エッジとは、鋭利さと同時に、きわどい端っこといった意味がある。多少穿ち過ぎだが、決断の持つ、一種危うさを示している。たとえば、桶狭間の信長、関が原の家康、アルプス越えのナポレオン、いずれも危うい崖っぷちを綱渡りをしている。しかし傍目とは違い、当人には一種の確信があったに違いないのである。それが決断の根拠である。 【リーダー行動の7つのステップ】 《求められる行動(何を,どうする)》
《期待成果(何を,どれだけ)》 《リーダーシップのキーワー》 《ポイント》 「三十六計逃げるに如かず」。いわばあれこれ無駄に評定するくらいなら、ともかく逃げて後の計画を立てたほうがいいと言う。第三十六計目は,「走為上」(逃ぐるを上と為す)であるという。言わば,負けるが勝ちである。孫子の兵法にも、「戦わずして人の兵を屈するは善の善なるもの」とある。信長というひとは、逃げるとか、卑怯とか、弱みとか、残虐とかということに先入観のない珍しい人物で,朝倉攻めの最中、後背を浅井氏の裏切りで閉ざされると、全軍に撤兵を指示して,さっさと一騎で逃げ帰った。 戦争を政治の手段に位置づけたのは『戦争論』のクラウゼヴィッツだが、勝利が目的なら,戦うことのみを目的化するのは意味がない。勝つために何をすべきかだけが大事なのである。勝つことを徹底すれば,いかに素早く逃げて,次に備えるかが肝心となる。 マーケットという戦場で戦っているわれわれにとっても、事情は同じである。 ウォークマン開発に,新しい技術はないといわれているが,唯一、ヘッドフォンステレオを可能にしたステレオミニジャックが開発されている。この仕様を公開するかしないかが問題になったが,市場を囲い込まず,公開することで,他社が一気に参入してきたが,逆にマーケットは大きくなった。しかし、これをVTRでは、自社仕様の囲い込みに固執し,結果としてベータは敗北した。 ここに、リーダーの器量とリーダーシップの有無が問われる局面がある。おのれの名誉や保身を考えれば,勝つことに執着する。これは覚悟とおきかえてもいい。 かつて、ジョンソン&ジョンソンで,鎮痛剤タイラノールに異物が混入したとき,トップが決断したのは、即座に全タイラノール製品の店頭よりの撤去することであった。そして消費者に向けた記者会見を何度も何度も開くという断固とした決断であり,更に異物混入がしにくいカプセルを開発するという決断であった。それによって、逆に全製品の完全性とブランドを守った。 それに比して,雪印、三菱自動車、日本ハム等々と続いてきた不祥事で見たのは,リーダーの優柔不断であり、何一つ決断しないという,リーダーの不見識とリーダーシップの未熟であった。ミスや過ちを小出しに認め、更に隠していたのがばれると小出しに発表を繰り返し,少しずつ謝っていくという対応であった。それが自己保身にも、組織防衛にもならない最悪の結果になったのは明らかである。踏ん切り悪くずるずると,何のために小出しに情報を出しているのか,何のためにそんな決定をしたのかが不明な決断ならしないで、ひたすら黙っていたほうがいい。そこにあるのは、それで、部下がついてきたとは思えない、何の覚悟も、何の重みもない言葉だ。言葉に説得力のないリーダーは,自分のビジョンと方針を、どう部下に示し,共有化させてきたのか、不思議な光景といっていい。 負けるが勝ちとは,事態の正確な把握を必要とする。危機は危機と認識できるとは限らないと同様,敗北が敗北と認識できるとは限らない。しかし、それは戦いの前に,戦いの目的を見失っているのに等しいのではあるまいか。 戦いは,目的があってはじめたはずだ。とすれば、少なくとも勝てないまでも,負けない戦をしなければ、何のために戦いを始めたのかがわからない。そもそもそこで、既にリーダーシップが欠けているとしか言えないのだ。勝つために何をすべきか。彼我の戦力差の認識と戦いの状況の正確な把握である。 寡兵で敵に戦うために、背水の陣をひく。かつてカストロは、退路を断つために,上陸してきた船を叩き壊した。漢の韓信は、一万兵で二十万の敵に対するのに,河を背にして布陣し、逃げ場をなくして必死で戦い,背後に回った味方の挟撃の時を稼いだ。これも、自らを追い詰めるという決断であって,そこには彼我の差の正確な自己認知があるからだ。 西夏に備えていた宋の武将の配下五千名が反乱を起こして,西夏へ逃亡したことがあった。部下の将軍たちが慌てる中,泰然自若として,「かれらはわしの命令で行動した」から騒がなくていいとのんびりした口調で語ったという。それが、西夏に疑心暗鬼を引き起こし,逃げ込んだ五千名を殺させたという。騒いだところで,兵が戻ってくるわけではない。その事態を正確につかめば、何をすればいいかは、明白だ。何もなかったようにしているしかない。 野村克也氏に、「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という名言がある。それはここでも正しいようだ。 |
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