リーダーとは,常に先頭に立って戦わなくてはならない,人に弱みを見せてはならない,常に1人で決断しなくてはならない,どんな事態につなっても冷静沈着でなくてはならない等々,リーダーはかくあるべしという「べき論」「ねばならない論」にみるべきものがないとは言わないが,大概は役に立たない。なぜなら,「リーダー」と一口で括れるほど,各リーダーの置かれている状況は一つではない。戦場で,リーダー一人逃げ出したら誰もついてこないかもしれない。といって負け戦で逃げなかったら信長の覇権も家康の天下統一もない。一般論で語るのは本当につまらない。
リーダーが,いつもメンバーよりすぐれていなくてはならないということになったら,優秀な社員を使いこなすことはできない。目的達成のために,ノーベル賞級の社員をも使いこなせてはじめて,リーダーシップがあるという。
そのとき必要なのは何か。カウンセリングの用語でアサーションという言葉がある。日本語で「自己開示」,「自分の考え,欲求,気持ちを率直に,その場にふさわしい表現で語れる」ことだ。単に自分の意見を率直に主張するだけなら,ある程度の人は可能だが,ここでいうアサーティブであるとは,それだけでなく,自分の弱点,短所も開示できることだ。わからないことがあれば,率直に「知らない」といい,相手の言っていることがわかりにくければ,「すいません,言っておられる意味がよく理解できません」といえることだ。あるいはどんな相手にも,その相手に感じた気持ちを,「そんな大声を出されるとびびってしまいます」「そんな言われ方をすると,ちょっとやる気をなくしてしまいます」と率直に伝えられることだ。またそう言わせるような雰囲気をリーダー自身も持っていることだ。リーダーには自分の考えをきちんと自己表明することと部下のフィードバックを聞く耳が必要だが,それを支えているのが,アサーションにほかならない。リーダーには,そんなことは不要と考えているとすると,リーダーは弱みを部下に見せてはいけない,強くなくてはならない等々,リーダーかくあるべしという先入観に染まっている証拠といっていい。
たとえば,リーダーに求められるアサーティブの例として,次のようなチェックリストが挙げられる。
【アサーティブ度チェック】
目的・方向性,ビジョンを常に自問し,メンバーに明確に語るようにしている |
メンバーとのベクトル合わせ,判断基準の刷り合わせを怠らない |
メンバーの役割を明確にし,何をなすべきかについて話し合っている |
メンバーに,途中経過,進捗状況,目標達成度についてオープンにしている |
プランや企画立案に当っては,メンバーの知恵を集めるようにしている |
メンバーに自らの問題意識をぶつけ,キャッチボールすることをいとわない |
目標達成の障害となる行為,判断基準からの逸脱については,その理由を説明して,注意もし叱責もする |
メンバーの状態や進捗度を見極めながら,いつでも声をかけたり,サポートの手を差し伸べる |
メンバーの力量,成長目標について率直に現状を評価し,レベルアップへの支援も心がける |
どんな難局,行き詰まりにも諦めず,メンバーの衆知を集めて乗り切ろうとしている |
自分の問題や不都合についても謙虚に聞く耳を持っている |
メンバーからの具申,提案,提言は必ず全体でオープンに議論する |
自分の意思決定についてはオープンにし,その理由についても説明する |
自分の決断の過ちが明らかとなれば,直ちに修正するのをいとわない |
結果責任については,自分自身が負うことは当然だと考え,常にその旨表明している |
リーダーに求められているリーダーシップとは,強いリーダーであることを誇示することではない。自分がそこにいる意味をきちんと自覚して,その目的達成のためにチームや組織を束にしていけることだ。チームはたった一人の力で成り立つものではない。リーダーは一人で戦うのではない。
メンバーの助けなしにはチームとしての力を発揮できない。チームの力が他のチームよりすぐれていてこそ,市場でも生き残れる。その総体としてのチーム力を出すためにこそリーダーシップが必要なのだ。そこでは,リーダーにチームメンバーへの率直な語りかけこそが不可欠だ。
