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コトバ辞典


巾子(こじ)


其の前には冠山(かむりやま)とぞ云ひける。冠の巾子(こじ)に似たりけるとぞ語り傳へたるとや(今昔物語)、

の、

巾子、

は、

冠の後ろに高く突き出ている部分。もとどりを入れて冠を固定する、

とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。

巾子(きんし)、

は、漢語であり、

武后を擅(もつぱ)らにし、多く群臣に巾子袍を賜ふ。勒するに回の銘を以てし、皆法度無し(唐書・車服志)、

と、

頭髪をつつむもの、

の意である(字通)。

「巾」の呉音、

が、

コン、

で、「巾子」を、

コジ、

と訓ませるのは、

「巾子」の呉音訓み、

で、

「こんじ」の「ん」の無表記(日本国語大辞典)
「こんじ」の撥音「ん」の無表記(大辞林)、
コンジのンを表記しない形(広辞苑)、
巾子(きんし)の呉音の、コンシの約なり、汗衫(カンサン)、かざみ(大言海)、

による。天治字鏡(平安中期)に、

巾子、斤自(こんじ)、

和名類聚抄(平安中期)に、

巾音如渾(コン)、

類聚名義抄(平安後期)に、

巾子、コンシ、

名目抄(塙保己一(はなわほきいち)編『武家名目抄』)には、

巾子、コジ、

とあるので、

コンシ→コンジ→コジ、

といった転訛なのであろうか。

前漢末の『急就篇(きゅうしゅうへん)』(史游)の註に、

巾者、一幅之巾(キン)、所以裏頭也、

とあり、

子は、椅子、瓶子の子の類、

とある(大言海)。

冠の名所(などころ 名称)、

で、

頂の上に、高く突出したる處、内、空なり。髻(もとどり)を挿し入る、

とある(仝上)。和名類聚抄(平安中期)には、

巾子、幞頭(ぼくとう)具、所以挿髻者也、此閨A巾音如渾、

とある。

平安時代以後、

冠の頂上後部に高く突き出て髻もとどりをさし入れ、その根元に簪(かんざし)を挿す部分、

をいうが、古くは、

髻の上にかぶせた木製の形をいった、

とある(広辞苑)。

近衛の御門に、古志(こし)落(おと)いつ、髪の根のなければ(神楽歌)、

とあり、

古製なるは、別に作りて、挿したりと云ふ、

と注記があるの(大言海)はその謂いである。

平安中期以後は冠の一部として作り付けになった、

(大辞泉)が、元来は、これをつけてから、

幞頭(ぼくとう)、

をかぶったからである。「幞頭」とは、

令制で、成人の男子所用の黒い布製のかぶりもの。中国後周の武帝の製したものに模してつくり、後頭部で結ぶ後脚の纓(えい)二脚と左右から頭上にとる上緒(あげお)二脚を具備するところから、

四脚巾(しきゃくきん)、

とも、

頭巾(ときん)、

ともいう(精選版日本国語大辞典)とある。

律令(りつりょう)制で、成人男子が公事のとき用いるよう規定された被(かぶ)り物、

だが、養老(ようろう)の衣服令(いふくりょう)では、

頭巾(ときん)、

とよび、朝服や制服を着用する際被るとしている(日本大百科全書)。幞頭は、

盤領(あげくび)式の胡服(こふく)を着るときに被る物であり、イランより中国を経て日本に伝えられた、

考えられ、原型は、

正方形の隅に共裂(ともぎれ)の紐(ひも)をつけた布帛(ふはく)を髻(もとどり)の上から覆って縛る四脚巾(しきゃくきん)といわれるもの、

だが、それをまえもって成形し、黒漆で固形化して被る物に変えた。貞観(じょうがん)儀式や延喜式(えんぎしき)で、

一枚とか一条と数えていて、元来平たいものであったことを示している。この遺風は、インド・シク教徒の少年にみられる(仝上)とある。

なお、

巾子紙、

というのは、

冠の纓(エイ)を巾子に挟み止めるのに用いる紙、

で、

檀紙(だんし 楮を原料として作られた縮緬状のしわを有する高級和紙)を2枚重ね、両面に金箔を押し、中央を切り開いたもので、冠の纓(えい)を、後ろから巾子の上を越して前で額にかけて折り返し、巾子紙で挟みとめる、

