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リーダーシップについて・7

人情のリーダーシップもしくはアムンゼンの非情


 人情は気まぐれだ。それによってプランそのものが反故にされたのではたまったものではない。ここで問題にしたいのは,リーダーの目標実現力だ。目的達成のために計画がある。実現できない計画は計画ではないし,そんな計画を立てるリーダーにチームを率いる資格はない。
 南極点到達を競ったアムンゼンとスコットは好対照だ。スコットは,当初極点アタック隊を4人として準備を進めた。にも拘わらず,土壇場で突然5人に増やす。理由ははっきりしない。この旅で頭角をあらわした彼にも極点を踏ませてやりたかったのだろうと,後に隊員の一人が述懐している。計画では,食糧も燃料も4人の1週間分を単位としていた。またその予定でデポ(事前にルート上に配置する食糧貯蔵)を設置した。テントも4人用だ。
 ことほど左様に,スコットは情緒的に決断した。前の南極探検で,犬が全滅したため,良く分析しないまま,輸送手段としての犬ぞりを捨てポニーをとった。ポニーは計画の前半で全滅し,300キロのそりを4人一組で人力で引くことになる。
 アムンゼンは,当時の大国イギリスから,極点ルートがスコットより短く,天候にも恵まれた,運がよかったのだ等々といった誹謗をされた。アムンゼンは断固として言っている。「完全な準備のあるところに常に勝利がある。ひとはこれを幸運という。不充分な準備しかないところに必ず失敗がある。これが不運と呼ばれるものである」と。


 計画具体化のポイントは,次の3つである。
・「どういう手段と方法で(実施の道具,手立て,使用資源)」
・「どういう手順とステップで(実施の段取り,スケジュール)」
・どれくらいの予算・コストで(必要な経費)
行動の具体性を保証してくれるのは,何を使うかの道具(使用できる資源)の実現可能性である。ここをどれだけ検討するかによって,スケジュールとコストは決まってくる。逆に,スケジュールが限定されれば,選択できる道具(使用できる資源)が制約される。     
 立てた目標をどう達成するかは,それを現実化するための手段(方法)をどれだけ具体的にブレイクダウンできるかどうかにかかっている。もし問題があるとすれば,次の諸点である。
 @設定した目標そのものが現状を踏まえない非現実的なものであった
 A目標達成へのプランニングにおいて,手持ちの手段・資源の見積もりを高めに見誤った
 B目標達成へのプランニングにおいて,手段具体化,手順化の詰めが甘かった
 C目標達成のプランニングにおいて,日程見積もりのスケジューリングが甘かった
 D目標達成のプロセスにおいて,チェック,軌道修正の指導が不十分であった
 E見通しが甘く,予期しなかった障害が発生し,立てたプランの進行が大幅に狂った,等々


 北極点を目指して準備していたアムンゼンは,アメリカのピアリー隊に先を越され,急遽南極を目指す。しかし南極への航路,船所蔵の3000冊の書物を読みこみ,イギリス人の実績を避け,独自にコースを設定する。そのとき当時の常識に反し,不安定と目されたくじら湾の氷床が,70年前の報告と変わっていないこと,海に浮んでいるのではなく,陸地に固定していることを見抜いて,そこに基地を置いた。そこには,過去のイギリス探検隊のルートを避けると同時に,スコット隊の基地より緯度で一度(100キロ)南にあること,極点行路で160キロ短いとの計算があった。輸送手段としては犬ぞりを徹底して活用した。航海中も犬の保持に心血を注ぎ,97匹から116匹へと増やしている。しかも犬を輸送用だけではなく,非常用の食糧として活用するという,徹底した目的思考を貫き,ノルウェー出発前に立てた「極点から1月25日に基地へ帰着する」という計画書通りに基地へ戻っている。
 非情であることが条件なのでは,無論ない。しかしこの期に及んでの情は迷い以外の何物でもない。迷いは,計画がいい加減であったことのつけである。そこにはリーダーシップの基本,何かを決める以上,何かを捨てなくてはならないという覚悟を欠いている。

【プランニングの構造】

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リーダーシップについて・8

信頼のリーダーシップもしくは綸言の値打ち


 実際の場面で準拠すべきリーダーシップの行動基準には,〈要望性〉〈共感性〉〈伝達性〉〈信頼性〉の4つがある。〈要望性〉は旗振り機能に伴う基準であり,〈共感性〉は,盛り上げ基準に伴う基準となる。それに,〈伝達性〉〈信頼性〉の2つの基準が,現実の場面では,必要となる。

