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スキル事典51

コーチングマインドのスキル


  • 職場で生かすコーチング・スキル

・相手の中に答があると信じ「それで君はどう思う」「きみはどうしたい」と,それを引き出すようにしている

・相手の中にある可能性を信じ,「君なら出来る」ときちんと伝え,それを引き出すようにこころがけている

がなくては,決して機能しない。そうでなければ,コーチングの中心スキルである,質問も,単に尋問であり,承認も,自分のためにするみせかけのものでしかない,提案・リクエストも,指示命令のソフトバージョンでしかない。フィードバックも,勝手読みにとしか受け取れない。つまり,自分の言うことを聞かせるための手段になってしまう。


  • 職場のコーチングが機能させるにはどうしたらいいか

  • 上位者と部下の指示命令的対応

     たとえば,部下に指示したり,質問したりするとき,

 こういうやりとりは,実は,コミュニケーションの主体が上司側にある。それは,上司が自分の土俵から,質問し,判断し,咎めている。 つまり,上位者側が,自分の土俵で,価値観,判断基準を手放さず,相手に追及している格好になる。

 たとえば,「何やってんだ」という発言は,

  「(お前は)何やってんだ! 」(と上司であるオレが判断している)

 と,分解できる。それは,自分の側の判断基準で,ものをいっているに過ぎない。そ こで,どれだけ,質問や承認や,といったコーチングのスキルを駆使しても,所詮上司の思いつきや気まぐれに過ぎない。


  • コーチング的な対応

では,これが,コーチング的になったらどうなるか,そのとき,土俵は相手に移さなくてはならない。つまり,判断基準も,答えも,相手にゆだねることを意味する。

 

 たとえば,上記の「何やってんだ」という同じことを,上司が言ったとしても,それは,上司の判断基準でないとすると,部下自身の判断基準で,どう思うかを聞くことになる。

 (部下である君自身は)「何やってんだ」(と思うところはないか)

それは,相手に,相手自身と自問自答しつつ,自分の中のリソース,経験,知識と対話しつつ,どうしたらいいのか,何が考えられるのか,を導き出す。それを,こちらはただ見守る。あるいは,相手の許可を得て,アドバイスをしてみるということはあるかもしれない。しかし,主導権は部下側にあるのである。

よくコーチングの本にある,

「なぜできないのか」ではなく,「どうしたいのか」,

「なんでうまくいかないんだ」ではなく,「どうしたらうまくいく?という」

という問いの変換も,小手先の問題ではなく,上司側がどう,自分のコミュニケーションをコントロールしているかの問題としてみたとき,現実的になる。

上司は,部下の可能性を信じ,答えがあると信じるから,部下自身の土俵で, 自分なりに答えを出すように促す。その答えは,部下自身のものだし,部下自身の仕事の進め方,部下自身のノウハウを反映しているはずである。無論,それにアドバイスすることがあるとしても,それを部下は,自分の土俵の上で,自分の主体的な判断で,受け止め,考えるはずだ,という姿勢をとる。一見主導権を譲っているが,土俵をそうやってコントロールしていくことが意味がある。

この理想は,上司と部下が,2人して,共有化した土俵を眺めている関係が,取れれば,ベストになる。一緒に並んで眺めていることになる。その土俵なら,他のメンバーも,そこに加わりやすくなる。


  • 部下側からみたときはどうなるか

これを部下側から見たとき,どうなるだろうか。実は,同じことだ。コミュニケーションの主導権を握ればいい。つまり,コミュニケーションの土俵を自分側におく場合と,相手側におく場合を,自分で,そのシチュエーションにあわせて,ハンドリングできればいいということになる。

たとえば,自分のアイデアや提案をするときは,自分の主導権でいいが,それについて,相手自身に答えを出してほしいときは,どうお考えでしょうか,お聞かせくださいと,相手に土俵を譲ればいい。

要は,コミュニケーションは,目的があってする。その目的達成のために,相手の主体性を引き出したければ,相手が自分が主役になって考え,自己対話できる土俵を与えることが必要になる。

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スキル事典52

企画マインド


  • 企画づくりのマインド

  • 「企画とは何か」という問いの意味すること

企画は,それによって「何を解決実現しようとしたか」が明確でなくてはならない。そのためにこそ,企画を立てるのだから。それは,“現状への問い”,現状への「このままでいいのか」という“問い”から始まる。現状への問いは,現状への疑問,不満が出発点となる。24時間風呂には問題意識というものを考えるヒントがあり,温泉地どこにでもある,温泉饅頭に企画とは何かを考えるための一つの教材となる。

  • 企画に何を見るのか

いま,手元に“企画書”が提示されたとして,そこで,見るのは次の3点である。

@それによって何が達成(実現・解決)されているか(されるか)

Aそれは,どんな点で新しいのか(いままでないものか,それともいままであるものとどこが違うのか)

Bそれは,どこまで実現可能なのか(実現できるメドが,きちんと示されているか)

第1に,企画は,それによって「何を解決実現しようとしたか」「何が解決実現できたか」が明確でなくてはならない

企画は,それを立てること自体が目的ではない。つまり,企画は,目的実現(達成)のための手段のひとつに過ぎない。その意味では,何のために(何を解決するために)それを立てたかの目的を明確にしていなくてはならないし,である以上,それを実現できる案を示すものでなくてはならない。

企画は,目的実現(達成)のための手段のひとつに過ぎない。その意味では,何のためにそれを立てたかの目的を明確にしていなくてはならないし,それを実現できる案を示すものでなくてはならない。

 第2は,企画書にするに足る“新しさ”が必要である。

  いくら,目的が明確で,実現プランがクリアでも,既に誰かが立てたもの,既にどこかで実行しているものなら,企画には値しない。

 第3は,こうすれば実現できるという実行プランニングを示していなくてはならない。

  当然,実現できるということが,空手形でない証拠を,きちんとしたアクションプランのカタチで示さなくてはならない。

【企画の結果と企画の立案】

企画のどこを見るか(アウトプットとしての企画)

企画を立てるポイントは何か(インプットとしての企画)

@何が解決(達成)されているか          @何を解決しようとするのか(絞り込み)

A何が解決(達成)されているか         

Aどう(他と違う)解決をしてみせるのか
Bどこまで実現に現実味があるのか       Bどうすれば実現できるかのプランニング
  • 企画の構成要素

企画”は(自分が解決したい)問題を,解決(実現)してみせることである。あるいは,こうすれば解決が実現できるということを説得してみせるものである。企画とは,

 ●誰もが何気なく見過ごしたり,当たり前として見落としていることを見逃さず,「問題」にし,

 ●それを何とか解決(実現)したいと考え,その解決(実現)案をカタチにし,

 ●その実現策(実施プラン)を具体化する

 という,「(解決すべき)問題の発見」「解決案(解決のカタチ)」「実現策(実施プラン)の3つで構成される。

  • 解決すべき「問題」は明確か?〜温泉饅頭と24時間風呂との異同

「問題」は,いつも誰かの目を通してのみ“問題”となる。(一般的に)「問題がある」のではなく,(誰かが)「問題にする」ことによって,初めて,「問題になる」。それを見過ごすのも自分であり,見過ごしにせず,「問題」にするのも自分である。「問題の発見」は,こうした個人としての問題意識や思い入れ,入れ込みによる,個人的な突っ込みからこそ,自分の思いのこもった,自分の“企画”は始まる。

 「疑問」を「問題にする」(問題にできる)“役割意識”の主体性

 「不安」を「問題にする」(問題にできる)“当事者意識”の責任感

 「不具合」「不便」を「問題にする」(問題にできる)“カスタマーマインド”の生活感度

 「不満」を「問題にする」(問題にできる)“アウトサイドイン”の 時代感覚

 「理想」を「問題にする」(問題にできる)“目的意識”の方向感覚

 「願望」を「問題にする」(問題にできる)“現状批判”のバランス感覚

 があるから,

 「ウォークマン」は,どこでもステレオが聞けない不満を問題にし,

 「24時間風呂」は,一々風呂を焚かなくてはならない面倒や無駄を問題にし,

 「iマック」は,どれもこれも変わりばえのしない無機質のパソコンを問題にし,

 「バリアフリー」は,老人や身障者にとっての(健常者の気づかない)障害を問題にし,

 「フロッピーディスク」は,いちいちケースから出さなくてはならないLPレコードの面倒さを問題にした

少なくとも,最初に「温泉饅頭」を開発した人にとって,それは,温泉地のかかえる何がしかの問題(あるいは目標)を達成するための企画であったはずだ。それは,自分の“たわごとのよう夢”の問題意識を実現させた24時間風呂の開発者と同じであったはずだ。しかし,それを真似た人間にとっては,ただ,「あそこが,あれで成功したんだから,うちも」という,その企画そのものが目的化し,それで何を達成しようとしたかは曖昧になっている。しかし,それは,ここでは企画とは呼ばない。ただし,その(解決したい)問題からそのマネが,その解決となると考えたのなら,それは十分企画であると考えていい。問題なのは,何のために(何を解決するために)それを企画したか,だ。


  • “企画にする”には何が必要か

◇企画は,通常自分の問題意識やテーマだけで立ち上げられることは少ない。

@上司や関係者からの,「〜について企画してくれないか」といった指示や要請,要望

A関係部署や出先からの,「〜について企画にならないか」といった依頼や問い合わせ,要望

B部下や後輩からの,「〜について企画したいのだが……」といった相談や申し入れ,依頼

C客先やユーザー等々からの,「〜について企画はないのか」といった要求や問い合わせ,要請

 D自分自身の仕事上での,「〜について企画にならないか」といった問題意識や思いつき

◇たとえば,上司から,「〜について企画してくれないか」という指示があったとき,「何をすればいいか」を考えるため,通常は「よそはどうしている」と,横並びで同業他社,他省庁,他部署,他業界,他国はどうしていると考えるところから,はじめるだろう。しかし,それは,企画として根本的に間違っている。

 ・企画は,立てることが目的ではないはずである

 ・その企画を立てて,何を実現したいのか(目的)がはっきりしていなければならない

 ・それがはっきりしていなくてはアイデアは面白さや成功例を思いつきで拾い集めることになる

 ・しかも目的がはっきりしていなくては,その企画が適切だったかどうかの評価ができない

まず,企画は,「何を実現(達成)するために立てるのか」(目的)の確認からはじめなくてはならない。

【企画づくりの構造】


  • 企画の立て方・作り方についての詳細は,ここをご覧下さい。

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スキル事典53

創造性マインド


  • 創造性マインド
  • 創造性とは目的か?

創造性,あるいは創造的であることは目的ではない。たとえば,「創造性とは新しい何かを考え出すこと」だとする。では,「新しいこと」が仕事の中で目的となるのか,新しくさえあればいいのか。そうではない。何をするために,新しいことが必要か,によって,新しくても評価されないことはありうる。

何をするために,新しいことが必要なのか,あるいは,逆に,新しいことによって何を達成しようとするのかが,明確でなくてはならない。創造的であること,創造性を発揮すること自体は目的ではないはずなのだ。つまり,こうだ。

現状での,(このままではどうにもならない)“停滞感”,

(いまのままでは解決できない)“行き詰まり感”,

(これまでのやり方ではこれ以上ムリ)“限界意識”,

(このままではまずいという)“危機感”等々,

今のままでは今までのやり方では過去の延長線上では今すぐにはできない事態を打開するために,「何とかする」こと(これが“発想”)が求められる。そこに,創造性が必要になる。業務の目的実現(達成)のためには,今日,今まで通りに,今のままで,過去の延長線上では,それが達成できず,新たな工夫や創意が求められるからこそ,今日,日常の業務遂行に,創造性が求められる。

  • その問題を自分の危機として考えているか

昨日と同じことを,今まで通りに,今のままで,過去の延長線上でやろうとすれば,生き残れない。

・変化とは,“新しさ”への許容度が大きいこと,“新しさとは変わること”,だ。

・“ルールが変わった” とは, “いままでの定規や基準器が通用しない”,ということだ。

時代が変わろうとするときは,自らも変身しつづけなくてはならない。現状の中に昨日までのやり方の中に,これまでの発想に埋没することを,状況は許さない。

それに気づかないのは,

・国内からしか,

・自分たちの組織(の内側)からしか,

・自分たちの仕事の仕方からしか,

見ないからでしかない。変わるためには,まず,自分たちの現状に,「これでこのままでいいのか」という,疑問をもつこと。それこそが,“問題意識”である。それを「何とかできないか」と考え始めてみるとき,はじめて,創造性が自分に必要になる。

  • 自分の問題意識がすべての出発点である〜どんなことも「当たり前」としない

 西澤潤一氏は,創造性を「当り前のことを人より先に気づくこと」としたが,それは,こう言い換えてもいい。

見出されてイノベーションや創造性への最大の賛辞は,
「わかりきったことだ。どうして自分は気づかなかったのだろう」
と言ってもらうことである。

“問題意識”とは,自分が現状に感じている疑問,不満,不便,願望や夢をないがしろにせず,「このままでいいのか」「何とかならないのか」と,「空気に爪を立てる」(扇谷正造)ように,あえて波風のないところに波風を立てること。

