問題解決力においてリーダーシップが求められるのは,解決の方向(何が問題か)と解決の選択(何を解決か)の決断においてである。その後は目標達成のリーダーシップが問われる。 【図1】解決手段の構造化 このステップ毎の分解は,図のようにツリー化できるはずである。同時に,それで本当にクリアできているかの,逆からのチェックも重ねていく必要がある。 【図2】手段のツリー化
解決手段は,できるだけ具体的に,ピンポイントに特定できるまで掘り下げることが必要になる。その目安は,それで具体的なアクションが見えるかどうかにある。対策案を考えるとき, @更に手段を分ける,細分化する,分け方を変える,A分けた手段を同一対策でグルーピングする,B同一効果の対策で組み合わせる,C他分野や他社での成功例を参照する(アナロジー)の4つのスキルがある。この展開を図解したのが図3である。洗い出した手段を,@目標達成に寄与する重要度の高い手段あるいはその組み合わせを選択,絞り込み,A緊急に必要な対策,短期対策,長期対策に分けて,手段遂行のプランニングを立てることになる。この選択は,「パレートの法則」(80%の解決を作り出す20%の手段)である。それは,解決策があくまで仮説であることを意味している。 【図3】解決手段の選択 仕事をしていれば,誰でも一つは解決策を持っている。それではまずいから問題が起きている,とすれば,すぐ思いつく解決策は捨てなくてはならない。目指しているものを実現してこそ解決策である。解決案には,それがないと目的実現とはいえないもの(絶対に譲れない条件)が実現できているかどうかを評価基準として,それを満たす対策の中から,リソース(ヒト・モノ・カネ・時間・ノウハウ)との兼ね合いで,条件の上積み(できれば望ましい条件)がどれだけ達成できるかを勘案し,対策案を選択する。ここにリーダーシップの決断の根拠がある。 開発力においてリーダーシップが求められるのは,何を目標として設定するか,というリーダーの旗の立て方である。大事なのは,その旗がどれだけオーソライズされたものかなのである。その旗の意味と価値はチームメンバーが共に掲げるに足るものであるのか,またそれを達成することが,メンバーにとってどれだけ価値と意味があるものであるのか,またはひとりひとりのキャリアやビジネスライフにどんな付加価値(自分の価値と意味)を加えてくれるものなのか等々が,どれだけ明確に,かつ説得力をもって語れるのか,だ。そこにリーダーシップが求められる。何のためにそれをするのか,それをすることで何に寄与できるのか,それは一人一人にとってどんな意味があるのか等々,それはリーダーシップに求められる基本そのものでもある。 組織の中で,創造性や開発力が問われるのは,何か新規の事業やサービス,新商品の開発という側面でのみではない。他社との競争下で本当に重要なのは,ありふれた業務,日常的な仕事の中でも,いかに他より優れた問題解決,いままでにない処理スタイルの開発,いままでの数倍のスピードでアウトプットにつなげる業務の連携のあり方等々,あたりまえと思い,ありふれたやり方に疑いも持たなかったものを,そんなやり方をするとそんな効果があるのか,と後から周囲を驚き慌てさせることこそが,ここで考えている開発力である。 それは鮮やかな立ち泳ぎのように,他社に見えない水面下での目に見えない汗と努力なのである。エジソンはこう言う。「ここまでやったんだからもう無理だ,とやめてしまう人が多い。本当に実りあるのはそこからなのに」。つまり,「発明は1%のインスピレーションと99%の汗」でいう,99%の汗とは,ここからのことにほかならない。しかし,そうとわかっていても,それ以上しないメンバーをどう巻き込んでいくのか。そうまでする意味がどこにあるのか,それをメンバーと共有化しない限り,チームとしての開発力は機能しないはずだ。 ポストイットの開発者,3Mのフライは,一人の天才より,百人の平凡な技術者こそが大きな仕事ができると言い切った。もちろん,平凡であることに意味があるのではなく,さまざまな発想をする多様なメンバーによるチーム力が有効だといっているのである。それには,個々バラバラな力を一つの方向へと束ね,成果のベクトルに乗せていくリーダーシップ力が不可欠になる。 ある調査では,開発テーマや開発の課題を一人で決めるよりは,自分・同僚・上司・その上位者で決めるほうが,高業績を上げるという結果が出ている。つまり,一人でよりも,チームで公式に方向性や目標が決めたほうが,創造的な成果につながるというのである。 それは,@メンバーのベクトルがあったほうが,相互の活動のネットワーク化が図りやすく,シナジー効果を生みやすいこと,Aヒト・モノ・カネ・ノウハウ・トキといったリソースがある目標の達成という一点で配分や追加投入がしやすいこと,B目標が明確であることによって,そこで自分はどんな寄与ができるのか,そこに自分自身のやりたいことをどう実現していくかがみやすいこと,Cチームの目標達成に寄与することで,メンバーや周囲から認められ,チームでの有効感,存在意味を見出し,達成感や自己効力感につながるというひとりひとりの動機づけとなること,等々が背景として考えられる。 一般に,組織での創造性には,個々のメンバーの自由な発想と,その一人一人の発想を自由に発言し合える雰囲気と,それを全員がひとつの方向に収斂させていくチームの協働意識が不可欠となる。そうしたチームの旗への一体感,問題意識の共有を作り出していくのに,リーダーシップの掲げる旗こそが必要になるのである。 しかしリーダー自身は,自分がチームの風土そのものであることを,意外と気づいていないことが多い。メンバーに開発力を求めながら,自分の期待する期待値からしか判断しない,過去の成功体験を捨てられない,他社モデルを基準にする等々ということが少なくない。たとえば,ノーベル賞を受賞したノーベル田中さんはもちろん偉いが,その発見をチームメンバー全員のものとして束ね,チームとしての成果に結実させたリーダーシップこそが,影に隠れているが注目すべきことだ。 そして,実は,ここでのリーダーシップは,日常のメンバーの創意工夫を生かしていく職場マネジメントにおいても最も求められていることなのでもある。ともすると,「部下からアイデアが上がって来ない」と嘆くリーダーは,「上がってきているのに見ない・聞かない」か,「上がっているものでは自分の求めているものではない」と決めつけている場合が少なくない。必要なリーダーシップとは,ひとつひとつのアイデアはつまらなくても,それをチーム全員で擦ったり揉んだりしながら,発酵させていく,室(むろ)のような場の力なのである。アインシュタイン曰く,「何ヵ月も何年も考えて考え抜く。九十九回は失敗しても,百回目に正答を得るかも知れない」と。 ひとりだとできない,そうした粘りを作り出すチームのムードづくりこそが,リーダーシップそのものなのである。 そのためには,リーダーシップにとって,以下のような姿勢やマインドはチームを壊す要因でしかない。
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