企画力を,仮に企画を立てる力だとすると,その成果物である企画からそれが判断できるはずである。その場合,見るのは次の3点となる。 @何を解決(実現)しようとしているのかは明確か。企画づくりは目的ではない。何のために企画をたてようとしているか,目的が明確にできているか。 A企画にどんな新しさがあるのか。新しくなければ,企画する意味がない。 B企画を実現するプランは具体化されているか。どんなリソースを使って,どういう手順で,いつまでに達成できるのか,実現シナリオは明確か。「画(プラン)」がなければ企画ではない。 しかし企画力と企画を立てる力とはイコールであろうか。確かにAとBは企画を立てる力である。解決プランニング力である。けれども「これを何とかすべきだ」「こういうことを実現したい」と感じなければ,そもそも企画はスタートしない。それが@の背景にあるものになる。これを問題意識と呼ぶ。このままでいいのか,何とかならないか,という思いである。この強さは,明確な目標(こうしたいという期待値)と目的(それをするのは何のためか)が明確であることと比例する。だからこそ,この思いを企画にする必要がある,企画にすべきだ,と感じる。これは,問う力といっていい。 こう考えると,企画力は特別なスキルではないのではあるまいか。仕事をするとき,常にいまのままでいいのか,どうしたらより新たなものにしていくか,を考えていく姿勢が求められる。その問題意識が自分の裁量内でできることなら,やるかやらないかが問題となる。しかしそれが裁量を超えたとき,その問題意識を実現するために企画が必要になる。周囲を巻き込まなくては実現できないからだ。これは別の言葉で言うと,リーダーシップの問題でもある。リーダーシップとは,己の裁量を超えたとき,そのおのれの仕事への思いを実現しようとするために,周囲を,上位を巻き込もうとするスキルである。そのとき,企画は,おのれの思いを明示する旗になる。 企画の「企」は,「人」と「止」であり,人が爪先立って遠くを見ることだという。企画力とは,仕事をするものにとって,その仕事にどれだけ未来を見ているかを測る基準でもある。実は企画を立てる力は,それを実現するための手段スキルに過ぎない。 そういう視点からみるとき,残念ながら,企画力に関する本は少ない。企画のたて方で挙げるなら2冊。ひとつは,『企画の立て方 第3版』(日本経済新聞社)。企画づくりのステップを網羅し,企画を基本構想(ここが企画の目的とアイデアになる)と部分構想(ここが実現プランに当たる)に分けて,全体の流れをコンパクトにまとめている。特に,企画のたて方をマーケティングにシフトさせ,具体的な企画立案までの技術を展開している,『マーケティング企画術』(山本直人 東洋経済新報社)。 企画の立て方を具体的な商品企画にシフトさせると,ヒントになるのは2冊。ひとつは,『商品企画七つ道具 新商品開発のためのツール集』(神田範明編著 日科技連出版社 3150円)。TQCのマーケティングシフト版として構想された七つ道具シリーズだが,この本にあるツールは,たとえば,発想チェックリスト,発想法,要求品質表づくり等々,そのまま商品企画に必要なスキルになっており,企画を立てる力のツールにもなる。いまひとつは,『市場対応迅速型の新製品開発マニュアル』(P.A.ヒンメルファーブ著 中村元一・島本進訳 産能大学出版部 3780円)。企画アイデアを作り上げていくプロセスを組織の中でのチームマネジメント,リーダーシップと絡めながらマニュアル化している。組織内でチームとして企画を作り上げていくとき,個人の企画力だけではなく,自分の力をチームや組織に反映させていく力(これがリーダーシップ)なしではありえないことを考えさせてくれる。 ところで,問う力は,近似の言葉に置き換えるとクリティカル・シンキングに該当する。類書は種々出ているが,一冊だけ復刻された『知覚と発見』(N・R・ハンソン,野家啓一・渡辺博訳,紀伊國屋書店 上巻,下巻)を挙げておく。新科学哲学派のクーンと並ぶハンソンの遺稿であるが,問う力とは何かを考えるための必読書である。とりわけ,上巻は,何が当たり前として見逃させるのか,どう先入観を崩すか,ものの見方を変えにくくさせるのは何か,等々が丹念に分析されている。
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