誰もが問題にしていないこと,
当たり前として見逃していること,
どうせ言っても無駄と諦めていること,
あまり問題とされないことを,意識的に問題とする(違和感や疑問を顕在化させる)こと。

つまり,(現状への)「問い」であり,(当たり前としていることへの)「問い直し」であり,「違和感」である。 こうした現状を批評する目が,“問題意識”であり,これが現状を打開する第一歩となる。

問題意識のないところに,創造性は必要ない

 

  • 変化とスピードの時代には,経験則や前例は先入観に変わる

 @知識や経験を積めば積むほど先入観が蓄積される(知っていることが邪魔になる)

 Aいまやっていることを当たり前と思ってはならない(明日も通用するとは限らない)

 B現状への,“これでいいのか”という直感を見逃すな(錯覚と自分を言いくるめるな)

発見した「問題」が,いままのままでは解決できない,いままでのやり方では見通しが立たない,過去の延長線上では解けない,いままでの知識だけでは当てはまらないからこそ,いままでは異なる,新しい何かが,つまり創造性が求められる。

  • 創造性の要件〜変化に対応するための3つの新しさ

新しいもの」を創り出す,「新しいサービス」を創設する,「新しい仕事の進捗方法」を創案する,「新しい組織形態」を創造する等々,“新しい何かをカタチにすること(具体化すること)”。新たな問題の解決,現状の改革,事態の打開,行き詰まりの打破,難関のブレイクスルー等々のためには,それまでの知識や経験の延長線上でもなく,いまのままのやり方でもなく,いままでの常識にとらわれず,新たな発想と思考の枠組みを創り出さなくてはならない。それが “創造性”である。

@(発見した)「問題」の新しさ−人の気づかない(人より早く)新しい「問題」を発見すること
A(解決の)カタチの新しさ−既成概念(固定観念)にとらわれず(解決の)カタチを創り出すこと
B(解決を実現する)手段・方法の新しさ−既存のやり方や前例にとらわれず実現をすること

たとえば,

 「老人用紙オムツ」は,「問題」(おしめ)は古いが,解決のカタチ(紙オムツ)は新しい

 「プリウス」は,「問題」(排ガス対策)は古いが,解決のカタチ(電気とガソリンのハイブリット化)は新しい

 「MP3」は,「問題」(ネット配信による録音)は新しいが,具体化のカタチ(携帯ステレオ)はなじみのもの

 「インターネット取引」は,「問題」(電子決済)は新しいが,具体化のカタチ(流通)も新しい

 「キットカー」は,「問題」(マイカーの組み立てキット)は新しいが,解決のカタチ(キットもの)はおなじみ

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スキル事典54

目標設定のリーダーシップ



  • 組織の目的と目標設定の意味
  • 目的実現の手段としての目標〜一つの目標が崩れれば目的体系は崩れる
    • 目標は単独で存在しない〜目標の構造

    目標は,基本的に,単独では存在しない。目的(何のために)−目標(何をする)の連鎖の中に位置づけられる。たとえば,ある目標(何をする)は,その目的(上位目標)から見れば「手段」である。しかし,その目標の手段(下位目標)からみれば,その手段を取る目的となる。

     

    • 階層構造としての目標

    連鎖の中にある目標が1つ崩れただけで,この目的に向けての体系全体が崩れ,目的達成は難しくなる。つまり,目標は,たえず上位目標の手段(そのために何をするか)として位置づけられる。したがって,目標の正しさは,目的の手段として適切かどうかによってのみ,チェック可能である。

    《目的手段の階層構造》


    【目標のブレークダウンモデル〜目標の階層構造】

     

    • ひとりひとりの目標は組織目的実現のための手段である

      • 企業の目的は「顧客を創造すること」である

        ドラッカーは,企業目的=「利益を生むための組織」「利益の最大化」は的外れで,誤りであるとする。企業が社会に存在し,社会の中の一機関であるかぎり,企業の目的も(企業の中ではなく)社会の中になくてはならない」(たとえば,KKCや豊田商事のように,組織内部でその存在目的を決めても,社会が容認しないから,それは存在しえない)として,企業の目的は,「顧客を創造すること」とする。従って,県という組織の存続を決めるのは,組織内の人間ではなく,組織外部の県民である。県という組織が生み出すサービスに対して財貨(税)を払おうとしないなら,そのサービスは成立しえず,組織は成り立たない。県民がサービスを買うのは,サービスそのものではなく,その有用性という価値(たとえばゴキブリホイホイを買うのは,それがゴキブリを捕らえるのに有効だからであって,そのもの自体ではない)に対してである。

      • 部門目標は組織目的実現のための手段である

        組織の各目標は,そうした目的達成の手段としてある。とすれば,その手段は,目的達成に適合しているかどうかが,たえず問われなくてはならない。もし,目的不適合(あるいは目的不全)の活動であれば,目的への寄与のない活動と見なされなくてはならない。

        管理者は管理者としての役割との格闘を通して,そこで目標を達成することの,自分にとっての意味を見つけ出す。担当者は,それを受けて,自分自身の役割との格闘(目標達成のために何をすべきか)を通して,そこでの自分にとっての意味を見つけ出していく。

    • 「目標」(しようとすること)と目的(何のために)とのキャッチボールが必要である

      • 目的とその手段との徹底したキャッチボールが必要である

組織内であるかぎり,「やりたい」とした目標は,目的との適合性(つまり目的達成の手段としての妥当性)がなくてはならない。仕事の効率でいう,

・ムダとは,目的に対する手段の過剰のことである

・ムリとき,目的に対する手段の過小のことである

・ムラとは,目的に対する手段の不均衡(均一でない)ことである

目標達成率を高めるために,目標を落としても,下げた分だけまた届かなくなることが多い。なぜなら,ある目標を下げることは,その目標の目的(上位目標)から遠ざかり,その達成からも遠ざかることになるからである。それによって,当初の「思い」の背景にあった「〜のために」(目的)が見えにくくなる。それは「やりたさ」の熱量そのものが下がることにつながるからである。ある高さの目標達成ができないというだけで,目標を下げることは,それが達成できなければ,さらに下げ,永久に縮小再生産をする結果になる。むしろ,あるレベルの目標達成のために,その達成の手段を徹底的に追求してみることのほうが重要である。それによってしか,手持ち資源(手段)の力量(使えるか/使えないか,何が不足しているか)はつかめないからである。


  • 目標明確化の基準
    • 目標の要件

 @誰(と誰)が

 A何を

 Bいつまでに

 Cどの程度(どのレベルまで)

 を,具体的(何をするかが明確であること)計測可能(計数化もしくはその効果が実証可能)

で表現すること

 つまり,目的と目標「何のために」(目的=意味)

「何を」(目標=期待する成果),「いつまでに」(期限)「どのレベル」(期待水準)「どれだけ」(計測ないし検証可能性)等々の明確化によって,必要スキル,期間,必要人数が明確となり,現状とのギャップが,クリアすべき課題としてより具体的に浮かび上がることになる。

  • 目標の5基準(SMART)

@具体的(Specific 個別性,特定性)明確で「何が」がクリアであること

A測定可能(Measurable 計測性,検証性)量で測れること,あるいは検証可能であること

B達成可能(Achievable 実現性)現実的で,達成には特別の努力を要するものであること

C重要性(Relevant 有意味性)その目的達成が,目的達成にとって意味がある(寄与できる)こと

D具体的な期間(Time-bound 期間限定性)達成期間が限定され,期限が決まっていること


  • 管理者にとっての目標と個人にとっての目標
  • 管理者は目標(しようとすること)と方針(その指針)を明示しなくてはならない
    • 「目標」は管理者の意思の表現である
      • チームで共有するに足る目標であること

    チームの凝集度(力)を高めるのに必要なのは,どれだけメンバーが目的意識を共有化できるかである。

     そのために,課長補佐に求められるのは2つの役割となる。

     @旗を立てる機能(トップの方針を踏まえ,それを実現するために,チームとして何のために(目的),何をするのか(目標)という“旗幟”とそれに不可欠な情報を,たえず部下に明確に提示できること)。

     A盛り上げる機能(チームの目的(のためになすべき目標)を達成するために,メンバーの共働態勢づくりをどうしたらいいのか,日々の指導・助言はどうしたらいいのか,部下の育成をどうすすめたらいいのか,等々によって,チームとしての力が発揮できるようたえず努力・工夫できること)

    あくまで,「旗」が主であり,コミュニケーションや部下指導や日常の業務管理は「従」である。コミュニケーションや部下指導や日常の業務管理を(それをすること自体が意味あるかのように)目的化することは本末転倒である。

    管理者やリーダーが確信をもってチームの目指すもの(目的と目標)を指し示すことができなければ,チームメンバーが毎日の仕事の意義(目標達成のためになすこと)に確信をもてるはずがない。それこそが管理者の示す“旗印”が必要な理由である。それによって,チームの目的と情報を共有化を図り,何のためにそれをするのかという目的意識が明確となり,そのために何をしたらいいか(目標意識),どういう役割を果たせばいいのか(役割意識),チームメンバーがひとつの目的実現のために一体となって取り組むことができる。管理者は,メンバーが共有するに足る目標をどう掲げるかが問われている。


    • 上位目標の垂れ流しではない

    部門の「目標」を,単に上位者の「方針」「目標」の垂れ流しにする管理者は自分の役割の放棄である。

     役割認識には,3つの側面がある。

     ・上位者,他部門からの部門責任者としての役割期待

     ・自分自身が自部門をどうしたいのかという役割意識

     ・部下からのリーダーとしての役割期待


    • 「役割」は主体的に創っていくもの

    「役割」は,主体的に創り出していくものである。「○○」の役割を果たすことで,「○○」の役割を担うものと認知される。それはあくまで主体的な行為の結果である。その意味で,部門目標も,

     「全社・他部門から要請されているアウトプット」

     「自分がこうしたいという主体的なアウトプット」

     「部下から期待されているアウトプット」

    の3面があり,それを「自部門の目標」として設定するのは,管理者の責務の中にある,意思の問題が大きい。そこに,自分なりの問題意識や,場合によっては,権限の枠を超えてでも提起しなくてはならないこともある。そういう主体的な,挑戦的な経営マインドなしには,主体的な部門経営はないし,またそうでなくては役割意識を,単なる組織規程の枠通りに維持するだけだ
  • 部門目標の設定と徹底〜目標設定の手順
    • 全体〜部門〜課の目標・方針の体系化

    部門目標とは,自部門をどうしたいかという意思(期待水準の表明)である。それを絞ることで,全社目標,ブレイクダウンされた上位目標との接点を主体的,自分たちの「したいこと」を投影したカタチに詰めていくことができるはずである。そのためには,目標明確化に,メンバーの参加(あるいは管理者によるメンバーの意思の汲み取り)は不可欠である。それが,メンバーの,目的達成への参画意識と当事者意識を高める。

    組織目標・方針

    1.

    2.

     

                      全社目標達成するために〜部は何をすべきか

    ○○部目標・方針

    1.

    2.

     

    ○○部目標・方針

    1.

    2.

                    〜部の目標を達成するために〜チームは何をすべきか                               

    〜チーム目標・方針

    1.

    2.

     

    〜グループ目標・方針

    1.

    2.

          〜チームの目標を達成するためにメンバーAは何をすべきか                       〜チームの目標を達成するためにメンバーBは何をすべきか

    Aの目標

    1.

    2.

     

     

    Bの目標

    1.

    2.


