないか
・白熊の手は毛が接地面の水を弾き出す,その仕掛けを利用できないか
等々,「白熊の手の機能を通して」見ることで,その機能からタイヤに使えるアイデアを見つけ出そうとすることです。冒頭の,カッターナイフやシュレッダーはアナロジーの例と言えるでしょう。
しかし,いくら口で言っても仕方ありません。成功体験を積み重ね,それを共有化することから始めなくてはなりません。誰も何も提案してこないなら,ひとつでもふたつでも提案につなげ
,提案されたら,些細なものでも,何が何でも成果につなげ,本人にも,周りにも,提案するとおもしろくなる,と思わせる体験を共有化することです。小さくてもいい,自分たちのアイデアを成功させたという体験を積むことが
,最大の場の共有なのです。まずは,どんな些細な提案も,一緒にまがりなりにもアイデアへと完成させきることです。その体験の蓄積が,組織としての開発プロセスのノウハウになるはずです。
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ここで「問題意識を育てる」を考察しようとする問題意識は,ふたつである。
@問題意識をもつということで何を期待しているのか
管理者が,部下に問題意識を持て,という言うとき,何を期待しているのか。どういう仕事の仕方,仕事への姿勢を期待しているのか。その目標状態を明確にしているのだろうか。逆の言い方をすると,問題意識をもった仕事の仕方をすると,何が違うのか。チームの成果にどう影響するのか。その期待は部下にどう伝えられているのだろうか。あるいはそのモデルが,上司自身あるいは他のメンバーにあるのか。
A個人の努力に期待することでいいのか
問題意識ということで求めているのは,目の前の仕事に流されず,そのタスクに自分なりの仮定や仮説,つまり問いをもって仕事をすること,たとえば,
●このままでいいのか
●他に方法はないのか
●何のためにしているのか
●どういう状態にしたいのか
●そのために気になることはないのか
●どんなアプローチがあるのか
●他にアイデアはないのか
といった,与えられた課業の幅と奥行きを意識することを期待しているようだが,それを部下個人の努力や創意だけをあてにする姿勢でいいのか。この点を以下で考えていく。
意識とは,「〜の意識」だから,「〜」を意識しているとき,われわれは「〜」が何かを知っている。それが花であれば,花とは何であるかを知っているから,花を意識する。問題意識という場合,「〜」は問題のことである。それを「問題」と意識するには,問題が何かを知っていなくてはならない。われわれは知っていることしか意識できないからだ。
では問題とは何か。認知心理学では,“いまはこういう状態である”という初期状態(現状)を,それとは異なった別の“〜したい状態”(目標状態)に転換したいとき,その初期状態が“解決を要する状態”つまり“問題”と呼ぶ。言い換えると,眼前の状態を“問題”とするかどうかは,目標状態をもっているかどうかによる。つまり目標状態がなければ,問題は存在しない。
問題はどこかにころがっているのではない。誰かが問題にすることによってしか,問題にはならない。しかし誰かに問題でも自分には問題ではないこともある,自分が大騒ぎしても誰も問題と思ってくれないこともある。もともと共通の問題があるのではない,共通の問題にするだけである。しかし,とりあえず自分がその問題と向き合い,何とかならないだろうか,と考え始めたとき,はじめてその問題は自分が解決しなくてはならない問題として目の前にある。これが,その人が問題を意識している状態である。
初期状態(現状)と目標状態とのギャップが問題だとすれば,何を問題として意識するかは,何を目標状態におくかによって違う。たとえば,
●理想との乖離を問題だと思う(理想との差を問題にする)
●立てた目標や基準の未達や逸脱を問題と思う (未達を問題にする)
●不足や不満を問題と思う(欲求水準が満たされないことを問題にする)
●価値や判断の基準からの逸脱を問題だと思う(価値との距離を問題にする)
等々といった差になる。
たとえば,「遅刻」を問題にしたとしよう。それは,あるべき基準との差を問題にしたことになる。しかし,世の中ではそんなことを問題にしていること自体が問題だとして,いつもわくわくできる職場になっていないからだ,という目標状態との差に問題を変えると,理想とのギャップを問題とすることになる。