たとえば権限委譲は,自分にできることをあえて部下にまかせるなどといった,部下へのお情けや余裕でする手段ではない。ましてや部下をつなぎとめる管理手法でもない。部下に大きな仕事を委ねることこそリーダーシップそのものなのだ。部下の力量やスキルが自分より劣っているのなら,リーダーシップはいらない。力量やスキルが自分よりすぐれた部下たちに,自分の目指す旗の実現のために,それぞれの仕事の完遂を任せることこそが,リーダーシップそのものだ。むろんそのとき目指す旗が共有化されていなければ,リーダーシップそのものの放棄となる。リーダーがはるかに及ばないほど優れた専門能力をもつ部下を束ねられるかどうかが,リーダーシップとして問われている。
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発想とは何とかすることだ。行き詰まった事態を動かすために,今までのやり方ではなく,いまのままではなく,これまでのヒト・モノ・カネの使い方ではなく,何とか突破する新しい工夫をして見せることだ。だから発想は,目的ではない。パズルのようなアイデアごっこではない。何かを達成するために必要不可欠なものだ。
たとえば,リーダーに必要な最低限の発想力を挙げれば,以下のような項目になるだろう。
発想のリーダーシップ要件 |
@枝葉末節にとらわれず,中心点は何かを見極める
A事態や現象に振りまわされず骨組みや構造をつかむようにする
Bもっと別の見方はないか,別のやり方はないか,別の立場はないかと考える
Cものごとを一面から見ないように,いろいろ対比して考えるようにしている
D5W1Hを意識して,いつも目的や目標から考えようとする
E局面や細部から目を離し,できるだけ大局的に,長いスパンで考えようとする
F何が確定したことで何がまだ確定していないことなのかを明確にするようにしている
Gものごとを広い視野(パースペクティブ)の中で置き直して考える傾向がある
Hメンバーや周囲とはザックバランに雑談する機会が多い
I考えやアイデアを「いい・わるい」「すき・嫌い」といった評価で切り捨てるところはない |
重要なのは,リーダー一人にこうした発想力が問われているのではない。チーム全体がぶつかっている事態を解決するために,メンバー全員の発想力を掻き立て,引き出し,突破の発想を決断できるかどうかだ。「まずパラダイム転換ありき」ではない。あくまで目的達成のために,発想転換をせざるを得ないときがあるからだ。
しかし,過去のやり方や考え方を捨てなければいまの事態が解決できないことに気づけるとは限らない。気づければそれを解決しようとすることができる。いままで発想力は,冒頭で述べたように,解決目標が明確な中で「何とかする」ことを発想力と呼んできた。が,いま本当に必要なのは,いまの事態が過去の延長線上ではないことに気づけるかどうかだ。いまのままではダメだと気づけることを,発想力と呼ぶべきではあるまいか。そこにこそリーダーシップが必要となる。
一番難しいのは,自分たちの成功した過去を切れるかどうかだ。リーダーがそれを決断できたとき,いままでのパラダイムを脱ぎ捨てているはずだ。いま求められる発想力とは,自分たちと組織の古い衣を脱ぎ捨てなければならないと気づく力だ。
それは,@自分たちのこれまでのアイデンティティを変え,Aそれに代わる新しい意味と価値を創り出し,Bそれこそが生残るための自分たちのあり方だとの確信につながるものだ。リーダーがそれを決断できたとき,いままでとは異なるパラダイムのビジョンを示せたことになるはずだ。それこそが,発想力のリーダーシップにほかなるまい。
しかしいまの事態をリーダー一人でつかむことは難しい。たとえば,「正方形がいくつあるか」という問題が,発想力のテキストによく出ている。
こんなとき,メンバーの中から,
「ラインの交差したところは正方形ではないか」
といった突拍子もない発想が出ることがある。問題は,それをどう受けとめるかだ。「そんなばかな」と一笑に付すなら,チームの発想力は台無しだ。
こういう発想を,生かすも殺すも,リーダーの“聞く耳”次第なのだ。聞く耳があれば,この枠組みにこだわらなくてもいいのかもしれない,それなら,立体と考えればいい,あるいは,シートが重なっているのを上から見ていると考えてもいい等々,次々と制約を破れる発想が可能になるはずだ。そういう道筋をつける発想力をリーダーには求められている。リーダーが自分の過去の栄光も含めて固定観念を崩せれば,それに反応するものをメンバーも必ず持っているはずだ。そういうチームこそ発想力がある。
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