    • 部門の問題の共有化と課題の設定

     部門で立てた「課題」とは,自部門をどうしたいかという意思(期待水準の表明)である。それを絞ることで,全社目標,ブレイクダウンされた上位目標との接点を主体的,自分たちの「したいこと」を投影したカタチに詰めていくことができるはずである。そのためには,課題の絞り込みに,メンバーの参加(あるいは課長補佐によるメンバーの意思の汲み取り)は不可欠である。それが,メンバーの,目的達成への参画意識と当事者意識を高める。その際,

     ・メンバーにわかる言葉で明文化する

     ・全員の参画のもとに課題を絞り込むこと

     ・課題相互の関連性を明確にしておく

     ことも必要である。必要なことは,全社目標(体系)の中で,どんな位置にあり,それを果たすことがどんな意味と重要性をもっているかの確認である。それがなければただの“スローガン”や“願望”である。そこには,達成されなければどうなるのか,という 目標達成責任の重さが裏打ちされなくてはならない。その意義と重要度の確認が,自分たちの日々の仕事への確信と意欲につながるからである。

     

    • 部門目標・方針案の作成

     自分たちの「こうしたい」という意思(部門の期待水準)の表明である課題をどう目標としてまとめていくかは,管理者の重要な役割となる。そこには,

     ・何を達成するのか

     ・どんな方向に向かうのか

     ・どういうことができていなくてはならないのか

     ・なにがクリアされなくてはならないことなのか

     等々が明確化されなくてはならない。そのためには,次の「達成条件」(これが方針,行動指針となる)が明確に絞られる必要がある。それは,次の2つである。

     @絶対条件;目標達成のために絶対譲れない条件。これがクリアできなくては目標達成にならない。

     A希望条件;(絶対条件を満たした上で)目標達成にとってできればあるほうが望ましい条件。

     その選択のポイントは,次の3つである。

     ・部門課題の中核部分を絞り込む

     ・その中の何を優先させるか(何を捨てるかでもある)

     ・課題をどう序列化して,今年度,次年度……,とステップ化した目標とする


    • 業務分担と各自の目標設定

@業務分担・役割分担・目標分担

◇単に,分担した役割を右から左へこなすだけなら,仕事をしているとは言わない。まして,それが課長補佐なら,課長補佐失格である。課長補佐は,自分たちは,組織全体の中で,何をすることを求められているのか,自分の預かるチームの存在意味(チームの目的)を,明確にしなくてはならない。同時に,そこに課長補佐という役割に隠れているのではなく,何の何某という個人として業務を遂行する以上,自分の意思がなくてはならない。自分のチームの使命と自分自身の意思を織り込んで,自分がそのチームの課長補佐として何をするのか,の旗を掲げてはじめて,チームのリーダーたりうる。そのとき,その旗を実現するために,単に,上位目標を垂れ流しするだけではなく,チームとしての主体的な目標が掲げられるはずである。それがなせてはじめて,監課長補佐としてのリーダーシップが発揮できる


A業務の役割分担と目標設定の関係

・課の業務

・課員の業務分担

・課員の目標分担


  • 組織目標(すべきこと)と個人目標(したいこと)との接点は何か
  • 各自の役割と目標のブレイクダウンモデル〜自分のなすべきことは何か


  • 自分の役割・業務と目標とのリンク関係モデル〜目標の意味づけから組織でのポジショニングを考える

現在の自分の役割,組織の業務分担から自分の目標を見るのと同時に,目標の意味づけから自分のポジションを整理して見る。そのことで,日々の仕事が組織全体とどうリンクしているかを再確認する。


  • 組織目標(すべきこと)と個人目標(したいこと)との接点は何か〜自分にとっての意味
    • 自分の成長目標の視点から目標達成の意味を見つける−自分自身の役割との格闘を通して

    ◇組織の役割との格闘とは,そこでしなくてはならないこと(求められる役割期待の遂行とその目標の達成)と,自分がしたいこととの格闘である。その意味には,「目標達成をどう進めるかに,自分の発想を反映させる」という意味と同時に,「自分自身の成長(キャリア形成)のステップにとっての成果を見つける」という意味が含まれる。その目標達成を通して,何をえたいのか,を明確にしておくことである。そのためには,自身の成長目標と成長ステップをきちんと見定めている必要がある。

    • 組織目標と個人目標の接点は自分が創り出す

◇組織としての目標(〜しなくてはならない)と個人としての目標(〜したい)との接点となるのは,自分の成長目標である。人の能力を,能力=知識(知っている)×技能(できる)×意欲(その気になる)×発想(何とかする)と分解するなら,目標を達成する力は,意欲と発想(つまり,その気になって,何とかすること)とにある。能力のキャパシティは,「知っていて,できる」範囲だけの仕事ではなく,それを超えた仕事に取り組んで,“何とかした経験”をどれだけ積んだかにかかっている。それだけに,役割を自己限定せずどれだけ広げてチャレンジするかが重要である。

◇組織目標=個人目標などはありえない

組織としての目標達成を目指すこと(役割意識)が,同時に個人としての(こうしたいという)成長目標にな(す)ることができれば,問題意識(何とかならないか)は,目的意識(何のためにそうするのか)がより個人的な思い入れが強まり,達成を導く力となりうる。上位者とのキャッチボールが必要となるのは,そこである。独り合点や思い込みではなく,組織目標達成の中に,個人成長の意味をどう見つけるかは,上位者が“なんとかしてくれる”“わかってくれる”ことを期待したりすることではなく,自分の力で見つけられるものにしなくてはならない。


  • 部下に成長の視点のある目標を設定させる
  • 組織目標(すべきこと)と個人目標(したいこと)の接点を見つける

組織目標=個人目標などはありえない。組織としての目標達成を目指すこと(役割意識)が,同時に個人としての(こうしたいという)成長目標にな(す)ることができれば,問題意識(何とかならないか)は,目的意識(何のためにそうするのか)がより個人的な思い入れが強まり,達成を導く力となりうる。管理者の指導力が求められる所以となる。その場合,むしろ,組織目標達成の中に,個人成長の意味をどう見つけさせるかが鍵となる。

  • プランの目的を明確にしてやる

プランの成否は,目的にかなっているかどうかによる。まず,

 ・なぜ本人に担当させるかを明確にする

 ・不慣れのため,メンバーとして当然了解できるはずの前提条件が十分わからないこともあるので,その目的遂行で期待される成果(目標)や予測される制約条件,利用できる資源なども教示しておく

 ・それに対する管理者としての関心,期待も明確に示す

 ・中間での報告・相談などの必要性を指示し,必要なら応援する旨も明示しておく

 ・場合によっては,相談相手も決めておいてやる

 ・取り組むにあたって,十分できると判断している根拠なども付け加えて,自信を与えておく

 といったアドバイスが有効である。


  • 実行プロセスをどうフォローするか

 実行力で大事なのはむろん個人的な能力・スキルとそのレベルアップだが,それ以上に大事なのは,自分であれこれ工夫したり,検討したりしながら,何とか目標達成しようとする試行錯誤の努力である。この過程で必要とされているものとして,

 ◆精神面で,

  ・いまやるべき課題をきちんと認識している

  ・行動する前にいつから,どうやって,実施していくかを計画する力がある

  ・計画を立てるときに,成功失敗の予想をあれこれ考えている

  ・いますぐ成功しなくても,根気よく取り組もうとする

  ・自分独自のやり方でやろうと工夫を試みる

  ・その場で何が有効か,自分の役割を認識して適切な行動が選択できる

  ・周囲の状況や条件等をよく調べ,見通してからとりかかる姿勢がある

 ◆行動面では,

  ・わからないことがあると自分で資料をさがしたり,調べたりすることができる

  ・経験に当てはめたり,実物と比べたり,類比したり,推論したり,いろいろな視点から検討する

  ・それでよかったかどうか現実に当たって調べようとする

  ・自分の考えをわかってもらうために,表現を工夫して人に伝えようと努力しようとする

  ・うまくいかないとき,いろいろ試して出来るようになるための自助努力をする

  ・うまくいくように必要なものを整えたり,効果を上げるための準備をしたりする

  ・自分ができないときにどう管理者に相談して,達成するようにする

 等ができているかどうかが,チェックポイントとなる。忘れてならないのは,メンバーの支援をどう活用していくか,この点に気づかせるのが大事なポイントとなる。

  • 全体の流れとの関連に気づかせることでチェック力を高める

     本人は,自分の担当職務の出来不出来にのみこだわりがちである。しかし管理者のチェックとしては,チームの力をどう借りるか,あるいは逆にチームにどんな影響を与えるか等,チーム全体へ目を向けるように注意を促していく姿勢が必要となる。 したがって仕事をチェックするときも,

      @未達,逸脱はないか

      A優先順位に間違いはないか

      Bスケジュールに無理はないか

      Cムリ,ムダ,オチはないか

     という自分の仕事の進捗度だけではなく,

      Dチームに影響を与えることはないか

      Eチームの協働態勢によってカバーできることはないか

     といった,チーム全体の流れを振り返る視点を強調する必要がある。


  • 自己改善ポイントをどう気づかせレベルアップを支援するか

 いままでのやり方では

 自分ひとりでは       

 いますぐには

 いまのままでは

 できない

 という現状から,

 ・具体的に何ができていないのか

 ・メンバーの力を借りればどの位できるのか

 ・管理者がサポートすればどれだけやれるのか

 等々,本人だけでなく周囲の支援を含めた視点で振り返らせたい。

 また,本人に不足しているものをどう身につけさせていくかは,少し長期の視点で考えたい。本人が今後どういうキャリアを考えているかとすりあわせれば,

 ・本人に,1年後2年後どういうなりたいかというキャリア設計を考えさせ,

 ・管理者が本人の将来にまで関心をもっていることを示す

 ことになる。それも,部下を戦力化しなければならない管理者の当然の責任となる。

  •  仕事との格闘を通して成長のチャンスをつくる

“格闘”とは多忙さとは関係なく,どれだけ「目的意識」を失わないかにかかっているそれ(その仕事)は「何のために(目的)するのか」,その目的からみて,目標・手段は適切か,あるいは「その目的は今も重要か,もっと別の目的(何のために)を創れないか」等々の,問いを続ける姿勢である。それが,結局目標達成力なのである。格闘の基本マインドはもちろん自責化である。


  • 部下に目標達成のための手段を具体化させる
  • 目標達成手段をどう洗い出すか

以下では,ギャップをクリアすべき課題@ABのうち,課題@をクリアすべき要因(手段1と呼んでもいい)abc,要因aをクリアすべき要因(手段2と呼んでもいい)イロハ……と解決手段をブレイクダウンしていくプロセスを例示する。

@ギャップの距離を埋めていく

目標と現状との距離を解決要因(解決行動)で埋めていくことになる。たとえば,ギャップを埋める大きな課題を@ABあるとすると,たとえば,問題@の距離をうめるために,同じように解決要因で埋めていくことになる。それを要因abcとすると,たとえば,要因aの距離を埋めるために,同じように解決要因で埋めていくことになる。それを要因イロハとすると,たとえば要因イをの距離を埋めるために,同じように解決要因で埋めていくことになる。同じ作業を繰り返すことで,課題@をスモールステップ化していくことになり,同じように,課題ABも繰り返すことで,ギャップ全体をスモールステップ化していくことになる。

Aギャップのツリー構造 

それをツリー構造に描きなおせば,下図のようになる。これが解決手段の洗い出しになっている。

 

Bギャップの距離の埋め方

 目的実現の手段(必要手段),何があればいいか,何ができればいいか等々を,ブレイクダウンして,できる手段(行動)を洗い出す。(どうすれば実現できるかと)できる手段として挙げていく。

 @原因分析型は,目的実現の障害となっている障害(支障原因)を,「なぜ」「なぜ」と特定化していく,つまり何がないのか,あるいは,何ができていないか等々,できない理由や要因を洗い出す,

 A目的手段分析型は,目的実現の手段(必要手段),何があればいいか,何ができればいいか等々を,ブレイクダウンして,できる手段(行動)を洗い出す

 前者のできない理由を,後者はできる手段,あるいは何をすればできるか,として挙げていく問いの立て方の違いであって,構造的には裏表の関係になる。ただ,何かを実現しようとする問題達成型の場合,過去からの時系列の中で,後ろ向きになる原因分析型より,未来指向の目的手段型の方が発想しやすい。


  • 対策は2つ以上考える

 仕事をしていれば,誰でも,ふつう一つは解決策を持っている。いままで通りでよければ,ひとつは対策が思い浮かぶ,それではまずいから問題が起きている,とすれば,すぐ思いつく解決策は捨てることが必要になる。

 当り前のことながら,目指しているものを実現してこそ解決策である。解決案には,それがないと目的実現とはいえないもの(絶対に譲れない条件)が実現できているかどうかを評価基準として,それを満たす対策の中から,リソース(ヒト・モノ・カネ・時間・ノウハウ)との兼ね合いで,できれば望ましい条件がどれだけ達成できるかを勘案し,対策案を選択する。選択肢として,2つ以上の案,できれば3案は考えておきたい。

  • 手段をツリー化しステップ化する

 対策の種類としては,緊急性の高いもの,短期的に立てるもの,長期に取り組むものがある。時間的に切迫している場合は,直ちに取り組む必要がある。また短期と長期は必ずしも別のものとは限らない。全体の解決には,時間がかかる,あるいは時間が掛けられる場合,その第1ステップとして,当面何をしておくことが,次へと着実につなげられるかでステップ化する。

  • 対策立案のポイント

◇対策立案のポイント

 @主体は明確か

  誰と誰が実行するのか。それは本当にあなたに実行できるのか,あなたにやれることなのか。

 A使える時間の中での優先度は決まっているか

  時間の限度の中で何を優先させなくてはならないかは明確か。長期プランだとすると,その中で「今」どういうポジションにあり,いまやらなくてはならないことは何かが,明確か。それをしておかなくては,次へつながらないキーとなることがあるはずで,それがきちんとやるべきこととして組み込まれているかどうか。

 B広がりへり目配り

  それは自分が直接実践できる直接アプローチできることか,誰かにさせる間接的なアプローチなのかが区別できているか。直接アプローチと間接アプローチとでは,対策が異なる。