という(広辞苑)。近世には、紙全体に金箔(きんぱく)を押したものを、

金巾子(きんごじ)の冠、

という(仝上)。また、

放巾子(はなしこじ)、

というのは、

冠の巾子を額から取り去ってつくったもの、

をいい、

男子が元服の際に用いる冠、

であるhttp://www.so-bien.com/kimono/%E7%A8%AE%E9%A1%9E/%E6%94%BE%E5%B7%BE%E5%AD%90.html

「巾」(漢音キン、呉音コン、慣用コ)は、

象形文字。三すじ垂れ下がった布きれを描いたもの。布・帛(ハン)・帆などに含まれ、布を表す記号に用いる、

とある(漢字源)。別に、

象形。腰等におびる布を象る。「きれ」を意味する漢語{巾 /*krən/}を表す字、

ともhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%B7%BE

象形文字です。「頭に巻く布きれにひもを付けて、帯にさしこむ」象形から「布きれ」を意味する「巾」という漢字が成り立ちました、

ともhttps://okjiten.jp/kanji2024.htmlある。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

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向腹(むかひばら)


我が子にも劣らず思ひて過ぎけるに、この向腹の乳母、心や惡しかりけむ(今昔物語)、

の、

向腹、

は、

正妻の子、

の意である(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。

向腹、

を、

むかばら、

あるいは、転化して、

むかっぱら、

と訓ませると、「向っ腹」で触れたように、

むかっぱらが立つ、

とか、

むかっぱらを立てる、

と用いて、

わけもなく腹立たしく思う気持、

の意になる。

むかひばら、

と訓むと、

本妻の腹から生まれること、

また、

その子、

を言い、

むかいめばら、

ともいう(精選版日本国語大辞典)。

向かひ腹、

とも表記し、

当腹、
嫡腹、

とも当てる(デジタル大辞泉)。

嫡妻腹(むかひひめばら)なるより移れるかと云ふ、

とある(大言海)。

側女でなく、正妻が生んだこと(広辞苑)、
「むかいめ(嫡妻)」すなわち本妻の腹から生まれること。また、その子(日本国語大辞典)、
正妻から生まれること。また、その子(デジタル大辞泉)、

などというのが通常の辞書の意味だが、

先妻に対して今の妻の生めること、またその子、

とあり(大言海)、

當腹、

というのは、

先妻のと別ちて云ふ、

とある(仝上)ところを見ると、

現時点の正妻、

という含意なのだろうか。

なお、「向腹」は、後に、日葡辞書(1603〜04)によると、

正妻と妾とが同時に懐胎すること、

の意で使われているようだ。

「向かふ」は、

対、

とも当て、

向き合ふの約、互いに正面に向き合う意、また、相手を目指して正面から進んでいく意(岩波古語辞典)、

で、

身交(みか)ふの義(大言海)、
ムキアフ(向合)の義(日本語原学=林甕臣)、

と、

対面する、

意で、

向かひ座、

というと、

向き合ってすわること、

向かい陣、

というと、

敵陣に向き合って構えた陣、

向かひ城

というと、

対(たいの)城、

つまり、

城攻めのとき、敵の城に相対して築く城、

をいうように、「向かふ」は、

対、

の意味を持っている。まさに、夫婦の、

対、

という含意になる。

「向」(漢音コウ、呉音キョウ)は、「背向(そがい)」で触れた。

「腹」(フク)は、

会意兼形声。复(フク)は「ふくれた器+夂(足)」からなり、重複してふくれることを示す。往復の復の原字。腹はそれを音符とし、肉を加えた字で、腸がいくえにも重なってふくれたはら、

とある(漢字源)。別に、

形声文字です。「切った肉」の象形と「ふっくらした酒つぼの象形と下向きの足の象形」(「ひっくり返った酒をもとに戻す」の意味だが、ここでは、「包」に通じ「つつむ」の意味)から、内臓を包む肉体、「はら」を意味する「腹」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji279.html