 〈要望性〉とは,上に立つものが,そのチームの目的(旗幟)を達成するために何をするかという観点から,メンバーにその役割に応じた行動を求めることである。たとえば,高い目標を要求したり,その結果をチェックしたり,目標達成のために最後まで諦めずにチャレンジさせる,たえざる工夫・努力を求めたりする等々。リーダーであれば,当然,そのチームの目的達成にとって何が必要かを判断し,そのために必要な手段として,メンバーに何をしてほしいか,という要望をもっていなくてはならない。もし,リーダーに要望がないとすればそれはチームとしての目的意識(何を目指すのか)を自覚していないということである。

 〈共感性〉とは,リーダーがメンバーに「こうしてほしい」というさまざまな要望をもつなら,メンバーもまた自分に対して同じようにさまざまな要望をもっているに違いないと,相手と同じ立場に立って感じ,考えることである。このために必要なのは,聞く能力である。 聞くとは受け身ではない。一般に,聞くには,「聴く」と「訊く」がある。訊くとは,質問力である。その人の問いの力,とはその人がどれだけ幅広い問題意識を持っているかの指標である。部下についても同じである。どれだけの関心と問題意識をもって,部下を見ているかが,その訊き方でわかる。訊かれるほうには,わかるものである。

 〈伝達性〉とは,「知らせる」機能である。業務を進めていく上で,必要な情報,技術等をきちんと部下に伝え,それぞれの役割・位置づけを明確にすることである。会社方針,自部署の方針,自分の考え,方針をきちんと明示することである。それによって,部下は,自分の仕事の位置づけ,意義をひとつひとつ確認し,意味づけることが可能になる。

 〈信頼性〉とは,集団を固め,必要なときは,直ちに措置がとれるリーダーシップの要である。

 リーダーの有能性とは,メンバーの立場から見たら,このリーダーならついていって大丈夫という「頼りがい」,上位者の立場から見たら,この人物になら託しても大丈夫と思わせる「頼もしさ」,同僚の立場から見たら,この人となら手を組めると思わせる「確実さ」,これが信頼性である。この対メンバー,対上位者,対同僚の三者は,使い分けのできるものではなく,どれかひとつが欠ければ,〈信頼性〉の崩壊につながるものである。

 〈信頼性〉を支えるものに,2つがある。有能さと誠実さである。

 リーダーとしての有能さとは,意思決定者(あるいは決断者)としての有能さである。リーダーとしての評価は,専門知識や分析力の切れや人間関係の達人といった点よりも,最適のタイミングで,必要な意思決定ができるかどうか,である。リーダーへの〈信頼性〉は,その人と意見や考え方が一致することではない。集団の中で,全員一致ということはありえない。メンバーの意見との一致ではなく,たとえば,メンバーに,細部に異論があっても,「自分の意見は十分に伝えた。いつも意見は聴いてくれている(共感性)人だから,自分の意見を踏まえた上で,そう決定したのだろう,いままで意見の不一致もあったが,この人の決定は,信をおくに足りた,おそらく今回も結果的に正しいだろう」と思わせるものがあるかどうか,である。

 リーダーとしての誠実さとは,意図してかどうかではなく,結果としてメンバーとの口約束を裏切る,たとえば,自分個人としてはそうするつもりだったが,上部方針で押し切られた等々のカタチになる行動をしてはならない。いい顔をしたい,嫌われたくない,喜ばしたい等々は人の子としての人情ではある。しかし,リーダーは多く「(〜長という)肩書」の影響力のあることを忘れてはならない。「綸言(りんげん)汗の如し」(君主の言は一旦口からでたら取り返しはきかない)である。

 こうしたリーダーの信頼のバックボーンとなるのは,言葉である。リーダーシップのブラックボックスとなっているが,言葉に力のないリーダーシップは機能しない。言葉の力は,2つである。指示の明確さと,自己表現力である。リーダーが言葉を発するのは,みずからの意思をキチンと伝えるためである。いくら指示が明確でも,意思のない言葉に力はない。意思の力とは,自己確信である。

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リーダーシップ・目次

リーダーシップ1

リーダーシップ14

リーダーシップ2

リーダーシップ15

リーダーシップ3

リーダーシップ16

リーダーシップ4

リーダーシップ17
リーダーシップ5 リーダーシップ18
リーダーシップ リーダーシップ19
リーダーシップ9 リーダーシップ20
リーダーシップ10 リーダーシップ21
リーダーシップ11 リーダーシップ22
リーダーシップ12 リーダーシップ23
リーダーシップ13 リーダーシップ24

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