C継続へのフォローの仕組みはできているか

  自分の取り組んだことを,自分ひとりでとどめず,継続して続けるよう引き継ぐ仕組みをつくってあるか

◇対策のチェックポイント

 @それは本当に実行できるのか

 それは自分が決裁し直接実行できる目標なのか,あるいは協働者がいるのか。上司が係っているのか。

 Aリソースの見積もりは正確か

 見積もった,ヒト,モノ,カネ,トキ,ノウハウなどが過不足ないのか。また,前提条件や制約条件(予算や要員等々)を見落としていないか。

 B手段はアクションまで詰めてあるか

 確実に行動レベルまでブレークダウンされているか。やれるつもりの段階やスローガンにとどまっていることはないか。アクションまで落とすことで,リスクが具体的に見えてくる。

 C想定される障害について対応策が練られているか

 何とかなると,高をくくっているところはないか。やれなくても仕方ないと,言い訳しているところはないか。

 Dもう本当に手立ては残っていないか

 通常仕事をしていれば,ひとつは対策をもっている。それ以外に,本当にないのか。対策は3つは立てろといわれている。

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スキル事典55

目標達成のリーダーシップ


  • 目標設定の原則

  • 目標達成の構造〜何のためにそれを実現するのか
    • 目標達成は目的ではない

◇目標の種類によっては,たとえば,現状回復のような場合,その原因を突き止めて,それをクリアすれば,目標が解決したことになる場合もある。

しかし,多くは,その現状復帰そのものだけでは目標達成にならないことも多い。たとえば,他社との競争の中では,より高いところに達成目標を置いて,より問題の幅が大きくなり,解決しなくてはならないことが多くなることも少なくない。目標達成では,目標の中身にとらわれたり,達成できない原因究明に突進するだけではなく,その目標の構造そのものを考えることのほうが重要であることが少なくない。

どちらが正しいかではなく,その目標の構造から,あるいは,それによって達成したい目的から,その目標の大きさをとらえなおし,最適な解決を考えなくてはならない。


  • 計画遂行度のチェックとPDCA〜達成へのプロセス管理

計画は立てるのが目的ではなく(ましてや言い訳や合理化のためではない),実現するのが目的である。とすれば,計画達成の可否は,プランニングではなく,その遂行プロセスでの遂行度のチェックと軌道修正がいかに的確に,タイミングよくできるかにかかっている。

◇PDCAとは,Plan(計画)→Do(実行)→Check(確認,軌道修正)→Action(次への対応)と,仕事の計画から次へのステップまでのサイクルをいう。仕事の管理において,それを“自己モニタリング”できる(調整=自分で自分の管理行動をチェックし軌道修正できる)ことが,基本となる。OJT計画の遂行でも,事態は同じである。

  • どう目標達成を実現させるか〜PDCAの進め方

    • 画づくりのポイント〜計画段階で8分決まる

      • 目指す目標は明確か?

        ◇計画は,立てた目標をどう達成するか,という手段と手順を明確にすることである。そのポイントは,

         @現有資源(ヒト・モノ・カネ・情報・チエ(ノウハウ)・トキ)の最適活用

         A不測事態,リスクに備え,実現可能性を高める

         B業務の進捗を手順化する

         C全体のフローから,各パートごとの連携,他のチームとの報連相の緊密化

         Dあらかじめチェックポイント,チェック時期を決めておく

        ◇目標のねらいは,

         @チーム参加メンバーに何を,どこまで目指すのか

         A参加メンバーにとって,どの程度の努力を要するのか

         Bどういう手段,行動が必要か

         を明確化することにある。

        ◇目標の要件

         @誰(と誰)が

         A何を

         Bいつまでに

         Cどの程度(どのレベルまで)

         を,具体的(何をするかが明確であること)計測可能(計数化もしくはその効果が実証可能)で表現すること

         つまり,目的と目標「何のために」(目的=意味)「何を」(目標=期待する成果),「いつまでに」(期限)「どのレベル」(期待水準)「どれだけ」(計測ないし検証可能性)等々の明確化によって,必要スキル,期間,必要人数が明確となり,現状とのギャップが,クリアすべき課題としてより具体的に浮かび上がることになる。

        ◇目標の5基準(SMART)

        @具体的(Specific 個別性,特定性)明確で「何が」がクリアであること

        A測定可能(Measurable 計測性,検証性)量で測れること,あるいはできたかどうかが検証可能であること

        B達成可能(Achievable 実現性)現実的で,達成には特別の努力を要するものであること

        C重要性(Relevant 有意味性)その目的達成が,目的達成にとって意味がある(寄与できる)こと

        D具体的な期間(Time-bound 期間限定性)達成期間が限定され,期限が決まっていること

      • 行動プランの5W3H

        ◇計画具体化の8項目

         何のために(目的)

         何(と何)を(目標=期待される成果)

          誰(と誰)が(実行主体,共働者,協力者)

         いつ(からいつまで)に(期間,期限)

         どこ(とどこ)で(担当部署,実施場所)

         どういう手段と方法で(実施の道具,手立て,使用資源)

         どういう手順とステップで(実施の段取り,スケジュール)

         どれくらいの予算・コストで(必要な経費)

        ◇計画具体化の3つのキイポイント

         ・「どういう手段と方法で(実施の道具,手立て,使用資源)」

        ・「どういう手順とステップで(実施の段取り,スケジュール)」

         ・どれくらいの予算・コストで(必要な経費)

        行動の具体性を保証してくれるのは,何を使うかの道具(使用できる資源)の実現可能性である。ここをどれだけ検討するかによって,スケジュールとコストは決まってくる。逆に,スケジュールが限定されれば,選択できる道具(使用できる資源)が制約される。

      • 目標達成を確実にするもの〜手段の現実化を詰める

        ◇立てた目標をどう達成するかは,それを現実化するための手段(方法)をどれだけ具体的にブレイクダウンできるかどうかにかかっている。もし,目標達成に問題があるとすれば,次の諸点である。

          @目標達成へのプランニングにおいて,手持ちの手段・資源の見積もりを高めに見誤った

          A目標達成へのプランニングにおいて,手段具体化,手順化の詰めが甘かった

          B目標達成のプランニングにおいて,日程見積もりのスケジューリングが甘かった

          C目標達成のプロセスにおいて,チェック,軌道修正の指導が不十分であった

          D予期しなかった障害が発生し,立てたプランの進行がが大幅に狂った,等々

        《目標達成ステップのイメージ》

        《達成を妨げるものを防ぐ3つのポイント》

        ・それを達成するために何をしたらいいか,そのためにどんな方法があるかを,具体的多角的に洗い出す

        ・手段選択の優先順位を立て,手順化する

        ・実施上予測される障害をできるだけ洗い出し,あらかじめ予防策を考えておく


      • 計画実現のふたつの要

        ◇計画を確実に実現する,要(かなめ)は2つである。

         ・第1は,優先順位(手順化)。

           実行計画の“絶対条件”(この計画に不可欠な条件)と“希望条件”(できればほしい条件,あればいい条件)を洗い出し,これを基準に手順化する。

         ・第2は,予防対策。

        計画全体の要となる“クリティカルポイント”(これが崩れると計画全体が意味をなさない重大領域,複雑で困難が伴う箇所,他部門との関わりがある部分,未経験の部分等)をおさえ,そこで発生する可能性のある障害をあらかじめ予測し,対策を(できれば発生したらどうするかも)立てておく。


      • 実現へのタイムスケジュールの立て方

        ◇作業ステップの分解と期間内の配分

         目標到達に必要な作業ステップ全体を分解し,予定期間の中で配分し,それぞれ期日の中で,いつまでに何(どういう作業段階)がどれだけ達成されていなくてはならないかが,スケジューリングされる。

          ・スケジュールを基準に,一定期日までにどのステップまで到達していなくてはならないかを示す

          ・手順を基準にすれば,ステップ段差の高低によって,各ステップの作業の難易度を示すのが便利

        ◇作業プロセスのチェック態勢づくり

         目標達成のために手段をいかに具体化しても,実際に遂行するのは人間である。メンバーがどうやっているか,現実に計画通り遂行しているかどうか,日常のチェックや刷り合わせが不十分なら,それは絵に描いた餅となる。その鍵は,

          @目標達成のために有効な手段をきちんと選択できているか

          A選択手段の優先順位(手順化)に誤りはないか

          B手段選択と手順化を自分で工夫して実践していく力があるか

          C状況が変化し,それに対応するスキルや知識不足が露呈し,予想外の事態になっていないか

         等々であり,それらにきちんと目配りし,何が欠けているか,何が必要かを,適宜見極めて,適切なチェック,修正を,担当者相互で,あるいはリーダーができるかどうかで決まってくる。


      • 全体計画と個人計画の整合性〜目標達成への役割分担としてのPDCA

        ◇管理者レベルの対応 

         @各人の仕事の成果(基準)の明確化

         Aプロセスでの具体的目標の設定あるいは進捗管理の指針となる活動目標の明確化

        ◇担当者レベルの対応

         @担当職務について,“自分にできそうにない部分”を挙げる

         Aプラス発想(どうしたらできるか,どういうカタチならできるかで考える)でアイデアを考える

         この場合,「自分ひとりならできない」「いまはできない」「自分の知っている範囲ではできない」というものは,人との協力,日との支援によって,ひとつひとつつぶしていく


      • 予想される障害に事前に対策を立てる

         @計画中の重大領域(クリティカルポイント)をピックアップしておく

         Aその予想される問題の想定と評価

          たとえば,ヒト・モノ・カネ・トキ・情報にわたって,

            ・日程にムリのあるところ

          ・社内外ともにチーム間の合意が必要なところ

          ・複数の部門が関与している部分

          ・責任が曖昧になっている部分

          ・失敗したときの影響の大きい部分

          ・未経験な部分や,業務の背景となる環境条件や状況について未知の部分の多い場合

          ・自分や自分の組織の力ではコントロールできない部分(業務の進行が他者や環境条件に支配されている)等々を列挙し,あらかじめ想定される原因への対策ないしは事前の準備をしておかなくてはならない

         B問題発生時の対策

        問題が発生したときは,その原因を究明するより,いかに事態をそれ以上悪化させない,あるいは応急対策を取る必要が高い。それは時間との勝負となることが多い。したがって,いかに素早く,事態を把握し,対応できるかが鍵となる。そのために,

          「通常と異なる事態になったときは,すばやく報連相する」ことの徹底

          優先順位は,目的から判断される。それはある程度決めておかなくてはならない

        ・計画進捗中のチェック方法・書式を標準化・定型化し,時期と頻度,担当者を決めておく


      • 計画をどう実現していくか〜実現のためのもっていき方チェックリスト

◇状況の読み

 ・自分を取り巻く状況はどうか

 ・どういう立場(スタンス)でかかわっていくのか

 ・どういう目的をもっていくのか(どこまでいくのか,だれをどうしたいのか)

 ・最終期限として何時までにするのか,働きかけのタイミングはいつか

 ・どういうスケジュールで進めていくのか,部門間の波及効果をどう読むか

 ・経費の負担は何処がもつのか,どんなもっていき方をするか

・最終責任者は誰(何処)か,だれが実力者か

◇着手の着眼点

 ・周囲に気づいてもらう(問題の共有化)

 ・メンバーに対するアプローチ

@実施主体となるべき人へのアプローチ/A上の承認/B根回し=協力者の獲得/C問題意識の共有/D突破口の発見と経路づくり/Eメンバー固め

 ・案をどう通すか

@決裁経路の把握/A側面援助,からめ手,各個撃破等の方法の把握/B妥協案,譲歩案,次善策の用意

 ・案のPR

@どうやれば明確に,鮮明にできるか/Aどんな方法で,どうやって,誰に,何処で,誰がやるか

  ・動き易い状況づくり

@制約条件の除去/A促進条件の強化

 ・行動態勢づくり

@役割の確定/A動くメリットの確保/Bチャンネルづくり 


  • 実行ステップのコントロール

  • 目標達成の構造〜何のためにそれを実現するのか
    • 計画の手段,方法にそって遂行しているか?〜全体の仕事の分担・流れへの目配り

       ◇全体の仕事の分担・流れは構想通りに進んでいるか?

       

    • 優先順位は決まっているか?〜何が重要で,何が緊急かの判断を教える機会

       ◇優先順位の決め方

        @トラブル,クレーム等,放置すると相手に迷惑をかけ,信用問題になりかねない事柄(緊急性)

        A相手に要求されていること,市場ニーズの変化への対応等に応えるべき事柄,あるいはそのために努力すべき事柄(重要性)

        Bコストダウン,納期短縮,機能・性能の向上等,競合他社やクライアントから陰に陽に要請されている事柄(影響の拡大傾向,あるいは悪化傾向)

        C納期厳守,故障やミスのゼロ化,品質の維持向上等,本来やるべき業務(目標からの逸脱)

        Dより一層の品質向上,業務の効率化等々,業務の改善(新たな目標の設定)

       

    • 障害対策は迅速か?〜リスクにどう対応するかが価値基準のすりあわせ機会

       ◇内部障害

        @予め想定していた障害なら,すばやく関係者を集めて,予定していた対策でいけるかどうか検討し,即実行する

        A予想外の障害なら,まず状況を調べよ。短期対策と長期対策にわけて検討,短期については即手を打つ。

       ◇外部障害

        @スピード(迅速な対応,訪問,実行),的確さ(状況判断,処置,フォローの適正さ),誠実さ(約束履行)

      Aできることとできないことは明確にする

        B相手の立場・メンツをつぶさない努力(相手の立場を悪くしないために,できることは最大限にする,上位者による対応等)

        C今後の対応策をきちんと提示し,確実にフォローする

       

    • 報連相は適切か?〜業務は一人でするものではないことの確認機会

      ◇報連相のポイントチェック

      報告:PDCAの共有化(仕事の進捗状況のすり合わせ)
      連絡:業務情報の共有化(保有知識やチエ・ノウハウのレベル合わせ)
      相談:問題状況の共有化(事態の現状認識や見通しのキャッチボール)

       ・定期的報連相と,随時報連相の区別はあるか?