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

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よぼろ


土に穢れ夕黒なる袖も無き麻布の帷子(かたびら)の、よぼろもとなるを着たり(今昔物語)、

の、

よぼろもとなる、

は、

ふくらはぎまでしかない、

と注記がある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。

よぼろ、

は、

膕、

と当て、類聚名義抄(11〜12世紀)に、

膕、ヨホロ、

和名類聚抄(平安中期)に、

膕、與保呂、曲脚中也、

とあるように、元々、

よほろ、

後世、

よぼろ、
よおろ、

といい、「膕」を、

ひかがみ、

とも訓ませ、

膝窩(しっか)、

とも、

うつあし、
よほろくぼ(膕窪)、

ともいい(デジタル大辞泉・精選版日本国語大辞典)、

膝(ヒザ)の裏側のくぼんだ部分、

をいうが、「よぼろ」に、

丁、

とあてると、

上代、広く公用の夫役(ブヤク 労力を徴用する課役)の対象となった、二十一歳から六十歳までの男子、

を指し、

正丁(せいてい)、
成丁、
丁男、
課丁、
役丁、

などもこの意で(大言海)、

信濃國男丁(よぼろ)作城像於水派邑(武烈紀)、

と訓ませ、また、

よほろ、

ということもある。本来は、

膕、

の意で、

脚力を要したことからいう、

とある(仝上)。

いま、人足と言はむが如し、

とある(大言海)。

膕(よほろ)と同語源、

とある(デジタル大辞泉)のは当然である。

よぼろ、

ともいう

よほろ、

は、

弱折(ヨワヲリ)の約轉と云ふ(大言海)、

という語源しか見当たらない。

ひかがみ(膕)の古名、

とある。

ひかがみ(膕)、

は、

「ひきかがみ(隠曲)」の変化した語(精選版日本国語大辞典)、
引屈(ひきかが)みの約(大言海)、

とあり、

ひっかがみ、

とも訛るので、曲げる膝のところを指している。下腿の前面は、

むこうずね、

後面のふくらんだ部分を、

ふくらはぎ、

大腿と下腿の移行するところを、

ひざ、

あるいは、

ひざがしら、

その後面は曲げるとくぼむので、

膝窩(しつか)、

つまり、

ひかがみ、

となる(世界大百科事典)。古名が、

よぼろ、
うつあし、

であるが、

うつあし、

は、やはり、

膕、

と当て、

内脚(ウチアシ)の転、裏脚の意か、

とあり(大言海)、

うつもも、
うちもも(股)、
ひかがみ、

の古言(仝上)、字鏡(平安後期頃)に、

膕、曲脚中也、宇豆阿志、

とある。

膝窩(しつか)、

は、

膝膕窩(しっかくわ)、
膝膕(しっかく)、

ともいう(精選版日本国語大辞典)。また、

よほろの筋、

つまり、よほろにある大きな筋肉を、

膕筋(よほろすじ)、

訛って、

よおろすじ、
よぼろすじ、

ともいう言い方もある(精選版日本国語大辞典)。

「膕」(漢音カク・キャク、呉音コク)は、

ひかがみ、

つまり、

膝の裏のくぼんだところ、

とのみあり(漢字源)、

腘、
𦛢、
𣍻、
䐸、
𩪐、

といった異字体があるが、特に説明する辞書が見当たらないhttps://jigen.net/kanji/33173

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

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この人かくめでたくをかしくとも、筥(はこ)にし入れらむ物は我等と同じやうにこそあらめ、それをかいすさびなどして見れば(今昔物語)、