わくわくする職場を目標状態にして気づく問題では,メンバーの元気や落ち込みに目が向く,遅刻しないことを目標状態にして気づく問題では,時間すれすれに飛び込むメンバーに目が向く。こうした問題への意識の差は,良し悪しではなく,その問題解決で何を目指そうとするか(目的)によって変わるのである。たとえば,ひとりひとりの創意工夫を発揮してもらうことを目指せば,そのためにどうしたらわくわくする職場をつくれるかを問題意識としてもつことになり,メンバーの落ち込みが引っかかる。一方,ミスなくロスなく仕事を完結するということを目指せば,どうすればきまったことを守れるか,を問題意識としてもち,わずかな遅刻も見逃せないこととして引っかかってくる。
つまり,その目的に応じて,目標状態が違い,意識する問題が変わるのである。ここで問われているのは,ひとりひとりの問題意識ではなく,メンバーに問題を意識しやすくするために何が必要なのかなのである。
たとえば,ゼロ災害を目指して,清掃が行き届いた状態を意識していれば,わずかな埃,汚れにも目が向く。新たの商品開発を目指して,ひとりひとりのアイデア力を意識していれば,わずかな発想の芽にも敏感になる。それに目が向かざるをえないはずである。それによって実現したいもの(目的)がどれだけ意識されているかによって変わるのである。とすると,個々人のスキルやマインドだけではなく,チームとして,何を目指しているか,そのためにどういう状態にしたいのかが,明確であるかどうか,それをチーム内でどれだけ徹底できているかどうかに左右されるのである。目的意識によって問題意識は決まるのである。
そうしてみると,ここで期待されている問題意識とは,目指している目的からみて,「本当の問題は何か」「もっと大きな問題はないのか」と,問題そのものを問い直す姿勢,あるいは意識的に問題を立て直す姿勢と言えるのである。それは,逆に言えば,目指す目的にとって,どういう状態になっていればいいのかという,目標状態そのものを問い直し,場合によっては,新たに目標状態を設定し,いままでなかった問題を見つけ出すことをも意味しているのである。つまり,問題意識にとって本当に重要なのは,目的実現のためにどんな目標状態でなければならないのか,そうなるとどんなことが問題になるのかと,問題そのものを立てられることなのである
。
チームとして,個人の問題意識→メンバー相互の問題意識のすりあわせ→チーム全体の問題意識と展開する,そのプロセスそのものが,各自の,相互の,チーム全体のキャッチボールの場になる。ひとりひとりの問題への気づきのレベル差を,マイナスと考えるのではなく,もののとらえ方の異質さと考え,それを生かして,チーム全体としての問題意識を高める場とできればいい。
ひとりでは気づけないことがある。全員の耳と目で感知したものを,全体の中でチェックすることが,チーム全体の問題意識を高めることにつながるはずである。たとえば,下のようなシートを使って,日々の些細な問題意識をざっくばらんにすりあわせる作業が,チームの目的と目指すレベルの確認となり,メンバーに共有化されていく。そうしたプロセスが,ひとりひとりに自分の問題意識を研ぎ澄ます機会となり,チームとしての問題意識を高め,チームとしての成果に近づく好循環になるはずである。それを支えるために,互いの問題意識をキャッチボールできる機会をつくりつづけることである。
気になるシート
つまり,こうしたモニタリングの機会そのものが,
・チームの目指すものを確認し,ベクトルを揃えることになり,
・どういうレベルの問題意識が必要なのかの共通認識となり,
・どんなことを見逃さないことが大事なのかを教えあうことになり,
・ひとりひとりの問題意識を切磋琢磨することになり,
・チームとしての問題意識を研ぎ澄ますことになり,
・問題意識をもって仕事をするとはどういうことかを確かめることになり,
・チームとしてのパフォーマンスにつながる
はずなのである。それをチームでできるのはチームをあずかるもののマネジメントしかないのである。
問題意識 については
,問題意識を育てる,問題意識と気づきの共有化を参照ください。
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