       ・チェックのタイミングは決めてあるか?

       ・突発事態は,情報の共有化のためにどうするかが決まっているか?

       ・報連相の手段は決まっているか?

       ・不在時の報連相の取り方は決まっているか?

       ・なぜ相手はその報告が必要なのかを考えたことがあるか?

       ・いつ,どこで,何を,どう報告するかが決まっているか?

       ・連絡時間は決まっているか?

       ・緊急事態の連絡方法は決めてあるか?


  • 進捗度の点検と軌道修正

進捗度の点検〜タイミングをのがすな

  • heckの3つのタイプ

     ・計画の期待水準と進捗水準のギャップの確認(どこまで出来ているのか,どれだけ遅れているのか)

     ・何をどう軌道修正すればいいかの分析と対策方針の決定(手段の再選択,手順とステップ,ピッチの見直し)

     ・計画あるいは目標の見直し(何のために,どういう成果を目指していたのか,の再確認あるいは修正)

    《計画達成度進捗状況チェック》

    チェック項目

    該当の有無

    初期の目的(何のためにこれを達成しようとしているか)を逸脱していないか  
    達成目標(期待する成果)の未達やズレはないか  
    目指す目標の絶対条件(それが達成されなければ全体が台無しになる,あるいは目標達成の意味が損なわれる)ははっきりさせてあるか  
    実行手段は行動レベル(何をするか)まで具体化されているか(手段の手段の手段の………具体化の徹底)  
    予定期間の行動計画(いつからいつまでに何をするか)に狂いやズレはないか  
    予定した手順やステップ(何から,どういう順序でどう進めていくか)は順調に進捗しているか  
    想定した資源(ヒト・モノ・カネ・トキ・ノウハウ)は計画通りに使えているか,また予定通りに実行されているか  
    計画時に立てたリスク対策や予防策に,想定外の事態や障害が生じていないか  
    計画の遅れや進捗状況のズレや未達の原因は究明されているか  
    計画の軌道修正は可能か,それとも当初計画そのものの見直しを必要とするか  

 

  • 結果評価は重層化してとらえる


 

軌道修正への対応〜間違いに気づいて正さなければ何もしなかったのと同じ

  • 処置すべきことは2つある

    ・目標(期待された成果)−結果としての成果=成果のギャップ

    ・目標に最適の手段−現実に用いた手段=手段のギャップ

  • 原因や手段分析のポイント

    ・原因や手段の洗い出しは十分か?

    ・原因や手段の優先順位は的確か?

    ・原因や手段は具体的(5W1H)に掘り下げたか?

  • 解決策具体化のポイント

     ・何をどうしたらいいか明確にされているか?

     ・具体的な行動レベルのものになっているか?

     ・数値化されているか?

      ・解決の実施は具体的なアクションプログラム化されているか?

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スキル事典56

管理者の役割行動


  • 何をするためにそのポジションにいるのか

  • 管理者としてのポジショニングの取り方

@自分のポジションとのキャッチボール〜目標達成へのポジショニング
組織の中で,何を達成するために,自分がそこにいるのか。そのために何をすべきなのかの確認。

A公式の役割とのキャッチボール〜管理機能へのポジショニング
公式の管理機能だけが役割ではない。それを果すだけなら,自分でなくても誰でもいい。自分は,目的達成のために何をすべきかを,主体的に考える中で,役割をつくりあげていく。

B上下左右の期待とのキャッチボール〜役割期待へのポジショニング
自分のためだけに自分のポジションと役割があるのではない。上位者の方針や目標とのキャッチボール,自分の方針と部下の役割,部下の期待とのキャッチボールを通して,自分の役割をフォーカシングする。

C仕事のポジショニングとのキャッチボール〜業務遂行へのポジショニング
業務の全体像,仕事のフローの中での,自分の業務の位置づけと役割の確認,仕事の意味づけ。


  • 自分のポジションに求められていることは何か
    〜役割にふさわしい目標達成ができているか

◇役割意識なきところに問題意識(何とかならないか)はない。しかし,役割意識は,何のためにそこにいるかという目的意識なしにはありえない。目的意識あってこそ,その役割として実現しようとする自分の目標に意味が見える。目的達成のために自分にどういう役割があり,それにふさわしくどんな目標を立て,それをどうやって達成していくかが自己点検できるためには,自分のポジションは「何をするためにあるのか」という目的の明確化こそが大前提となる。


  • 何をするために管理者であるのか
    〜自分の役割との自問と格闘の姿勢で主体的に役割を作り上げる

“格闘”は多忙さとは関係なく,どれだけ「目的意識」を失わないかにかかっている。それ(その仕事)は「何のために(目的)するのか」,その目的からみて,目標・手段は適切か,あるいは「その目的は今も重要か,もっと別の目的(何のために)を創れないか」等々の,問いを続ける姿勢である。
そのポジションの役割は固定ではない。それなら,誰が担当者になっても同じになる。一人一人が,自分の役割に主体的に格闘し,何をウエイトを置くか,を決めていく中で,メンバー間のキャッチボールが活きる


  • 役割期待とは何か〜管理者であることへの期待

◇ 役割期待とは,周囲が自分に期待ないし要求している役割の自覚度であるが,その基準には4つある。

@組織の求める期待水準(職位要件,職務基準の“なすべきこと”と同時に,組織風土からくる,管理者レベルへの暗黙の期待,「管理者ならそれくらいやってくれるはず」「やってくれなくては困る」)

A組織メンバーの期待水準(「あの人ならやってくれるはず」といった個人へのリーダーシップや的確な判断への期待。更に,「あれだけの経験があるならできるはず」といった本人のキャリア・経歴に伴う期待値。)

B上位者の求める期待水準(「彼にはこれくらいのことはしてもらいたい」「してくれなくては困る」といった,上位者が,その統括する部門目的達成のために,分担した機能を完遂するために求める要求水準)

C同僚や他部署の管理者の期待水準(上位目標を共にさえていく他部署の管理者の「この位はやってくれるだろう」「やってくれないとこちらにしわ寄せがくる」等々の要求値)


  • 管理者としての役割行動分析〜自分の仕事と必要能力の洗い出し

◇分担した役割をただ自覚しただけでは,自分の求められている目標を掲げただけに過ぎない。また問題意識だけでは,単なる問題提起で終わる。それを実行し,実現していくには,どういう知識,能力,スキルを必要とするのか,それは現在自分にはどれだけ備わっているのか,それを身につけつつ,課題を実行していくにはどうすればいいのかが具体化して始めて,役割行動は現実化可能となる。

◇自分自身が,業務の流れの中で,どういう役割を果たしているかを,現実の業務行動,作業を通して全体化していく。この場合,進め方としては,

@現在やっている個別作業を具体的に(「〜のために〜を〜する」具体例で)列挙し,
Aそのトータルを,自分の役割(「〜を〜する」役割)として, 明確化する
この場合,周囲の自分への役割期待(〜なんだから,〜してほしい)を主体的に受けとめ,それも考慮する
Bその役割行動から,逆に,それにふさわしい行動は何かを考え,現在はやっていないし,できていないが,役割から考えてやるべきだし,やらなくてはならないと思われる仕事や行動のモレやヌケを追加する
C個別の行動・作業レベルについて,それをきちんと達成するためには,何が必要か,技能(〜できる)や知識(〜を知っている),姿勢・心構え(〜しようとする)を,具体的に洗い出す。


  • 管理者も自分を成長させなくてはならない
    〜自分の役割行動が部下の指導・育成のモデルである

@役割を主体的に創っていく

 「役割」は与えられるものではなく,主体的に創り出していくものである。自分の役割はチーム全体の任務を遂行するための機能のひとつであるが,役割認識には,
 ・上位者,他部門からの部門責任者としての役割期待
 ・自分自身がチームをどうしたいのかという役割意識
 ・部下からのリーダーとしての役割期待 
等々の側面がある。その中で,自ら担った役割成果の結果として認められるものでもある。その意味で,
 「全社・他部門から要請されているアウトプット」
 「自分がこうしたいという主体的なアウトプット」
 「部下から期待されているアウトプット」
等々を果した結果として,その役割が周囲に認知されることになる。その中身を確定していくのは,自分がそれにどうかかわろうとするかという自分の姿勢であり,どうかかわったかという自分の職務遂行の結果である。自分の役割はこれこれと限定すれば,周囲は「それだけ」の人としか見ないだけだ。また自分でそれ以上と思い上がっても,仕事の状況,メンバーの期待,外部(顧客)の要求を受け止められなければ,機能を果たすことはできない。
A組織全体を頭に入れていなくてはならない
組織全体を頭に入れ,それを遂行するためにどういう機能をもつべきか,それはどんな業務の形になり,どなん分担で,どんな仕組みと能力が必要なのか,について自分なりの構想がなくてはならない。部門の「目標」を,単に上位者の「方針」「目標」の垂れ流しにする副主幹は自分の役割の放棄である。目的とその手段との徹底したキャッチボールが必要である。

B自己成長の視点をもつこと

自分はどんな仕事をしたいのか,どういうキャリア形成をしたいのかの視点から役割を考えることが必要である。自分の役割を狭く限定することは,「課題」を(自分の解決すべきこととして)すくい上げる視野を狭くする。自分自身に自己成長の視点のない管理者に,部下の自己成長を促す説得力がない。当然,組織目標=個人目標はありえない。組織としての目標達成を目指すこと(役割意識)が,同時に個人としての(こうしたいという)成長目標になるようにするのは,上位者の育成責任であると同時に,本人のどうなりたいか,どうしたいかという自己成長の意思が不可欠である。自分にその視点がなければ,部下に「しなくてはならない」ことだけを要求することになる。

【組織目標(しなくてはならないこと)と個人目標(したいこと)の接点】

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スキル事典57

コミュニケーションスタイルを決めるもの


  • TA分析からみたコミュニケーションを左右するもの
  • TA(交流分析)は,集団心理療法の技法として開発されたが,パーソナリティ論,人間関係論へと広く応用されてきた。その特色は,

  ◇自己理解を,親子関係を出発点とした対人関係の視点でとらえる

  ◇対人関係の基本動因として,ストローク(人とのやりとり)欲求を重視する 

  ◇「いま,ここ」の体験への気づきを重視する

  ◇勝ち負けではなく,わたしも0K,あなたもOKという共存共栄の人間関係を目指している

  TA分析結果をもとに,コミュニケーションパターンがどう左右されるかを,いくつかの視点からみておく。
  • ストローク(振り)から見えるもの

◇ストロークとは,「あなたがそこに存在していることは知っている,ということを知らせる機能のあるすべての働きかけ(振り)」である。身振り,手振り,口ぶり,目配せ,タッチ,接触,なぜる等々。誰もが自分の存在を認めてほしいという基本的欲求があり,その意味で,誰もがストロークを求めている。

  《2つのストローク》

  ・タッチストローク《肯定的》 撫でる,さする,抱く,握手する,

           《否定的》 たたく,殴る,つねる

  ・心理的ストローク《肯定的》 ほめる,励ます,うなずく,挨拶する,ほほ笑む

           《否定的》 しかる,怒る,怒鳴る,睨む,禁止する

 《条件付きストロークと無条件ストローク》

  ある人の特定の行動に対して与えるストローク。

  ・条件付き肯定的ストローク 「親の言うことを聞くおまえはいい子だ」「勉強すればほめてあげる」

  ・条件付き否定的ストローク 「そういうことをするおまえは嫌いだ」「泣く子は捨ててしまうぞ」

  ・無条件の肯定的ストローク どんなことをしてもその存在を受け止める場合に与えられるストローク。「あなたは,わたしの大事な子よ」

  ・無条件の否定的ストローク どんなことをしても,その存在そのものが否定される。「おまえなんか見るのもいやだ,出ていけ!」 

  • コミュニケーションの身構えを決めるもの

◇コミュニケーションの身構えを左右するのが,その人の「人生の立場」。これが,相手に対する反応傾向を決める。

@私は私にOKである。あなたは私にOKである

私はOKであるからあなたもOKである,のではない。あるがままのあなたと私の存在が共にOKである⇒一緒にやっていける。こういう人は,

  ・ものごとに正面から取り組む。

  ・現実的(目標達成可能,変更にも柔軟)