の、

筥、

は、

當時大便をはこにしたのでこう言う。「はこす」と動詞にも使った、

とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。

はこ、

は、

筥、

の他、

箱、
函、
匣、
筐、

等々とも当て(広辞苑)、

大事なもの、人には見せてはならないものを入れて収めておく、蓋のあるいれもの。古くは、箱の中に魂を封じ込めたり、人を幸せにする力をしまったりできると考えられた、

とあり(岩波古語辞典)、対比できるのは、

籠(こ)もよみ籠(こ)持ち掘串(ふくし)もよみ掘串(ぶくし)持ちこの丘に菜摘(なつ)ます児(こ)家聞かな名告(なの)らさね(万葉集)、

の、

籠(こ)、

つまり、

竹などで作ったもの入れ、

かご(籠)、

である(仝上)。ただ、「はこ」に当てた漢字「箱」自体竹製を意味するなど、「はこ」と「こ」の区別ははっきりしない。

筥、

は、

この箱を開(ひら)きて見てばもとのごと家はあらむと玉(たま)櫛笥(くしげ)少(すこ)し開くに(万葉集)、

と、

物を納めておく入れ物、

の意だが、上述のように、

この人かくめでたくをかしくとも、筥(はこ)にし入れらむ物は我等と同じやうにこそあらめ(今昔物語)、

と、

厠で大便を受けた容器、

をいい、つまり、

おまる、

の意で、平安時代、トイレである、

樋殿(ひどの)、

に、排せつ物を入れる容器である大便用の、

しのはこ(清筥・尿筥)、

小便用の、

おおつぼ(虎子・大壺)、

を置いていた(谷直樹『便所のはなし』)とされ、さらに転じて、

また、あるいは、はこすべからずと書きたれば(宇治拾遺物語)、

と、

大便、

の意となっていく(広辞苑・岩波古語辞典・日本国語大辞典)。その故に、便器の意の「はこ」に、

糞器、

と当てるもの(大言海)もある。

「はこ」は、和名類聚抄(平安中期)に、

箱、匧、筥、筐、波古、

とあり、語源説には、

蓋籠(フタコ)の約(大言海・日本釈名・雅言考・和訓栞)、
朝鮮語pakonit(筐)と同源(岩波古語辞典)、
笹で作ったので、ハ(葉)コ(籠)(関秘録)、
ハケ(方笥)の義(言元梯)、
物を入れてハコブものだから(和句解)、
貼り籠の約(国語の語根とその分類=大島正健)、

と諸説あるが、

蓋籠(フタコ)がどうしてハコになったか、音韻変化に無理がある、

とする(日本語源広辞典)説もあり、

葉は薄くて平たいものですし、平たい籠をハコと呼んだ、

のだし(仝上)、

蓋がなくても、ハコと呼んでいたのは現在も同じ、

とする(仝上)のは確かに説得力があるが、多くは竹などで編んだものなのに、「はこ」と「こ」を区別していたのには意味があるはずで、音韻変化の難はあるにしても、

蓋籠(フタコ)の約、

とする説には、意味がある気がする。

「はこ」に当てる漢字には、

箱、
函、
筥、
匣、
匣、
筐、

があるが、

箱、

には、

かたみ(筐・篋)、

あるいは、

かたま(堅閨@編みて目が密なる意)、

つまり、

かご、

の意がある。和名類聚抄(平安中期)に、

苓篝、賀太美(かたみ)、小籠也、

とある(字源・大言海・岩波古語辞典)。

函、

には、

匣、

の意があり、

櫃(ひつ)、

の意がある(字源・漢字源)。

筥、

は、

かたみ、

で、

円形の筐、

とあり、円なるを、

筥、

方なるを、

筐、

という(字源)とある。だから、

筥筐(きょうきょ)、

で、

方形のかごと圓きかご、

の意となる(仝上)。

篋、

は、

長方形の箱、

で、

主に書物などを入れる箱、

をいう(仝上・漢字源)。

匣、

は、

箱、筥、匱、

と同義だが、大きいものを、

箱、

小さいものを、

匣、

といい(字源)、

ふたがついて、ぴったりかぶさるもの、

をいう(漢字源)。

筐、

は、上述のように、

かたみ、

で、

方なるかご、

をいう(字源)。

「函(凾)」(漢音カン、呉音ゴン)は、

象形。矢を箱の中に入れた姿を描いたもの、

とある(漢字源・https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%87%BD)が、

象形。矢を入れておく入れ物にかたどる。ひいて「いれる」、また、「はこ」の意に用いる、

とも(角川新字源)、

象形文字です。「矢袋に矢が入れてある」象形から、「箱」、「ふばこ(文書を入れる小箱)」を意味する「函」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji2247.html

「筥」(漢音キョ、呉音コ)は、

会意。「竹+呂(つらなる)」、

とある(漢字源)。

米などを入れるのに使う丸い竹製のかご、

である(仝上)。類聚名義抄(11〜12世紀)には、

筥 ハコ、筥 アラハコ/沓筥 クツバコ、

とある。

「箱」(漢音ソウ、呉音ショウ)は、

会意兼形声。「竹+音符相(両側に向かい合う)」。もと、一輪車の左右にペアをなしてつけた竹製の荷籠、

とある(漢字源)。別に、

形声文字です(竹+相)。「竹」の象形と「大地を覆う木の象形と目の象形」(「木の姿を見る」の意味だが、ここでは、「倉」に通じ(同じ読みを持つ「倉」と同じ意味を持つようになって)、「しまう」の意味)から竹の「はこ」を
意味する「箱」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji425.html

