大事なことは、ブレインストーミングもキャッチボールも目的ではないということです。キャッチボールを通して、自分の中に、発見を促すことです。「そうだった!」「そんなことがあった」「そう見ていいのか。とすれば、こうも考えられる」「自分にもこういうときがあった」「自分にもできる」等々。
自分の中で、当たり前としてきたこと、当たり前として見逃してきたこと、知っているつもりで疑いもしなかったことに光を当てて、あるいは光の当て方を変えて、違った側面を見つけることです。そのためにキャッチボールをしているのです。
それは、言い換えれば、自分自身を異質化することといってもいいかもしれません。自分の知識、経験、スキル、ノウハウを異質化することです。自分では気づかなかったその価値を、発見することです。
そのためには,相手のことへの聞く耳が不可欠です。それを妨げるものは,以下のようなものなのです。聞く耳を持つも持たないも,自分自身の責任です。発想を自己完結させるところに発展はありえないと,気づいていたら,実行しかないのです。
キャッチボールを妨げるものを以下に,キャッチボールタブー十か条としてまとめてみた。
@話し手を,どうせろくな話はしない奴だと評価して締め出していないか
「あいつの話はおもしろくない」「どうせたいしたことじゃない」「いつもくだらないことしか言わない」「いつも言い訳ばかりだ」という態度をしていないだろうか。そうなるとほとんど聞いていないし,当方が聞いていないことは相手にわかるものだ。
Aそこまで聞けば分かったと早合点で結論づけていないか
「そこまで聞けばわかった」「よっしゃ」「まかせておけ」「みなまで言うな」と勝手に早呑込みしてしまっていないだろうか。相手は別のことをいいたいのかもしれないのに!
B相手の話に自分の期待を読みこんで聞いていないか
「おれのことは,わかってくれるはず」「あそこまで言ったんだ,きちんとやってくれるはず」「あれだけ教えたんだ,できるはず」という,一方的な思い込みはないか。それでは相手のことが見えてはいない。あるいは逆に,「そうだろう,よくわかる」「そうだ,それがおれの言いたいことだ」と,自分の期待や願望だけを聞き取っていることはないか。それでは,相手の本当に聞いて欲しいことは聞こえていない。
C自分の聞きたくない部分には耳をふさいでいないか
「そういうことを言いたいんじゃないでしょ」「そんなことは聞いていない」と,途中で遮ってしまっていないか?言いたいことを決めるのは,相手なのに。
D相手の話から自分のイメージを勝手に広げて聞いていないか
相手の話から勝手に自分のイメージを広げて,相手の言うことを聞いていない。勝手に解釈する。片言聞いただけで,勝手に自分の空想やアイデアを肥大させていく。そこには相手の気持も考えも全く入り込む余地はない。
E答えの予行演習をして聞いていないか
相手の話の途中から何を言おうかと一生懸命考えていて結局聞いていない。どう叱るかとかどう言い訳するかとか,自分の都合や事情にこだわっているいるだけ。それならコミュニケーションする必要はなくなってしまう。予想しない結論になるから会話がある。
F相手の言葉尻や態度に感情のカーテンをおろしてしまっていないか
後輩のくせに,新人のくせに,そういう生意気なことを言うのか。相手の言葉尻にこだわっているのは,結局自分の立場やプライドを傷つけない心地よい言葉を重んじているだけ。中身が自分の意向や趣旨に反すれば聞く耳をもたないのだと,相手は受け取るだけだろう。
G相手の話の中身よりは話し方や表現に目を奪われていないか
そういう言い方はあまりいい表現でない,言い方が間違っている,表現にミスがある,と口の利き方を問題にして,自分の価値観でつい説教を垂れる。たまたま表現スタイルで文句をつけているが,結局形式を理由に中身を聞く耳をもたず,自分の価値観を押し付けているだけ。
H相手の発言以上の意味を読みこんで聞いていないか
相手が意見や提案をしたとき,「君は何かね,僕のやり方に文句をつけているのか」「僕の考えは間違っているというのか」と悪意に解釈したり,単に私的に賛意を示しただけなのに,公に賛同したと触れまわったりしていないだろうか。相手の言葉の意味は相手のものだ。それを確かめて,自分と同じかどうかは確かめなくてはならない。
I聞きたいことや都合のいいことだけしか聞こえていないのではないか
聞きたいこと,おいしいことだけしか聞かない(人を選ぶ,情報を選ぶ)。おいしいことしか聞かない人には,おいしいことしか誰も言わないということにほかならない。とても相手の悩みに聞く耳をもてそうもない。 (デビッド・アウグスバーガー『聞く』より)
以下続く
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