A私は私に0Kでない。あなたは私にOKである

  自分の存在をみとめない⇒逃げる。こういう人は,

  ・人の目が気になる。

  ・他人と自分を比較して自分の無力さを感じてしまう。

 B私は私にOKである。あなたは私にOKでない

  自分に対する責任をとらない⇒攻撃的。こういう人は,

  ・妄想的,極端な不信感,憎悪→逆転すると,Aの立場に変わる。

C私は私にOKでない。あなたは私にOKでない

  社会や人間に関心がない⇒どうしようもない。こういう人は,「あきらめ」

A〜Cの人は,事実関係に関係なく決めつけている。AとBの人は裏腹の関係。このどれかひとつの立場に固定しているわけではない。多く,人は相手や時に応じて変えている。その人が一番多くの時間をどの立場に割いているかで立場はきまる。


  • 「立場」を決めるもの〜自我状態(エゴグラム)の分析から

◇「人生の立場」によって,その人のストロークが左右されるのは,自分や他人を0Kと感じていれば,肯定的なストロークを取るからにほかならない。この「人生の立場」を決めるのが,ペアレント(Pと略称),アダルト(Aと略称),チャイルド(Cと略称)の「自我状態」。E.バーンは,この3つに応じた行動パターンがあるとした。

は,親を意味するペアレントの略。親からもらった録音テープ」とも言われ,親から受けた影響を自分の中に取り入れたもの。Pには,批判的部分と保護的部分の2側面がある。

  ・「他人に迷惑をかけるな」「絶対に失敗するな」「悪いことをしてはいけない」「日本人は甘えん坊だ」というのは批判的P

・子供にほほえんだり,「心配するな俺が何とかしてやる」「よくやった,ご苦労さん」というのが保護的P

は,成人を意味するアダルトの略。現実的な自我といっていい。現実の中で,問題を解決するにはどうしたらいいかを考える。そのためにデータを集め,分析し,確立を推測していこうとする。

は,チャイルドの略。幼少時代の想い出がよみがえり,子供のような感情と考えが自我を支配する状態。Cの自我には,自然のCと順応のCがある。

  ・自然のCは,生まれながらの自然の子供で,自発的で,創造的で,天真爛漫。

  ・順応のCは,親を意識した,親を喜ばせようとするか,親に反抗しようとする。親に従順になったり,ひきこもったりするCと反抗するCの2つの側面がある。


  • 自我状態のやりとりからコミュニケーションパターンを探る〜やりとりの3つのタイプ

◇自我状態のPACの区別は誰にでもある。やりとりは,一人の人のPACのどれかと,相手のPACのどれかとの間でなされる。一対の応答(やりとり)に人間関係の単位を見て,そこから,コミュニケーションのパターンをみようとするのが,ここでの狙いである。

  • 相補的(平行型)やりとり〜期待されたやりとり

    相補的(平行型)やりとりとは,やりとりが平行で,2つの自我状態だけが関係しているもの。たとえば,A⇔A,C⇔Cのように,同じ自我同士のやりとり,あるいはP⇔Cのように,やりとりが平行している。相補的(平行型)やりとりのように,方向が平行である限り,コミュニケーションは無限に続く。

    ◎このやりとりは,図にあるように,双方の矢印が,平行になっているときである。このときときは,お互いの関係が“期待された通りの関係”にあるやりとりであるから,コミュニケーションはスムースで,お互いが続けようと思えば,いつまででも続く特徴をもっている。


  • 交差型やりとり〜行き違うやりとり

交差型やりとりは,やりとりの方向が平行ではなく交差している。期待された応えが返ってこない。交流が中断され,気まずい雰囲気や緊張を生ずる。ここでやめたらコミュニケーションは止まる。交差しているコミュニケーションは破綻しやすい。つづけることで,平行型へと戻す必要がある。

「いま何時ですか?」(A→A)→←「自分で調べろよ」(P→C)

「あの件どうなっていますか?」(A→A)→←「いま忙しくてそれどころじゃないよ」(C→P)

「やっとこの予算とりつけてきたんだよ」(P→C)→←「でも隣の課では2ヵ月前にすんでるそうですよ」(A→A)

「大体君が間違っているんだ」(P→C)→←「いけないのは君じゃないか」(P→C)

「困ってるんですよ,助けて下さい」(C→P)→←「こっちこそ猫の手も借りたいよ」(C→P)

「一杯飲みたいね」(C→C)→←「いまそんなことしてる場合じゃないだろ」(P→C)

相手に傾聴するには,Aから聞く姿勢。Pは色眼鏡,Cはいい子になろうとする。Aへもどす工夫がいる。

 @気まずくなってストップする場合

 A行き違になっているやりとり

◎何か気まずいやりとりだったと思うときは,大体,やりとりの矢印は,交差しているはずである。こうしたやりとりになるのは,やりとりを開始する人が期待した反応に反した返事が返ってくるためである。このとき,会話を始めた人には,裏切られた感じがしてしまう。@は,自分が現実的な会話をしているのに,それに対比して,反応が,PないしCからのものになったために,行き違った場合,逆に,Aの場合は,双方ともに別の点からの発言となっていて,その意に反した返事となっている場合である。


  •   裏面型の(隠された)やりとり〜こじれるもとになるやりとり

裏面型の(隠された)やりとりには,「角度のある」やりとりと「二重」のやりとりとがある。コミュニケーションの結果は,心理レベルによって決定されることになる。

 @角度のあるやりとりは,3つの自我状態を含み,発信側の1つの自我状態からのメッセージが,反応する側の2つの自我状態に向けて同時に送られるときに起こる。

 A二重のやりとりは,2人のそれぞれ2つずつ,つまり4つの自我状態を含む。二重のやりとりが行われているときには,一方は社会的レベルで,他方は心理的レベルでの,二重の会話が同時に起こっている。表面のやり取りの下に,隠れたやりとりがある。本音を確認するのは,A→Aで考えることである。

「今日は特売日です」(A→A)《本音「今日買っておかないと損するよ」(A→C)》

「欠点を直したいのです」→(A→A)→←「どういう欠点ですか」(A→A)《本音「どうか助けて下さい」(C→P)》

「ちょっと場所を変えて打ち合わせましょう」(A→A)→←「そうしますか」(A→A)《本音「一杯やりましょう」(C→C)→←「いいですな」(C→C)》

「今度Aさん部長になったそうだよ」→←「そうだってね」(A→←A)《本音 「君はだめだね」(P→C)→←「どうせおれはだめさ」(C→P)》《その本心「君もなんとかしろよ」(C→C)→←「何とかしたいんだがね」(C→C)》

@角度のある隠されたやりとり

A二重の隠されたやりとり

◎このやりとりは,一見平行的な(相補的な)やりとりに見えるが,その言葉の裏では,無言のうちに態度やしぐさ,声の調子等々で,別の意味やメッセージが示されている。

参考文献:S・ウーラムス&M・ブラウン&K・ヒュージィー『TA入門』(深沢美智子・六角浩三他訳 組織行動研究所 1978)
エリック・バーン『人生ゲーム入門』(南博訳 河出書房新社 1967)
中村和子・杉田峰康『わかりやすい交流分析』(チーム医療 1984)
杉田峰康他『交流分析入門』(チーム医療 1984)
新里里春他『交流分析とエゴグラム』(チーム医療 1986)

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スキル事典58

指示命令のスキル


  • 指示・受命の5つの原則

  • コミュニケーションのルールに則る〜1

まずは,コミュニケーションのルールである。これについては,ここで触れたように,次のルールがある。

@コミュニケーション開始の手続きがいる

コミュニケーションは自分の話したことではなく,相手に伝わったことが,自分の話したことである。相手にできるだけ届くように,まずは,相手に聞く姿勢になってもらうための準備作業がいる。両者が土俵を意識して初めて伝える・聞くの関係が始まる。たとえば,一対一の対話なら,「いまちょっといい?」「いま,5分いい?」「ちょっと話がしたいのだが,いい?」とはじまるだろう。ミーティングなら,事前の日程調整からはじまる。

A共通の土俵にのっていなければ,会話の歩留まりは25%である

どのレベルのコミュニケーションでも,相互の間で,お互いに「どういうテーマ(話題)」を話をしているかについて共通認識ができていなければ,すれ違いざまの挨拶にすぎない。共通に何について話しているという土俵がないところでは,コミュニケーションは成立しない。仮にコミュニケーションしても,「言った,言わない」が起きる。一対一なら,「何々について話したい」となるし,ミーティングなら,アジェンダの周知になる。

B相手に何が伝わったかの確認がなくては会話は終了していない

 相手にどう受けとめられたかを確認するためにも,相手からのフィードバックなくては,会話は終わらない。

C依頼や指示なら,一言付け加える。

「終ったら゜教えてね」

  • 指示の中身の具体化〜やらなくてはならないことをひとつひとつ 〜2

 そのためには,まず具体的な指示でなくてはならない。このことは,ここで触れたように,

 @何をするのかの明示(完了状態を具体的に示す。〜の表を作るでは,表のフォーマットしか作らない)

 Aいつまでに(日時の明示)

 Bどの程度(どのレベルなのか,期待水準の明確化)

 さらには,必要に応じて,

    誰(と誰)が(実行主体,協力者)

  どこ(とどこ)で(担当部署,実施場所)

 も具体的なアドバイスがいる。

  • 話し方にも注意がいる〜3

話すスキルのように,当然,指示に当たっても,言いたいことを表現するための3つの原則。

 ・自分が何を言おうとしているかが明確であること《指示内容の明確さ》(指示内容の明確性)

 ・わたしはそう考える,わたしはそう思う,《発言主体を明確にする》(「私」の発言であることの表現)

 ・相手はどう受け止めているのか,《フィードバックをえる》(相手の「受信状態」を確認する)

は必要である。

  • 相手の能力・スキルを測る〜4

以上の三点は,指示命令の常識だが,指示した目標(達成すべきこと)を期待値と置き換えれば,

問題解決と同じ考え方ができる。そうすると,それが少しスケールと時間のかかる案件だとすれば,相手の力量をはかるには,相手に聞いてみることだ。たとえば,

「これをやるために重要なことは,何と何か」と,

そのとき,図で言う,ABCのレベルであれば,過不足があっても,指示された仕事の全体像が見えている。しかし,仮に,イロのレベルだとすると,相手には,仕事の全体像が見えていないことになる。もし,それでもあえて,育成のためにそれを担わせるとすると,途中で,チェックポイントというか,経過を相互で照らし合わせ,軌道修正する時点を,指示の時点で決めておく必要がある。

  • 相手の顔で気づける〜5

しかし,実はもっと大事なことがある。単に,バーバルのコミュニケーションだけではなく,指示を受けた部下の,

表情

仕種,

身ぶり,

と言った相手のノンバーバルなコミュニケーションのレベルで,指示した側が,不安を感じたとしたら,日ごろ接している部下との間で感じている何かが,自分で直感できたのだと思う。その直感は,信じたほうがいい。そう言うときは,アサーティブに,

「指示を受けたときの君の表情に,不安そうな印象を受けたが,何か,これをやるうえで心配なことでもあるのか」

と,率直に聞いた方がいい。間違っても,

「大丈夫か」

とはきいてはならない。これについては,ここで触れた。そう問いかけられたら,

「大丈夫です」

と,部下は答えるほかはないのだから。

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スキル事典59

リーダーシップ発揮のバックボーン


  • リーダーシップを効果的に実践するためのの5つバックボーン

  • リーダーとリーダーシップは違うリーダーは,役割としてなさなくてはならない機能でありリーダーシップはポジションに関係なく自らがリーダー役を買って出て周囲を巻き込み引っ張っていくことである。トップにはトップのリーダーシップか求められるのであり,平には平のリーダーシップが求められる。リーダーシップはその人の役割遂行に必要な手段なのである。

    リーダーシップは,知識でも学問でもなく,実践のスキルでなくてはならない。まして,パワーでも,権威でも,ない。自分がその仕事の中で,実現したいことがあったとき,それを達成できるように,事態を動かし,状況を変えることができなくてはならない。組織の仕事は,自分でできる範囲ならやればいいだけだ。しかし自分の裁量を超え るとき,周囲を動かさなくてはならない。そのとき,リーダーシップが自分にとって必要になる。しかし経験しただけではスキルにはならない。スキルにするためには,どうすればそうできるのかを,言葉として表現できなくてはならない。またそうすることの意味もまたきちんと整理できていなくてはならない。そのために,何が必要かを整理してみると,リーダーシップには,次の5つのポイントがいる。