「篋」(キョウ)は、

会意兼形声。「匧」(キョウ)は、この枠内にさし入れてふさぐ意、篋はそれを音符とし、丈を添えた字、

とあり(漢字源)、竹冠がついていて、

竹製のはこ、

とみられる(仝上)。

「匣」(漢音コウ、呉音ギョウ、慣用ゴウ)は、

会意兼形声。甲(コウ)は、ぴったりと蓋、または覆いのかぶさる意を含む。からだにかぶせるよろいを甲といい、水路にかぶせて流れを塞ぐ水門を閘(コウ)という。匣は、「匚(かごい)+音符甲」で、ふたをかぶせるはこ、

とある(漢字源)。

「筐」(漢音キョウ、呉音コウ)は、

会意兼形声。「竹+音符匡(キョウ 中を空にした四角い枠)」、

とあり、四角いものを筐(キョウ)といい、丸いものは、筥(キョ)という(漢字源)。

以上の他、「はこ」に当てる漢字には、

匱、
匪、
匭、
匳、
匵、
櫃、
笥、
筲、
篚、
簏、
簞、

等々がある。

匱(キ)、

は、

大いなるはこ、

とあり(字源)、

匣、

と同義である(字源)。

匪(ヒ)、

は、

かたみ、

で、

方形の竹かご、

で、

篚、

と同じとある(仝上)。

篚、

は、

かたみ、

だが、

圓形の竹器(たけかご)、

とある(仝上)。

匭(キ)、

は、

匣、

と同じとある。

小さい箱、

の意である(仝上)。

匳(レン)、

は、

会意兼形声。僉は、いろいろな物を集める意を含む。匳はむ「匚(わく)+音符僉(ケン・レン)」で、手元の品を集めてしまいこむ小箱、

とあり(漢字源)、

かがみばこ、
くしげ(鏡匣)、

ともある(字源)。

匵(トク)、

は、

ひつ(匱)と同じ、

とある(字源)。

大いなるはこ(匣)、

の意となる(仝上)。

「櫃」(漢音キ、呉音ギ)は、

会意兼形声。「木+音符匱(キ はこ くぼんだ容器)」、

とあり(漢字源)、

物をしまっておくための大きな箱や戸棚、

の意である(仝上)。

「笥」(シ)は、

会意兼形声。「竹+音符司(すきまがせまい、中の物をのぞく)」。身と蓋の隙間が狭い、竹で編んだはこ、

とある(漢字源)。

飯または衣服などを入れる四角な箱。あしや竹を編んでつくり、蓋がすき間なく被さるようになっている、

とある(仝上)。

圓を、

簞、

といい、

方を、

笥、

という(字源)。

「簞」(タン)は、

会意兼形声。「竹+音符單(タン 平らで薄い)」。薄い割竹で編んだ容器、

とあり(漢字源)、別に、

形声文字です(竹+單)。「竹」の象形(「竹」の意味)と「先端が両またになっているはじき弓」の象形(「ひとつ」の意味だが、ここでは、「坦(タン)」に通じ(同じ読みを持つ「坦」と同じ意味を持つようになって)、「ひらたい」の意味)から「ひらたい竹製の小箱」を意味する「箪」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji2644.html

かたみ、

であるが、

小筐、

と当て、

飯びつ、

とある(字源)。

簞、
笥、

共に飯に関わり、

簞笥(たんし)、

は、

飯などを入れる容器、

になるが、我が国では、

タンス、

と訓ませ、

ひきだしを備えた収納家具、

の意で使うが、上述のように、

簞は円形、
笥は方形、

の、ともに食物や衣類を入れる容器を意味した。

筲(ショウ、ソウ)、

は、

めしびつ、

の意だが、

一斗二升の飯米を入れる容器、

とある(字源)。

篚(ヒ)、

は、やはり、

かたみ、

円形の竹器、

とある(字源)。

簏(ロク)、

は、

篚と同じ、

とあり、

竹にて編んだ丈の高い箱、

で、

書物、衣類などを入れる、

とある(字源)。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
簡野道明『字源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

