ケース分析の基本マインド 事実関係の要約 【事実関係の要約】 配置転換で,企画調査部に異動になった有田課長は,グループのチーフとなり,その歓迎会の席上,「いかなる仕事にも共通に必要なものは問題解決能力で,これまで自分が身に付けてきた能力を生かしていきたい」と述べた。 着任してすぐ,まず問題点の明確化をはかるために各スタッフから話を聞いたが,彼らの態度は何となくよそよそしく,非協力的に感じられた。 1週間後,部長がチーフ全員を召集し,不採算事業の評価と採算化計画に関するプロジェクトをスタートさせたが,有田課長は,新任のせいもあり,部長からの指示をほぼそのまま受け入れるカタチで分担を引き受けた。 部長は,「5年先,10年先に焦点を当てて考えてみてくれないか」と有田課長に声をかけた。 しかしチームメンバーの反発が強く,「再検討してもらおう」という結論となり,部長に,「再検討」を申し出ざるを得なくなったが,部長からは,「それを承知させるのがチーフの責任だろう」と,つき返された。 結局,再度スタッフを集め,「部長の方針は動かない。とにかく,当初の線で進めてもらいたい」と要請し直すこととなった。 グループ内の作業分担を決めていく中でも,全体の雰囲気は良くなかった。 有田課長は,4名のスタッフが分担した作業部分をグループとして最終的に取りまとめることを分担することになった。 計画案の具体的なプランニングをまとめていく段階になり,有田課長は自身でデータの補強や予測の裏付けをとるため,事業部門へ出向くことが多くなったが,そのつど自分たち以上に,担当者がよく事態を読んでいると思い知らされることが多かった。 この間,チームメンバーとのコミュニケーションにつとめ,岡本主任以外とは意見の交換ができるようになっていった。 データの補強や予測の裏付けをとるつもりなのだが,そのつど自分たち以上に,担当者がよく事態を読んでいると思い知らされることが多くなった。有田課長は次第に自信をなくしていった。 「内部の条件,事情もわからないで,企画部門から,事業部を納得させる方向や重点施策を提示できか」と,スタッフミーティングの中で,意見を求めたところ,「そんなことは,始めからわかってたことじゃないですか。いまさらそんなことを言われても」「そういう現場の,過去の経緯やいきさつにとらわれた発想の制約を崩すのが,われわれのプロジェクトの趣旨だったのではないですか」等々とさんざんに指摘された。 岡本主任からは,「グループとしての方向を決めるのがチーフの役目ですから,われわれとしては必要なデータは,それに沿って集めるだけ集めました。後は,どうそこから結論を出すか,チーフの責任」と言われた。 部長からは,「部門には部門の思惑が,当然あるよ。それを破らなくては現状を突破できないというのが,今回の問題意識ではないか。君の考えを出してみることだ」と言われた。 【何を問題とするか】 有田課長は,定期異動で,企画調査部に配置転換になる前はどういう部署にいたのか。 歓迎会の席上,述べた「問題解決能力である」という「問題解決能力」とは何を意味していたのか。 なぜ,各スタッフの態度は何となくよそよそしく,非協力的に感じられたのか。 部長は,「5年先,10年先に焦点を当てて考えてみてくれないか」と有田課長に声をかけたが,その真意は何か。 不採算事業の評価と採算化計画に関するプロジェクトの当グループの分担を伝えたとき,岡本主任は,「そんな大きな問題を簡単に決められちゃ困りますよ」と言ったが,その意味することは何だったのか。 いったん,「再検討」とという形で部長へ戻そうとしたのに,つき返され,有田課長は,再度スタッフに,「部長の方針は動かない。とにかく,当初の線で進めてもらいたい」と要請した。なぜ,誰から見てもメッセンジャーボーイとしか見られないことを,有田課長はしたのか。せざるをえなかったのか。 岡本主任がこう有田課長に,「このチームでは,課長といえども,プレイングマネジャーとして,チーフとして積極的にわれわれをリードしてもらいたい」と言ったことの意味は何か。 有田課長は,この間猛勉強しながら,スタッフとの関係づくりにつとめたが,猛勉強とは何をしたのか。それが最優先のことだったのか。 時には一緒に飲む機会をつくり,できる限り話す場をつくった。はじめはしっくりしなかったが,回を重ねる毎に,少しずつざっくばらんに話せる雰囲気ができていったのは,意味のあることなのか。では,なぜ岡本主任だけは,どこか壁がある気がしたのか。 こういうことで,有田課長は少しずつ自信を深めていったが,一体何を根拠に自信を深めたのか。 計画案の具体的なプランニングをまとめていく段階になり,データの補強や予測の裏付けをとるために,有田課長は自身で事業部門へ出向くことが多くなったが,そのつど自分たち以上に,担当者がよく事態を読んでいると思い知らされ,自信を失っていったのだが,何が自信を失わせた理由なのか。 有田課長が,「情報や資料,経験の質・量が圧倒的に事業部のほうがまさっている。それを内部の条件,事情もわからないで,企画部門から,現場の事業部を納得させるような方向や重点施策を提示できるのだろうか」と,スタッフミーティングの中で,意見を求めたところ,「そんなことは,始めからわかってたことじゃないですか。いまさらそんなことを言われても」「そういう現場の,過去の経緯やいきさつにとらわれた発想の制約を崩すのが,われわれのプロジェクトの趣旨だったのではないですか」「当たり前じゃないですか。現場の人間の方が,現場のことをわかっているのは」等々という意見が出されたが,ひょっとすると,プロジェクトの趣旨や意味を,メンバーはわかっていて,有田課長だけがわかっていなかったのではないか。 岡本主任は,「グループとしての方向を決めるのがチーフの役目ですから,われわれとしては必要なデータは,それに沿って集めるだけ集めました。後は,どうそこから結論を出すか,チーフの責任ではないですか」といったが,有田課長は,グループとしての方向を示していたのか。それはどんな方向だったのか。 部長は,有田課長の現状説明に,「部門には部門の思惑が,当然あるよ。それを破らなくては現状を突破できないというのが,今回の問題意識ではないか。君の考えを出してみることだ」と,言った。 1週間後までに,何から,どう手をつけていくかすら,有田課長はわかっていないのではないか。 【問題の構造化】
○プロジェクトの目的・目標は,部長,有田課長,チームメンバーでどこまで共有化されていたのか @最終段階になって,有田課長は,
等々と,口々に言っている。ということは,チームのメンバーには,プロジェクトの趣旨や意味を,メンバーはわかっていて,有田課長だけがわかっていなかったのではないか。 A岡本主任は,「グループとしての方向を決めるのがチーフの役目ですから,われわれとしては必要なデータは,それに沿って集めるだけ集めました。後は,どうそこから結論を出すか,チーフの責任ではないですか」といったが,有田課長は,グループとしてどんな方向を示していたのか。 B部長も,「5年先,10年先に焦点を当てて考えてみてくれないか」と有田課長に言ったが,その趣旨とチームのスタッフの言う「趣旨」とは同じなのか,違うのか。 C部長は,有田課長の現状説明に,「部門には部門の思惑が,当然あるよ。それを破らなくては現状を突破できないというのが,今回の問題意識ではないか。君の考えを出してみることだ」と,言ったが,有田課長は,この問題意識が共有化していなかった。しかしチームメンバーはどうだったのか。 モデルケース分析の続きは,ここへ モデルケースへ戻る |
ご質問・お問い合わせ,あるいは,ご意見,ご要望等々をお寄せ戴く場合は,sugi.toshihiko@gmail.com宛,電子メールをお送り下さい。 |