     @自分にとっての意味〜自分のポジション 自分はどういう形で組織とリンケージしているのか

     A上司やチームにとっての意味〜組織全体との関連 それは組織全体の目標にどういう形でリンクしているのか

     Bメンバーにとっての意味〜各自の旗とのリンク そうすることで一人一人にとってどんな意味があるのか

     C同調者にとっての意味〜巻き込まれることの効果 それは自分たちにどんなメリットをもたらすのか

     D方法としての意味〜やり遂げる仕掛けはあるか  それはどれだけ実現可能性があるのか

     これを確実にすることが,周囲を動かし,事態を動かす力となる。このために必要なのは,

     @自分の仕事に旗を立てる

     A組織全体とリンケージできる

     Bコミュニケーションチャンネルを確立できる

     Cもっていき方を構想できる

     D必ずやり遂げる仕組みをつくれる

    である。これを順次考えてみたい。


  • 自分の仕事に旗を掲げる〜自分の仕事のポジションと役割が明確にできているか〜1

◇自分自身が担っている仕事の意味を自覚し,それを実現するために何をすべきかを明確にする(これが「“旗”を立てる」)ことがまず前提となる。それを実行するためには,いかにして,関係者を巻きこみ,説得し,その旗を共通の旗とし,共に実現するようにしていかなくてはならない。

◇旗を立てるとは,

 ・自分のやらなくてはならないことの明確化

 ・自分への周囲の期待の明確化

 ・自分のやりたいことの明確化

  • 自分のやらなくてはならないことの明確化〜何がやって当たり前か

そのポジションの役割は固定ではない。それなら,誰が担当者になっても同じになる。一人一人が,自分の役割に主体的に格闘し,何をウエイトを置くか,を決めていく中で,メンバー間のキャッチボールが活きる

 

  • 周囲の期待の明確化〜自分役割期待を受け止めきれているか

役割期待とは,周囲が自分に期待ないし要求している役割の自覚度であるが,その基準には4つある

@組織の求める期待水準(職位要件,職務基準の“なすべきこと”と同時に,組織風土からくる,チームリーダーレベルへの暗黙の期待,「チームリーダーならそれくらいやってくれるはず」「やってくれなくては困る」)

 A組織メンバーの期待水準(「あの人ならやってくれるはず」といった個人へのリーダーシップや的確な判断への期待。更に,「あれだけの経験があるならできるはず」といった本人のキャリア・経歴に伴う期待値。)

B上位者の求める期待水準(「彼にはこれくらいのことはしてもらいたい」「してくれなくては困る」といった,上位者が,その統括する部門目的達成のために,分担した機能を完遂するために求める要求水準)

 C同僚や他部署のチームリーダーの期待水準(上位目標を共にさえていく他部署のチームリーダーの「この位はやってくれるだろう」「やってくれないとこちらにしわ寄せがくる」等々の要求値)

  • 自分のやりたいことの明確化〜自己成長の視点をもつこと

    ◇自分のやりたいことの視点があってはじめて,旗は,やらなくてはならないことだけではなく,つまり,組織からの要請に応えることだけではなく組織に応えさせようとすることが可能となる。これがなければ,言われたことをやっているだけであって,リーダーシップとは無縁の,組織要請を周囲に押し付けるだけのパワーに過ぎなくなる。

    ◇どうなりたいかを明確にする。自分はどんな仕事をしたいのか,どういうキャリア形成をしたいのかの視点から役割を考えることが必要である。自分の役割を狭く限定することは,「課題」を(自分の解決すべきこととして)すくい上げる視野を狭くする。自分の経験と知識の枠を(これだけと)限定してしまうことで,可能性を閉ざしているだけでなく,自分の経験を少しずつ超えていく経験が,自分の成長機会なのに,その機会を自ら逸していくことになる。また,自分自身に自己成長の視点のない者に,部下や後輩の自己成長を促す説得力がない。

    ◇自分の成長目標の視点から目標達成の意味を見つけること。組織の役割との格闘とは,そこでしなくてはならないこと(求められる役割期待の遂行とその目標の達成)と,自分がしたいこととの格闘である。その意味には,「目標達成をどう進めるかに,自分の発想を反映させる」という意味と同時に,「自分自身の成長(キャリア形成)のステップにとっての成果を見つける」という意味が含まれる。その目標達成を通して,何をえたいのか,を明確にしておくことである。そのためには,自身の成長目標と成長ステップをきちんと見定めている必要がある。

◇組織目標と個人目標の接点を創り出すこと。組織目標=個人目標はありえない。組織としての目標達成を目指すこと(役割意識)が,同時に個人としての(こうしたいという)成長目標になるようにするには,本人のどうなりたいか,どうしたいかという自己成長の意思が不可欠である。「しなくてはならない」組織としての目標(〜しなくてはならない)と個人としての目標(〜したい)との接点となるのは,自分の成長目標である。人の能力を,能力=知識(知っている)×技能(できる)×意欲(その気になる)×発想(何とかする)と分解するなら,目標を達成する力は,意欲と発想(つまり,その気になって,何とかすること)とにある。能力のキャパシティは,「知っていて,できる」範囲だけの仕事ではなく,それを超えた仕事に取り組んで,“何とかした経験”をどれだけ積んだかにかかっている。それだけに,役割を自己限定せずどれだけ広げてチャレンジするかが重要である。


  • 自分のポジショニングの旗になっている〜自分のリーダーシップの根拠

    以上の3つの明確化によって初めて,

     ・自分と上位との関係の中で,自分がどういうかかわり方をするのか

     ・自分が周囲からどういうことを期待されているのか

     ・自分がこれからどういう役割行動を担っていきたいのか

     を明確にして,自分の旗が立つ。旗は自分勝手に立てるものではなく,上位者との関係のなかで明確になる。そうすることで初めて,

     ・その旗から,逆に,それにふさわしい行動は何かを考え,現在はやっていないし,できていないが,役割から考えてやるべきだし,やらなくてはならないと思われる仕事や行動のモレやヌケを追加する

     ・個別の行動・作業レベルについて,それをきちんと達成するためには,何が必要か,技能(〜できる)や知識(〜を知っている),姿勢・心構え(〜しようとする)を,具体的に洗い出す。


  • 組織全体とリンケージできる〜自分の旗を意味づけられる 〜2

    ◇上位者や周囲を巻き込むには,それが,周囲にとって動ける意味のあるものになっていなくてはならない。それは,組織全体の方向性とリンクしていることだ。

◇自分(チームをあずかっていれば,自分たち)は,組織全体の中で,何をすることを求められているのか,自分(自分の預かるチーム)の存在意味(チームの目的)を,明確にしなくてはならない。同時に,何の何某という個人として業務を遂行する以上,自分の意思がなくてはならない。自分(自分のチーム)の使命と自分自身の意思を織り込んで,自分(あるいはそのチームのチーム)として何をするのかの旗を掲げてはじめて,リーダーシップは機能する。


  • コミュニケーション・チャンネルを確立できる〜常にパブリックをつくる〜3
  • コミュニケーションの土俵をつくる〜ジョハリの窓

    @パブリックな部分(開放した領域) 行動・感情及び動機について,自分がよく知っていて,他人にも知られている部分。ここでは,「自分は……の人間である」と思っているし,他人もそう認めている。自他共に認めている自分の姿がある。ここでは,自分の考えや言動は容易に相手に通ずる。他人とのコミュニケーションもよく通ずる。

    Aブラインドな部分(気づかない部分) 行動・感情及び動機について,他人からは見られ,知られているが,自分自身ではまだ知らない部分。ここでは,自分だけが自分のことを気づいていない。たとえば,周りは皆その欠点を認めているのに,自分だけがその欠点に気づいていない。自分が自分に盲目になっている。

    Bプライベイトな部分(隠した部分)  行動・感情及び動機について,自分自身はよく知っているが,他人には意識的に隠している部分。ここでは,自分だけが胸に秘めていて,他人に知らせていない自分の姿がある。

    C未知の部分(わからない領域)  行動・感情及び動機について,自分も知らないし,他人にも知られていない領域。ここには,自分も他人も気づいていない自分の姿がある。 ABCの世界では,コミュニケーションは通じない。

     

  • 言いたいことを明確に伝える

    ◇言いたいことを表現するための言葉のもつ3つの力。

     ・自分が何を言おうとしているかが明確であること《指示対象・内容の明確さ》(指示内容の明確性)

     ・わたしはそう考える,わたしはそう思う,《自分自身を表現する力》(「私」の発言であることの表現)

     ・相手はどう受け止めているのか,《フィードバック感受力》(相手の「受信状態」へのアンテナ感度)

     チームリーダーが言葉を発するのは,みずからの意思をキチンと伝えるためである。いくら指示が明確でも,意思のない言葉に力はない。意思の力とは,自己確信である。そしてそれが相手にどう伝わっているかを確かめつつ発信することができる必要がある。

    ◇信頼のバックボーンは,言葉である。といって聖人君主である必要はない。怒りも腹立ちもなくすことはできない。それならなまじ「バカヤロー」と言いたい気持ちを隠すよりも,「ぼくは,バカヤローといいたい気分だ」「そう大声で怒鳴られると萎縮してしまいます」と,アサーティブに言葉にすることだ。それが,感情を直接ぶつけるのとは違う,言葉によるやり取りを可能にするはずだ。感情を感情としてではなく,それを言葉として表現しようとしたことで,@自分の感情との間合いが取れる,A相手の感情とも距離を取れる。感情のやり取りを感情のぶつかりあいでなく,感情を言葉にするコミュニケーションの土俵ができる。必要なのは,語っていることへの「私」性を常に保つことだ。「『〜』と言いたい気分です」「『〜』と考えます」と言うように。

    ◇しかし,それだけでは独善かもしれない。大事なのは,内容や「私」性という主観的な言葉発信力が,独りよがりにならず,相手に伝わっているかどうかを確かめる力があってはじめて,その人の言葉に力がある,といえるはずである。つまり,自分のいうことに対して,相手がどんな身振り,手振り,感情,言葉,振る舞い等々から,相手に伝わったかどうかを,相手の無意識のフィードバックからきちんと読み取り,相手の状況に対応しながら,臨機応変に発信するスタイル,様式を考えながら,相手がどう受け止め,どう感じ,どう理解してくれているかを推し量ることが出来ることである。それが真の意味の,自分の言葉の伝達力であり,言葉の力の源である。

     

  • 聴くスキル〜どう間合いを取るか

    ・相手の言っている事柄を受け入れる

     部下(後輩)の言っていることを,その賛否,当否は別にして,「そう言っている」「そういう状況に合った」「そういう理由があった」と,ひとまず受け入れる。

    ・相手を支持すること

     仕事ができるとは,「自分が努力すれば,周囲や自分に好ましい変化を生じさせられるという自信と見通し」をもっていることである。この能力と自信を「有能感」「有効感」という。この“有能感”“有効感”の手ごたえは,そこで自分が仕事をしている意味を周囲に認めてもらえている,自分は必要とされている,役に立っているという“貢献感”“存在感”と表裏一体である。それを,認めること,あるいはきちんと言葉として,「評価している」「よく努力している」「頑張っている」「大変だったな」等々と,表現することが必要である。

    ・自分が受け止めていることを相手に伝える

     聴いているというのは,黙ってうなずいたり,相槌を打ったりすることだけではなく,相手の言っていることを,きちんと受けとめていることを,相手に返すことだ。それは,@きちんと聴いてもらえているということの反映であり,A中身の確認であり,B言いたいこととの齟齬があれば,それが更に相手に話を進めさせる素材となる,効果がある。その反映のさせ方としては,

     ・相手の言っている事実や事柄(5W1H)を返す

     ・意味内容を返す

     ・感情や思いを返す

     の3つがある。

    ・自分の受け止めたことのフィードバック

     そのとき,自分が受け止めたことを,自分の感想や意見として,伝える。「〜というように受けとめたが,どうか」「それはこういう意味と感じるが」等々とフィードバックする。フィードバックには,

     ・相手が自分のことを相手の目を通してみること

     ・相手が自分のことをどう受け止めたかを聞くこと

     の2つの効果がある。それを通して,@言っていることの確認,A曖昧な点の明確化,B両者の受け止めた事実と意味の共有化,C今後の方向性の確認,等々の作業となる。この作業は「訊く」(質問)につながる。

    ・どうしたいのかの確認と次へのステップ

     結局相手はどうしたがっているかを確認する。


  • もっていき方を構想できる〜4
     

    ◇状況の読み

     自分を取り巻く状況はどうか/どういう立場(スタンス)でかかわっていくのか/どういう目的をもっていくのか(どこまでいくのか,だれをどうしたいのか)/最終期限として何時までにするのか,働きかけのタイミングはいつか/どういうスケジュールで進めていくのか,部門間の波及効果をどう読むか/経費の負担は何処がもつのか,どんなもっていき方をするか/最終責任者は誰(何処)か,だれが実力者か

    ◇着手の着眼点

     ・周囲に気づいてもらう(問題の共有化)

     ・メンバーに対するアプローチ

      実施主体となるべき人へのアプローチ/上の承認/根回し=協力者の獲得/問題意識の共有/突破口の発見と経路づくり/メンバー固め

     ・案をどう通すか

      決裁経路の把握/側面援助,からめ手,各個撃破等の方法の把握/妥協案,譲歩案,次善策の用意

     ・案のPR

      どうやれば明確に,鮮明にできるか/どんな方法で,どうやって,誰に,何処で,誰がやるか

      ・動き易い状況づくり

    制約条件の除去/促進条件の強化

     ・行動態勢づくり

        役割の確定/動くメリットの確保/チャンネルづくり


     
  • 必ずやり遂げる仕組みをつくる〜実現可能性を明確にする〜5
  • 解決行動プランは2つ以上考える

    当り前のことながら,目指しているものを実現してこそ解決行動である。解決案には,それがないと目的実現とはいえないもの(絶対に譲れない条件)が実現できているかどうかを評価基準として,それを満たす対策の中から,リソース(ヒト・モノ・カネ・時間・ノウハウ)との兼ね合いで,できれば望ましい条件がどれだけ達成できるかを勘案し,対策案を選択する。選択肢として,2つ以上の案,できうれば3つ考えておくのが常識である。