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練色


浅黄の打衣(うちぎぬ)に青Kの打狩袴(うちかりばかま)を着て、練色の衣の綿厚からなる三つばかりを着て(今昔物語)、

の、

練色(ねりいろ)、

とは、

うすい黄色、

とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。

白みを帯びた薄い黄色(精選版日本国語大辞典)、
薄黄色を帯びた白色(岩波古語辞典)、
淡黄色(大言海)、

などともある。

平安時代から使われ、

漂白する前の練糸の色で、わずかに黄色みがかった白。練糸とは生糸きいとに含まれる硬タンパク質のセリシンを除去し、白い光沢と柔らかい手触りを出した絹糸のこと、

とあり(色名がわかる辞典)、

繭(まゆ)から取れた生糸(きいと)は空気に触れると酸化して、その表面が固くなります。昔はこれを手で練って除去し精錬していました。精錬された自然のままの絹糸の色のこと、

を、

練色、

というhttp://www.tokyo-colors.com/dictionary/%E7%B7%B4%E8%89%B2/とある。現代では絹以外の布地にも色名として用いられる(色名がわかる辞典)という。

素人目には、

肌色、

と区別がつかないが、JISの色彩規格では、肌色は、

うすい黄赤、

とし、一般に、

平均的な日本人の皮膚の色を美化したイメージの色、

をさす(仝上)。7世紀ごろは、

宍(しし)色、

と呼ばれていた。英名は、

フレッシュ(flesh)、
または、
フレッシュピンク、

で白人の肌の色をイメージしている(仝上)。

肌色、

よりは、

フレッシュ、

に近いのかもしれない。

「練」(レン)は、

会意兼形声。柬(カン・レン)は「束(たばねる)+ハ印(わける)」の会意文字で、集めたものの中から、上質のものをよりわけることを示す。練は「糸+音符柬」で、生糸を柔らかくして、よりわけ、上質にすること、

とある(漢字源)。別に、

形声。糸と、音符柬(カン→レン)とから成る。灰汁(あく)で煮てやわらかにし、光沢を出した「ねりぎぬ」、ひいて「ねる」意を表す、

とも(角川新字源)、

会意兼形声文字です(糸+東(柬))。「より糸の象形」と「たばねた袋の象形とその袋に選別して入れた物の象形」(「たばねた袋からえらぶ」の意味)から生糸などから雑物を取り除き、良いものを「選び取る」、「ねる」を意味する「練」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji431.html

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

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まなかぶら


筒尻を以て小男のまなかぶらをいたく突きければ、小男、突かれて泣き立つと見る程に(今昔物語)、

の、

まなかぶら、

は、

目のふち、

とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。

眶、

と当て、和名類聚抄(平安中期)に、

眶、和名万奈加布良(まなかぶら)、目眶也、

とあり、色葉字類抄(平安末期)には、

眶、マカフラ、

とあり、

まかぶら、

に同じとある(岩波古語辞典)。

まかぶらくぼ(窪)く、鼻のあざやかに高く赤し(宇治拾遺物語)、

と、

まかぶら、

も、

眶、

と当て、

目の周囲、
まぶち、

とある(仝上)。

まぶち、

は、

目縁、
眶、

と当て、

目のふち、

とあり(広辞苑)、

まなぶち、

とある。

まなぶち、

は、

眼縁、

と当て、

眼の縁、

とある(仝上)。どうやら、

まなかぶら、

は、

まなこ(目な子)、
まなじり(目な尻)、
まばゆし、

等々と使う、

め(目)の古形、

の、

ま(目)、

の、

目の被(かぶり)、

の意で(精選版日本国語大辞典)、

まなかぶら→まかぶら、

と転訛したもののようである。ただ、「まなかぶら」の、

かぶら、

の語源については、

かぶつち(頭槌)、

などと関連させ、「頭」の意と考える説もあ(精選版日本国語大辞典)、そうなると、本来、

目尻、

の対の、

目の、鼻に近い方の端、

の意の、

目頭(めがしら)、

の意であったものが、変化したことになる(仝上)。しかし、

目の被(かぶり)、

なら、文字通り、

目を被す、

つまり、

まぶた、

ではあるまいか。漢字、

眶、

は、

眶瞼、
眼眶、

などと使い、

まぶた、

の意であり、

匡、

と同じて、

目匡、

と使う(字源)とある。そうなると、大言海が、「まかぶら」の意に、

まぶた、

としているのは、見識ということになる。しかし、

匡、

は、

涙満匡横流(史記・淮南王安傳)、

と、

まぶち、