  • アクションプランを立案する

    ◇プランの意味づけができている

     @解決しようとしていることの全体像は明確か

     Aどこからやるか,そこからスターとさせることの意味と効果ははっきりしているか

     Bそれをやることで,全体の実現や更なる目標達成にどうつながるかが描けているか

     Cそれを確実に遂行する仕組みとチェックの仕掛け

    ◇アクションプランのポイント

     @主体(誰と誰がするのか,どこまで協力してくれるのか)が明確であること

     A解決行動の狙い,意図が明確であること

     Bリソースの見積もりが性格で納得性があること

     C手段はアクションまで詰めてあること

     後使える時間の中での優先度は決まっているか

     E広がりへり目配り

     F想定される障害について対応策が練られていること

     D確実に遂行できる仕組みと進捗度のチェックの仕組みができていること

    E継続へのフォローの仕組みはできていること

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スキル事典60

自分より専門性の高い年上の部下を使いこなす


  • 年上の専門性の高い部下をどう使うか

ここでのねらいは,自分より年上で,専門性が高い部下をどう使いこなして,チームのパフォーマンスを上げるかである。年齢はもちろん,専門性の高低で,チームリーダーになれるわけではない。チームリーダーは何をするためにいるのかが問われている。部下の専門性に振り回されれば,チーム全体の進捗は遅れ,チーム全体が振り回されることになる。結果として,他の若いメンバーからもそっぽを向かれることになる。

  • 課題は何か

@チームの意味の再確認

リーダーにとって,自分が担っている仕事の目的と意味を自覚し,それを実現するために,チームは何をすべきかを明確にすることがまず必要となる。それは,チームが目指していることを具体化することでもある。たとえば,この場合,新たな健康医薬品の量産化の筋道をつけることだとしておこう。これを,便宜的に旗を立てるといっておく。それは,チーム構成員を巻き込むための目印であり,場合によっては,この旗の故にこそ上位者にも動いてもらわなければならない大義名分となる。

A自分の役割と位置づけを確認する

自分自身が担っている役割が,チームの目指すものの遂行責任だとすると,その意味を自覚し,それを実行するためには,いかにして,関係者を巻きこみ,説得し,その旗を共通の旗とし,共に実現するようにしていかなくてはならない。そのことで思い出すのは,ノーベル賞をもらった田中耕一氏が,授賞式にかつての上司と同僚を伴ったことだ。上司から求められているのは,もちろん専門知識は必要だが,チームとして成果を出すために,どうしたらいいかを,自分の専門性を離れて,考えられることの方がもっと重要である。それを考えられる立場にいるのは,リーダーしかいないのである。

Bそれぞれが自分の仕事の役割を明確にする

 チームの旗が明確になることは, 部下にとって,自分が何をすべきかという旗が立てやすくなることを意味する。担当としてどういう旗を立てれば,チームの旗に貢献するのかを考えるのが,メンバーとしての役割だ。たとえば,実験者にとっては,いかに円滑にサンプル製造に移行させるかが自分の旗になる。

ここで言う,旗をたてるとは,自分自身の意味づけ,自分の仕事の意味づけ,自分のチームの意味づけを考えることであり,それが,チームとの関わり,上司との関わり,他のチームメンバーとの関わり,上位チームとのかかわり,更には組織全体とのかかわりを考えて,自分の役割を主体的に考えていくことである。それが,自分の立場,役割としてチームの目的や目標をどう受け止めるかということである。

大事なことは,自分のチームの目標ではなく,その目標を達成することで,自分や自分のチームの所属する上位チームの目標(チームの目標からみると目的)にどういう形でリンクしているのかを意識することである。それが自分の意味づけであり,自分の仕事の意味づけとなる。

Cチームの目的達成のためにすべきことを詰める

その上で,現状を,一緒に考えなくてはならない。当たり前だが,それぞれの実験が成功すればいいのではない。目的達成にとっての,いまがひとつの分岐点なのだとすると,ここでどちらの決定にしろ,決断をするには何が必要なのか,実験を継続するとすれば,次へのステップに導くために何を確かめればいいのか,実験を切り上げるとしたら,何が具体的なリスクなのか,決断に必要な要因を具体的に絞り込むまで,詰めなくてはならない。それぞれの判断の基準を事実で確かめ,その上で,何をクリアしなくてはいけないのかを具体的にあげて,ひとつひとつつぶしていかなくてはならない。それをチームとして共有化し,決断の材料を全員で洗い上げ,見極めていかなくてはならない。

ある程度判断に必要な事実がでてきたら,リーダーとして自分なりに選択肢をメンバーに提供し,意見を求めてもいい。たとえば,実験をつづけつつ,次のステップへ試行することはできるか,このままサンプル製造にはいるとどんなリスクがあるか,第三者に検討してもらうとしたら適任者はいるか等々。

いまは,実験プロセスとして,各自がその判断を述べているにすぎない。サンプル製造に入れるかどうかは別として,次のステップにはいるために何を見極めればいいかをチームとして決めなくてはならない。その結果,仮に,まだばらついているので,再度実験ということになったとしても,一歩前進している。

 その際大事なのは,「目標レベルに達したかどうか」の判断基準だけをピンポイントに論ずるのではなく,チームのタスク達成までの全体像のなかに位置づけて,その結論が今後にどう影響するのか,その影響を最小限にするには,どのくらいの猶予があるのか,その間に,何を確かめればいいのか,そのために何をしたらいいのかを,ひとつひとつ具体的に検討すべきである。更に次のステップに入るためには,他のメンバーはどういう準備をしておけいいのか,そのためにどう分担するか等々,その役割分担を再度明確にして,チームメンバー全員が困難な現状を突破していくためにすべきことを確認する機会にしなくてはならない。


  • どうすればいいのか

@自分の意思や考えをどう正確に伝えるか

コミュニケーションは自分の伝えたことではなく,相手に伝わったことが,自分の伝えたことである。伝わらないことは,伝えていないのと同じである。そのためには,まずは,相手に聞く姿勢になってもらうための準備作業がいる。共通に,何々について話しあっているという土俵があって初めて会話の歩留まりは上がる。

その上で,言いたいことを明確に伝えるためには,3つの原則がある。

●自分が何を言おうとしているかが,自分の中で明確であること。自分に曖昧なこと,話しながら考えていることは,決して相手に伝わらない。

●わたしはこう考える,わたしはこう思う,と自分の意見であることを明確にする。自分の意見であるということを明示することで,相手にも,自分の責任で,主体的に発言を求めることになる。

●自分が言ったことを相手はどう受け止めているのかをフィードバックしてもらう。相手に伝わっていることだけが,自分が伝えたことだとすれば,相手の受けとめた中身,受けとめた意味を確認するまで,コミュニケーションは完結していないのである。

A対立点や相違点を明確にするプロセス

●共有できる事実をさがす

 判断違いや意見の違いを,いくら交換しても共通点は見つけにくい。まずは事実を洗い出す。たとえば,実験の成否になる材料を具体的に洗い出し,そのひとつひとつについて,合意できる事実を,潰していく。目標達成のジグソーパズルを事実のピースで,埋めていく。残りが狭まればより検証がしやすいはずである。

●感情にとらわれない状況把握

 自説や自分の主張を是とすると,相手を非難したくなる。それではまとまらない。まずは,その気持ちを脇において,いまの状況を観察する。そうすることで,相手の行為の理由や状況が見えてくる。観察するとは,状況や相手について見える事実を客観的に把握することであり,それを言葉にできれば,会話の土俵ができる。

●具体的な提案をする

 観察された事実と自分の感情を区別できていれば,どうしてほしいかをきちんと伝えても,そのメッセージは伝わるはずである。具体的であるとは,5W1Hである。いつ(からいつまでに),何を,どうするのか。たとえば,明日までにこの事実を確かめたら,再度確認しあう,といった提案もできる。

●選択肢を提案する

 やるかやらないかというのは,提案ではない。相手の意志で選択できる可能性を,相手と一緒に考えてもいいが,相手自身が決めたと思わせる,複数(できれば3以上)考える。

B対立点を解消していくための基本スタンスと基本スキル

【その1】相手をただすコミュニケーションの基本マインド

●二者関係から三項関係へ〜相手自身を主題にしない

 部下の「発言」「報告」そのものを,ちょうど提出された企画書を前にして,一緒に企画そのものを検討するように,一緒になって眺める。上司と部下という二者関係から,ふたりで報告そのものを一緒に眺めている関係にすることで,部下何某という属人性を離して検討しやすくなる。

●話の構造をつかむ〜細部よりも全体像

 話の細部や中身をつかもうとする前に,全体の構造をつかむ。構造がつかめれば,細部は後でも確かめられる。たとえば,「○○と思う」の「○○」が中身,構造は,「思う」に現れる。「○○と思う」と「○○とも思う」では,話の構造が違う。「○○」は話し全体の部分であるということになる。

●相手と同じ目線になる〜見る位置を合わせる

 実験担当者と同じ問題意識で聞く姿勢になる。相手が実施者で,自分はただその結果報告を聞くという関係では,すでに相手の話を聞く関係づくりになっていない。相手の体験する視線と同じ位置に,自分の目の位置をおくことで,相手の話を聞こうとする姿勢が相手に伝わる。同じ位置で,相手の主観の世界を見ようとする姿勢である。それも相手に伝わるはずだ。そのとき,相手が何にこだわっているのか,相手の判断基準で,実験を眺めて見ることが必要だ。

●明確化,キーワード化,要約化〜まとめてみる

 「あなたの話をこういう風に理解したが,それでよかったか」「その状況を私はこう受け止めたんだが,それでいいか」と確かめていく。あるいは長い話をまとめて,要するにこういうことでいいのか,とまとめて返す。それ自体が聞いていることの証になるし,話の焦点を絞っていくことになる。また,まとめられることで,相手には自分の言いたいことの整理にもなる。

●わからないことは,「わからない」と伝える〜知らないことを開示する

 上司に,「わからない」「それはよく知らない」と言われると,部下側は,それについてより説明しなくてはならない。それは,より聞くきっかけとなる。さらに,「よくわからないが,私の思いつくのはこんなことだが,それでいいのか?」とか「こう考えてもいいのか?」等々とやりとりをすれば,それ自体が相手にいろいろなことを考えるきっかけとなり,「ああ,こういうことかもしれません」と答えを見つけたりすることになる。

【その2】質問のスキル

 専門性が高く,自分より事態がよくわかっている相手が,自説を主張し続けるのを聞くだけではなく,相手自身に,答えを考えさせるのがいい。自分の土俵で,期限が迫っている,どうするつもりかと訊くのは,詰めよっているだけになる。そうではなく,相手の専門性の土俵の上で,相手の専門性をリスペクトしつつ,相手自身に考えさせる質問をする。たとえば,「期限どおりに,実験を終わらせるには,何が必要と思うか?」「何があれば,期限までに終えられると思うか?」「そのために,いまできると思うことは何か?」等々,相手自身に考え,答えを探し出してもらうのがいい。

質問例としては,たとえば,次のようなパターンがある。

・具体例で質問する。「具体例を挙げてみて?」「たとえば,それはどういうこと?」

・質問を細かく細分化する。5W1H(誰が,いつ,どこで,何を)で噛み砕く。「何が引っかかっている?」「それをクリアするにはどうすればいい?」

・曖昧さを確かめる。「それはどういうこと?」「もう少しはっきりさせるとすると?」

・事実を確かめる。いつ,どこで,だれが,何を,どうしたをピンポイント化

・仮定を立てる。「それがダメだったとしたらどうしたらいいと思う?」「それが達成できたとしたら?」「OKにするには何が足りない?」

・意見を聞く。「君はどうしたらいいと思う?」「君はどう思う?」

・問題を確かめる。「何が気になる?」「何かまずことは?」「どこに矛盾があると思う?」「未解決なのは?」

・課題を確かめる。「どうすべきだと思う」「何をしたらいいと思う?」

・意味を確かめる。「どんな意味があると思うか?」「どれくらいの重要度だと思う?」「何が大事?」

・根拠を確かめる。「どうしてそう思う?」「その根拠は?」

・思いや気持を確かめる。「どうしたかったのか」「どうなればいいのか」「どんな感じ?」「君の本心を聞かせてくれないか」「どうしたいと思う?」

・影響を確かめる。「どうなると思う?」「このままでいくと何が起きると思う?」

・ニーズを確かめる。「どうしたい?」「何がしたい?」「どういう状態がいい?」

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